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本編'24
2月2日 (4
しおりを挟むたった3年勤めた会社は、大幅に人件費を削減する事にした。
たった3年では、主要メンバーのチームメイトにしかなれなかった。
つまり、僕は換えの効く人員だった。
パートになるか、転勤するかだった。
冗談だろと思ったけど。
世知辛い世の中で、僕はたまたま運が悪かったんだ。
和己と陸也にどうしようと嘆くと、辞めちゃえばと言う。
陸也は仕事はいくらでも有ると励ましてくれた。
それもそうだな、と思ったから他のチームメイトと同じく辞めることにした。
そうして入った、新しい会社の新しい仕事が駄目だった。
基本ツーマンセル。
小さい店舗には僕と、僕の先輩と、上司だけ。
上司は白衣を着るような仕事だった。
僕と先輩はそのサポート役だ。
たった1年だった。
その1年で僕は、ありとあらゆるトラウマを思い出し。
丁度1年後に辞めるまで、正気では居られなかった。
入社半年でおかしくなり始め、更に3ヶ月が過ぎる頃から二人がプレイを始めた。
そのおかげで残りの3ヶ月を乗り切って。
辞めたあとの半年間。
たっぷりと甘やかされ、少しずつトラウトと向き合った。
例えば、爪切りだ。
僕は正気で居られない時、深爪したし皮膚を切る事に夢中になった。
特に不具合もないし、たまたま切れたんだから整えないと。
僕はきちんと考えて、そうしていたつもりだったんだけど。
実際は、アドレナリンが出続けていただけだった。
奇妙な興奮、掌の汗、爪が短くなればなる程覚えた"安心"のイカれ具合。
初めに気付いたのは陸也だった。
昔は爪を噛んだり、鉛筆を噛む様な子供だった。
これはクセだよ、と言う僕に陸也はボロくて汚い手を握って
「お前にそんな癖は無い。」と言った。
「大学からの付き合いだ。その頃からお前の爪は綺麗に整っていた。」
「テキトー言うなよ」
「いいや。爪は綺麗だが、よくささくれを作って処理に失敗しているのを見た。」
「誰だってそのくらいやる」
僕は握られた手を振り払おうとした。
けど、陸也の握力には敵わなくて更に痛い程に握られて。
「良悟。爪切りが下手なのは知ってる。和己にしてもらうのはどうだ?」
「嫌だ。」
そんな事をしたら、僕は僕を罰せなくなる。
下手くそに切れば、薄くなった皮膚が暫くは痛んで僕は罰を受けられる。
「爪切りの間、手を握っててやる。」
何度か断った。
断って、失敗する度に手を握られて、一緒に座り込んでいるうちに。
和己に爪切りしてもらう事にした。
その時は、震えながらだった。
28の男が震えながら手を握られて爪を切ってもらう。
それだけの事なのに、その時の僕は、前に自分以外の人に爪切りをしてもらった時の事を思い出していた。
みっともないと思うと涙も出た。
それでも陸也はちゃんと手を握っててくれたし。
和己は、痛く手を掴んだりしなかった。
かなりの時間を掛けて、整え終えた爪に和己がキスしてくれた。
良い子だね、頑張ったねって言いながらオイルを塗ってくれた。
陸也も汗でびっしょりになった手を、ずっと握ってくれて抱き締めてくれた。
本当に僕はたまたま運が悪かったんだ。
たった3歳上の先輩が、僕の母親によく似ていた。
只、それだけだったんだ。
ーーーーー
「良悟」
「んっ♡」
「考え事してたの?」
今度はカズの足の間に座り込む。
手を広げておいで、と言われたから俺はふらつく四つん這いで飛び込んだ。
「爪切りの事考えてた。」
「痛かった?」
俺は首を振る。
全然痛くなかった。
全然失敗しなくて、怖いけど泣く程では無くて、それに和己が一生懸命な顔を見せてくれるのは好きだ。
「明日はオイルを濡れるかも知れない。」
「やりたいの?」
「やりたい。レモンの匂いの奴が良い。」
「良いよ。そう言えば、この前見付けた奴何の匂いだったっけ?」
さりさり、と裸の背中を撫でながら和己が訊ねた。
答えたのは陸也だ。
俺はその場に居なかった。
「確か、金木犀だったな。」
「買おうか悩んだんだよねー。」
金木犀の匂いは好きだ。
本当なら1年中楽しみたい香りなのに、冬に感じる方が風情があって勿体無いと思うのに、そう言う季節物は避けている。
「夏まで持つと思う?」
「んー毎日塗ればすぐに無くなるだろねぇ。」
「俺が塗ってやるぞ。」
そっか。本当は毎日塗った方が効くんだ。
それなら、冬の間だけ金木犀の匂いを楽しめそうだ。
「考える。」
「オーケー。じゃ、休憩終わりだね。良悟、今日の玩具を選んで持って来て。」
「分かった。」
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