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女勇者×従魔

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レイは、ドーゴやリルと同じ扱いをしないと非常に不満な顔をする。寝床も食事も首輪も全て、人間の俺とではなく、魔獣のドーゴやリルと同じでなければ納得しないのだ。
幸い、ドーゴやリルも短期間であれば人型化できるので、街中では人としての立ち振舞をしてくれているのだが、街から一歩でも離れると従魔になりきろうと常識外れの頭のおかしい言動を多々行なうのである。
野宿の時は、俺だけテントで寝て、レイは裸同然の格好でドーゴやリルと一緒に外で寝ている。
例え冬になったとしても、結界魔術を身体の周りに張ってあるため、裸同然の格好でも問題なく過ごせるとのことだ。
レイはドーゴやリルと同じように裸で生活すると言い出して、少しでも目を逸らすと服を脱いでしまうのだ。それには流石の俺も目のやり場に困ってしまい、無理やり肌色の水着を着させたりもした。
レイは、俺に助けられた時点で人間を辞めて身も心も魔獣になったつもりでいるのだそうだ。
ご主人様である俺に裸の隅々までを晒すことは当たり前のことだと考えており、一生涯、心身が潔白のまま俺に仕えていることを体現するためにも服を着てはならないとのことだそうだ。

そこまで、俺に尽くしてくれようとしているレイの気持ちは嬉しいが、俺も人間なのであって、従魔としてではなく、レイとして俺のことを見て欲しいと思うのだ。しかしながら、悶々とそんなことを考えているといずれ理性が吹っ飛んでしまいかねない。この何とも表現し難い衝動たちを抑え込むのに、日々必死だった。

とはいえ、レイの従魔たろうとする心意気は本当に凄いと思う。
数々の史実にもその名を残している伝説の勇者が、首輪をして裸同然の格好で、最も最近従魔になった一番下っ端という立場を頑なに守って皆と接している。
ただ、度が過ぎるのも良くない。

「ねぇ、どうやったら口から火を吹けるの?」
「知らんわ」

人間が口から火を吹くことはできないということを説明するのに小一時間はかかった。結局は納得せず、その日のレイはずっとブツブツと独り言を呟いていた。最終的に、火を吹くことはできていなかったが、口から光線を出すことはできるようになっていた。

俺たち人間は、魔獣と魔族を同一視しがちなのだが、実際は大きく異なる。
魔獣は、魔力を帯びていて知能を持っている動物である。一方で魔族は、魔力を帯びていて知能を持っているというところまでは魔獣と同じだが、自らの魔力で魔獣を従え、人間を滅ぼさんとしている者たちのことをいうのだそうだ。
さらに、細かく分ければ、常に人型ではあるが、一部魔獣の特徴を併せ持つ獣人と呼ばれる種族もいる。ここには、人間と魔獣のハーフなども含まれる。
つまりは、人間と敵対する魔獣や獣人たちを魔族と総称しているということだ。
魔族を名乗る者たちは、常に人型でいることも多く、種族を問わず魔族同士で生活しているのだという。実を言えば、魔族の中には人間と敵対する人間も含まれているのだ。時代を経るにつれて、魔族の概念も人間たちの中で曲解されていき、どこかで魔獣=獣人=魔族と解釈され、人間以外は敵だと思うようになっていった。魔族が、強制隷属の魔術刻印で魔獣を従えて人間たちと戦ってきたことで、そうした歪曲が生じたのだろうとは思う。しかしながら、俺の知る魔獣は少なくとも自分たちに害をなさない人間に対しては敵対しようとは思っておらず、人間から歩み寄れば共存もできるはずだと俺は思っている。
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