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狙われた日本人 4

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       4

 時乃達は、亜空間深さ一分までを、表層亜空間と定義している。通常の装備、服装で存在できる空間である。同一空間にいる二人は、攻撃し合うことも可能である。時乃澄香的には、他の人々を巻き込まないので、有利である。
「お兄様、これ以上の戦闘は、無意味では、ありませんか?」
「無意味とは?」
「部下の犠牲を出してまで、日本人を守ることです。それに、お兄様は、一度死んでいるのです。何も考えず、余生を送ればよいではありませんか」
 時乃は、茶色い瞳に力を宿し。
「では、聞こう。お前が日本を攻撃する理由を」
「お兄様、私には時間がないのです」
 真奈は、少し間を開けてから。
「私達は、バイタルプラントを、プレアディス星系に分散しています。それは、ウィルスによる同時感染を防ぐものでした。ですが、今、脅威となっているウィルスは、そんな対策では対処できないものでした。プレアディス星系のバイタルプラントは、ほぼ壊滅。無事だったポットを回収し、艦船に収めました。そして月日は流れ、ポット内のパイロットの寿命も近づきつつあります。そこで、私の力を使って、新しい肉体を手に入れる計画が始まったのです。それは、本当はしてはいけない禁忌。でも時間の限られた私達は、決意したのです。お兄様も、空間跳躍をして生き延びた者だから、わかるでしょ」
「要は、人の体が欲しいのか?」
「そうです!お兄様もそうでしょ」
「少し違うな。わたしのは、プログラムなのだよ」
 時乃は、続けて。
「わたし自身の魂とプログラムが、後藤健二の中に飛び込み、健二の死と共に、わたし自身が再構築された。人の体を乗っ取るのとは、違うのだよ」
「詭弁ですね、お兄様」
「お前なら、理解できると思ったがな」
「馬鹿にしているのですか」
「そうだ」と時乃は、苦笑した。
「お兄様は、和解の道を閉ざすつもりなのですか?」
「そう言うなら、もう少し聞かせてもらいたい。何故、日本人なんだ?」
「お兄様、わからないですか、ご自分も日本人の中に飛び込んだのに。適合率が高いのですよ」
「何故!適合率が高いことを知っている」
「すでに日本人で実験済みです」
「そうか」
「お兄様、私は、個人的に一つ日本人の肉体が欲しい理由があります」
「言ってみろ」
「私、時乃真奈は、女になり、カールを男にしたいのです」
「愛欲に溺れた弟の言いそうなことだな」
「恥を忍んで、話したのです。私達の計画を邪魔しないでください。それに、今度は、部下一人ではすみませんよ!」
「それは、どうかな」時乃は、笑みをもらす。
「日本人のために戦うおつもりですか?」
「真奈、わたしは、学んだのだよ。学ぶ前に、お前がこのように会いに来たのなら、見てみぬふりをして、亜空間で、生活していただろう。だけど今は違うのだよ。健二が愛し、わたしの友がいる。この日本、いや地球が好きなのだよ」
「話し合いは、無駄でしたか」
真奈は、手に力を入れる。
「いや、話せてよかった」
「では、条件を受け入れてくれるのですね」
「残念ながら、違う!お前達の計画、時乃澄香が潰す」
「戦われると言われるのですね」
「その通り」
「わかりました。最後に言っておきますが、お兄様よりも、私のほうが、能力は上ですよ」
「知っている」
 時乃澄香は、真奈を睨みつける。
「では、お兄様、今度会う時は、死の覚悟を」
「空間転移。通常空間へ」
 真奈の足元に魔方陣が形成され消えた。
「空間転移。通常空間へ」
 時乃澄香も足元に聖方陣を形成し消えた。
 その後、時乃は、教室に戻り早退させてもらった。さすがにメイド喫茶を続ける気持ちにはなれなかった。
 真鍮色の髪を秋風にまかせながら、時乃は、後藤家へ向かっていた。シールドウェーブ通信機で、真奈との経緯を話し、今後について語りあった。
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