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第一章 Prologue
思わぬ出来事
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あちー。あー、あちー。
太陽光が容赦なく照りつける秋葉原の街で、俺は買い物をしている。いつもなら外なんて絶対出ようとすら考えない。引きこもりでニートな俺は、家でパソコンに向かうことを唯一の生き甲斐にしている。しかしまぁ、今日はどうしても外せないイベントがここであるわけで、それまでの間は買い物でもしようと秋葉原の街を歩いているわけだが、元々体力のない俺は既に限界を迎えていた。
「公園にでも行くか……」
どっかその辺の喫茶店、もしくはジャンクフード店でもいいのだが、人混みが大嫌いな俺は、休日でも比較的静かで人もいない、この公園が密かにお気に入りなのだ。
えっと、俺はベンチで休んでいるわけだが、イベントまで手持ちぶさたになったので、俺の人生の反芻でもしようかと思う。
俺こと篠宮雄伍は、ごく普通の家庭に生まれたと思う。両親は共にジャーナリストで、各地を転々とする毎日だったが、俺はばあちゃんとじいちゃんに育てられてすくすくと育っていった。両親も時々帰ってきたし、俺にはばあちゃんとじいちゃんという育ての親がいたから小中と何の問題もなく幸せな子ども時代を送ってきた。そんな生活も中学3年の冬を転機に変わってしまう。ばあちゃんがクモ膜下出血で突然他界してしまう、そしてばあちゃんの後を追うようにして3ヶ月後にじいちゃんが虚血性心疾患で死んでしまった。それからの俺の人生は惰性でしかなかったと今にしてみればそう思わざるをえない。俺は親戚と共に暮らすことを悉く断り、両親とも仲違いして、一人暮らしをはじめることになった。最低限の生活費は両親が負担してくれたが、バイトをしなければ最低限の生活も送れない状態だったので、高校に通いながらもバイトに明け暮れる毎日だった。無事高校を卒業したが、一浪し、何とか大学に進学した。大学の一年目こそ、それなりに勉強して単位もそこそこ取っていたが、2年目で挫折し留年して、大学2年生のまま21歳の夏を迎えている。高校時代に汗水垂らして生き甲斐のように頑張ってきたバイトも去年辞めてしまった。今はもう、家に引きこもって同人誌を書き、ダウンロード販売をして生活費を稼ぐようになってしまった。パソコンがなくなったら死んでしまうんじゃないかなぁと思うほど、俺はパソコンに依存している。
思い返すだけで憂鬱になる。無気力になっている自分を戒めるためによく人生の反芻をしてみるが、最近では心の変化が顕れることもなくなってしまった。きっと今日も今まで通りに一日が過ぎていくのだろう……。
ふと、ベンチの横に紙袋が置かれていることに気づいた。中には何か入っている。きっと誰かの忘れ物だろう。普段なら全く考えないことだが、なぜだか今日はこの紙袋を交番に届けようと思った。うん、もしかしたら自分の人生を振り返ったおかげかもしれない。とにかく、早いところ交番に届けて、イベントに参加して帰ろう。
交番で、忘れ物を届け書類への記入も済ませた。うん、我ながら良いことをした。今日は、久しぶりに気分が良い。思ったより早く交番でのやり取りが済んでしまったので、俺は秋葉原の裏路地を散策してみることにした。普段は用事だけ済ませて帰ってしまうから、裏まで行こうとしたことはない。よく見ると、変な店が沢山ある。歩いているだけでなんだか新鮮で楽しい気分になる。
ただ、なんとなく秋葉原の街がざわついているような気がした。俺が良い気分になっているのとは裏腹に、秋葉原の空気に違和感のようなモノを感じる。何なんだろうなぁ~と、楽観的に考えていたのもつかの間、事件は起こった。
意気揚々と裏路地を歩いていた俺の横をパトカーが通り過ぎた。かと思えば、すぐに停車し中から二人の警官が出てきた。俺はぼぅーっと二人を見ていた、そして二人と目が合うと警官達は俺の方に向かって走ってきた。周りには誰もいない。警官達はどう考えても俺の方に向かって走ってきている。俺は、自然と走り出していた。警官達から逃れるように、秋葉原の裏路地を全速力で駆け回った。
「なんなんだよ……ちくしょう!!」
もう俺はよく分からず、とにかく走って逃げた。冷静に考えれば、俺は何も悪いことをしていないのだから逃げる必要なんてなかった。でも、体が勝手に動き出した。一度逃げてしまったら捕まるまで逃げ切らないといけない。そんな思考で頭の中は一杯だった。
足の速さには自信がある。しかし、相手は警察官だ。引き籠もりの大学生の俺が体力で勝てるはずがない。もう追いつかれる。そんなとき、普段は気にもとめないような細い路地が目に入った。行き止まりの看板が立っている。だから、今の状況を考えれば絶対に入ってはならないそんな道。しかし、俺の直感が叫んでいる。
『入れ!どうせ捕まるなら、入れ!』
ああそうだ、こういう時の俺の直感は信じて裏切られることがない。大学受験の時もそうだった。直感を信じずに解答して、俺は現役時代のセンター試験で大失敗したのだ。そうだ、今は常識よりも俺の直感を信じよう!
行き止まりの路地に入った。50mほどの長い直線で、案の定行き止まりであった。しかし、予想外のモノが視界に入ってきた。道の奥に、公衆電話ボックスが見える。そして中には、女の子が入っていた。
『あの女の子に助けを求めるんだ!』
なんだか吹っ切れた気分だった。もう何百mも全速力で走って、限界をとっくに超えている身体も、最後の力を振り絞った。ああ、あとちょっとだ。後ろを見ると警官達も10m後ろぐらいに迫ってきている。
『行ける!!!』
俺は電話ボックスに手を伸ばし、中に入り込んだ。そして、視界が真っ白になった。
太陽光が容赦なく照りつける秋葉原の街で、俺は買い物をしている。いつもなら外なんて絶対出ようとすら考えない。引きこもりでニートな俺は、家でパソコンに向かうことを唯一の生き甲斐にしている。しかしまぁ、今日はどうしても外せないイベントがここであるわけで、それまでの間は買い物でもしようと秋葉原の街を歩いているわけだが、元々体力のない俺は既に限界を迎えていた。
「公園にでも行くか……」
どっかその辺の喫茶店、もしくはジャンクフード店でもいいのだが、人混みが大嫌いな俺は、休日でも比較的静かで人もいない、この公園が密かにお気に入りなのだ。
えっと、俺はベンチで休んでいるわけだが、イベントまで手持ちぶさたになったので、俺の人生の反芻でもしようかと思う。
俺こと篠宮雄伍は、ごく普通の家庭に生まれたと思う。両親は共にジャーナリストで、各地を転々とする毎日だったが、俺はばあちゃんとじいちゃんに育てられてすくすくと育っていった。両親も時々帰ってきたし、俺にはばあちゃんとじいちゃんという育ての親がいたから小中と何の問題もなく幸せな子ども時代を送ってきた。そんな生活も中学3年の冬を転機に変わってしまう。ばあちゃんがクモ膜下出血で突然他界してしまう、そしてばあちゃんの後を追うようにして3ヶ月後にじいちゃんが虚血性心疾患で死んでしまった。それからの俺の人生は惰性でしかなかったと今にしてみればそう思わざるをえない。俺は親戚と共に暮らすことを悉く断り、両親とも仲違いして、一人暮らしをはじめることになった。最低限の生活費は両親が負担してくれたが、バイトをしなければ最低限の生活も送れない状態だったので、高校に通いながらもバイトに明け暮れる毎日だった。無事高校を卒業したが、一浪し、何とか大学に進学した。大学の一年目こそ、それなりに勉強して単位もそこそこ取っていたが、2年目で挫折し留年して、大学2年生のまま21歳の夏を迎えている。高校時代に汗水垂らして生き甲斐のように頑張ってきたバイトも去年辞めてしまった。今はもう、家に引きこもって同人誌を書き、ダウンロード販売をして生活費を稼ぐようになってしまった。パソコンがなくなったら死んでしまうんじゃないかなぁと思うほど、俺はパソコンに依存している。
思い返すだけで憂鬱になる。無気力になっている自分を戒めるためによく人生の反芻をしてみるが、最近では心の変化が顕れることもなくなってしまった。きっと今日も今まで通りに一日が過ぎていくのだろう……。
ふと、ベンチの横に紙袋が置かれていることに気づいた。中には何か入っている。きっと誰かの忘れ物だろう。普段なら全く考えないことだが、なぜだか今日はこの紙袋を交番に届けようと思った。うん、もしかしたら自分の人生を振り返ったおかげかもしれない。とにかく、早いところ交番に届けて、イベントに参加して帰ろう。
交番で、忘れ物を届け書類への記入も済ませた。うん、我ながら良いことをした。今日は、久しぶりに気分が良い。思ったより早く交番でのやり取りが済んでしまったので、俺は秋葉原の裏路地を散策してみることにした。普段は用事だけ済ませて帰ってしまうから、裏まで行こうとしたことはない。よく見ると、変な店が沢山ある。歩いているだけでなんだか新鮮で楽しい気分になる。
ただ、なんとなく秋葉原の街がざわついているような気がした。俺が良い気分になっているのとは裏腹に、秋葉原の空気に違和感のようなモノを感じる。何なんだろうなぁ~と、楽観的に考えていたのもつかの間、事件は起こった。
意気揚々と裏路地を歩いていた俺の横をパトカーが通り過ぎた。かと思えば、すぐに停車し中から二人の警官が出てきた。俺はぼぅーっと二人を見ていた、そして二人と目が合うと警官達は俺の方に向かって走ってきた。周りには誰もいない。警官達はどう考えても俺の方に向かって走ってきている。俺は、自然と走り出していた。警官達から逃れるように、秋葉原の裏路地を全速力で駆け回った。
「なんなんだよ……ちくしょう!!」
もう俺はよく分からず、とにかく走って逃げた。冷静に考えれば、俺は何も悪いことをしていないのだから逃げる必要なんてなかった。でも、体が勝手に動き出した。一度逃げてしまったら捕まるまで逃げ切らないといけない。そんな思考で頭の中は一杯だった。
足の速さには自信がある。しかし、相手は警察官だ。引き籠もりの大学生の俺が体力で勝てるはずがない。もう追いつかれる。そんなとき、普段は気にもとめないような細い路地が目に入った。行き止まりの看板が立っている。だから、今の状況を考えれば絶対に入ってはならないそんな道。しかし、俺の直感が叫んでいる。
『入れ!どうせ捕まるなら、入れ!』
ああそうだ、こういう時の俺の直感は信じて裏切られることがない。大学受験の時もそうだった。直感を信じずに解答して、俺は現役時代のセンター試験で大失敗したのだ。そうだ、今は常識よりも俺の直感を信じよう!
行き止まりの路地に入った。50mほどの長い直線で、案の定行き止まりであった。しかし、予想外のモノが視界に入ってきた。道の奥に、公衆電話ボックスが見える。そして中には、女の子が入っていた。
『あの女の子に助けを求めるんだ!』
なんだか吹っ切れた気分だった。もう何百mも全速力で走って、限界をとっくに超えている身体も、最後の力を振り絞った。ああ、あとちょっとだ。後ろを見ると警官達も10m後ろぐらいに迫ってきている。
『行ける!!!』
俺は電話ボックスに手を伸ばし、中に入り込んだ。そして、視界が真っ白になった。
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