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第四章 青海の檻
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* * *
「B―1よりA―1へ。ネズミと小鹿は船内レストラン奥の厨房に逃げ込んだ模様。厨房の出入り口は包囲、何やら扉の前にバリケードを作ってるようですが、文字通り袋のネズミです」
「A―1よりB―1へ。そのまま厨房を制圧してネズミを殺せ。小鹿はそのまま確保しろ」
「B―1、了解」
ヘッドセットのトランシーバーからの部下達の報告に素早く指示する片山。
…厨房。袋のネズミ。
妙に引っかかる。確かに船の中は隠れる場所など限られてはいるが、わざわざ出口の無い袋小路に飛び込むという真似が、片山の腑に落ちない。全身に鳥肌を立たせる程の殺気を放つような奴がわざわざ自らが追い込まれるような形をとるのだろうか。
片山は眉間に何本も深い皺を寄せ、口元をグッと強く引き締めた険しい表情で、部下達の居るレストランの方向をじっと睨んでいた。
* * *
隼と美優が厨房に飛び込むと、美優はそのままの勢いで前のめりになって倒れこむように両手を床につけ、四つん這いの格好ままゼェゼェと激しく呼吸して酸素を取り込んでいる。あともう少し走り続けてたら、心臓はパンクしていただろう。
一方隼は厨房に入ると同時に美優の手を離すと、素早く扉の鍵を掛け、側に置いてある料理や食材などを運搬するラックや荷台などを、横倒しにして乱雑に扉の前に積み上げていく。鉄と鉄がぶつかり合う激しい音が、厨房中に響き渡る。バリケードと言うには全くもって心許ないが、追っ手への多少の時間稼ぎにはなるだろう。
扉の前に即席のバリケードを築くと、隼は改めて厨房内を見回す。
厨房中央には料理の盛り付け等する為の大きな調理台が置かれ、その調理台を挟むようにして片方の壁側はガスコンロが数台並んでいる。そして反対側の壁側は食材を洗ったり食器や調理器具を洗浄する流し場になっている。
朝食の準備の最中に乗員全てデッキに集められたので、調理台の上は刻みかけの野菜や盛り付け途中の料理などがそのままの状態に放置され、移動の際に邪魔になると思ったのかエプロンや帽子まで調理台の上に置いていってある。コンロ台の上にも寸胴鍋で温めていたと思われるスープ類が、どんと置かれたままになっている。
そして厨房奥の壁には鉄製のガッシリした大きな扉、冷蔵室に繋がるそれが厨房内で異質な存在感を放っている。冷蔵室はいわゆるクールハウスと呼ばれており、ちょっとした倉庫くらいの広さを持っている。この冷蔵室に仕込んだ料理や材料などを大量に保存しており、今もまだまだ貯蔵できる余裕がある。
視線を別の所に移すと、壁際でうず高く積まれている袋が目に付く。
よく確かめると一袋二十二キログラムの量が詰まった小麦粉の袋が何段にもなって積まれている。
(……小麦粉…)
隼の頭の中でこの場を切り抜ける為の算段が組み立てられる。
追手達は既に厨房前に集まり出し鍵をこじ開けようと騒がしくしている。
(……よし)
隼が近くの無造作に置いてあったエプロンを二枚ほど手に取ると、無理やりグシャグシャに丸めて、まだ荒く息を吐いている美優に向かって投げつける。
「ハァハァ…っぶ!!ちょっと何すんのよ⁉」
「そのエプロンを水で濡らして、そいつを持ったまま奥のクールハウスに行け」
「はっ、ハァッ?何で水に…」
「いいから早くしろ!急げ!」
(なっ、何でそんな上から目線なのよぅ……)
やや高圧的な口調の隼にムッとする美優。ふくれっ面の美優などお構いなしに隼は調理台に置かれてたアルミホイルのロールを掴み、ありったけ引っ張り出すと今度はそれをワシャワシャとけたたましい音を立てて一気に丸め、傍にある電子レンジの中に乱雑に詰め込んだ。
そしてすぐさま踵を返して、今度は高々と積んである小麦粉の大袋の元へ跳ぶように馳せると、取り出したツールナイフで小麦粉の大袋を積んである一番上から一番下まで、縦一文字に一気に切り裂いた。高々と積んである分の荷重とナイフで切り裂かれた勢いで、切り口から怒涛の様に小麦粉がこぼれ出す。
(続く)
「B―1よりA―1へ。ネズミと小鹿は船内レストラン奥の厨房に逃げ込んだ模様。厨房の出入り口は包囲、何やら扉の前にバリケードを作ってるようですが、文字通り袋のネズミです」
「A―1よりB―1へ。そのまま厨房を制圧してネズミを殺せ。小鹿はそのまま確保しろ」
「B―1、了解」
ヘッドセットのトランシーバーからの部下達の報告に素早く指示する片山。
…厨房。袋のネズミ。
妙に引っかかる。確かに船の中は隠れる場所など限られてはいるが、わざわざ出口の無い袋小路に飛び込むという真似が、片山の腑に落ちない。全身に鳥肌を立たせる程の殺気を放つような奴がわざわざ自らが追い込まれるような形をとるのだろうか。
片山は眉間に何本も深い皺を寄せ、口元をグッと強く引き締めた険しい表情で、部下達の居るレストランの方向をじっと睨んでいた。
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隼と美優が厨房に飛び込むと、美優はそのままの勢いで前のめりになって倒れこむように両手を床につけ、四つん這いの格好ままゼェゼェと激しく呼吸して酸素を取り込んでいる。あともう少し走り続けてたら、心臓はパンクしていただろう。
一方隼は厨房に入ると同時に美優の手を離すと、素早く扉の鍵を掛け、側に置いてある料理や食材などを運搬するラックや荷台などを、横倒しにして乱雑に扉の前に積み上げていく。鉄と鉄がぶつかり合う激しい音が、厨房中に響き渡る。バリケードと言うには全くもって心許ないが、追っ手への多少の時間稼ぎにはなるだろう。
扉の前に即席のバリケードを築くと、隼は改めて厨房内を見回す。
厨房中央には料理の盛り付け等する為の大きな調理台が置かれ、その調理台を挟むようにして片方の壁側はガスコンロが数台並んでいる。そして反対側の壁側は食材を洗ったり食器や調理器具を洗浄する流し場になっている。
朝食の準備の最中に乗員全てデッキに集められたので、調理台の上は刻みかけの野菜や盛り付け途中の料理などがそのままの状態に放置され、移動の際に邪魔になると思ったのかエプロンや帽子まで調理台の上に置いていってある。コンロ台の上にも寸胴鍋で温めていたと思われるスープ類が、どんと置かれたままになっている。
そして厨房奥の壁には鉄製のガッシリした大きな扉、冷蔵室に繋がるそれが厨房内で異質な存在感を放っている。冷蔵室はいわゆるクールハウスと呼ばれており、ちょっとした倉庫くらいの広さを持っている。この冷蔵室に仕込んだ料理や材料などを大量に保存しており、今もまだまだ貯蔵できる余裕がある。
視線を別の所に移すと、壁際でうず高く積まれている袋が目に付く。
よく確かめると一袋二十二キログラムの量が詰まった小麦粉の袋が何段にもなって積まれている。
(……小麦粉…)
隼の頭の中でこの場を切り抜ける為の算段が組み立てられる。
追手達は既に厨房前に集まり出し鍵をこじ開けようと騒がしくしている。
(……よし)
隼が近くの無造作に置いてあったエプロンを二枚ほど手に取ると、無理やりグシャグシャに丸めて、まだ荒く息を吐いている美優に向かって投げつける。
「ハァハァ…っぶ!!ちょっと何すんのよ⁉」
「そのエプロンを水で濡らして、そいつを持ったまま奥のクールハウスに行け」
「はっ、ハァッ?何で水に…」
「いいから早くしろ!急げ!」
(なっ、何でそんな上から目線なのよぅ……)
やや高圧的な口調の隼にムッとする美優。ふくれっ面の美優などお構いなしに隼は調理台に置かれてたアルミホイルのロールを掴み、ありったけ引っ張り出すと今度はそれをワシャワシャとけたたましい音を立てて一気に丸め、傍にある電子レンジの中に乱雑に詰め込んだ。
そしてすぐさま踵を返して、今度は高々と積んである小麦粉の大袋の元へ跳ぶように馳せると、取り出したツールナイフで小麦粉の大袋を積んである一番上から一番下まで、縦一文字に一気に切り裂いた。高々と積んである分の荷重とナイフで切り裂かれた勢いで、切り口から怒涛の様に小麦粉がこぼれ出す。
(続く)
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