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シルフィーヌ

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     シルフィーヌ

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 シルフィーヌは、幼いころから、面倒見の良い子でした。父は、錬金術に没頭し、ホムンクルスを作ることに夢中でした。それ故、家計は、火の車、母は、シルフィーヌと三人の娘と二人の息子を育てるために、夜遅くまで、薬草の仕事をしていました。長女のシルフィーヌは、早くから薬草の知識を身に着けて、母の手伝いをしました。それでも、家計は、豊かにならず、お粥だけの日も数多く、妹たちは、お腹をすかせて、夜も寝付かない日々を送っていました。十二歳になった、シルフィーヌは、町で張り紙を見ました。
『求!精霊使い 高給優遇』
 給料を見ると、ありえない金額でした。家に帰り、母に精霊使いになる方法を聞くと、
「精霊に選ばれなかったら、その精霊に食べられるのよ」
シルフィーヌは、それでも、家族のためにと毎日、森に出かけて、精霊を呼び続けました。しかし、何の応答もありませんでした。
ある日のこと、いつものように、森に出かけると、黒髪の少年が座り込んでいました。シルフィーヌは、恐る恐る近寄ると、
「まいど!」
 と黒い目を向けて挨拶してきた。シルフィーヌは、怖くなり逃げようと思うと、服を掴まれ、
「君、エルフだよね。耳でわかるよ」
 と言ってきたが、シルフィーヌは、
「エルフじゃなり、エロフ」
「何、そのエロそうな民族」
「ぶー」
「ごめん。ところで、ここ何処なんだい」
「ここは、マゴクの森の中」
「じゃ、なんて世界、ほらよく言うよね、昭和の世界とか」
「世界は、よく分からないけど、ここメトシェラは、プレアディスに属している惑星だよ」
 シルフィーヌは、掴まれていた手をほどくと、まじまじと少年を見た。とても綺麗な顔立ちで、身なりもすごくいい、年の頃は、十七位、好きになったわけではないが、心が揺さぶられた。
「名前!名前なんて言うの?」
「遠藤真一」
「しんちゃんか」
「それ言うな」
 遠藤は、容赦なく叩いた。
「うちくる?」
「いいのかい?」
「いいよ。一人増えても大して変わらないから」
 シルフィーヌは、遠藤を家に連れてきたが、母は、理解できず、ドアを閉めてしまった。やむをえず、弟の部屋の窓から家に入る。遠藤は、弟たちに挨拶し、バッグの中から、人型の人形を出して見せた。弟たちが食いつくかと思ったが、シルフィーヌが食いつき、
「何それ、呪いに使うあれ?違うの」
「これは、オメンライダーと言うんだ」
「ほほぅ。触ってもいい?」
「どうぞ」
 シルフィーヌは、隅から隅まで、人形を眺めた。とても楽しい時であったが、外が騒がしくなってきた。窓から覗くと、貴族の軍人が二十人程来ている。部屋に母が来たと思ったら、軍人たちも来て、遠藤を拘束し連れて行った。シルフィーヌは、人形を握りながら、叫び続けた。
「遠藤!遠藤を返して!」
 シルフィーヌは、夜まで泣き続け、食事もしなかった。そして、暗い夜道を森に入り、大地にうつ伏せになり、
「大地の精霊よ、あたしに力を与えたまえ」
 しかし、呼びかけに答えたのは、精霊ではなく、妖獣であった。鋭い牙をむき出しに、襲いかかろうとしている。しかし、その間に割って入った人影があった。後姿から、エロフだと分かる。
「アースアロー」
 妖獣は、瞬殺された。助けてくれた。エロフは、振り向き、
「大丈夫だった御嬢さん」
「ありがとう」
「わたくしは、大地の精霊使い、フィフィル。あなたは?」
「あたしは、シルフィーヌ、人を助けたいのだから、精霊使いになりたいの!直ぐに」
 フィフィルは、優しく、シルフィーヌを起こし、頭を撫で、
「あなた、ほんと、わたくしの幼いころみたいね。もう千年も前だけど、いいわ試練に打ち勝ったら、大地の精霊と契約させてあげる」
 シルフィーヌは、嬉しくなり、涙を流した。
「試練はね。受けるのはいいけど、失敗したら、あなたの命をさしだしなさい。わかりましたか?」
「はい。覚悟できています」
フィフィルは、目を細めて、
「試練は、あなたの母親の首を持ってくること」
 シルフィーヌは、顔から血の気が失せるのを感じた。確かに母のしたことは、憎い、たぶんお金のために、遠藤を売ったのだろう。でも、愛する母を殺すことはできないと嘆いた。
「精霊使いを甘く見ない方がいいわよ。魔女とそんなに変わりない」
 フィフィルは、鋭い眼差しで、シルフィーヌを見た。
 シルフィーヌは、挨拶もしないで、森を後にした。自分が憧れていた、精霊使いがこれほど、残酷で愛がないと知り、涙が流れた。 
 家に帰ると、母と目があった。シルフィーヌは、涙を流し始めた。
「あの日本人の子のことかい。もう忘れるんだよ。悪魔のような黒い髪、闇の魔法にとりつかれているような黒い瞳。怖い怖い」
 シルフィーヌは、妹たちのいる自分の部屋に入った。悲しくて、まだ、涙を流している。妹たちは、ハンカチを持ってきて、涙を拭いてあげた。その優しさが、また、涙をそそり、妹たちの手をとり、泣いてしまった。なぜか、妹たちも泣きだし、収拾がつかなくなってきた。
 夜になり、シルフィーヌは、包丁を取り、母の寝込みを襲おうとしたが、母の顔を見ると、涙が溢れて、何もしないで、森に入っていった。
 フィフィルは、シルフィーヌを見つけ、
「シルフィーヌ首は?」
「ないです」
「しかたないね。約束通り、あなたが死ぬのよ」
 そう言うと、シルフィーヌは、植物でバインドされ、動けなくなった。フィフィルは、アースアローを打ち込んだ。瞬間、マジックシールドが張られた。
「誰?」
 フィフィルは、辺りを見渡した。そこに、光に包まれた四枚羽の精霊が現れた。
「フィフィルあなたのことは、何千年と見てきました。人格、品性、愛、どれもあなたからは、感じられなかった。精霊の力が使えることにより、傲慢になり、不品行のかぎりをつくし汚れた俗物となり、もはや、あなたを生かしておくことはできません」
 フィフィルは、攻撃しようとしたが、大地の精霊の能力は、何も使えなかった。そして、精霊から出された、大地の大剣で刺し通され、息絶えた。
 シルフィーヌは、怖くなり、後ずさった。精霊は、そんなシルフィーヌにお構いなく、近づき、
「私は、大地の大精霊、ノア」
 そう言うと、シルフィーヌの体に、読むことのできない文字を書き刻んだ。
 その後、シルフィーヌは、意識を失い、一週間、森の大地に倒れていた。夢の中で、精霊の使い方を学び、その力は、メトシェラでもトップクラス。
 一週間も時がたったのに、服に汚れもなく、臭くもない。家に帰り、母に抱き着き、殺そうとしたことを悔いた。
 シルフィーヌは、簡単に、荷物をまとめ、母にしばらく家を空けることを願った。母は、快く申し出を受け入れた。
 
        2

 シルフィーヌは、貴族の館へ行くと、精霊を使って、探索させた。結果、三軒目の館に、遠藤がいることが、分かった。夜になり静まった頃に、ストーンゴーレムを召喚し、門を壊し中へ入った。軍人たちが出てきたが、ゴーレムを次々出し。攻撃した。人の体力は、そんなにもつものではないので、軍人たちは、疲れ果ててしまった。シルフィーヌは、ゴーレムに軍人たちを見張らせ、遠藤のもとに急ぐ、
「遠藤!遠藤!どこ」
 シルフィーヌは、叫ぶ。すると、奥の部屋から、
「シルフィーヌここだ」
 大地の大剣で扉を壊し、遠藤を助ける。背の低いシルフィーヌは、抱き付くだが、遠藤は、恥ずかしく、腕をほどいた。
 外が騒がしくなり、ゴーレムの消失を感じた。急いで裏口から、逃げるが、軍隊に囲まれてしまう。そこに黒光りの亜空間潜水艦が割り込んできた。間髪入れず、砲撃が始まる。軍隊は、壊滅状態になり、シルフィーヌと遠藤は、潜水艦の中に誘導された。艦長室に案内され、そこにいたのは、ジェストであった。 
 長く語り合い、シルフィーヌは、血判し、ジェストの仲間になった。

 遠藤は、時乃澄香が作った。ゲートから、日本に送ることになった。
「時乃澄香って伝説の御使いですよね」
「我は、奴とは腐れ縁でな。昔、ゲートを託された」
 シルフィーヌは、ジェストに遠藤を任せ、山に籠ることにした。そこで、大地の精霊と交わり、その力を強めていった。

        3

「あれが、マゴクの町だよ」
 夜の街道から、町の灯りが見えてきた。隼人は、石原瑠奈の膝枕で熟睡している。
 町に近づくと、花火のように光が交差している。明らかに、様子がおかしい。
 風の精霊なら、遠見の術とか使えるが、大地の精霊では、できない。
 更に近づくと、装甲車や戦車が町に入って行くのが見えた。シルフィーヌは、ジェストたちの隠れ家が分かり、攻撃していると判断した。
「瑠奈、瑠奈」
「どうしたのシルフィーヌ」
「マゴクの町が軍隊に襲われている。たぶん、ジェスト様をかくまっているからだと思う」
「どうすればいいの?」
「瑠奈は、隼人を守っていたらいいよ。戦いは、あたしで大丈夫!だって、みんながいる町だから」
 そう言うと、ゴーレムに戦う命令を出し、突き進む、装甲車を殴り、戦車を踏みつける。軍人たちの銃撃をマジックシールドで避け、町の大通りを進む。メトシェラの特殊部隊が、シルフィーヌたちに目を付け、狙撃の準備に入っていた。その様子を、風の精霊使い、エルは見ていた。姉の危険を知り、サムエルとラキエルに支持を出す。二人は、火の精霊の力で、ファイアーアローを特殊部隊に放った。特殊部隊員は、火だるまになり、その命は尽きた。
 他の特殊部隊員は、近接攻撃をするため、ワイヤーで屋根伝いを走っていた。その様子をシルフィーヌも見ていた。しかし、特殊部隊は、火だるまになった。路地から、サムエルとラキエルが出てきた。
「お姉ちゃん」
「二人ともありがとう、早く乗って」
二人は、ゴーレムの首にしがみついた。シルフィーヌよりも小さく、十二歳から十四歳と言ったとこだろう。
「お姉ちゃん。この獣人さんと男の子は?」
「二人は、日本人だよ」
「オメンライダーなんだ」
 シルフィーヌたちは、町の北側にある、ジャパンの隠れ家に向かった。辺りは、軍隊に包囲され、進むのに、非常に苦労した。
「一掃するしかない。みんな下りて」
 そう言うと、シルフィーヌは、ストーンゴーレムを大地に帰し、
「大地の精霊よ、我!召喚する。オリハルコンゴーレム」
 赤黒い、身長二十メートルはある、ムキムキのゴーレムが現れた。シルフィーヌが指示を出すと、軍隊を蹴散らした。
 サムエルとラキエルもファイアーアローを雨のように降らした。軍人たちも銃で応戦するが、マジックシールドのために、弾は届かない。すると、前から戦車の大群が現れ、ゴーレムに砲撃を始めた。その体は、削られ、徐々に力を失った。
 石原瑠奈は、隼人をバリィで守っていたが、このままでは、押されると思い。
「ライトニングナイト1レギオン」
 と言った。四千のライトニングナイトは、戦車を相手に手に持つ、雷の剣で戦い。全ての軍隊を沈黙させた。

 隠れ家から、ジェストと天王寺、そして、シルフィーヌの弟、ハナヌヤが出てきた。みんなの無事を見て、シルフィーヌは大喜びした。
「シルフィーヌ、今日の報酬は五千リラだ!振り込んでおくからな」
 ジェストは、そういうと、シルフィーヌと握手した。天王寺は、石原瑠奈を睨んでいたが、ため息を一つして、石原の肩に手を置いた。
「石原よくやった」
 その後、ジェストに隼人を託し、マゴクの町から、残存軍隊を排除した。そして、二日後。
「今日は、祝宴だ。飲んで食べろ!」
 ジェストは、自腹で、全ての飲食費用を出した。
 石原瑠奈とシルフィーヌは、小さな酒場にいた。シルフィーヌは『あわあわ』とか言うのを飲んでいる。とても美味しそうなので、石原も飲みたかった。でもなぜか、シルフィーヌは、飲ませようとしない。
「その、あわあわ飲ませてよ」
「だめ!」
「何故?」
「それは、瑠奈が特別だから、飲んだらだめなの、どこかで学んでいないの?」
「学んでいないです」
 シルフィーヌは、顔を赤らめて、
「あなたは、特別なの、酒に酔ってはいけない。理由は、時乃澄香ではない方、ライジングという御使いに聞くのね」
「ライジング?」
 石原は、心当たりがなく誰か分からなかった。そして、脇腹に手を入れ、黄金色に輝くハンマーを取り出した。それを見た、シルフィーヌは、慌てて、
「早くそれをしまいなさい」
「え!わかった」
 以前は黄金色に輝いていなかったが、もの凄い輝きをしたハンマーを石原は、脇腹にしまう。
「それ、誰かにもらったの?」
「はい、高遠さん」
「ふ~その方は、御使いです。間違いなく、ライジング」
「それから、それ何と思う?」
「ハンマー」
「違います。でも、あたしも、今は、それ以上言えないかな」
「えー教えてよ」
「はっきりと知らないんだよね」
 そう言うとシルフィーヌは、寝てしまった。
 そこに、ジェストが来て、
「石原、今回の活躍とても良かった。これは、少ないが貰ってくれ」
 ジェストは、一千リラを渡した。初めての大金に、慌てたが、快く貰った。
 ジェストも『あわあわ』を一杯飲むと、テーブルで寝てしまった。石原は、やっと分かった。これは、強いお酒なのだと。
 石原は、初めてもらった報酬で、酒場の二階の部屋を借り、ベッドにシルフィーヌを寝かせた。ジェストをどうしようかと思って、下に降りると、姿は、なかった。不思議な人である。
 次の日の朝、石原は、早くから目が覚め、町をうろついていた。綺麗な宝石店があり、ガラス越しに食い入るように見ていた。すると店の店主が、中で見ることを勧め、身近に見ることができた。この店は、普通の宝石店ではなくて、マナの宿ったものを売ってことが、分かった。エメラルドグリーンの菱型のイヤリングにひかれ、昨日の報酬で買うことにする。
 酒場にもどると、シルフィーヌは、精霊に清めてもらっていた。
「ただいま。シルフィーヌ」
「いあーごめんね。寝ちゃったみたい」
「いいよ気にしないで、ところで、プレゼントがあるんだけど」
「何、何」
 石原瑠奈は、イヤリングの入った箱を渡した。
「え!こんな上質なもの貰っていいの」
「お礼です」
「ありがとう、さっそく使うね」
 そう言うと、シルフィーヌは鏡の前に行き、耳にイヤリングを止めた。
「これ、マナ凄い!」
 そう言うと、石原瑠奈に抱き付いた。
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