5 / 5
モノ
よん
しおりを挟む
友人の時は名字で呼びあっていたが付き合い始めたということを話すと友人全員に他人行儀だ!やめろ!なんて反感を食らって名前で呼び合うようになった。
授業が終わるとわたしはクラスまで彼を迎えにいく。
「しゅうくん」
部活へ行ったりしてまばらになった彼のクラスを覗くとわたしの声に気づいて談笑をやめ彼が振り返った。わたしを見つけて破顔する。慌てて話していた友人たちに帰るわ、と慌てて鞄を提げた。
わたしの前に立つと照れたようにわたしの名前を紡いだ。返事の代わりににこりと微笑む。彼の友人たちに手を振って肩を並べて歩き始める。
相変わらずバイト三昧だったが、青春というのは楽しいものだった。甘えることに慣れてなかったわたしには新鮮なもので当時は常ににこにこしていたと思う。
3年生というのもあって部活もなく、わたしはほぼ毎日彼と並んで帰った。
「俺さ」
付き合って1ヶ月くらい経っただろうか、ふと思いついたようにしゅうが口をあけた。うん、と続きを促す。
「〇〇と付き合えるなんて思ってもなかったよ」
驚いて彼を見上げた。
「それはまたなんで?」
ちらりと驚くわたしに目をやると困ったように視線を前に戻す。
「いや、〇〇は、結構狙われてたんだよねいろんな人達に」
え、高校生になって手を出してきたのは父親のみだしなんなら付き合ったのはしゅうが初めてなんだけど、と目を剥いた。女子だけのクラスだから目立つ子ばかりモテるのかと思ったらそうでもないらしい。
「俺結構ほら、奥手だから、〇〇が言ってくれてなかったらきっと彼女なんてできなかった」
ありがとう、と笑う彼はなんて純情なんだろう。思わずわたしは背伸びして腕をめいっぱい伸ばし彼の髪の毛をくしゃくしゃにした。驚いたように目を見開いたしゅうはすぐにくしゃりと表情を崩してあたまに触れやすいようにと腰を折った。変な気遣いをするな、と頭をはたくと耐えきれなくなってふたりで笑った。
楽しかった。
それと同時にわたしは、酷く、ひどく不器用だった。
卒業まであと1ヶ月となった時、わたしはバイトを辞めた。空いた時間をしゅうと過ごす時間に埋めた。…家に居たくなかったから。言い訳するように家を出て、しゅうと過ごせない日は大概をひとりで街をぶらぶらして時間を潰した。
雪が散らつく日。夕日が白に反射していつもより眩しい日だった。その日わたしは家に帰るのを渋ってひとり本を読んでいた。しゅうは珍しくわたしのクラスに飛び込んできた。といってもクラスにはわたしと、数人しかいなかった。皆部活もなければすることもないと帰ってしまっていたから。驚いて、彼を見る。視線が、しゅうに集まる。
「あの、あの…っ」
彼の目は歓喜に震えていた。なにか良いことがあったのか。わたしは手にしていた本を素早く鞄に滑り込ませるとしゅうの背中を押して教室をでた。
「どうしたの?」
「就職先が、決まったんだ」
結構な大手で。いいとこだよ、と嬉しそうにしゅうが笑う。わたしはおめでとう、と背中を数回叩いた。
「〇〇は?」
大学に行くの?就職するの?と背をかがめて彼がわたしの顔を覗き込んでくる。わたしはなんとなく、就職先を彼に伝えてなかった。さすがにそろそろ言わなきゃいけないか、と苦笑する。
「陸軍だよ」
ひゅっと彼の喉が鳴った。まるで時が止まったように感じた。しゅうの足がとまる。
「わたしは卒業したら1年、陸軍で訓練するんだ。その後はどうなるかは正直分かんない」
なんだか、わたしの声が遠く聞こえる。しゅうはどんな想いでこの言葉を聞いているのだろう。分からないけれど。
どこまでも、どこまでも家族の枷に縛らているわたしはしゅうの元へは行けない。これはわたしの義務だから。
「しゅうの就職先、いいとこで良かった」
授業が終わるとわたしはクラスまで彼を迎えにいく。
「しゅうくん」
部活へ行ったりしてまばらになった彼のクラスを覗くとわたしの声に気づいて談笑をやめ彼が振り返った。わたしを見つけて破顔する。慌てて話していた友人たちに帰るわ、と慌てて鞄を提げた。
わたしの前に立つと照れたようにわたしの名前を紡いだ。返事の代わりににこりと微笑む。彼の友人たちに手を振って肩を並べて歩き始める。
相変わらずバイト三昧だったが、青春というのは楽しいものだった。甘えることに慣れてなかったわたしには新鮮なもので当時は常ににこにこしていたと思う。
3年生というのもあって部活もなく、わたしはほぼ毎日彼と並んで帰った。
「俺さ」
付き合って1ヶ月くらい経っただろうか、ふと思いついたようにしゅうが口をあけた。うん、と続きを促す。
「〇〇と付き合えるなんて思ってもなかったよ」
驚いて彼を見上げた。
「それはまたなんで?」
ちらりと驚くわたしに目をやると困ったように視線を前に戻す。
「いや、〇〇は、結構狙われてたんだよねいろんな人達に」
え、高校生になって手を出してきたのは父親のみだしなんなら付き合ったのはしゅうが初めてなんだけど、と目を剥いた。女子だけのクラスだから目立つ子ばかりモテるのかと思ったらそうでもないらしい。
「俺結構ほら、奥手だから、〇〇が言ってくれてなかったらきっと彼女なんてできなかった」
ありがとう、と笑う彼はなんて純情なんだろう。思わずわたしは背伸びして腕をめいっぱい伸ばし彼の髪の毛をくしゃくしゃにした。驚いたように目を見開いたしゅうはすぐにくしゃりと表情を崩してあたまに触れやすいようにと腰を折った。変な気遣いをするな、と頭をはたくと耐えきれなくなってふたりで笑った。
楽しかった。
それと同時にわたしは、酷く、ひどく不器用だった。
卒業まであと1ヶ月となった時、わたしはバイトを辞めた。空いた時間をしゅうと過ごす時間に埋めた。…家に居たくなかったから。言い訳するように家を出て、しゅうと過ごせない日は大概をひとりで街をぶらぶらして時間を潰した。
雪が散らつく日。夕日が白に反射していつもより眩しい日だった。その日わたしは家に帰るのを渋ってひとり本を読んでいた。しゅうは珍しくわたしのクラスに飛び込んできた。といってもクラスにはわたしと、数人しかいなかった。皆部活もなければすることもないと帰ってしまっていたから。驚いて、彼を見る。視線が、しゅうに集まる。
「あの、あの…っ」
彼の目は歓喜に震えていた。なにか良いことがあったのか。わたしは手にしていた本を素早く鞄に滑り込ませるとしゅうの背中を押して教室をでた。
「どうしたの?」
「就職先が、決まったんだ」
結構な大手で。いいとこだよ、と嬉しそうにしゅうが笑う。わたしはおめでとう、と背中を数回叩いた。
「〇〇は?」
大学に行くの?就職するの?と背をかがめて彼がわたしの顔を覗き込んでくる。わたしはなんとなく、就職先を彼に伝えてなかった。さすがにそろそろ言わなきゃいけないか、と苦笑する。
「陸軍だよ」
ひゅっと彼の喉が鳴った。まるで時が止まったように感じた。しゅうの足がとまる。
「わたしは卒業したら1年、陸軍で訓練するんだ。その後はどうなるかは正直分かんない」
なんだか、わたしの声が遠く聞こえる。しゅうはどんな想いでこの言葉を聞いているのだろう。分からないけれど。
どこまでも、どこまでも家族の枷に縛らているわたしはしゅうの元へは行けない。これはわたしの義務だから。
「しゅうの就職先、いいとこで良かった」
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)
MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。
かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。
44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。
小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。
一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。
ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる