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 朝が来た。みんなが準備を進めるのを、ミディオディアの剣にぶら下がりながら眺める。何やら考えているような顔で、ミディオディアが僕の籠を持ち上げた。
「どうしたんだ?」
「……いや。少し気になることがあって」
「気になること、ですか?」
「あぁ」
 ミディオディアは二人に僕と話したことを伝える。それを聞いて神妙な顔つきになった。
「確かに気になるな」
「……もしそれが本当なら、ここは危険なのでは?」
「あぁ。置いていくのも少し不安で……」
「なら今日は連れて行ってみるか。やっこさんに当たる前に避難させればいいだろ」
 どうやら今日は一緒にいられるらしい。僕は果物を咥えていそいそと籠に戻った。ミディオディアは優しい顔で僕の頭を撫でた。


 道中は不穏な気配もなく順調だった。けれど相変わらず生き物の気配はない。すんと風上から血の匂いがした。ミディオディアも気づいたのか馬を止める。
 僕はミディオディアの剣にぶら下がって風の匂いを嗅ぐ。血に混じって甘い匂いが漂っている。
「どうした?」
「ここからは歩こう。たぶん近い」
 僕も同意見だ。頷いて徒歩の準備をする彼らの周りを警戒する。匂いだけでは流石に個体の強さまではわからない。
 ミディオディアが籠と果物を取り出した。僕が怪我をしないようにという配慮か、馬から少し離れたところに僕の籠を置く。
「おいで」
 呼ばれてしまっては行かないわけにはいかない。渋々近寄って彼の指にぶらさがる。
「たぶん危険だから、ここで待っていてほしい」
 果物を渡され、籠に寝かされた。こっそりと覗き見た彼らは振り返ることなく、風上へ歩き出した。

 馬の嘶きが聞こえる。籠から頭を出してきょろきょろと辺りを見るが、人間どころか獣の気配すらしない。
 停められた馬が仕切りに地面を蹴っている。遠くから爆音が聞こえた。そっちの方向からは煙も上がっている。
 逃してやれればよかったが、コウモリの姿ではそれも難しい。馬を一瞥して僕は煙の方へ飛んだ。

 見つけたみんなは、ドラゴン・ゾンビとすでに交戦中だった。なにか手伝えることはないかと、一番後ろにいるマイニャーナに近づく。彼女は前衛の強化魔法が途切れないように発動し続け、合間を縫って攻撃魔法まで仕掛けている。
 よく見れば頬に血がついていて、僕はぱたぱた近づいてぺろりと舐める。魔法使いの血で身体が熱くなる。魔力が巡る。
 マイニャーナはようやく僕に気づいたみたいで目を見開いた。
「どうしてここに」
 緊張が途切れた一瞬にドラゴン・ゾンビが咆哮した。空気が揺れる。でも、本物のドラゴンの息吹に比べれば雑魚にも満たない。
 もらった魔力で結界を張る。振動を弾き飛ばした。驚いているマイニャーナの頬を舐めて傷を治す。
 治すときにちょっとだけマイニャーナの血を貰って、今度はアタルデセルの側まで飛ぶ。前衛はやっぱりたくさん怪我をしている。アタルデセルも僕に気づくと驚いて、僕の体を抱えて後衛近くまで下がった。
「なんでこんなところにいるんだ」
 アタルデセルの腕についた傷を舐めて治す。舐めておけば治るってのは本当だと思う。マイニャーナほどの魔力は無いけれどそれでも巡った魔力でアタルデセルに強化魔法をかける。
 ぽかんとしている彼をそのままに、僕はミディオディアの方に向かった。

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