結婚した次の日に同盟国の人質にされました!

だるま 

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調査

調査③

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 警備兵との会話を終えた近衛が再び馬車を御し、石畳の路地をゆっくりと走る。小雨が降っているからなのか、村人を見かける事はない。

(やっぱり情報を貰っていたとおり、南部は雨が多いみたいね)

 マリク領に入ってから、ずっと小雨が続いている。天候が悪いために不作だったというのも頷ける。

 馬車はやがて、村の中で最も立派な建物の前で停まる。緑色の切妻屋根と木枠が目立つ壁の外観はメルヘンチックでとても可愛らしい。
 先に下りた近衛が外から馬車の扉を開いてくれる。

「宿泊先の名士の家です。お二人の荷物は自分が運びますから、下りていただけますか?」

「ええ。有難うございます」

 家の入口ではすでに他の近衛が、年配の兵士と会話を交わしている。制服に沢山の勲章を付けているので、階級がかなり上なのかもしれない。

 彼等の様子を伺いながらマルゴットと二人で近付くと、待ち構えていた年配の兵士がペコリと頭を下げた。

「ジル・クライネルト様ですか? 皇太子殿下に手厚く歓迎するようにと手紙で命じられております」

 厳つい顔の男に低姿勢に振るまわれ、慌てる。

「ただの調査目的の訪問ですので、適当に扱っていただいて構いませんわ!」

「そうはいきません。あの厳しい殿下が念押しするくらいですので、宿泊中は丁重にもてなし、警備いたします」

「は……はいっ」

 一体何と手紙に書いたのかと気になるが、真面目な兵士の表情を見ると、とても怖くて聞けない。

「お部屋まで案内させていただきます」

 兵士は近衛からジル達の荷物を受け取り、先導する。

 それなりの広さがある家の中は木のいい匂いがし、素朴な調度品でまとめられている。戦時中ハイネがここに宿泊し、疲れを癒したのかと思うと、着いたばかりのこの家を気に入ってしまった。

 兵士は階段を上り、廊下の途中の部屋をマルゴットに割り当てたりしながら、突き当りの部屋まで案内してくれた。

「ここは、戦時中ハイネ様が滞在された部屋です。ご自由にお使いください。すぐに一階奥のダイニングルームに夕食を用意させますので、準備が出来たら下りて来ていただけますか?」

「え!? あ……はい」

 兵士はジルを案内した後、無駄のない足取りで立ち去った。

 何故研究者ではなく、自分を皇太子が使う程いい部屋に案内してくれるのかと思う。

(友人……と紹介してくれたのよね?)

 モヤモヤしながら室内に入ると奥に据え置かれているベッドが目に入る。

 近付き、そこに置かれているクッションを手に取る。

(ここって、別にハイネ様の私室じゃないし、カバーやシーツは洗ってくれているでしょうし、意識する必要なんてないわよね! でも……)

「あわわ!!」

 クッションを見ているうちに妙に恥ずかしくなり、慌てて手放す。

「ジル様……?」

 急に可愛らしい声に話しかけられ、ビクッと振り返る。
 声を掛けられるまで全く気配が無かったのに、ドアの影からマルゴットがジルを見つめていた。

「マルゴット! 貴女は何も見てないわ!」

「むぅ……。見てない……かもです」

 釈然としない顔で首を傾げ、マルゴットは「下に行きましょう」と言う。彼女は夕食に誘う為にジルの元を訪れたのだろう。

 たぶん兵士達は急な客の世話を早く済ませてしまい、自分達のプライベートの時間をなるべく確保したいのかもしれない。あまり迷惑にならないうちに引き上げたい。

 マルゴットと共にダイニングルームに行くと、直ぐに給仕の者が煮込んだ牛肉の料理や、具沢山の野菜スープ、籠に山盛りになったプレッツェル等を運んで来てくれた。
 美味しそうな品々にお腹が鳴りそうになる。

「馬車に乗りっぱなしでもお腹は減るもんだね」

 給仕の配膳が終わるまで入口で待っていたジル達の後ろから、研究者達二人が現れ、ダイニングルームに入って行く。

 一人は大柄で黒髪の女性のゲントナーさん。
 何と引っ越しの際にお世話になった不動産屋のゲントナー氏の娘さんらしい。
 そしてもう一人は、藁の様な色合いの金髪、痩せぎすの男性アヒレスさんだ。どちらも三十代後半で、ジル達よりかなり上である。

「お二人ともお疲れ様ですわ。早く食事をして、兵士さん達に場所を空け渡しちゃいましょう」

 ジルがそう言うと、二人は頷き、それぞれ適当に席に着いた。ジルもマルゴットと共に席に並んで座り、神に祈りを捧げてからスプーンを手にとる。
 スープは野菜から染み出た自然の甘さで、ホッとする様な優しい味だ。味が濃くないため、どんどんスプーンが進む。
 マルゴットは相変わらずの無表情でスープを口に運んでいるものの、研究者達二人はジル同様に味を気に入った様子で、相好を崩している。

 その笑顔を見ているうちに、ずっと気になっていた事を聞いてみたくなる。
 実はこの二人、ライ麦の件で少し関わっていたのだ。

「あの……、食事中にする話題じゃないかもしれないのですけど、ちょっと気になる事があるので聞いちゃっても、宜しいですか?」

「勿論。下品な事じゃないなら、どんな話題だって歓迎さ」

 ゲントナーさんは人懐っこい笑顔をジルに見せてくれる。その表情に勇気づけられ、ジルは質問を口にする。

「六月にバザルで問題になったライ麦の研究は進んでおりますの?」

「ああ、あの件か。他の者に研究を任せてしまってるんだけど、研究の進捗は伝えさせてるから、その範囲でお答えしようか」

「有難うございます!」

「普通のライ麦との違いはだいたい把握できる様になったという感じだね。異常を起こしているライ麦は内部に黒い角状の物体が確認されてて、その状態のライ麦をラットに与えてみると、おかしな行動をするようだったよ」

 ジルはゲントナーの説明を聞き洩らさないように食事を止め、姿勢を正した。

「ただどうやってバザルの村で広範囲に広がったかについてはまだ調べがついてない。屋外で実験した場合、風に運ばれて帝都周辺の畑が危険に晒される可能性もあるんで、研究所の温室で調べてみるつもりだ」

「では、解明する為にはかなり時間がかかりますのね?」

「そうなるね。種を植えてみるところからのスタートだから」

「なるほど……」

 研究の経緯を聞く事が出来、ジルは目を輝かす。
 だが、バザルの事を考えると研究はなるべく早い方がいいのだ。
 現在穀物類が全面的に出荷停止されているバザルは、ライ麦に再び異常が現れる可能性が無くなるまで苦しい生活が続く。
 戦争から帰還したハイネから聞いた話によれば、バザル村には今後国営の軍需工場を作り、雇用を創出するという流れになるとの事だった。たぶんこれにより、村民が困窮するという事は無くなりそうだが、少し複雑な感情を持ってしまう。

(バザルの村で穀物が出荷できる様になっても、軍需工場はきっとそのまま残りそうよね……)

 ハイネの事は優しい人だと思うし、信用しているのだが、ジルは彼の決定の全てに手放しで喜べない。
 でもバザルに工場を作らないとしても、他の都市に作るだろうから、ジルが反対したとしてもただの偽善なのだ。

(国政って難しいのね……。綺麗ごとだけじゃやっていけないんだもの……。ハイネ様はいつも神経をすり減らしているのでしょうね)
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