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うちの義妹は世界一可愛い

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 ――前略。

 僕の義妹は最高に可愛い。

 夜の21時ちょうどにノコノコと僕の部屋に入って来た金髪の女の子――ステラは断りもなしに僕のベッドに潜り込んだ。
 笑いそうになるのを堪えながら布団をめくってみると、大きな薄紫色の瞳がコチラを向く。

「今日はこっちで寝る?」
「うん。私のお部屋、寒い」
「君の部屋にも暖房がついてたと思うけどねー」
「そうだっけ?」

 ステラはとぼけた顔をしてみせた後、コロリと転がって、背中をこちらに向けた。これは、部屋を出て行く気はさらさら無いという意思表示に違いない。

 この子、もしかすると寂しいから僕のところに来てるんじゃないだろうか。
 
 何で分かるかと言うと今日彼女の相棒が外出中だからだ。
 相棒、と言えど人間ではない。
 小さくも名を知られたドラゴンがいつでも彼女の傍に居る。

 ドラゴンについても謎が多いけど、ステラ自体が特殊な存在だったりする。
 父親はこの国の王で、母親の方は王妃とか……とんでもなく高貴な血筋なんだ。

 ベッドの上で寛ぐステラを見ているうちに僕も眠くなってきた。
 読みかけの魔導書が気にならないわけじゃないけれど、学校の課題の方はすでに終わっているし、便乗してしまおうかな。
 運が良かったら、彼女と少しお喋り出来るかもしれないしね。

 照明代わりの人工精霊を廊下に追い出し、ステラの横に倒れ込む。
 小さな体を抱き寄せると湯たんぽのようで、今日みたいに寒い夜はちょうどいい。

「うー。窮屈《きゅうくつ》なんです」
「眠ったら気にならなくなるよ」
「そうかなぁ……」

 ステラはこっちに身体の向きを変えて、僕の二の腕に頬を押し付けた。
 よくよく見ると彼女の唇が尖がっているのが分かる。
 何か不満を抱えているのかな?

「また誰かに何か言われた?」
「マクスウェルの子供なのに、トロいって……」
「ああ……。ウチって裏稼業で有名だから、勝手に身体能力が高いと思われてるとこあるね」
「にぃちゃんみたいに、朝走った方がいいです?」
「ステラちゃんは好きなことを伸ばせばいいんじゃないかな? 速く動けるようになる必要ないよ」
「そっか」

 この見た目で俊敏だったら嫌だしね――という本音を押し隠し、僕はステラの頭を撫でる。少々クセがある金糸は手触りが良い。いつまででも触っていたいくらいだよ。
 暫くそうしていると、安心したのかなんなのか、ステラは寝てしまった。
 あどけない寝顔がすんごく可愛い。
 殆ど喋れなかったのは残念だけど、これはこれで癒されるなー。

 それにしても、こんなに小さい子を他の家に預けるなんて、国王夫妻は冷たい人達だよ。

 血の繋がった姉もいるらしいが、彼女の方は手元におかれ、大事に育てられているのだとか。
 でも、待遇に差があるのは虐待とかそういうものではないみたいだよ。

  ステラの前世に大きな問題があるからなんだ。

 なんと、彼女はかつて、この国の国教が崇める”智恵ある神”と対なす存在だったらしい。
 つまり前世が邪神なのだ。
 普通だったら、ただの迷信として片づけそうなものなのに、幸か不幸か彼女が生まれる前に、邪神の僕《しもべ》――が現れ、信憑性が増してしまった。

 ステラの存在は問題視され、王妃のお腹の中に居る時に一度暗殺された。
 しかしどういうわけか復活し、胎児の状態で僕のうちに預けられることになったみたい。

 当時4歳だった僕は赤ん坊よりも小さな生命体を目撃するはめになって、メンタル的に不安定になったものだけど、ステラは成長するとグングン可愛くなった。

 国内外の美人達の血が入っているからかな?
 赤ん坊の頃からとんでも無く可愛く、加えて邪神の時の記憶が綺麗サッパリ消えてしまっている(たぶん……)。無害な美幼児と言っていいんじゃないかな(……おそらくね)。

 加えて、僕に一番懐いているし……、シスコンになるなという方が無理だろう!?

 このまま頬のプクプク感を堪能しつつ安らかな眠りにつきたいところだが、その願いは虚しく砕け散った。

 ――窓の方から何者かの視線を感じる。

「誰だ?」

 素早く身を起こし、枕の下からナイフを取り出す。
 マクスウェル家は裏稼業で有名な家なもんで、長男である僕も幼少期から暗殺術を叩きこまれている。
 ショボい泥棒ぐらいなら、一瞬で倒せる自信があるよ。

 慎重に窓に近付いてみれば、そこにいたのはステラの相棒だった。
 かつて邪神の僕《しもべ》でもあったアジ・ダハーカというドラゴンだ。
 雑貨屋のアーシラ女史と飲んでいたはずなのに、随分帰りが早いね。

 ステラとのマッタリとした時間を邪魔されたことにイラつきつつも、窓を開けてやる。

「お帰り。アジ殿。かなーり早かったね」
「うむ。ジェレミーよ。不満そうな顔をしておるるが、どうかしたか?」
「……別になんでもないよ」

 薄く笑ってみせれば、アジ殿は若干嫌そうな顔をした。

「お主。齢《よわい》13歳にして気持ちの悪い笑顔を作りよるな」
「失礼な……。何かあったの?」
「うむ。七曜神が1人カイヴァ―ンの手の者がステラを探しているとの情報を得たのでな。家の中に仕込んだ”探索妨害の術”を強化しに戻ったのだ。手伝え」
「カイヴァ―ンって何かな?」
「土星を司る神だ。意図は掴めぬが、ステラの存在をまだ知られたくない」

 神々の関係性なんて良く分からない。
 土星を司る神様がウチのステラに何の用があるっていうんだ。

 頭の中で疑問が渦巻くけど、あの子は一度殺されてしまっているわけだし、不審な動きをしている者がいるのなら阻止すべきなんだろうな。

「ステラちゃんの為だ。手伝うよ」
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