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【第2話】神殺し
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「私を殺して」
僕の腕の中にいる少女は、無表情でそう言った。
「え…?」
僕はそのあまりにも日常とかけ離れた言葉にどう返していいか分からず、戸惑いを隠せなかった。
少女はその言葉を発した後、口を開く様子もなく、ただお互いの顔を見合わせるだけだった。
―――その時。
公園の硬い土と靴が擦れる独特な音が僕たちに近づいてきた。
「あちゃ~、一番乗りやと思ったんやけどな~。先客がおるんかい」
頭から目元まで隠れる大きな赤いバンダナを巻いた男がひょうきんな様子で話しかけてきた。
もちろん顔見知りなどではない。
男はおよそ25歳、背が高く鍛えられた身体をしていた。
筋肉が浮き出るほどぴっちりとしたタンクトップの黒いシャツがよく似合っている。
7分丈のゆったりとした黒のサルエル、そして腰には赤と黒のチェック柄のシャツを巻いていた。
「…」
誰だろう、と思いつつも次々と起こる非日常に頭がついていかず、僕の口からは何も出てこなかった。
「神殺し」
僕の疑問を察したのか、少女は男を見ながらそうつぶやくと、軽い身のこなしで腕の中から飛び降りた。
「神殺し…?」
聞いたことのない単語である。
もしやこの人たちは厨二病なのかと一瞬考えがよぎったが、実際にこの少女はフィクションさながらに空から落ちて来たのだ。
普通の人間ではないことは薄々感じていた。
「なんや兄ちゃん、もしかして一般人なん?そんならその子置いてどっかいってくれへんか~」
男が話しながら徐々に近づいてくる。
僕との距離が1mほどになると、男は足を止めた。
得体のしれない男を前にして、僕は警戒心を露わにした。
「どいてくれへんのかぁ。そんならこっから先は子供にはちっとばかし…刺激が強いかもしれへんでぇ!」
男はそう言い放つと瞬時に間合いを詰め、いつ間にか手にしていた長い何かで思い切り少女の腹部を貫いた。
それは幻想世界に出てくるもののように赤いオーラを帯びた、禍々しくも美しい緋色の槍だった。
そして男が槍の矛先を空に向けると、串刺しとなった少女の體は力なくだらりと伸びた。
「ひ…ぇ…」
この信じられない状況を前にして、僕は空気を含んだ声にならない声をあげた。
腰は砕け、尻をついて這うように後退りした。
「そん…な…目の前で……女の子が…女の子が……」
込み上げてくる嗚咽感を必死に堪えた。
すると、男はおかしなことを言った。
「ほんましぶといねんなぁ」
だらりと伸びていた少女の腕がぴくりと動き、少女は顔をあげた。
少女は痛がる様子も苦痛を感じる様子もなく、何事もないかのように男を見た。
「それで終わり?やっぱりあなたの『神威』では、私を殺せない」
そう言うと少女は槍を両手で掴み、「んん」と少し声をあげながら槍を身体から徐々に引き抜くと、ひょいと身軽に着地した。
「でも結構痛かった」
「なんや悔しいわ~!毎回思うねんけど殺してゆーてるくせにそんなんずるいやろ!」
槍を持った男は子供のように地団駄を踏んだ。
「これは私の意思とは関係ないもの…。あなたの『神威』が弱すぎるだけ」
少女は男に向かって無表情で淡々と毒を吐いている。
「むき~~!なんなんやほんま!ほんならとっておきを見せたるわ……―――我が槍よ、我が声に従い其の紅き覇道を解放せよ…」
目を閉じ腰を落とし槍を構えると、詞を唱える男に呼応するかのように、槍の纏う紅いオーラが蠢き、男全体を覆うほどそれが膨らんでいく。
このままでは、少女はまた男の槍で貫かれてしまうだろう。
そんなものはもう見たくない…。
しかし、僕の身体は恐怖で硬直し、全く動くことができなかった。
「すごい神力…これなら……でも…」
少女は僕を一瞥すると、こちらに近寄り手を差し出した。
「きて。危ないから」
少女は僕の手を引き、公園の外へと走った。
「ほないくで…これがわいの神技!!…ってあれ?」
男が紅いオーラを迸らせ、槍を思い切り後ろに引いた。
しかし、そこにはすでに誰もいなかった。
構えを解くと男をつつんでいたオーラも消え、男は少し恥ずかしそうに頭をぽりぽり掻いた。
「ふふん、まぁええわ!わい昔から鬼ごっこは得意やねん!」
男は胸を張ってそう言うと、照れ隠しに口笛を吹きながらゆっくりと後を追った。
―――僕は少女に手を引っ張られたまま、息を切らしながら全力で走った。
かたや少女は息を上げてすらいなかった。
「ここまでくればきっと平気」
公園から離れた路地までくると、少女は手を離し足を止め、そう言った。
「あ、ありがとう」
僕は息を整え、女の子に助けられるという情けない自分に不甲斐なさを感じつつもそう言った。
「お礼なんていらない。可能性の芽を潰したくなかっただけだから」
可能性の芽、なんの話なのかさっぱりわからない。
それが疑問にならないほどに、ついさっき起きた出来事は強烈に僕の頭の中を埋め尽くしていた。
あの時、この少女は確かに槍に貫かれたのだ。
しかし貫かれたはずの腹部を見ると、血はおろか、そこには穴さえ空いていなかった。
「君は一体…何者なの…?」
初対面の女の子に聞く言葉ではないのはわかっている。
だが僕はこの言葉を聞かずにはいられなかった。
「私は…あなた達の言うところの神様よ」
「神様!?」
僕は反射的に大声を出していた。
今まで現実味を感じられない場面はいくつもあったが、神様が今自分の目の前にいるということが何より信じられなかった。
きっと誰でも突然「私は神様だ」と言われて素直に信じられるものはいないだろう。
しかし、あんなものを見せられては信じざるを得ない。
信じられないが信じざるを得ない、しかしやっぱりどこか信じられない。
今の僕の思考は全くもって矛盾しており、自分でもおかしな感覚だった。
「そう、神様」
少女は繰り返した。
「だけど、もう時間がないの」
少女が何を言っているのか全く分からなかった。
そんな僕の困った顔を見て少女は話を続けた。
「私はもうじき、暴神になる」
「暴神…?」
知らない単語が続出する。
もはや僕には聞き返すことしか出来なかった。
「永く生き過ぎた神は、高まっていく自らの力を制御出来なくなるの」
「暴走するってこと…?」
「そう、そして私は…世界を壊す」
少女の話はにわかに信じられなかった。
まとめるとこうだ。
少女は永く生き過ぎた神様で、もうじき暴走し、世界を壊す。
何ともまぁファンタジックな話である。
だが、あんな不死の身体を見せられた後だ。
恐らくこの話は全て本当のことなのだろう。
少女が神様だということは分かった。
ではあの男は何者なのだろう。
確か少女はこう呼んでいた。
神殺し
「神を…殺す者…」
僕の腕の中にいる少女は、無表情でそう言った。
「え…?」
僕はそのあまりにも日常とかけ離れた言葉にどう返していいか分からず、戸惑いを隠せなかった。
少女はその言葉を発した後、口を開く様子もなく、ただお互いの顔を見合わせるだけだった。
―――その時。
公園の硬い土と靴が擦れる独特な音が僕たちに近づいてきた。
「あちゃ~、一番乗りやと思ったんやけどな~。先客がおるんかい」
頭から目元まで隠れる大きな赤いバンダナを巻いた男がひょうきんな様子で話しかけてきた。
もちろん顔見知りなどではない。
男はおよそ25歳、背が高く鍛えられた身体をしていた。
筋肉が浮き出るほどぴっちりとしたタンクトップの黒いシャツがよく似合っている。
7分丈のゆったりとした黒のサルエル、そして腰には赤と黒のチェック柄のシャツを巻いていた。
「…」
誰だろう、と思いつつも次々と起こる非日常に頭がついていかず、僕の口からは何も出てこなかった。
「神殺し」
僕の疑問を察したのか、少女は男を見ながらそうつぶやくと、軽い身のこなしで腕の中から飛び降りた。
「神殺し…?」
聞いたことのない単語である。
もしやこの人たちは厨二病なのかと一瞬考えがよぎったが、実際にこの少女はフィクションさながらに空から落ちて来たのだ。
普通の人間ではないことは薄々感じていた。
「なんや兄ちゃん、もしかして一般人なん?そんならその子置いてどっかいってくれへんか~」
男が話しながら徐々に近づいてくる。
僕との距離が1mほどになると、男は足を止めた。
得体のしれない男を前にして、僕は警戒心を露わにした。
「どいてくれへんのかぁ。そんならこっから先は子供にはちっとばかし…刺激が強いかもしれへんでぇ!」
男はそう言い放つと瞬時に間合いを詰め、いつ間にか手にしていた長い何かで思い切り少女の腹部を貫いた。
それは幻想世界に出てくるもののように赤いオーラを帯びた、禍々しくも美しい緋色の槍だった。
そして男が槍の矛先を空に向けると、串刺しとなった少女の體は力なくだらりと伸びた。
「ひ…ぇ…」
この信じられない状況を前にして、僕は空気を含んだ声にならない声をあげた。
腰は砕け、尻をついて這うように後退りした。
「そん…な…目の前で……女の子が…女の子が……」
込み上げてくる嗚咽感を必死に堪えた。
すると、男はおかしなことを言った。
「ほんましぶといねんなぁ」
だらりと伸びていた少女の腕がぴくりと動き、少女は顔をあげた。
少女は痛がる様子も苦痛を感じる様子もなく、何事もないかのように男を見た。
「それで終わり?やっぱりあなたの『神威』では、私を殺せない」
そう言うと少女は槍を両手で掴み、「んん」と少し声をあげながら槍を身体から徐々に引き抜くと、ひょいと身軽に着地した。
「でも結構痛かった」
「なんや悔しいわ~!毎回思うねんけど殺してゆーてるくせにそんなんずるいやろ!」
槍を持った男は子供のように地団駄を踏んだ。
「これは私の意思とは関係ないもの…。あなたの『神威』が弱すぎるだけ」
少女は男に向かって無表情で淡々と毒を吐いている。
「むき~~!なんなんやほんま!ほんならとっておきを見せたるわ……―――我が槍よ、我が声に従い其の紅き覇道を解放せよ…」
目を閉じ腰を落とし槍を構えると、詞を唱える男に呼応するかのように、槍の纏う紅いオーラが蠢き、男全体を覆うほどそれが膨らんでいく。
このままでは、少女はまた男の槍で貫かれてしまうだろう。
そんなものはもう見たくない…。
しかし、僕の身体は恐怖で硬直し、全く動くことができなかった。
「すごい神力…これなら……でも…」
少女は僕を一瞥すると、こちらに近寄り手を差し出した。
「きて。危ないから」
少女は僕の手を引き、公園の外へと走った。
「ほないくで…これがわいの神技!!…ってあれ?」
男が紅いオーラを迸らせ、槍を思い切り後ろに引いた。
しかし、そこにはすでに誰もいなかった。
構えを解くと男をつつんでいたオーラも消え、男は少し恥ずかしそうに頭をぽりぽり掻いた。
「ふふん、まぁええわ!わい昔から鬼ごっこは得意やねん!」
男は胸を張ってそう言うと、照れ隠しに口笛を吹きながらゆっくりと後を追った。
―――僕は少女に手を引っ張られたまま、息を切らしながら全力で走った。
かたや少女は息を上げてすらいなかった。
「ここまでくればきっと平気」
公園から離れた路地までくると、少女は手を離し足を止め、そう言った。
「あ、ありがとう」
僕は息を整え、女の子に助けられるという情けない自分に不甲斐なさを感じつつもそう言った。
「お礼なんていらない。可能性の芽を潰したくなかっただけだから」
可能性の芽、なんの話なのかさっぱりわからない。
それが疑問にならないほどに、ついさっき起きた出来事は強烈に僕の頭の中を埋め尽くしていた。
あの時、この少女は確かに槍に貫かれたのだ。
しかし貫かれたはずの腹部を見ると、血はおろか、そこには穴さえ空いていなかった。
「君は一体…何者なの…?」
初対面の女の子に聞く言葉ではないのはわかっている。
だが僕はこの言葉を聞かずにはいられなかった。
「私は…あなた達の言うところの神様よ」
「神様!?」
僕は反射的に大声を出していた。
今まで現実味を感じられない場面はいくつもあったが、神様が今自分の目の前にいるということが何より信じられなかった。
きっと誰でも突然「私は神様だ」と言われて素直に信じられるものはいないだろう。
しかし、あんなものを見せられては信じざるを得ない。
信じられないが信じざるを得ない、しかしやっぱりどこか信じられない。
今の僕の思考は全くもって矛盾しており、自分でもおかしな感覚だった。
「そう、神様」
少女は繰り返した。
「だけど、もう時間がないの」
少女が何を言っているのか全く分からなかった。
そんな僕の困った顔を見て少女は話を続けた。
「私はもうじき、暴神になる」
「暴神…?」
知らない単語が続出する。
もはや僕には聞き返すことしか出来なかった。
「永く生き過ぎた神は、高まっていく自らの力を制御出来なくなるの」
「暴走するってこと…?」
「そう、そして私は…世界を壊す」
少女の話はにわかに信じられなかった。
まとめるとこうだ。
少女は永く生き過ぎた神様で、もうじき暴走し、世界を壊す。
何ともまぁファンタジックな話である。
だが、あんな不死の身体を見せられた後だ。
恐らくこの話は全て本当のことなのだろう。
少女が神様だということは分かった。
ではあの男は何者なのだろう。
確か少女はこう呼んでいた。
神殺し
「神を…殺す者…」
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