プセマ

奥猫かえる

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モノ

ゼロ

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  左手の薬指。そこはうつろに輝く枷で縛られている。
 すぐに抜けてしまうほど緩いものなのに、わたしに自由を与えてくれない。くるくると回るそれを親指でぼんやりいじくりまわす。
  わたしにはそれが心臓を掴むおぞましいものに見える。恐ろしいのに逃げ出すことができない。抜くことも出来ないまま何年経ったのか。覚えていないけど、随分と長いような気もする。わたしの目の前でもくもくと夕飯を頬張る夫が不意にカレンダーに目を向けた。指輪をいじくって箸を動かす手を止めていたわたしもつられてカレンダーを見る。
 
 結婚してからもう5年経つのか。
 夫がどことなく嬉しそうにそう囁いた。
 そうか、5年経つのか。
 心の奥で反芻し、噛み締める。



 わたしは、夫が、大嫌いだ。
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