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妖精の森編

やるならやらねば!

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 まず、メルロは大三郎に自分の名を名乗る。

 「私はメルロ・ラ・ディエレ。メルと呼んでくれても構わない。そして、こちらの方は――」

 メルロがソフィーアを紹介しようとした時、ソフィーアがメルロの腕を軽く引っ張り地面に書いた文字を見せる。

 ”私はメルの友達だから固い紹介はしないでね”

 それを見たメルロは、ソフィーアに微笑み頷く。
 メルロはもう一度、大三郎を見て紹介を始める。

 「失礼した。こっちの女性は私の友人のソフィーア・パル・ラムダンと言う」
 
 ソフィーアは大三郎にお辞儀をする。
 
 「……。ソフィーアさん」

 ソフィーアは頭を上げ、大三郎を見ると地面に文字を書き、それを大三郎に見せた。

 ”ソフィーとだけ呼んで下さい”

 「分かった。ソフィー」
 
 ソフィーアは大三郎の目を見る。
 
 「ソフィー。君は……すごい美人さんだろ?」

 大三郎はソフィーアの目を見つめ返しながら真顔で言う。
 エスカ以外の3人は、大三郎の言葉にキョトンとした顔をする。

 「俺には分かる。その、お辞儀の仕方。座り方。立ち振る舞い。……俺は知っている」

 メルロが驚いた表情で大三郎に尋ねる。

 「貴方はソフィーを知っているのか!?」
 「ソフィーは知らない」
 「え?」
 
 即答する大三郎。
 意味が分からないメルロ。
 何を言い出すか分かるエスカ。
 大三郎の白髪が気になるパニティー。 

 「で、では、ソフィーの何を知っていると言うのだ?」
 「その頭の下げ方、姿勢、仕草。……俺は嫌と言うほど見て来た。平日は睡眠を削って夜夜中。休日は朝も昼も夜も」
 「な、何を見て来たんだ?」
 「ソフィーが何気なくする、その姿勢や仕草はアニメに出てくる美女、美少女の姫系やヒロイン系がする仕草! SO! 君は美人である事が俺には分ガフォ!」

 大三郎が言い終える前に、エスカのボディーブローが脇腹に突き刺さる。

 「メルロさん、ソフィーアさん。この方の発言は気にしないで下さい。頭のネジと常識を青星に置いてきてしまったので」
 「あ、青星? ……やはり、貴方は、本物の救世主……様……なのか?」
 
 メルロはわなわなと震えながら聞く。
 
 「こんなのではありますが、、杉田様は救世主です。
 「本物の……、救世主様……」
 
 メルロは英雄を間近で見た事がある。勇者も謁見の間で見た事がある。
 この世界には一国に英雄は存在する。勇者もどこかで魔物と戦っている。

 一年前、身分を剥奪される覚悟で、王や家長の許しなく、英雄や王国に立ち寄った勇者に直談判した。
 ソフィーアを助けて欲しいと。

 しかし、相手にさえしてもらえず、近衛兵に捕らえられてしまった。
 身分は剥奪されなかったものの、礼儀知らずの恥知らずとして、ディエレ家の中で厄介者の烙印を押された。

 それでも、ソフィーアを助けたい一心で、誰にののしられようとけなされようとさげすまれようと必死の思いでソフィーアを救う方法を探していた。


 メルロは知っている。
 英雄や勇者と違い、救世主は万民を救える、唯一無二の存在である事を。
 
 メルロは気付いていた。
 妖精の泉で呪いが解けなかった時、ソフィーアは自害する覚悟を決めている事を。

 そして大三郎が救世主だと知った時、メルロは、これが最後の希望だと悟った。


 「スギター」

 不意にパニティーが大三郎を呼ぶ。
 いつの間にかパニティーはメルロの頭の上に座っていた。

 「どした? パニティー?」
 「んとぉ。こいつ、嘘は言ってない」
 「え?」
 
 メルロが驚いてキョロキョロと周りを見渡す。

 「ちょ、ちょっと! 急に動くなよ!」
 
 振り落とされそうになったパニティーは、慌ててメルロの頭の上から離れた。
 
 「パニティーは、メルロが嘘を言ってないって分かるのか?」
 「うん。分かるよ」
 「杉田様。妖精は人の記憶を見る事が出来ます。なので、言っている言葉と記憶の違いで、その人物が本当の事を言っているのか、嘘を言っているのか見分けられるのです」
 「マジか?! パニティー、お前、スゲーな!」
 「そ、そうか~? まぁ、ちょっとだけなんだけどな~」
 「それでもスゲーよ! 妖精って実は凄いんだな」
 「そ、そうでもないぞ~。えへへ」

 素で感動している大三郎に照れまくるパニティー。
 調子にのったパニティーは、もう一つの特技を見せる。

 「自分の見た記憶をな~。3人までに見せれるんだ~」

 パニティーはそう言うと、大三郎とエスカの手を重ねさせ、そこに座ると、パニティーの体がポワンと淡く光だす。
 その瞬間、大三郎とエスカの頭の中に、まるで自分の記憶のようにメルロの記憶と感情が流れ込んできた。
 呆然とする大三郎とエスカ。

 「ついでにお前にも見せてやるよ~。えへへ」
 
 更に調子にのったパニティーは、ソフィーアの所に行き、ソフィーアにもメルロの記憶を見せる。

 「……!?」 

 パニティーはソフィーアに記憶を見せた後、ふらふらと飛ぶと、大三郎の頭の上にうつ伏せに寝る。

 「ふぃ~、疲れたぁ~」
 「……。パニティー」
 「なぁに?」
 「俺が見たメルロの記憶って……マジ?」
 「マジって?」
 
 大三郎が目を見開いたまま固まった表情で聞くと、パニティーはキョトンとした顔で聞き返した。
 
 「……杉田様」
 「何?」
 「これは……、マジな事です」
 「マジで?」
 「はい。……今見た記憶も、その時に感じていた感情も全部、メルロさんのものです」
 
 大三郎は驚いた顔でエスカを見た後、ゆっくりとメルロの顔を見る。
 メルロは何が起きているのか良く分かっていない様子だった。

 「メルロ……、あ、あの……」
 「何だろうか? 救世主様?」

 大三郎は、初めて自分を救世主だと呼ぶ言葉にズシリと重みを感じた。
 
 この世界に来てまだ数日。
 正直、救世主と言われても、どこか他人事のように捉えていた。
 分かりやすく言えば、VRゲームをやっている感覚。

 今それが全て否定された瞬間だった。そう、これは現実だと突き付けられた瞬間だった。

 
 「お、俺……あ、あの」

 言葉が続かない。思い浮かばない。
 期待される事を受け入れると言う事は、自分の事だけではなく、相手の責任までも背負う事と同義。
 今まで生きてきた中で、誰かにここまで期待された事も無ければ、助けを求められた事も無い。
 それも、都合の良い言葉ではなく、嘘でもなく、その人の記憶と言う真実で。
 
 (何を言えば良い? 何を言ってやれば良い? いや……、俺、どうやって誤魔化すか考えてる? ……そうだよ、俺には無理だよ。で、でも、自害するって……。む、無理だ、人の命が掛かってたら、尚更、俺には無理だって……)

 大三郎が真っ白になりかけた頭で必死に考えていると、ガリガリと何かを引っ掻く音がする。
 音のする方を見ると、ソフィーアが地面に指で何かを書き続けていた。
 突然、メルロが大声を上げソフィーアの手を取る。

 「何してるのソフィー!? 血が出て――ッ! 爪が剥がれてるじゃない!? 何をそんなに書いて……」

 メルロはソフィーアが地面に書いていた字を見て言葉を失う。

 ”ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめ”


 大三郎もエスカも、その字を見てメルロ同様、言葉を失う。
 
 大三郎は見てしまった。爬虫類の顔にされてしまったその目から、大粒の涙が流れているのを。
 顔をくしゃくしゃにして声を上げて泣きたいだろう。
 しかし、表情もその声すらも奪われて、その上、大切な友人が、自分の所為で自分と同じくらい辛い思いをしていた事を知ってしまった。

 「どうしたの? ねぇ? ソフィー……」

 自分の記憶を本当に見てしまっているなどとは思いもしないメルロは、ソフィーアが大粒の涙を流し続けている意味が分からず動揺している。

 「メルロさん」
 「な、何だエスカ殿? すまないが、今――」 

 エスカは動揺しているメルロに落ち着いた声で話しかける。
 
 「ソフィーアさんは、メルロさん、貴女の記憶を見たんです」
 「え?」

 メルロは驚いた顔でエスカに振り返る。
 
 「ソフィーアさんだけではなく、私も……杉田様も」
 「ど、どう言う事だ? エスカ殿?」

  メルロは、エスカが嘘や冗談を言っている訳ではない事を直感的に感じ分かった。

 「……な、何故? ま、まさか……、そ、その……妖精か? その妖精の仕業か!?」

 辛く苦しい日々を送っているソフィーアだけには知られまいと、必死に隠していた事を暴露されたメルロは怒りにまかせ大声で怒鳴った。
 そして、近くにあった剣を手に取る。

 パニティーは、大三郎の頭の上で寝そべりながら気怠けだるそうにメルロを見る。
 メルロは立ち上がりながら鞘から剣を抜く。

 「お止めさない!!」

 エスカの一喝にメルロはビクッと体を硬直させた。
 メルロはエスカを見ると、エスカは真っ直ぐメルロの目を見ている。
 
 「な、なぜ、何故……止める? ……なぜ? エスカ……殿ぉ?」

 メルロはボロボロと涙を流しエスカに聞く。
 エスカはメルロの目を見据え静かにゆっくりと話す。
 
 「メルロさん。貴女の目の前に居る人は誰ですか?」
 「……私の、目の前に……居る人?」

 メルロは大三郎を見る。

 「き、きゅ、救世主……さ……ま」
 「そうです。勇者や英雄とは違い、この世界に唯一人ただひとりだけの存在」
 「うぅ……ぅぅ……」
 
 メルロは更にボロボロと泣き始める。

 「この世界を、この世界に居る全ての人を救うために青星から来てくれた、たった一人の救世主です」
 「うぅ……ぅぅ……うあああ」

 メルロは手に持っていた剣を落とし、四つん這いになりながら大三郎の膝にしがみ付き哀願あいがんする。

 「ぎゅうぜいじゅざま! だずげでぐださい! ゾブィーを! ゾブィーを! だずげで…うあぁああ!」
 
 誰よりも一番、顔を青くしていたのは大三郎だった。
 大三郎は自分の膝にしがみ付き、恥も外聞も無く大泣きして哀願する女性をの当たりにして、どうする事も出来ずにいる。
 35年間生きてきて、誰かにここまで哀願された事などない。それも、人の命が掛かっているような……。

 大三郎はどうしていいか分からず、青ざめた顔のままエスカをチラリと見る。
 エスカは何も言わず、ジッと大三郎の目を見ている。
 痛みを感じるほど膝を掴むメルロ。

 ゲームでこう言った場面になると、セーブ後に”いいえ”を選択してみたり、面白半分で断る事を選んだりしていた。
 だが、リアルでは絶対に出来ない事だと大三郎は痛感する。
 選択する覚悟。そして、その重責。
 生半可に生きて来た人間には簡単に出せる答えではなかった。

 その時だった。

 何かがメルロの落とした剣を拾い上げる。
 見るとソフィーアが剣を手に持っていた。

 「やめなさい!!」

 エスカの大声にメルロは顔を上げ、一瞬、エスカを見た後すぐソフィーアに気が付く。
 ソフィーアはメルロの剣を自分の喉に当て突き刺そうとした。
 
 「駄目だぁああ!!」

 メルロは大声を上げ、抜き身の剣にしがみ付き、あわやと言う寸前で止めた。

 「だいじょうぶだがら……。ぎ、ぎゅうぜいじゅざまが……うぅ……。だずげでぐれるがら!! だずげで……うぅ……だずげで、ぐれるがらぁ……ぁぁ」

 メルロの手や頬から血が滴り落ちる。
 ソフィーアの目から大粒の涙が止めどなく流れる。

 それを見て、固まったままの大三郎。
 そんな大三郎に、エスカはたった一言だけ言う。

 「杉田様。どうしますか?」

 大三郎はエスカを見る。エスカはジッと目を見ている。

 (どうするかって、何がだよ? 俺に、どうしろって言うんだよ? な、何だよ? どうすりゃ良いんだよ?)

 大三郎が真っ青になりながら、頭の中が真っ白なのかパニック寸前なのか分からないくらい動揺していると、頭皮から鋭い痛みが走った。


 ―――プツン!

 「痛っ!」

 大三郎は驚き首をすぼめる。
 すると、頭の上に居たパニティーが、大三郎の顔の前に飛んできた。

 「これ」
 「な、何?」

 パニティーは大三郎に手に持っているモノを見せた。

 「スギタの白髪」
 「は? え? し、しらが?」
 「うん。これを……こうして……」

 パニティーは、大三郎の白髪をベルトのように自分の腰辺りに巻く。

 「よし! これを皆に見せるんだ」
 「な、何で?」
 
 大三郎は訳が分からないと言うような顔でパニティーを見る。
 
 「ん? 救世主の白髪を腰紐にしたって皆に見せるんだ」
 「な……んで?」
 
 パニティーは大三郎の顔の前を飛びながら言う。

 「救世主はさ、世界を救うんだ。誰も出来ない事をやるんだ」
 「い、いや……。お、俺は……」
 「でもな、もし、救世主が出来ないって言うんなら、私は諦められる」
 「あ、きらめ、られる?」
 「うん。私はさ、妖精だから分かるんだ」
 「何が?」
 「この世界が終わるの」
 「え? ……終、わる?」
 「そ。終わっちゃう。だから、スギタが来てくれた」
 
 何を言われても問いかけられても理解できないほど、動揺と混乱が入り混じる頭の中、パニティーの言葉は不思議と素直に受け止められた。
 だから尚更、この世界に何も考えずに大三郎は、パニティーの「来てくれた」と言う言葉に何も言えずにいた。
 
 パニティーの目を見る事が出来ない。
 いや、パニティーだけではなく、メルロやソフィーアの目も見れない。 
 目を反らす事しかできない。

 「でも、そのスギタが世界を救えないって、誰も救えないって言うんなら、そこの女も遅かれ早かれ死んじゃう。私達も」
 「―――ッ!」

 大三郎の全身に衝撃が走る。見ないフリ、知らないフリをしていた事を、嫌味でも罵倒でも責める言葉でもなく、素直な気持ちで言われた。

 パニティーは、大三郎の鼻の前に飛んできて、小さな両手で鼻先に触れおでこをつける。

 「怖いよね?」
 「え?」
 「自分で決めるって怖いもの。もし、悪い方に行ったら、全部自分の所為だもんね」
 「……」
 「でも、誰かに自分の全てを任せるのも怖いんだよ」
 「――――ッ!」
 「大丈夫。怖いの、スギタだけじゃないから」

 パニティーはそう言うと、大三郎を見てニコッと微笑む。

 「うお……うおうおうお。うほ、うほうほうほ!!」

 大三郎はガクガクと震えだす。

 「ど、どうした? スギタ?」

 パニティーは、突然ガクガクと震えだし、良く分からない叫びを上げる大三郎に驚く。

 「ウホ! ウホホ! ウホホウオ!!!」

 全員が大三郎を見る。
 大三郎は立ち上がると川に向かって走り出した。

 「ス、スギタ!!」
 「杉田様!!」
 「ウホオオオオオ!!!」

 そして、大三郎は川に大の字になりながら飛び込む。
 盛大な水しぶきを上げ、川に沈んでいく。
 エスカ達は、それを呆然と見ているしかなかった。
 
 暫くすると、大三郎は川の中に立ち上がり大声を上げる。

 「パニティイイイ!!!」
 「な、なに!?」
 「ありが、とぉおおお!!」
 「え? え?」
 
 パニティーは、ただただ驚くばかりだった。

 「エス、クァアアアー!!!」
 「何でしょう?」
 「この世界にぁああ!! 神様って何匹も居るんだるぉおお?」
 「何匹って……。まぁ、人数までは知りませんが、何人かの神々は居ると聞いてます」
 「どぅわったらぁああ!! 一匹くらいは俺を見てんだるぉおお!!?」
 「多分、御一人くらいは見ているかと。後、神々を匹で呼ぶのはお止めになった方が良いと思いますよ?」
 「知るくぁあああ!!」

 大三郎は空に向かい、更に大声を上げて叫ぶ。

 「うぉおおらぁあ! バカ神ぃいい!! ホモ神ぃいい!! クエスト出せやゴラァアアア!!」
 「神々に向かって何て事を……。はぁ」
 「ス、スギタ……」

 大三郎は懐から紙を取り出し、空に向かって突き出す。

 「テメー等の遊びに付き合ってやるよぉおお!! この腐れポコチンがぁああ!!」
 「腐れって……。天罰が下りますよ」
 
 大三郎はエスカに振り向く。

 「おう! 上等だゴラァアア!! 下せるものなら下してみやがれ!!」

 すると、空から大三郎めがけ何かが落ちて来た。
 それが大三郎の頭にスコーンと当たる。

 「んブふッ!」

 大三郎はぺちゃっというように水面に倒れ、そのまま流されて行く。

 「ス、スギター!」
 「天罰ですね」

 しかし、そんな程度ではめげないのが大三郎。
 頭を押さえながら立ち上がると、頭に当たったモノを拾い上げ空に向かって叫ぶ。

 「痛いです!! すみませんでした!!」

 呆気にとられるパニティーをしり目に、エスカが溜息まじりに言う。

 「自尊心が無くなった分、自分に素直になりましたからね。ま、おバカと素直が杉田様の取柄って事です」
 「すみません。馬鹿って聞こえましたけど? もしかして、俺の事でしょうか?」   
 「もしかしなくても杉田様の事ですよ」
 「そうですか。……神様ぁああ!! どうか、バカっぱいに天罰を!!!」
 「なっ?! 貴方は何を言っているんですか?!」

 すると、空から雷鳴と共に雷が落ちて来た。
 それが大三郎に直撃し、由緒正しい感電をして、また川に流されて行く。

 「杉田様に天罰が落ちましたね」
 「スギタ、今のは自業自得だよぉ……」

 しかし、それでもめげないのが大三郎。
 何事も無かったように再び立ち上がると空に向かって言う。

 「すみません! そろそろ、クエストを出して貰えないでしょうか?!」
 「ほんと、スギタってめげないな」
 「それも杉田様の数少ない取柄です」

 すると、空から何時もの声が聞こえる。


 ”この世界を救いし者よ。汝、自ら苦難の道を進むのなら、その道を自ら示せ”

 ”この世界を救いし者よ。さすれば、この世の全てが汝に力を授けるだろう”

 

 その声を聞き大三郎は大声で叫ぶ。

 「ソフィーア! ……。何だっけ?」
 
 エスカは溜息をつきながら答える。

 「ソフィーア・パル・ラムダンです」
 
 大三郎はもう一度、空に向かって叫ぶ。

 「ソフィーア・パル・ラムダンの呪いを解くクエストを受諾して下さい! 後、出来れば、エスカの短気を治して下さい」
 
 大三郎が言い終わると手に持っていた紙がカッと光る。
 その紙を見るともっともな事が書いてあった。

 大三郎はしばし紙を見つめた後、川から上がりエスカ達の居る場所まで歩いて行く。

 「何が書かれてました?」
 「……。受諾してくれたけど」
 「けど?」
 「まず、サブクエストとメインクエストをクリアーしてからだって」
 「あ。そう言えば、そうですね」
 「あと……」
 「はい?」
 「腐れポコチンはお前だろって書いてた」
 「もう、神々に変な事を言うのはお止めくださいね」
 「はい……」

 パニティーは大三郎が持っているモノを見て驚く。

 「スギタ! それ」
 「ん? これ? 俺の頭に当たったやつだよ。思わず拾っちゃったけど」
 「杉田様……、それって」
 「これが何? マジで、スゲー痛かったぞ」
 「スギタ、それ、聖杯じゃないのか?」
 「聖杯?」
 「ええ。それは銀の聖杯ですよ。また、とんでもない物をさずかりましたね…」
 「え? なに? これ、ヤバいヤツなの? んじゃ、エスカにあげる」
 「ヤバい物だったら私に渡すんですか?」
 「良い物だったらあげる訳ないじゃん?」
 
 見つめ合う二人。
 そして、大三郎とエスカはお互い身構える。
 ジリ、ジリっと間合いを取っているとメルロが大三郎に飛びつく。
 その勢いで大三郎は倒れ、その上にメルロが抱き着くように上になる。

 「うわ!! なになに? え? え?」
 
 メルロは大三郎に跨り、大三郎の胸に両手を当てそこに顔を埋める。

 「な、何? 俺、何されるの? エスカ以外に変な事した覚えないよ?」

 大三郎はマウントポジションを取られ、顔面をフルボッコにされると思い素で焦る。
 だが、メルロは殴るどころか、大三郎に抱き着いたまま泣き声まじりで感謝の言葉を言う。
 
 「あ、ありがどう。ほ、ほん、本当にありがどう」
 「え? ど、どうした?」

 焦る大三郎の手をソフィーアが握る。
 
 ソフィーアが何を伝えたいのか大三郎には分かった。
 自分の呪いを解く事ではなく、メルロの願いを聞いてくれたお礼だと。
 
 「ま、頑張りますよ。放電女と可愛い妖精がついてるから大丈夫。何とかなるさ」

 感謝の思いで一杯なメルロとソフィーア。照れるパニティー。大三郎の顔面を踏むエスカ。

 次に目指すは、まだ見ぬ冒険者と妖精王マリリアン・ソケットのおっぱい。
 頑張って揉み倒しますか。と、大三郎は顔面を踏まれながら意気込むのだった。
 
 (あ、たまにグリグリするの痛い)
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