16 / 107
本編'24
2月3日 (1
しおりを挟む
「陸也は?」
「掃除用品見てくるって。有った?」
「んー・・・」
「良悟、それ欲しいの?」
ドラッグストアに来ていた。
昨日言っていた金木犀のオイルを見に。
序でにふと奥の棚を見て吸い寄せられる様に来てしまった。
「泡が肉球になる。」
「要らないと思うなぁー。」
「ワンプッシュで1回分が出る。因みに詰め替えも付いてる。」
買い物かごは陸也が持っている。
財布は和己で、俺はエコバッグと買い物リスト。
あとは個人の好きな物を買えば終わりだ。
俺は陸也を味方に付けるべく、指先でハンドソープの箱を摘んだ。
「陸也」
「オイル有ったのか?」
「それより、これ見てっ。肉球の泡でる。」
ゴリラを誑かすのは簡単だ。
ひとつ、萌え袖。
ふたつ、両手で持つ。
みっつ、目をキラキラさせる。
「駄目。」
尚もじっと見つめる俺。
「駄目だ。」
もしかして目が死んでたかな。
頑張ってキラキラさせた筈だが。
「拗ねても駄目だぞ。」
「なんでだよ。」
「他、は無かったのか?」
「肉球のはこれだけだったけど、何、これ駄目なの?」
なんかおかしい。
和己みたいに無駄遣いだから駄目だと言っている感じじゃ無い。
もしかして、筋肉ゴリラでも肉球スタンプは恥ずかしいのか?
「何を考えてるのかバレバレだぞ良悟。」
「む、」
「とにかくそれは駄目だ。」
俺は渋々箱を戻す事にした。
和己が待っててくれて、何かを選んでいた。
「ダメだった?」
「ダメだった。なんか、訳ありっぽかった。」
和己はハンドクリームを見ていた。
それも裏側の説明書きを熱心に。
「ダメなのはそのメーカーだよ。俺も今気付いたんだよね。それ、良悟だけ手が荒れたからやめた奴だよ。」
「そうなのか?」
「そう。ガサガサになって痛がってたからハンドクリームを塗ってやり過ごしてたんだけど。ほら、口に入れないでくださいって書いてある。」
そんな事、当たり前だろ。
誰がハンドクリーム食うんだ。
俺はそんな事しない。
「口に入れられない物は、別の場所にも入れられないんだよ良悟。」
意味ありげに微笑まれて、少し考えれば確かに思い至る事がある。
「あぁ...そういうこと。」
「そういうこと。ごめんね良悟。」
こいつらは俺の手が荒れる事を心配しつつも、ハンドクリームを塗れば解決すると知っていながら。
プレイで指示するためにそれをやめさせたい。
二人のうちどっちが見たいのかは知らないけど、俺が自分の指を突っ込んで鳴く姿が見たいんだ。
確かに、あの頃はしてなかったような。
でも、肉球の泡ほしい。
「不満そうだね。」
「ん。」
「そんな良悟にいいお知らせだよ、ほらこれ見て。」
和己が吟味していたハンドクリームの裏。
万が一口に入った場合でも安心の材料を使用しています。
「... ... 。」
えぇっと。確か、食べられるクレヨンと言う物がある。
見た目がクレヨンで中身がチョコなんて事ではなくて。
口に入れても大丈夫とか言う奴だ。
でも、クレヨンはクレヨンだ。ポリポリ食う物じゃ無い。
万が一ペロッと舐めても大丈夫ですよ、だ。
だから。
万が一ペロッと舐めても大丈夫ですよ、のハンドクリームを、下のくちにペロリさせるのも駄目だ。
そもそもペロリどころじゃ無い。
それを知らないこいつらが、ベロベロ俺の手を舐めるのも駄目だ。
絶対に駄目だ。危険行為と言うやつだから絶対に駄目だ。
「和己。万が一と毎週末は違う。」
俺は一切の悔いも無く肉球スタンプを棚に戻した。
安全な手洗いと安全なプレイの為に。
「それで、オイルはどうするの良悟?」
ーーーーー
「さて、やるか。」
この前掌サイズの古いテレビみたいなスピーカーを見つけた。
そこから極々小さな音でBGMをかける。
好きなアニメのサントラで、自然っぽさを出す為に所々に鳥の声や葉の擦れ合う音、波の音なんかが入っている。
今日の昼は、チャーハン、目玉焼き、たまごスープだ。
帰ってくるなり玄関先でキスをして、和己は仕事の続きへ。
陸也は張り切ってバスルームの掃除に取り掛かっている。
だから俺が昼飯当番。
目玉焼きは個性が出る。
和己は両面焼いて欲しいとろっとタイプだけど、陸也は片面をしっかり焼く派。
俺はとろとろ片面派。白状すれば、白身はそんなに好きじゃない。
「良悟ぉーすまん、手伝ってくれるか。」
「なーにー」
バスルームから陸也の呼ぶ声がする。
火を止めて駆け付けると、袖がびちょびちょのゴリラが居た。
「なに?」
「袖捲ってくれないか。」
「もう濡れてんじゃん。」
「すまん、キスがしたくなった。」
さっきまで張り切って風呂掃除してたじゃん。
何がいきなりそうなるんだよ。
照れ臭そうに笑う袖びちょびちょで、泡だらけのスポンジを握った男とキスをした。
洗剤の匂いがする。
「美味い。」
俺も。
今日はまだタバコを吸ってない陸也とのキスは甘い。
舌を絡めたくなって、冷たい袖口を握った。
「んっ、ふ、ぅ、ふっ。」
「良悟」
けど、伸びて来た泡だらけじゃ無い方の手から、スゥッと身体を引いて避けた。
「うん???」
「駄目だ陸也。俺はチャーハンの途中だし、そっちは風呂掃除の途中だろ。早く終われよっ。」
ニィっ、と笑って走って逃げて来てやった。
俺だって意地悪くらい出来る。
達成感で舞い上がり仕上げに取り掛かったチャーハンは、かなり良い出来になりそうだ。
「いただきます。」
今日は陸也の隣に座る。
昨日は和己の隣だったから。
「午後から何するの?」
「俺は掃除の続きだな。」
「俺は仕事。多分今日はもうだめだ。カンヅメだね。良悟は?」
俺は。
特にする事は無い。
する事がないと言うのも苦痛で、どうしたものか。
「特に無いなら、プレゼントが有るんだが貰ってくれないか。」
「え、何。」
「あとでな。」
「ズルい、俺も良悟のプレゼント探そっ。ぶっちゃけクライアントの要件聞いてるより良悟のプレゼント選んでる方が、作業捗るんだよねぇ。」
「分かる。俺も何故か書類仕事が進む。」
「何でだよ。」
ーーーーー
「ふーんっ」
ニヤける口元が我慢出来ないけど、とりあえず箱から出して行く。
大量のビーズ。ビーズを入れるケース、トレイ、ペンっぽいのが二本と、接着剤っぽい物と、ピンセット、小さいクリアケースの棚と、ローラー?
パン生地でも捏ねるのか。
あと、持って行けと言われて部屋からマスキングテープ、デザインナイフも取ってきた。
陸也は下調べが入念で、何から何まで準備する。
通常の付属品にプラスで細々とした物まで用意していた。
流石、営業職。
俺ひとりじゃ永遠に動画を見て、終わっていた筈だ。
ビーズをケースに入れて行く。
シールに番号と記号も書いて、陸也が用意してくれたケースにサラサラと流して行く。
楽しい。
廊下の向こうでまだ掃除してる音がする。
和己は多分、ビデオ通話かも。
どこからしようか。
空から女の子が降って来そうな絵だ。
綺麗で、キラキラだ。
ビーズってキラキラなんだな。光が反射してる。
それに、貼る時の音が気に入った。
ぽきゃっ、ぽきゃっ、ぽきゃっ。
二本有ったペンは、片方が一粒ずつ貼れる用で、もう片方は一気に6粒乗せられる物だった。
ぽきゃっ。
「ふっ。」
つい、縦5列、横10列の青色ゾーンを一粒ペンでやってみたくなった。
ぽきゃっ、ぽきゃっ、ぽきゃっ、ぽきゃっ。
楽し過ぎる。
気が付けば初め決めていた範囲より多く、手を伸ばしていた。
黙々と、ただ無心で作業出来る。
あとで陸也にお礼言わないとな。
さっきも言ったけど、もう一度言おう。
だってこれ楽し過ぎる。
ーーーーー
デザインは、一つ一つが組み合わさって全体で一つの作品になる。
それをクライアントは誰ひとりとして分かっちゃいない。
「ここのピンクを青に変えられませんかね。」
ほら来た。
「理由をお伺いしても?」
「いやぁ、ピンクってのはちょっと女の子の色でしょ。もっとこう、うちが募集してるのは若い男の子でして、青年にピンクって言うのはちょっとねぇ。」
言う程ピンクじゃねぇだろ。
そりゃ珊瑚色だ。
「青にすると、ご希望の空の写真と色が被ってしまいますが。」
「そこをなんとかなりませんか?」
「では、再検討してお送り致します。期日に変更はありませんか。」
「ええ、それは勿論。宜しくお願いします。」
「こちらこそ、ではまた後程ご連絡差し上げますので。」
通話が切れた事を確認する。
念の為もう一度立ち上げて消す。
ミュートも掛け直して外し、完全に切れた事を確認したらデカいため息を吐く。
「よし、確認しようね俺。珊瑚色を青に。写真は変更不可。期日の延期も無し。何も問題は無い。」
馬鹿言ってンじゃねぇ。
問題大有りだ。
デザインはひとつひとつの色の配置や形を、細かく配慮して作り込む。
ジグソーパズルのピースを二つ取って入れ替えても、完成にはなるかよ。
しかも念の為、気を使って聞いてみた納期も変更無しと来た。
だと思ったよ。
想定通りだ、うんこ。
「あーーーー。」
良悟。
良悟を、吸おう。
「よっ、いしょ。」
座りっぱなしは身体に良く無いなぁ。
部屋を出て、廊下に出ればまだ陸也がバスルームに居た。
「何してんの?」
「洗濯槽と排水溝の掃除だ。お前は?」
「俺はクライアントにお手上げ万歳。気分転換に良悟吸ってくる。」
「お疲れ。」
「ありがと。そっちも程々にね。」
「あぁ。」
あいつマメだよなぁ。
掃除好きだしなぁ。
ストレス発散になるらしい。
俺は、これが一番のストレス発散。
こっそりリビングのドアを開ける。
テレビの音も音楽も鳴ってない。
となると、大体俺の癒しは寝てる。
けど、今日は違った。
黙々とビーズをポチポチ移してる。
可愛い。
丸い頭と一生懸命な背中が最高。
撫でて褒めてあげたい。
素肌が良いなぁ。その方が伝わる気がするんだよね。
暫く眺めて、本当は1時間だって眺めていたいけど。
良悟が息を吐いたタイミングで、俺もリビングへ入る。
勿論、開いてるドアノブを音を立てて押す。
さも、今開けましたという風に。
「おつかれー。」
「おつかれ」
「へぇ、夢中だね良悟。」
「うん」
息を吐いた割に、目は台紙を眺めている。
まだやる気みたい。
良悟は一旦のめり込むと、とことんやり詰める性質だ。
少し休憩させないと。
「良悟、ココア淹れたら飲む?」
「飲む。」
「キスもして欲しいなぁ。」
「分かった。」
「あとでえっちなお願いも叶えてくれる?」
「分か...っ、!?」
「ふふっ、気が付いちゃった。」
夢中になって返事を聞かないからだぞ。
最近は躾の甲斐あって、騙す方も苦労するようになって来た。
前なら俺の冗談でさえ冗談だと思えなかったのに。
今じゃ声色まで聞き分ける様になってる。
真剣に言えば真剣な話だと伝わる。
冗談を言えば冗談だと伝わる。
好きだと言えば、好きだと伝わる。
間違いなく俺の意思が、良悟に伝わっている事が理解できる。
賢くて可愛い俺達の大好きな黒柴。
俺を好きでいてくれて、俺にハグを返してくれる。
それに、俺の異様な色へのこだわりも理解してくれている辺り、本当に手放せない。
「お待たせ。うわ、細かいんだねぇ。」
「ちょっと目が痛い。」
「良い色だ。」
特にこの青。
ダイヤモンドアートのビーズは、光沢があるんだな。
どういう角度なんだ。
それに、この角度から入れる青ならもしかして使えるかも知れないな。
いや、使えるぞこれ。
「それ持って行って良いよ、和己。」
「い、良いの?使うんじゃ無い?」
「使わなくても良い様に出来るから大丈夫。それに、ちょっとだけ青に飽きて来た所だ。見てここ、50個全部青。だから大丈夫。良いよ。」
ふわっと、笑ってくれる良悟が居てくれて俺は幸せだ。
それに仕事のヒントもくれる。
やっぱ、お小遣いを増やすかありったけのプレゼントを探そう。
「ごめん良悟。これ借りてく。あとココア熱いから気を付けて。濡らすとアレだし、火傷も駄目だからね。」
「分かったから。仕事がんばれ。」
ありったけのキスを額に落として、唇にも吸い付いた。
本当は舌も入れたかったけど我慢だ。
せっかくのアイデアが吹っ飛ぶ前に形にしたい。
預かったビーズケースをデスクに置いた。
「良いなぁ、こういうの。」
本人は嘘だと思ってるけど、俺達は良悟が居ないと碌に仕事も熟せない。
アイツだって良悟が居なかったら、こんな物買わなかったろうからね。
「あーー可愛い。天才、天使、天上の至宝。」
至宝。
確か宝石の中には、見る角度によって色が変わる物が有った様な。
なんだっけ、陸也が話してたな。
それでダイヤモンドカットの話になって、ダイヤモンドアートの話になったんだ。
「ふっ、ふふっ、マジか。」
俺の仕事と生活の80%は、陸也と良悟で構成されているらしいね。
ーーーーー
※三人の日常を
もう少し続けてみる事にしました。
「掃除用品見てくるって。有った?」
「んー・・・」
「良悟、それ欲しいの?」
ドラッグストアに来ていた。
昨日言っていた金木犀のオイルを見に。
序でにふと奥の棚を見て吸い寄せられる様に来てしまった。
「泡が肉球になる。」
「要らないと思うなぁー。」
「ワンプッシュで1回分が出る。因みに詰め替えも付いてる。」
買い物かごは陸也が持っている。
財布は和己で、俺はエコバッグと買い物リスト。
あとは個人の好きな物を買えば終わりだ。
俺は陸也を味方に付けるべく、指先でハンドソープの箱を摘んだ。
「陸也」
「オイル有ったのか?」
「それより、これ見てっ。肉球の泡でる。」
ゴリラを誑かすのは簡単だ。
ひとつ、萌え袖。
ふたつ、両手で持つ。
みっつ、目をキラキラさせる。
「駄目。」
尚もじっと見つめる俺。
「駄目だ。」
もしかして目が死んでたかな。
頑張ってキラキラさせた筈だが。
「拗ねても駄目だぞ。」
「なんでだよ。」
「他、は無かったのか?」
「肉球のはこれだけだったけど、何、これ駄目なの?」
なんかおかしい。
和己みたいに無駄遣いだから駄目だと言っている感じじゃ無い。
もしかして、筋肉ゴリラでも肉球スタンプは恥ずかしいのか?
「何を考えてるのかバレバレだぞ良悟。」
「む、」
「とにかくそれは駄目だ。」
俺は渋々箱を戻す事にした。
和己が待っててくれて、何かを選んでいた。
「ダメだった?」
「ダメだった。なんか、訳ありっぽかった。」
和己はハンドクリームを見ていた。
それも裏側の説明書きを熱心に。
「ダメなのはそのメーカーだよ。俺も今気付いたんだよね。それ、良悟だけ手が荒れたからやめた奴だよ。」
「そうなのか?」
「そう。ガサガサになって痛がってたからハンドクリームを塗ってやり過ごしてたんだけど。ほら、口に入れないでくださいって書いてある。」
そんな事、当たり前だろ。
誰がハンドクリーム食うんだ。
俺はそんな事しない。
「口に入れられない物は、別の場所にも入れられないんだよ良悟。」
意味ありげに微笑まれて、少し考えれば確かに思い至る事がある。
「あぁ...そういうこと。」
「そういうこと。ごめんね良悟。」
こいつらは俺の手が荒れる事を心配しつつも、ハンドクリームを塗れば解決すると知っていながら。
プレイで指示するためにそれをやめさせたい。
二人のうちどっちが見たいのかは知らないけど、俺が自分の指を突っ込んで鳴く姿が見たいんだ。
確かに、あの頃はしてなかったような。
でも、肉球の泡ほしい。
「不満そうだね。」
「ん。」
「そんな良悟にいいお知らせだよ、ほらこれ見て。」
和己が吟味していたハンドクリームの裏。
万が一口に入った場合でも安心の材料を使用しています。
「... ... 。」
えぇっと。確か、食べられるクレヨンと言う物がある。
見た目がクレヨンで中身がチョコなんて事ではなくて。
口に入れても大丈夫とか言う奴だ。
でも、クレヨンはクレヨンだ。ポリポリ食う物じゃ無い。
万が一ペロッと舐めても大丈夫ですよ、だ。
だから。
万が一ペロッと舐めても大丈夫ですよ、のハンドクリームを、下のくちにペロリさせるのも駄目だ。
そもそもペロリどころじゃ無い。
それを知らないこいつらが、ベロベロ俺の手を舐めるのも駄目だ。
絶対に駄目だ。危険行為と言うやつだから絶対に駄目だ。
「和己。万が一と毎週末は違う。」
俺は一切の悔いも無く肉球スタンプを棚に戻した。
安全な手洗いと安全なプレイの為に。
「それで、オイルはどうするの良悟?」
ーーーーー
「さて、やるか。」
この前掌サイズの古いテレビみたいなスピーカーを見つけた。
そこから極々小さな音でBGMをかける。
好きなアニメのサントラで、自然っぽさを出す為に所々に鳥の声や葉の擦れ合う音、波の音なんかが入っている。
今日の昼は、チャーハン、目玉焼き、たまごスープだ。
帰ってくるなり玄関先でキスをして、和己は仕事の続きへ。
陸也は張り切ってバスルームの掃除に取り掛かっている。
だから俺が昼飯当番。
目玉焼きは個性が出る。
和己は両面焼いて欲しいとろっとタイプだけど、陸也は片面をしっかり焼く派。
俺はとろとろ片面派。白状すれば、白身はそんなに好きじゃない。
「良悟ぉーすまん、手伝ってくれるか。」
「なーにー」
バスルームから陸也の呼ぶ声がする。
火を止めて駆け付けると、袖がびちょびちょのゴリラが居た。
「なに?」
「袖捲ってくれないか。」
「もう濡れてんじゃん。」
「すまん、キスがしたくなった。」
さっきまで張り切って風呂掃除してたじゃん。
何がいきなりそうなるんだよ。
照れ臭そうに笑う袖びちょびちょで、泡だらけのスポンジを握った男とキスをした。
洗剤の匂いがする。
「美味い。」
俺も。
今日はまだタバコを吸ってない陸也とのキスは甘い。
舌を絡めたくなって、冷たい袖口を握った。
「んっ、ふ、ぅ、ふっ。」
「良悟」
けど、伸びて来た泡だらけじゃ無い方の手から、スゥッと身体を引いて避けた。
「うん???」
「駄目だ陸也。俺はチャーハンの途中だし、そっちは風呂掃除の途中だろ。早く終われよっ。」
ニィっ、と笑って走って逃げて来てやった。
俺だって意地悪くらい出来る。
達成感で舞い上がり仕上げに取り掛かったチャーハンは、かなり良い出来になりそうだ。
「いただきます。」
今日は陸也の隣に座る。
昨日は和己の隣だったから。
「午後から何するの?」
「俺は掃除の続きだな。」
「俺は仕事。多分今日はもうだめだ。カンヅメだね。良悟は?」
俺は。
特にする事は無い。
する事がないと言うのも苦痛で、どうしたものか。
「特に無いなら、プレゼントが有るんだが貰ってくれないか。」
「え、何。」
「あとでな。」
「ズルい、俺も良悟のプレゼント探そっ。ぶっちゃけクライアントの要件聞いてるより良悟のプレゼント選んでる方が、作業捗るんだよねぇ。」
「分かる。俺も何故か書類仕事が進む。」
「何でだよ。」
ーーーーー
「ふーんっ」
ニヤける口元が我慢出来ないけど、とりあえず箱から出して行く。
大量のビーズ。ビーズを入れるケース、トレイ、ペンっぽいのが二本と、接着剤っぽい物と、ピンセット、小さいクリアケースの棚と、ローラー?
パン生地でも捏ねるのか。
あと、持って行けと言われて部屋からマスキングテープ、デザインナイフも取ってきた。
陸也は下調べが入念で、何から何まで準備する。
通常の付属品にプラスで細々とした物まで用意していた。
流石、営業職。
俺ひとりじゃ永遠に動画を見て、終わっていた筈だ。
ビーズをケースに入れて行く。
シールに番号と記号も書いて、陸也が用意してくれたケースにサラサラと流して行く。
楽しい。
廊下の向こうでまだ掃除してる音がする。
和己は多分、ビデオ通話かも。
どこからしようか。
空から女の子が降って来そうな絵だ。
綺麗で、キラキラだ。
ビーズってキラキラなんだな。光が反射してる。
それに、貼る時の音が気に入った。
ぽきゃっ、ぽきゃっ、ぽきゃっ。
二本有ったペンは、片方が一粒ずつ貼れる用で、もう片方は一気に6粒乗せられる物だった。
ぽきゃっ。
「ふっ。」
つい、縦5列、横10列の青色ゾーンを一粒ペンでやってみたくなった。
ぽきゃっ、ぽきゃっ、ぽきゃっ、ぽきゃっ。
楽し過ぎる。
気が付けば初め決めていた範囲より多く、手を伸ばしていた。
黙々と、ただ無心で作業出来る。
あとで陸也にお礼言わないとな。
さっきも言ったけど、もう一度言おう。
だってこれ楽し過ぎる。
ーーーーー
デザインは、一つ一つが組み合わさって全体で一つの作品になる。
それをクライアントは誰ひとりとして分かっちゃいない。
「ここのピンクを青に変えられませんかね。」
ほら来た。
「理由をお伺いしても?」
「いやぁ、ピンクってのはちょっと女の子の色でしょ。もっとこう、うちが募集してるのは若い男の子でして、青年にピンクって言うのはちょっとねぇ。」
言う程ピンクじゃねぇだろ。
そりゃ珊瑚色だ。
「青にすると、ご希望の空の写真と色が被ってしまいますが。」
「そこをなんとかなりませんか?」
「では、再検討してお送り致します。期日に変更はありませんか。」
「ええ、それは勿論。宜しくお願いします。」
「こちらこそ、ではまた後程ご連絡差し上げますので。」
通話が切れた事を確認する。
念の為もう一度立ち上げて消す。
ミュートも掛け直して外し、完全に切れた事を確認したらデカいため息を吐く。
「よし、確認しようね俺。珊瑚色を青に。写真は変更不可。期日の延期も無し。何も問題は無い。」
馬鹿言ってンじゃねぇ。
問題大有りだ。
デザインはひとつひとつの色の配置や形を、細かく配慮して作り込む。
ジグソーパズルのピースを二つ取って入れ替えても、完成にはなるかよ。
しかも念の為、気を使って聞いてみた納期も変更無しと来た。
だと思ったよ。
想定通りだ、うんこ。
「あーーーー。」
良悟。
良悟を、吸おう。
「よっ、いしょ。」
座りっぱなしは身体に良く無いなぁ。
部屋を出て、廊下に出ればまだ陸也がバスルームに居た。
「何してんの?」
「洗濯槽と排水溝の掃除だ。お前は?」
「俺はクライアントにお手上げ万歳。気分転換に良悟吸ってくる。」
「お疲れ。」
「ありがと。そっちも程々にね。」
「あぁ。」
あいつマメだよなぁ。
掃除好きだしなぁ。
ストレス発散になるらしい。
俺は、これが一番のストレス発散。
こっそりリビングのドアを開ける。
テレビの音も音楽も鳴ってない。
となると、大体俺の癒しは寝てる。
けど、今日は違った。
黙々とビーズをポチポチ移してる。
可愛い。
丸い頭と一生懸命な背中が最高。
撫でて褒めてあげたい。
素肌が良いなぁ。その方が伝わる気がするんだよね。
暫く眺めて、本当は1時間だって眺めていたいけど。
良悟が息を吐いたタイミングで、俺もリビングへ入る。
勿論、開いてるドアノブを音を立てて押す。
さも、今開けましたという風に。
「おつかれー。」
「おつかれ」
「へぇ、夢中だね良悟。」
「うん」
息を吐いた割に、目は台紙を眺めている。
まだやる気みたい。
良悟は一旦のめり込むと、とことんやり詰める性質だ。
少し休憩させないと。
「良悟、ココア淹れたら飲む?」
「飲む。」
「キスもして欲しいなぁ。」
「分かった。」
「あとでえっちなお願いも叶えてくれる?」
「分か...っ、!?」
「ふふっ、気が付いちゃった。」
夢中になって返事を聞かないからだぞ。
最近は躾の甲斐あって、騙す方も苦労するようになって来た。
前なら俺の冗談でさえ冗談だと思えなかったのに。
今じゃ声色まで聞き分ける様になってる。
真剣に言えば真剣な話だと伝わる。
冗談を言えば冗談だと伝わる。
好きだと言えば、好きだと伝わる。
間違いなく俺の意思が、良悟に伝わっている事が理解できる。
賢くて可愛い俺達の大好きな黒柴。
俺を好きでいてくれて、俺にハグを返してくれる。
それに、俺の異様な色へのこだわりも理解してくれている辺り、本当に手放せない。
「お待たせ。うわ、細かいんだねぇ。」
「ちょっと目が痛い。」
「良い色だ。」
特にこの青。
ダイヤモンドアートのビーズは、光沢があるんだな。
どういう角度なんだ。
それに、この角度から入れる青ならもしかして使えるかも知れないな。
いや、使えるぞこれ。
「それ持って行って良いよ、和己。」
「い、良いの?使うんじゃ無い?」
「使わなくても良い様に出来るから大丈夫。それに、ちょっとだけ青に飽きて来た所だ。見てここ、50個全部青。だから大丈夫。良いよ。」
ふわっと、笑ってくれる良悟が居てくれて俺は幸せだ。
それに仕事のヒントもくれる。
やっぱ、お小遣いを増やすかありったけのプレゼントを探そう。
「ごめん良悟。これ借りてく。あとココア熱いから気を付けて。濡らすとアレだし、火傷も駄目だからね。」
「分かったから。仕事がんばれ。」
ありったけのキスを額に落として、唇にも吸い付いた。
本当は舌も入れたかったけど我慢だ。
せっかくのアイデアが吹っ飛ぶ前に形にしたい。
預かったビーズケースをデスクに置いた。
「良いなぁ、こういうの。」
本人は嘘だと思ってるけど、俺達は良悟が居ないと碌に仕事も熟せない。
アイツだって良悟が居なかったら、こんな物買わなかったろうからね。
「あーー可愛い。天才、天使、天上の至宝。」
至宝。
確か宝石の中には、見る角度によって色が変わる物が有った様な。
なんだっけ、陸也が話してたな。
それでダイヤモンドカットの話になって、ダイヤモンドアートの話になったんだ。
「ふっ、ふふっ、マジか。」
俺の仕事と生活の80%は、陸也と良悟で構成されているらしいね。
ーーーーー
※三人の日常を
もう少し続けてみる事にしました。
40
あなたにおすすめの小説
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる