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鬼子と縫いぐるみ編

縛りプレイはやり込んだ人にしてください。初プレイ初心者にはただの鬼畜設定です。

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 「ターニャにさ、お願いじゃないんだけど、言っておこうと思ってる事があるんだ」
 「なに?」
 「他の人に知られちゃマズい事って言う、あれ」
 「それがどうしたの?」

 大三郎は真剣だが優し気な顔で、小首を傾げるターニャを見つめながら心の内を明かす。

 「じーさんには話しておきたいんだ。じーさんなら大丈夫だと思うし、俺が俺の事を知る上で色々アドバイスがもらえると思うから、寧ろ知っておいて欲しいんだ」
 
 それを聞いたターニャは少し考え「そうね」と答えた。

 「滅亡に関してさ、障害になるのは多分……、俺自身だと思うし」
 
 大三郎の意外な言葉にターニャは不思議そうな顔をする。

 「どうしてそう思うの?」
 「ゲームでも、操作方法や自分が使えるスキルとかパークも知らなかったら即落ちしちゃうし」
 「スキルは神技の事だって分かるけど、パークとか即落ちとかってなに?」
 「あー。んと、例えば神技は自分でこの技を使うって決めてスキル発動するじゃん? 俺のゴッド・フィンガーとかさ」
 「ええ」
 「パークって、自分でこれを使うって決めなくても、それを取得した時点で常に発動しているスキルのことを言うんだ。んー、分かりやすく言えば、俺が神様に認められた事で救世主に成ったじゃん? んで、それによって他の人より丈夫な体に成ったじゃない? それのこと」
 「そう言う事ね」
 
 ターニャは小さく頷きながら納得した顔をした。
 
 「あ。そう言えば、ターニャから貰った鍵を使わせてもらったよ」
 「知っているわ」

 ターニャはそう言うと、嬉しそうな優しい目をして大三郎に笑顔を見せた。

 「そっか」

 大三郎もその笑顔に笑顔で返した。

 「あれで気付いたんだけど、あの時までは救世主カッコカリみたいな感じだったんだね」
 「かっこかり?」
 「正式な救世主じゃないよってこと」
 「そうね。神々に認められ、だいざぶろーが神々に誓いを立てて初めて真の救世主に成るの。もし、強制的に誓いを立てさせても神々は真の救世主として認めてくれないから」
 
 ターニャの言葉を聞き、大三郎は少しだけ俯くように顔を下に向ける。

 「あれは誰かに言わされるような言葉じゃないって今なら分かるよ。なんて言うか、上手く言えないけど全然違うって分かる。心の底から本当にそう思って、自分の言葉で言って初めて意味がある事だってさ。なんか、うん。ほんと、上手く言えないんだけど。分かる。そうじゃないと届かないって」
 
 大三郎は空を見上げた。

 「誰かに上手く説明する必要は無いわ。だいざぶろーが分かってくれれば良い事だから」

 ターニャはそう言い、本当に嬉しそうな笑顔で大三郎を見つめ、大三郎は視線をターニャに向け「うん」と微笑みを返し、説明の続きをする。

 「後、即落ちだったね。即落ちってのは簡単に言うと、すぐ敵にやられちゃうってこと。ゲームと違って、現実世界は一発勝負じゃない? 死んだらそれまでだから」
 「確かにそうね」
 
 大三郎はここである事を思いつく。

 「そう言えば、神技のアクティブスキルって、あれはパークを一時的に強化するものになるな? バフってことか」

 大三郎は視線を空に向け、小首を傾げながらブツブツと独り言を言う。

 「ばふ?」

 ターニャは不思議そうな顔で大三郎を見た。

 「え? ああ。バフって言うのは、簡単に言うと自分の何かの能力を強化するってこと。例えば、俺って他の人より丈夫じゃない?」
 「そうね」
 「任意でそれを更に強化した状態ってこと。その逆で、デバフってあってね、それは自分が弱体化や状態異常になった時の事を言うんだ。毒状態とかね」
 
 今まで興味深げに黙って聞いていたパハミエスが、徐に杖を大三郎に向け「こうか?」と、無表情のまま毒の魔法を掛けた。

 「ぐはっ! そ、そ、そうだねって、じじぃー! てめ、この、ぐふ! と、解け! 今すぐ解ゲへ!」

 パハミエスは「ふむ」と少し観察した後、毒の魔法を解除する。
 
 「はぁはぁ……。なんですぐ解いてくれないの? ねぇじじぃ? なにジッと見たの? てか、なにすんの? ねぇ? 何してくれてんの?」
 「デバフだ」
 「そう、これがデバフ、じゃーねーよ! おい、じじぃこのやろー」
 「毒状態はデバフではないのか?」
 「デバフですよ? ええ、あなたの見事に禿げあがった頭くらい立派なデバフですよ」

 大三郎は怒りが混じった顔でパハミエスを見下ろすようにパハミエスの頭を撫でまわす。
 パハミエスは杖で大三郎の顔を押しながら「合っているのなら良いではないか?」と、無表情の顔で大三郎に言う。
 
 「合っひぇるけひょひょくねーよ?!」
 
 大三郎は杖で押されたまま憤慨し、パハミエスは顔が離れると杖を引っ込め、大三郎は頬を撫でながらプンスコと怒り、パハミエスに疑問に思っていた事をぶつける。

 「エスカもそうだけど、何ですぐDPSを試す人形みたいに魔法を掛けるの? ねぇ? なんで?」
 「丈夫だからではないか?」
 
 さらっと言うその言葉に「ハッキリ言いわれ過ぎて、もうね、ぐうの音も出ない。てか、それだけの理由って理由にならないよね? 俺を痛めつける理由にはならないよね?」と、少し涙目になりながら問い詰めた。
 
 「DPSとは何だ?」
 「わお。なんか色々無視して、DPSだけに喰いついちゃったよ」
 「それは何だ?」
 「1秒あたりのダメージってそんな事はどうでも良いよ! 普通に答えそうになった俺もどーかと思うけど!」
 「ふむ。一秒当たりのダメージか……」

 パハミエスは顎鬚を摘まみながら何かを考えている。

 「ほんと、エスカといいじーさんといい、俺を何だと思ってんだよ? ったく」

 大三郎はぶつくさと文句を言いながら気を取り直すように、「コホン」と一つ咳払いをしパハミエスを見る。

 「じーさん」
 「何だ?」
 「じーさんにさ、色々頼み事ばっかして本当に申し訳ないと思ってる」
 「ふむ。我がしたいようにしているだけだ。別に気にする事は無い」
 「そう言ってくれると有り難いよ。……そこでさ、もう一つ頼みを聞いて欲しいんだ」
 
 大三郎は申し訳なさそうな笑顔をパハミエスに向けた。

 「何だ?」
 
 大三郎はパハミエスから視線を外し、少し間を置いた後、もう一度パハミエスを真剣な顔で見る。

 「じーさんが妖精の泉を復活させた事で、じーさんの魔力が無くなってるのは承知してる。その上で頼む事なんだ」
 「ふむ」
 「俺がさ、ここを離れた後、もし、この森がまたクソぶりットとかに襲われたらさ、じーさんがこの森や妖精達を守ってくれないかな?」

 パハミエスは何も言わず、大三郎の顔をジッと見つめる。

 「……。ダメかな?」
 
 大三郎は申し訳ない顔をしているが、目は本当に真剣だった。
 パハミエスはその目をジッと見た後、徐に口を開く。

 「ふむ。ならば我の言う事も一つ聞いてもらおうか」
 「お、おお、お尻以外なら何でも良いよ!」

 パハミエスはその言葉に何の反応も示さず、無表情のままただジッと見てくる。「ま、まさか……お、お尻なの?」と聞いてもパハミエスは何も言わない。大三郎は額から大量の汗を垂らしフルフルと震える。

 「ああ……あぅあぅ……うぅ。……ええい! マーヤやリリーや妖精の娘達を守る為だ! もう、尻でも何でもバッチ来い!!」

  大三郎は目をギュッとつぶり、パハミエスにお尻を突き出し覚悟を決めた。

 パハミエスは「阿呆」と言うと、自分の前に突き出されているお尻に、容赦なく杖をブスリと刺しどかす。

 「ッんパイ!」
 「大三郎の尻などに興味はないわ」

 大三郎は奇妙な短い悲鳴を上げ、四つん這いになりながらお尻を押さえたまま、産まれたての小鹿のように体を小刻みに震えさせていた。

 「包み隠さず全てを話せ。それだけでい」
 
 大三郎はお尻を押さえ、「そ、そそ、それだ、だけで、良いのの?」と、どもりながら涙目でパハミエスを見る。

 「ふむ。我は大三郎、お主を知れれば良いからな。その邪魔をする者は全て、この世から排除してやろう」
 「は、排除って……」

 大三郎はお尻を押さえ、内股で産まれたての小鹿のように足をガクガクさせながら立ち上がった。

 「我は知らねばならんのだ」
 「な、何を?」
 「知らねばならん事をだ」
 「だから何を?」
 「いずれ大三郎にも分かる」
 「そ、そう? てか、お尻から血は出てない? 見て? どう?」

 魔法使いやそれに関わる者にとって、パハミエスの言葉は些細なものであっても、魔導書や預言書より価値あるものなのだが、大三郎はパハミエスの言葉より自分のお尻の方が心配だった。

 「出ておらん」
 「良かったぁ」
 
 エスカが言った、一国の軍隊をたった一人で壊滅させるほどの魔法使い。世界が恐れ、危険視する人物。
 魔族すら恐れるアウタル・サクロのメンバーでさえも、誰一人逆らう者は居らず、魔法に関わる者全ての頂点に君臨していたパハミエス・マルク・ロダリア。
 その人物にお尻を突き出し、血が出てないか確認させる神々が認めた真の救世主、もとい、誰しもが認めるおバカな救世主。
 ターニャはそんな大三郎を見てクスクスと笑い、一年後に訪れるであろう『アリナイの意志』に、唯一立ち向かえる希望の光だと確信する。
 
 「さて、話てもらおうか」
 「うん。て、どこから話せば良い?」
 「全てだ」
 「全てって……、産まれた頃から?」
 「そこまでさかのぼらんくて良い。いずれは話てもらうが、今は他の者に知られてはマズイと言っていた事で良い」
 「ああ、それね。んじゃ、まずは――――」

 大三郎はターニャに補足してもらいながらパハミエスに話す。
 自分は時系列で言うと未来の青星から来た人間である事、クエストや神々から授かる神技によって自分がどうなるのかと言う事。
 
 そこまで聞いたパハミエスは、顎鬚を摘まみながら渋い顔をしている。その心中は分からないが、知識を総動員して思考を巡らせているのだろう。
 大三郎はそんなパハミエスに愚痴をこぼすように話を続ける。

 「一年後って期限はあるわ、使えなさそうな神技のクセに、使い過ぎると闇落ちしちゃう縛りプレイがあるわ、そのスキルだって習得するのに自分の何かを支払う課金制だわ。その上、俺が知らなきゃならない事がてんこ盛り。なのに誰にも聞けない。まぁ、聞いても答えられない事だと思うけど……。ほんと、鬼畜設定も大概にして欲しいよ」
 
 大三郎の言葉を聞き、パハミエスは「うむぅ」と、考え込んでいるような返事をする。

 「自由度の高いオープンワールドを神託って言うコンパスを頼りに、日数制限ある鬼畜設定の中、何も知らない俺が皆を救う。無理ゲーだっつーの……」

 大三郎はそう言うと俯き溜息をつく。そして、俯いた顔を上げパハミエスを見ながら言葉を続ける。

 「それでも、何とかしなきゃならない。だからさ、俺にとってじーさんは必要なんだ」
 「ふむ」
 「滅亡は一年後って言われてるけど、それは目安でしかない」
 「目安?」
 「そう。ここまでだよって言うね。その目安より重要なのは、俺が俺じゃなくなる前に、どうにかして皆を救わなきゃならないってこと」
 
 パハミエスは顎鬚を摘まみ摩りながら「ふむ」と小さく頷く。

 「ターニャにも言ったけど、このままだと俺自身が障害になるからさ」
 「何も知らない大三郎自身が、と言う事だな?」
 「うん。俺は馬鹿だからさ、深くは考えられない。だから思いついた事は対価を払ってでも片っ端からやるつもりなんだ。その上でスキルの使用限界数と、どんな風に俺じゃなくなるのか、最低この二つは絶対に知っておかなきゃならない。万が一、俺が俺じゃなくなった所為で救えなかったなんて事があったら洒落にもならないから」
 
 心からの言葉にパハミエスは納得し「そうか」と頷くが、どうしても理解し難く、納得のいかない事が一つあった。

 「大三郎の考えは分かった。だが、何故そこまでする必要がある?」
 「え?」
 
 思いがけない質問にキョトンとしてしまう。

 「己自身を対価に、この世界を救う必要が大三郎にあるとは思えんが?」
 
 大三郎と妖精達の出来事を知らないパハミエスにとって、当然の疑問。
 その質問に少し間を置き答える。 
 
 「……。ん~。……人それぞれだと思う」
 「人それぞれ?」
 「うん。俺がそうしたいって思った切っ掛けはさ、他の人からしてみれば、そんな事で? とか、どーでも良い事に思ってしまう事かもしれないじゃん?」
 「ふむ」
 「だから、じーさんに話ても共感してもらえるとは限らないし、納得できるか分からないよ?」
 「……。ふむ、構わん。聞こう」   
 
 日が沈みかけていた夕方から、妖精の泉に着く頃には星が見える夜空になっていた。夜空の月や星が、宝石のように輝いている妖精の泉の水面を更に美しく見せる。大三郎はそんな泉に視線を移し、何か思いにふけるような目で見つめながら話し出す。

 「理由は単純だよ。こんな俺を自慢してくれて、俺の為に泣いてくれるパニティーを守りたい。エスカは俺がこの世界を救える救世主だとバカみてーに信じてるし、あいつを独りにする訳にもいかないし」

 大三郎はここでパニティーが泣いていた事を思い出す。泣いていた事を悟られないように、目を赤くさせ自分を気遣ってくれたパニティーを。そして、ターニャが話してくれた、地球に取り残されたエスカのことを。
 頬を優しく撫でる風を感じながら、視線を下に向けるように俯き、少し間を置いた後、言葉を続ける。

 「心から懐いてくれるマーヤやリリーを守りたい。リリーなんてさ、一人で森の外に出てアネチアの花を取りに行ってくれたんだ。守りたいって思うじゃない? 本当に、小鳥みたいに小っちゃいんだ。そんな幼い娘がさ、俺の為に……。それに、夜通しで妖精の粉を集めてくれた妖精の娘達だって守りたいんだ。ありがとうって言われちゃったから。守ってくれて、ありがとうってさ。マジで、素直に嬉しかったんだ」

 大三郎は俯いていた顔を上げ、パハミエスを真っ直ぐ見つめる。

 「エスカにも言ったけど、俺は正義の味方になるつもりは無い。周りから俺のやり方が間違ってると言われても、馬鹿だ阿保だと言われても。皆を救う為なら善悪なんて関係ない。その事で悪だと言われても、皆を救えるのなら何でもするし、俺は俺を対価にしてでも守れるならそうする。てか、何の取柄も無い俺にはそれしか出来ないから」

 真剣な顔で話す大三郎の言葉に「悪と言われても……か。ふむ、そこまでの覚悟があるのなら、我が納得しようがしまいが関係ないな……」と呟く。

 「大三郎」
 「ん?」
 「お主の頼み、しかと受けた」

 パハミエスの返事を聞き、大三郎は自分のローブをギュッと握り「ありがとう。マジで……、ありがとう」と、深々と頭を下げた。
 無理を承知で頼んでいる事は分かっていたし、パハミエスにしてみれば何の得にもならない、寧ろ損をするような我儘に近い頼み事。断られる覚悟はあった。そんな我儘に近い頼み事を面倒臭がらずに引き受けてくれたパハミエスに、大三郎は心から感謝する。

 ロシルにも森を守ってくれと頼んだが、エブルット並みの闇の魔術師が居るアウタル・サクロの誰かを相手にしたら、ロシル達がただで済むわけがないとエブルットの召喚魔法を見た時に理解していた。
 だから、断られてもパハミエスが折れるまで頼み込むつもりだった。自分にはそれしか出来ないし、頼れる者がパハミエスしかいなかったから。

 この世界でパハミエスが何をしていたのか、何をしたのか大三郎は知らない。知ればきっと驚く事や憤りを感じる事もあるだろうが、その事に関して大三郎は「知った事か」と思っていた。
 現在進行形ならともかく、人の過去に関わりも関係もない者がどんなに正しい事を言っても、それは意見ではなく、偽善にもならないただのいちゃもん。それでも人の過去に何かを言う人間は、ただ自分が正しい事を言っていると酔いしれたい、そう見られたいだけだと大三郎はそう考える人間であった。

 大三郎とて、パハミエスのあの言葉は忘れてはいない。

 ”妖精など蟲如きの存在。吐いて捨てるほどいる。死んだとて、また見つければいいではないか?”

 この言葉で、パハミエスがどんな人物か大体の予想は付いていた。
 
 『興味が持てない人間』もしくは『興味を失った人間』
 
 存在そのものに興味を失い、興味が持てない。無機質だったパハミエスの顔は、パハミエスの心そのものを現していた。
 大三郎がパハミエスの表情をゲームをプレイする人間に例えたのが、予想の根拠と言えた。メインもサブも謎解きも、ありとあらゆるクエストをクリアーし、欲しいアイテムも全て手に入れ、倒すべきボスも居なくなったRPG。やる事が無いからと、淡々とレベル上げをし、レベルをMAXにしてもアプデが永遠に無い。本当にやる事が何もない。そんな、やる事も何もないゲームを強制的に一日中、それも何年も何年もプレイさせられていたとしたら、プレイ中はパハミエスのような、何も感じない無機質な感情がそのまま表情に出てしまうだろう。と、伝わるかどうかは別として、ゲームで例えたのだった。 

 大三郎は下げていた頭を上げ、パハミエスに質問をする。
 
 「ターニャから聞いたんだけど、アリナイの意志って知ってる?」
 「無論だ」
 「その神様でもどうしようもない、アリナイの意志ってヤツが俺達の相手だから、じーさんにとっては人生最大の謎解きになるかもね」 

 パハミエスはその言葉にピクリと反応をする。

 「神ですらどうしようもない相手……か。確かにな、我の人生で最大の相手になるのは間違いない」
 「でしょ? もう二度とこんな一大イベントは無いんじゃないかな?」

 大三郎の言葉に無表情だったパハミエスの顔が、何かに気付いたような驚きの表情になる。そして、肩を揺らし笑い出した。

 「……ふふ、ふはははは! 大三郎、お主は人をその気にさせるのが本当に上手いな」
 「元営業マンなもんで」
 
 二カッと笑いながらパハミエスを見る大三郎と、ニヤリと笑うパハミエス。そんな楽し気に大三郎と語らう今のパハミエスを見たら、アウタル・サクロのメンバーは我が目を疑うだろう。
 
 「謎解き」「一大イベント」、その言葉は『大三郎なりの礼』だと言う事にパハミエスは気付いた。
 この世界を救うのは大三郎。共に行く者だとしても第三者である事には違いない。言わば、リスナーとして誰かの動画を見ているのと変わらないということ。だが、大三郎の言葉はアプデが永遠に無いと思っていたゲームに、突如として超大型アップデートがされたようなもの。興味をそそられない訳がない。
 そう、「一緒にプレイしてクリアーしようぜ」という意味で言ったのだから。

 そして、この世界は自分の時系列では一度滅亡して、エスカを含めた全員が死んでいる事を話そうとした時だった。

 「杉田様! そこで何をなさっているのです!?」

 一番聞かれてはマズイ相手が来てしまった。

 「うお! びっくりしたぁ」

 大三郎はビクンと体を跳ね上がらせ、エスカを見る。
 エスカはパハミエスが居る事に気付くと、「パハミエス。杉田様と何をしていたのですか?」と無表情で聞く。

 「用を済ませ話をしていただけだが?」
 「用? とは何ですか?」
 
 エスカはパハミエスを共に行く者と承知したが、未だ警戒は解いていない。それは敵対心から来るものではなく、大三郎が変な事を言ってパハミエスにとんでもない事をさせてしまったのではないかと言う警戒心。
 パハミエスもエスカから殺気が全く感じない事は分かっていた。

 「心配せんでも良い。神託に関わる事だ」
 「神託に? ですか?」
 「そうだ」

 キョトンとするエスカに大三郎が「エスカ! 見てみろ!」と、泉を指さす。

 「こ、これは……」

 妖精の泉の輝きに、エスカは目を見開き驚く。

 「じーさんが妖精の泉を復活させてくれたんだ! スゲーだろ?」
 「パ、パハミエスが……?」
 「そう! 自分の魔力をさ、妖精の泉に分けたんだ」
 「え!?」

 その言葉に驚き、エスカはパハミエスの顔を更に目を見開いて見る。

 「呪いを解いた後でないと西へ行っても意味がないからな。その呪いを解くには妖精の泉が不可欠だ」
 「そ、それで……、自分の魔力を分け与えたと?」
 「そうだ。その事で我は魔力を回復せねばならん。暫くは大三郎と共に行けんと話しておった」
 「そ、そうですか……。私はてっきり……」

 感心と驚きと、心配していた事とは全く別だった戸惑いがエスカの緊張を解いた。

 「てっきりって何ですか? ねぇ? てっきりって何ですか?」
 
 大三郎はエスカの顔を覗き込む。

 「巨大な魔力を感じ、外を見たら光の柱が立ったので……」
 「立ったので?」
 「急いで来てみたら、杉田様とパハミエスが居たので……てっきり」
 「うん。その、てっきりって何か聞いてるの? ぼく」
 「また杉田様が変な事をパハミエスに言って、とんでもない事をさせたのでは……と」
 
 エスカは緊張が解けた所為か、何時もの返しではなくホッとした感じで肩の力を抜き話す。が、大三郎は「またってなに? ねぇ? またってなに?」と、更に顔を近づけ食い下がり、そんな大三郎をエスカはジッと見つめ「気持ち悪いです」と一言。
 
 「はぐふぅ! ひ、人の顔見て、き、気持ち悪いって」
 「ふむ」
 「ふむじゃない! じーさん! 納得しない!」
 「パハミエスも納得する気持ち悪い顔と言う事です」
 「ぎゃふん! お、おま、おま、お前……」

 もう言われ慣れた事なのだが、それでも腹は立つ。
 大三郎は『怒りのバカっぱい・トルネード』をお見舞いしようとした瞬間、エスカは大三郎の手を掴み大三郎の頭に頭突きをした。

 ――ゴッ!

 「ぴ!」

 大三郎は頭が胸元までめり込むような頭突きをされ、劇画タッチな顔で鼻水を吹き出し倒れる。

 「いつもいつも人の胸を叩くからそうなるのです」
 
 エスカは胸の下で腕を組み、爆乳を庇うように体を背ける。

 「おっきいわね」

 エスカの爆乳を感心するような目で見るターニャ。

 「貴女は?」
 「私はターニャ。それにしても大きいわね。何を食べたらそこまで大きくなるの?」
 「べ、別に他の方と変わりません」

 エスカは頬を少し赤くさせ、ターニャから胸を反らす。その瞬間「バカっぱ―い!」と、バカっぱいトルネードがエスカの爆乳に炸裂した。
 ぶるる~ん! と、たゆむ爆乳。
 ズガン! と殴られ、ずれ歪む大三郎の顔。
 鬼の一撃で追撃するエスカ。
 その鬼の一撃を躱し、片方の爆乳に顔を埋める大三郎。
 その大三郎の頭めがけ、左右からプレス機のようにエスカの拳が迫る。
 
 ――かぷ。

 「――――――ッ!!?」

 ビクン!! と、エスカの体が硬直する。
 大三郎は爆乳の乳首を甘噛みした。

 ――レロレロレロレロ

 「――――――ッ!!!」

 そして舐めた。

 エスカは大三郎を突き飛ばし、目を丸くして胸を押さえる。
 突き飛ばされた大三郎はムクリと立ち上がると、エスカに向かい叫ぶ。

 「美味! お主の乳首は美味であった! 余は満足じゃ!」

 エスカはその言葉を聞き、顔をカーッ! と、赤くさせる。

 「じーさんにターニャ」
 
 大三郎の行動を観察しているパハミエスと、大三郎がエスカの乳首を甘噛みした瞬間を「まぁ」と言う顔で見ていたターニャは、名を呼ばれ大三郎を見る。
 
 「これから衝撃映像が流れます。少々お待ちください」

 何が起きるか予想がついているパハミエスは「うむ」と返事をし、何が起きるか分かっていないターニャはキョトンとした顔をした次の瞬間、大三郎の悲鳴と共に驚きの顔に変わった。
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