ゲームランカーのスパダリ彼氏

真義あさひ

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第一章「最強ランカーのリアル彼氏はスパダリ覚醒する」高瀬怜司編

すべてが崩れ落ちる日

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 泰然がそのメッセージを受け取ったのは、ある平凡な日曜の午後だった。
 のんびりと、LOIの実況配信で装備のコツをレクチャーしていたときのことだ。

【現在、ギルド地天泰の資産残高は0クォンタムコインです。早急にチャージしてください】

「……は?」

 最初は何かの見間違いだと思った。急いでモニターを凝視し、ギルド資金の詳細を確認する。
 だが、画面には冷酷な現実だけが並んでいた。

 資金だけじゃない。装備やアイテムを含めた莫大なギルド資産は、一晩のうちに完全に消え去っていた。

「なんだよ、これ……」

 全身から力が抜ける。そこに追い討ちをかけるように、画面にNPCスタッフからの一斉通知が次々と届いた。

【NPCスタッフが契約解除を申請しました】
【メンテナンススタッフが全員辞職しました】
【ショップ管理者が地天泰ギルドとの取引を停止しました】

「ちょっと待て! お前たち、どういうことだ!?」

 泰然が焦ってNPCたちに連絡を取ろうとするが、返ってくるのは冷たく無機質なメッセージのみだった。

【地天泰ギルドへの信用値がゼロになりました。これ以上の運営は不可能です】


 ——ギルドメンバーたちも異変に気づき、コメント欄はパニックになった。

『ちょっと待て、地天泰が資金ゼロって何!?』
『これ、バグじゃなくてリアルなのか?』
『泰然のスポンサー契約もヤバいんじゃ……?』


 泰然はパニック状態で個人の資産ステータスを開く。
 LOIのデジタルウォレットは二段階に分かれている。わかりやすく言えば、ゲーム内で使う財布と資産の金庫が別なのだ。

 しかし、そこにはもっと絶望的な事実が待ち受けていた。

【アカウント『泰然』の資産を凍結しました。ギルド地天泰の借金が返済されるまで資金の引き出しはできません】

「個人資産まで……!?」

 ギルド資金だけでなく、泰然個人の資産までもが一瞬にして凍結されてしまったのだ。

 画面に突如として表示されたメッセージは、――泰然にとって致命的な通告だった。

【このまま借金を返済できない場合、7日後にプレイヤー〝二条泰然〟のアカウントは強制退会されます】

 全身の血が引き、指先が冷たくなった。泰然はかろうじて息を吸い込んだ。

(アカウントが強制退会されたら……収入が途絶える……)

 LOIはただのゲームではない。ブロックチェーンをベースにしたリアルマネー連動型のゲームだ。
 ゲーム内通貨が現実の通貨と同じ重みを持つ以上、破産は現実のそれと同義だ。

 その場合、泰然にはスポンサー契約の莫大な違約金が待ち構えている。
 巨額の借金地獄に陥ることは避けられない。

「こんなこと、どうして」

 そのとき、泰然宛にLOIの個人通信が入った。
 画面に表示された名前と顔は――例のデスメリーだ。
 愉快そうに歪んだ微笑を浮かべて、甲高い声で話しかけてくる。

『あら泰然くん、どうかしたの?』
「お前……デスメリー、お前がやったのか!?」
『あはは! そうよ、全部ワタシがやったのよぅ~』

 デスメリーは華やかなピエロの衣装を翻し、不気味な笑みを浮かべながら告げる。

『君がね、人気者になってギルドの頂点に立つ姿、最高だったわぁ。――でもね、頂点にいる君が壊れていく瞬間が見たかったのよ』 「ふざけるな!」
『ふざけてなんかないわ。ワタシ、ずっと君を見てたの。君の心が壊れる瞬間をずーっと待ってた。あぁ、最高の気分だわ』

 デスメリーは楽しげに手を叩くと、泰然をさらに追い詰めるように続けた。

『アカウント強制退会まであと7日間よ。さあ、足掻いて見せて? 君が壊れるその瞬間まで、じっくり見届けてあげるから』
「待て……!」

 泰然の視界が歪む。尋常でない凶事に、胸の奥で絶望が広がっていった――



 一方、自宅マンションでLOIの調整を続けていた怜司もまた、泰然の窮地をLOI内の情報網やニュースで知った。
 慌てて状況を確認し、驚愕した。

「泰然が……借金まみれだって……!?」

 手が震え、スマホが滑り落ちる。ログイン中のジェイクと凛太からも次々と連絡が入った。

『お兄ちゃん! LOI速報見て! 泰然さんが……やばいことになってる!』
『デスメリーの奴、やっぱり黒幕だったのか! 急げよ、怜司!』

 怜司は急いでログインし、ギルド地天泰の泰然の元に駆けつける。
 そこには、絶望に打ちひしがれる泰然の姿があった。リンリン太郎とジェイクらたの幹部たちも神妙そうな顔で集まっている。

「泰然ギルマス、しっかりしてくれ! 僕が何とかするから……」

 強く叱咤されて顔を上げた泰然は、そこにいたのが仮面の新人と知って自嘲げに笑った。

「よう、新人。……悪いな、ギルドに加入してすぐにこんなことになっちまって」
「違う、そうじゃない泰然! 資金ショートだろう? 皆で協力してリカバリーを」

 だが泰然はゆるゆると首を横に振って黙り込んでしまった。
 代わりに答えたのはギルド幹部のリンリン太郎だ。

「お兄……じゃなかったクールガイ。ギルド地天泰の借金総額は日本円に換算して約20億。ランカーの幹部たち全員の資産を掻き集めても、とてもじゃないけど……」
「……20億」

 その金額は怜司にとっても途方もない金額だった。
 しかし泰然であれば時間をかければ、支援者エンジェルやクラウドファンディングなどで資金を集めるのは可能なはずだ。

(だがタイムリミットまで7日間……間に合わない)

「はは。もう終わりだな」
「何を言ってるんだ! 君は終わってなんかいない!」

 しかし、泰然は悲しげに首を振った。

「もう無理だ。LOIから強制退会させられたら、俺はもう立ち直れない……」
「そんなこと言うな! 君はそんな弱い奴じゃないだろう!?」
「お前が俺の何を知ってる?」
「……っ!」

 知っているとも。強くて誰より勇気があって、目標に向かって一生懸命な二条泰然は怜司の大切な人だ。

「もう疲れた……俺はもう……」

 怜司は初めて泰然が見せる絶望的な表情に言葉を失った。

 ――泰然を守れない。守れていない。
 彼のためならどんなことでもすると誓ったのに、自分は。

 その現実が怜司の胸を残酷に抉った。

 誰も何も口を挟めなかった。その場に冷たい沈黙が流れ、泰然の瞳からは初めて見る涙が零れ落ちた。

(君を救うことができないのか、僕は……)



 ギルド地天泰の崩壊が現実となり、泰然のすべてが失われようとしていた。

 そして、その崩壊劇を画面の向こうで満足げに眺める男がいた。

『さあ、最高のフィナーレを見せてちょうだいねぇ、泰然くん』

 道化師の不吉な笑い声が、闇の中に響き渡っていた――


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