離岸で会いましょう

まゆあお

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1章

7,私の唯一人

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 ふっと意識が浮上する。簡素なベッドに寝ていたようだ。
「殿下!目覚められましたか。」

「ジョアンか。」
 体を起こして周囲を確認する。ジョアンがいるということは、ここは、イル・シードか。

「はい。殿下、抜かりましたね。殿下にしては珍しい。刺客はこちらで捉えましたが、自害されてしまいました。申し訳ありません。ライアン様にはこちらで殿下を保護している旨、ご連絡を入れております。殿下が神殿に
 入られてから丸1日ほど経っております。」

 神殿の暗部を動かしたか。イル・シードの暗部を率いる者として仕事が早いな。

「よい。魔力熱が高くなっているところを狙われた。次兄もなりふり構わなくなってきているな。」
 次兄は私の力を恐れており、度々暗殺者を差し向けてくるようになった。通常は軽く対処出来るが、今回は間が悪かった。
 帝国の主戦力であり、タウレス皇国の後ろ盾をもつ私とは表だって争うことは出来ないが、将来的に次兄の脅威になり得ると考えているようで、あわよくば成人前に私を消したいようだ。また、リオンの力をできるだけそぎ落としたいという思惑もあるだろう。

「それは!まずは帝都が無くならずに安心致しました。、、、むぅ。それにしては、魔力の流れが穏やかになっているように見えます。」

 高位の司祭は魔力の流れをみることができる眼を持つ。

「天使に会った。」

「天使でございますか?まさか、殿下からそのような言葉が出てくるとは。」
 ジョアンが目を見開いて、固まっている。

「あぁ。倒れた私を優しく介抱してくれた。名はシャロンというようだ。」

「(優しく?)殿下をこちらまで運んで来て下さったのは、ナイビス侯爵家のシャロン様です。確かにシャロン様でしたら天使と間違えるのも納得でございます。いえ、かの方は本物の天使かもしれません。今年の属性選定の儀に参加されていましたが、輝くような黒髪黒眼をお持ちでとても可憐な方でございました。まだ幼いながら、創世神の生まれ変わりのようなお方で、とても心根の穏やかな方のようにお見受けしました。」
 
 ジョアンが急に早口で話始めた。
 
 ナイビス侯爵家か。中立派で帝国議会の1席をもつ帝国建国から続く由緒正しい古い家柄だ。長男は確かアムスだったか。父親と共に城で見かけたことがある。となると病弱と噂の次男か。あの手に撫でられてから魔力が落ち着いており、未だに軽い頭痛のみですんでいる。確かめなければならない。

 その時、ドアをノックする音が聞こえた。
「殿下、ライアンです。」

「入れ。」
 副官のライアンがドアを開けて入ってきた。

「殿下、ご無事で何よりです。本当に良かったです。殿下のおそばを離れてしまい申し訳ありませんでした。」
 ライアンが小走りでこちらに近づいてくる。

「ライアン。ナイビス侯爵家に訪問する。侯爵宛に先触れを出せ。」

「え!ナイビス侯爵家ですか?」

「殿下!シャロン様は殿下のことを第3皇子殿下とはわかっておられませんでした。それから、選定の儀ではお元気のようでしたが、シャロン様は病弱とお聞きしております。いきなり殿下が訪問されると驚かれてしまい体調に差し障りがでるかもしれません。」
 ジョアンが叫ぶように訴えてくる。

「わかっている。無理はさせない。」

「かしこまりました。殿下、シャロン様とお話しされるときはその仏頂面をどうにかされてくださいね。」
 ライアンが礼をとり答えた。

「問題ない。訪問は2日後だ。」

「問題なくないです。選定の儀に出席されていたということはシャロン様は10歳ですよね。殿下に笑顔を求めるのも無駄とわかっていますが、怖がらせないように気をつけて下さいね。まだ子どもですよ。まあ、殿下も十分若いですが。」

「早く行け。」
 ライアンを睨むと彼は「ひぃぃ。その眼ですよ~~。行って参ります。」と言いながら先触れを出しに行った。

 ライアンが部屋を出て行くと、静寂が訪れた。

「殿下、真意のほどは?」
 ジョアンが問いかけてくる。
 私が魔力過多症の副反応に苦しんでいることは、長兄とジョアンしか知るものはいない。

「馬車の中でシャロンに触れられたが、ひどい頭痛が治まり魔力が落ち着いた。」
 

「なんと!まさか、魔力相補の可能性があると。もしそれが、本当ですと、シャロン様についてはナイビス侯爵家が堅く口を閉ざしているので詳細はわかりませんが、属性とその病弱さにヒントがあるかもしれません。」

「あぁ、確かめたい。ただ、それとは別にシャロン自身を私のものにしたい。」

 あの一瞬の邂逅で、彼のすべてを私のものにしたいと感じた。それは、ほの暗い決して綺麗なだけの感情ではないがどうやら自分の欲望を抑えきれないようだ。心の底から彼が欲しい。

これまで、いくら戦場で戦っても、魔物を屠っても何事にも大きく心が動かされたことはなかった。長兄の死以外では。

「シャロン様を絡めとるおつもりで?」
 ジョアンが眉の間にしわをつくり、問いかけてくる。

「あぁ。逃がすことはしない。必ず捕まえる。」
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