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第三章 晴天のち暗転
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お隣さん、とは本当に文字通りの隣で、互いに一軒家でありつつも北野上市の人口と住宅事情で、栗林家と赤羽家の家は法定ギリギリの尺で住宅が立地している。
殆ど二世帯住宅と言っても過言ではないような形で互いの家がそびえ建っている状態である。
ただ栗林家の隣家は数年前まで別の一家が住んでいたのだが、当時の一家が諸々の事情で家を売り払う事に決め(実は当時の家主夫婦のダブル不倫で家庭崩壊したので、色々とお互い清算する為に家を売る事にしたらしい)、それに目を付けた栗林家の大家さんがその家を買い取り、リフォームして新たに借家として貸し出すことにしたのだ。
美優はバスケットを持って自宅の玄関を出ると、その距離およそ十七歩で隣家の赤羽家の玄関口に立った。
赤羽家のインターホン前に立つと、別にどうという事ではないが、呼び出しボタンを押す前に前髪を直したり服の乱れはないか改めてチェックする美優。
この辺はさすがに年頃の女の子である所以だ。
簡単ながらも一通り身だしなみをチェックすると一旦深呼吸してから赤羽家のインターホンを押して家人を呼び出す。
他所様の家のインターホンを鳴らす時、何故か分からないが不思議と人は緊張感を持ってしまう。
それが普段から交流のある間柄であっても、インターホンの前に立って相手を呼ぶと云う事は、相手からは自分が丸見なのに自分からは先方がどういう反応しているのか解らないという、ある種の不安感が沸き立ってしまうが為だろう。
赤羽家のインターホンを押し、軽い緊張感を持ちながら返答を待っていると、インターホン越しのスピーカーから慌てた様な少年の声が飛び出す。
『っハいっ!?』
玄関口のインターホンのスピーカーから漏れだしたのは、夕べの挨拶に来た赤羽隼、その人の慌てた様な声だった。この時間に人が訪ねてくるなど、予想外だったような声色だった。
「あ。あの、隣の栗林です~。…あの、うち今日ちょっと晩御飯多く作りすぎちゃったんで。それで、食べきれなさそうだから良かったら赤羽さん如何かなぁ~、なんて思ってオカズ持ってきたんですけど…」
ちょっと遠慮がちにインターホンに話しかける美優。隼の慌てた声にこちらも感化されたように不安気な声になる。
だが隼の方は逆に美優の申し出を一拍おいて理解した後、「あ、本当デスか!?」と嬉しそうな声がスピーカーから響いてくる。
『これからゴハン何しよう、困ってたデス。ホントいいですか?もらって?』
「え、ええ。もちろん!その為に持ってきたんだから」
隼の心底嬉しそうな声に美優も表情を崩す。
『チョト待ってください。いまドア開けマス』
そう言ってインターホンが切れると、玄関の扉の向こうから小走りで足音が近づいてくる。
美優はバスケットを持ってない手で改めて髪を軽く直して、身だしなみを整える。女の子としての条件反射。
ガチャン。
鍵の開く音がして扉がゆっくりと開き、その隙間から人の姿が現れる。
改めて挨拶しようと扉に向き直り、バスケットを両手に持ち直して前に出しながら隼に言葉をかけようと、美優。
「あ、赤羽君こんばんは。これ、ウチで作ったカレーなんだけど、よかっ」
台詞が途中で止まり、台詞だけでなく美優の笑顔もピキキと凍り付いた。
美優の視線の先には隼がいる。
が。
視線を上から順に下げていくと、隼は上半身は裸、腰から下はタオル一枚を巻いた状態で、美優の目の前に現れたのだ。
シャワーでも浴びていたのか、髪の毛や顔、上半身はまだ水滴が拭い切れずにあちこち濡れたままだ。
そしてその体つきは昨日の崩壊的ファッションセンスからは想像できない程逞しく、鍛え上げられた筋肉質の体で無駄な脂肪が見当たらない。
時々テレビで総合格闘技の試合などを目にするが、その選手達の様に筋肉の一つ一つの隆起がハッキリしている、完璧な肉体だ。
だが美優はそんな見事な肉体より、腰から下のタオル一枚の超キワドイ格好に目が行ってしまい、それが脳内一杯を占拠して何を言うのかも忘れてしまった。
そのタオルもバスタオルではなく洗顔タオルなどの小さめのを巻いてるものだから、隼がちょっと大股で近づこうものなら、タオルの間からブツが丸見えになってしまいそうになる。
予想だにしない姿で現れたものだから、完全に思考がぶっ飛んでしまう美優。
「あ、こ、よ」
『あの、これカレーなんだけど良かったらどうぞ』と言うつもりがビックリし過ぎて、舌も頭も回らない。口から出るのはぶつ切りの単語のみ。
だが隼はそんな様子の美優に気付かず、バスケットを持ったまま固まっている美優に近づいていき、それを両手で受け取ろうとする。
隼にとって異性に自分の半裸を見せる事には、羞恥と云う概念が無いらしい。
「ああ、よかったデス。いまボクすごくお腹減ってマシター!」
嬉々としてバスケットの柄を両手でつかむ隼。そして。
――はらり。
その瞬間に腰に巻いていたタオルの結び目が解け、タオルが地面に軟着陸。
今美優の目の前には生まれたままの姿の隼が。つるりん。
二人とも両手でバスケットを持ったままだから、どうしようもできない。
「ぎっ」
ぎええぇえぇえぇぇぇえぇ…………
宵闇に美優の絶叫が吸い込まれていく。
……この後、何事かと通報を受けてやってきた警察に、美優と美晴と何故か隼までも一生懸命に頭を下げ続ける羽目になってしまったのは言うまでもない……
(続く)
殆ど二世帯住宅と言っても過言ではないような形で互いの家がそびえ建っている状態である。
ただ栗林家の隣家は数年前まで別の一家が住んでいたのだが、当時の一家が諸々の事情で家を売り払う事に決め(実は当時の家主夫婦のダブル不倫で家庭崩壊したので、色々とお互い清算する為に家を売る事にしたらしい)、それに目を付けた栗林家の大家さんがその家を買い取り、リフォームして新たに借家として貸し出すことにしたのだ。
美優はバスケットを持って自宅の玄関を出ると、その距離およそ十七歩で隣家の赤羽家の玄関口に立った。
赤羽家のインターホン前に立つと、別にどうという事ではないが、呼び出しボタンを押す前に前髪を直したり服の乱れはないか改めてチェックする美優。
この辺はさすがに年頃の女の子である所以だ。
簡単ながらも一通り身だしなみをチェックすると一旦深呼吸してから赤羽家のインターホンを押して家人を呼び出す。
他所様の家のインターホンを鳴らす時、何故か分からないが不思議と人は緊張感を持ってしまう。
それが普段から交流のある間柄であっても、インターホンの前に立って相手を呼ぶと云う事は、相手からは自分が丸見なのに自分からは先方がどういう反応しているのか解らないという、ある種の不安感が沸き立ってしまうが為だろう。
赤羽家のインターホンを押し、軽い緊張感を持ちながら返答を待っていると、インターホン越しのスピーカーから慌てた様な少年の声が飛び出す。
『っハいっ!?』
玄関口のインターホンのスピーカーから漏れだしたのは、夕べの挨拶に来た赤羽隼、その人の慌てた様な声だった。この時間に人が訪ねてくるなど、予想外だったような声色だった。
「あ。あの、隣の栗林です~。…あの、うち今日ちょっと晩御飯多く作りすぎちゃったんで。それで、食べきれなさそうだから良かったら赤羽さん如何かなぁ~、なんて思ってオカズ持ってきたんですけど…」
ちょっと遠慮がちにインターホンに話しかける美優。隼の慌てた声にこちらも感化されたように不安気な声になる。
だが隼の方は逆に美優の申し出を一拍おいて理解した後、「あ、本当デスか!?」と嬉しそうな声がスピーカーから響いてくる。
『これからゴハン何しよう、困ってたデス。ホントいいですか?もらって?』
「え、ええ。もちろん!その為に持ってきたんだから」
隼の心底嬉しそうな声に美優も表情を崩す。
『チョト待ってください。いまドア開けマス』
そう言ってインターホンが切れると、玄関の扉の向こうから小走りで足音が近づいてくる。
美優はバスケットを持ってない手で改めて髪を軽く直して、身だしなみを整える。女の子としての条件反射。
ガチャン。
鍵の開く音がして扉がゆっくりと開き、その隙間から人の姿が現れる。
改めて挨拶しようと扉に向き直り、バスケットを両手に持ち直して前に出しながら隼に言葉をかけようと、美優。
「あ、赤羽君こんばんは。これ、ウチで作ったカレーなんだけど、よかっ」
台詞が途中で止まり、台詞だけでなく美優の笑顔もピキキと凍り付いた。
美優の視線の先には隼がいる。
が。
視線を上から順に下げていくと、隼は上半身は裸、腰から下はタオル一枚を巻いた状態で、美優の目の前に現れたのだ。
シャワーでも浴びていたのか、髪の毛や顔、上半身はまだ水滴が拭い切れずにあちこち濡れたままだ。
そしてその体つきは昨日の崩壊的ファッションセンスからは想像できない程逞しく、鍛え上げられた筋肉質の体で無駄な脂肪が見当たらない。
時々テレビで総合格闘技の試合などを目にするが、その選手達の様に筋肉の一つ一つの隆起がハッキリしている、完璧な肉体だ。
だが美優はそんな見事な肉体より、腰から下のタオル一枚の超キワドイ格好に目が行ってしまい、それが脳内一杯を占拠して何を言うのかも忘れてしまった。
そのタオルもバスタオルではなく洗顔タオルなどの小さめのを巻いてるものだから、隼がちょっと大股で近づこうものなら、タオルの間からブツが丸見えになってしまいそうになる。
予想だにしない姿で現れたものだから、完全に思考がぶっ飛んでしまう美優。
「あ、こ、よ」
『あの、これカレーなんだけど良かったらどうぞ』と言うつもりがビックリし過ぎて、舌も頭も回らない。口から出るのはぶつ切りの単語のみ。
だが隼はそんな様子の美優に気付かず、バスケットを持ったまま固まっている美優に近づいていき、それを両手で受け取ろうとする。
隼にとって異性に自分の半裸を見せる事には、羞恥と云う概念が無いらしい。
「ああ、よかったデス。いまボクすごくお腹減ってマシター!」
嬉々としてバスケットの柄を両手でつかむ隼。そして。
――はらり。
その瞬間に腰に巻いていたタオルの結び目が解け、タオルが地面に軟着陸。
今美優の目の前には生まれたままの姿の隼が。つるりん。
二人とも両手でバスケットを持ったままだから、どうしようもできない。
「ぎっ」
ぎええぇえぇえぇぇぇえぇ…………
宵闇に美優の絶叫が吸い込まれていく。
……この後、何事かと通報を受けてやってきた警察に、美優と美晴と何故か隼までも一生懸命に頭を下げ続ける羽目になってしまったのは言うまでもない……
(続く)
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