21 / 86
本編
21.発売日
しおりを挟む
楽屋に入ると、みんなで集まって何かを見ながらキャーキャー盛り上がっていた。
近づいてみると中心には美南ちゃんと望実ちゃんがいて、本か何かを見ているみたい。
「おはよ。みんなで何見てるの?」
「え、陽葵さん?! おはようございます!」
「「おはようございます」」
声をかけると、私が来たことに気づいていなかったのか、驚かせてしまった。
「あ、もう買ってくれたんだ?」
テーブルには美月と撮影をした雑誌が置いてあって、誰かが買ってくれたみたい。美南ちゃんかな?
「もう、これなんなんですか?! ヤバすぎですよ!!」
「お互いを見つめる視線がもう……!!」
「この写真とかやばくないですか?」
特にベッドで撮影した写真に大興奮で、この写真が、いやこっちが、盛り上がっている。
先行で見本を頂いていたから自分でも確認しているけれど、生の反応を見ると、やっぱり攻めた内容だよなぁ……と実感する。
美月なんて真っ赤になって見れてなかったもんね。
「陽葵さん、この撮影の時ってメイキング撮ってないんですか?」
「撮ってたと思うよ。放送の予定は無いと思うけど」
映像になるとガチ感が凄くて放送できないんじゃないかなって思ったり。ベッドに寝転びながら自由に話したりしてくださいって言われてちょっとイチャイチャしたら女性スタッフさん達の反応が物凄かった。その反応を楽しんでしまった私って変態……?
「予定ないんですね……残念」
「でも反響が凄かったらあるんじゃないですか? さっきSNS見たらすごい盛り上がりでしたよ」
え、見たい! とSNSを確認し始めたから今のうちにとその場を離れて入口近くに座る。美月が来たら向こうに捕まる前に確保しないと。
「おはようございまーす」
「美月、静かにこっち来て」
少し待つと美月が入ってきたので呼び寄せる。
「陽葵ちゃんおはよ。静かにってなんで??」
あれ、と人だかりを指差すと、不思議そうにしたけれど、雑誌、と伝えるとみるみる赤くなった。
「わ、もう誰か買ったの? 絶対近づきたくない……」
「私さっき行ってきたけど凄いテンションだったよ」
「メンバーに見られるとか恥ずかしすぎる……帰りたい……」
机に突っ伏して呟く美月の頭を撫でていると、美月が来たことに気づいた美南ちゃんと目が合った。しーっとジェスチャーをすると、叫びそうなのか口元を抑えて何度も頷いてくれた。
「しばらくは弄られるの覚悟しておかないとね。発売記念の生配信でもする?」
「……しない。無理。今日発売ですってお知らせするのも恥ずかしいのに」
うあー、と唸る美月を横目にSNSを開いてお知らせを投稿する。部屋で撮った写真はダメって言われたから、写真は載せていない。それにしてもこの前の美月、可愛かったな……
「ニヤニヤしすぎじゃない? コメント??」
「ん? この前の美月が可愛かったなって」
「なっ……?!」
顔を上げた美月に怪訝そうにされたけれど、私の言葉に真っ赤になって再び机に突っ伏した。
そういえば、今日は楽屋なのに最初からタメ口だ……私が拗ねたからとうとう敬語やめてくれるのかな?
「変なこと言わないで?!」
「ごめんって。美月も投稿したら?」
はーい、と突っ伏した体制のままで投稿をし始めたので私もコメントを見てみようとさっきの投稿を開いてみた。
あ、ルームウェアを買おうとしたら品切れだったって書いてある。あれ可愛いもんね。私たちで宣伝ができたのなら良かった。
ルームウェア買ったんですかってコメントも多いな……美月の許可が出れば写真載せられるんだけど。
「おはようございまーす。あれ、美月寝てるの? 陽葵さんもお疲れ様です」
柚葉ちゃんが元気に楽屋に入ってきて、テーブルに突っ伏した美月を見て不思議そうに近寄ってきた。
「寝てない」
「みたいだね。どうしたの?」
「んー、ちょっとね」
自分から言うつもりは無いみたいで、適当に返事をしている。
「見てー! 早速買ってきちゃった」
「ぐっ……」
じゃーん、と柚葉ちゃんがバッグから取り出したのは例の雑誌で。美月が呻いているのを面白そうに見ている。この感じだと他にも買ってくるメンバー居そうだな……
「おはよ。 それ陽葵と美月のやつ? 柚葉ちゃんもう買ってきたの? 一緒に見てもいい?」
「もちろんです! 一緒に見ましょうー!」
凛花も楽屋に来るなり柚葉ちゃんが持っている雑誌を見つけて、いつの間にか座っている。
「陽葵が配信で言ってた、押し倒されたってやつがこれか……これはやばい。え、この腕枕とかもう事後じゃん」
「凛花さんっ?! 変なこと言わないでもらえますか?!」
凛花がニヤニヤしながらとんでもないことをぶっ込んでくるから、知らんぷりしてた美月が反応してしまっている。あー、そんなにいい反応しちゃって、凛花の思う壷だわ……
「いや、だって布団で絶妙に服見えないし。着てるよね?」
「着てますっ!! スタッフさんに囲まれてるのに脱ぐわけないじゃないですか?!」
「え、2人なら脱ぐってこと?」
「なに、美月そうなの?」
「柚に陽葵ちゃんまでっ?! そういうことじゃなくてっ!!」
真っ赤になって言い返す美月を2人がニヤニヤしながら見ている。私も一緒になって可愛いなぁって弄っていたら、こっちを気にしていた美南ちゃん達も集まってきた。
「雑誌の話ですか?! 混ぜてくださいー!」
「そうそう! この写真がもうやばいよねって」
「分かります! 需要分かりすぎてて妄想が止まりません」
「ルームウェア可愛いなって思って調べたら、もう品切れなんですよ! 宣伝効果絶大ですよね!」
一気に騒がしくなったけれど、美月はさっき反射的に反応してしまって弄られたからか、イヤホンをして机にぺたっと頬をつけて、会話を聞かないことにしたみたい。
「陽葵さん、オフショットないんですか?」
「あるある! 何枚か撮ってるよ。この辺かな」
スマホをテーブルに置いて、撮影の日の写真を表示する。
「うわ、この美月さん可愛いっ!!」
「陽葵を見る目が優しすぎるんだけど!」
少しの空き時間でルームウェア姿の美月にスマホを向けたら、最初は照れてこっちを向いてくれなかったけれど、話しているうちに私の好きな表情を見せてくれた。目を細めて笑う姿にキュンとして平常心を保つのが大変だった。
メイキング用のカメラにデレデレな私がバッチリ映っているかもしれない。
「あれ、この写真も撮影の時のやつですか?」
一通りオフショットを見せて画面を戻すと、待ち受けにしていた部屋で撮った写真に美南ちゃんが反応した。
「え、でもこれ背景違うよね?」
「もしかしてお家でも着てるんですか?!」
投稿しちゃダメって言ってたけど、メンバーになら見せていいかな? チラッと美月を見たけれど、こっちを見ないようにしているから気づいていない。
「うん。私の家で撮ったやつ。気に入って買っちゃったんだ」
「買ったんだ! 美月は買いそうにないけど……」
凛花が不思議そうに言うけれど、やっぱりそう思うよね。大抵Tシャツ短パンかスウェットだし。
「似合ってたから絶対家でも着てもらおうと思って、美月の分も買ったの」
「よく着てくれたね?」
「それはまあ、優しさにつけ込んで?」
うわ、また悪い顔して、なんて言われたけどそんなに悪い顔してたかな? 確かにちょっと甘えてお願いしてみたけど。
「この写真は投稿しないんですか?」
「したいんだけど美月がダメだって言うからさ」
「可愛いのに残念です……」
残念そうにされたけれど、また雑誌に戻ってきゃあきゃあ盛り上がり始めたからスマホをしまった。
着慣れてくれば載せることもあるかもしれないけど、次またいつ着てくれるかも分からないから、そんな日が来るのかどうか……
「……ん? なにー?」
じっと美月を見ていたから何か用があるかと思ったのか、片耳のイヤホンを外して見上げてきた。可愛いんですけど……
「何聞いてるのかなー? って」
「陽葵ちゃんも聞く?」
「ぇっ?!」
考えてたことなんて言えないから無難に質問してみたら、はい、とイヤホンを片方渡された。
……突然のデレ?! 驚きすぎて固まっていたら、聞かないなら返してーって回収されそうになったから慌ててイヤホンをつけた。メンバーもいるのにどうしたの?!
嬉しさを抑えられずにいたら、またそうやってイチャイチャしてー! なんてはやし立てられたけれど、美月からのデレなんて貴重すぎるから見逃して欲しい。
耳が薄ら赤くなっているから、美月自身もらしくないことをしている自覚はあるらしい。
収録が始まるまでの間、遠慮なくイチャイチャ出来たから見てわかるほど機嫌が良かったらしく、マネージャーさんに気味悪がられたけれど、歌とダンスの出来は褒めて貰えた。
このデレが継続してくれたらいいけれどどうだろ?
*****
楽屋で雑誌について弄られて、絡まれないようにとイヤホンを付けて音楽を聞いていた。視線を感じて顔を上げると陽葵ちゃんがじっと見ていて。メンバーは雑誌に集中してるし、寂しくなったのかな?
「……ん? なにー?」
「何聞いてるのかなー? って」
片耳のイヤホンを外して聞いてみると、視線を逸らしながら聞いている曲を聞かれた。なんとなく、甘えたいのかなって思ってイヤホンを差し出してみた。
「陽葵ちゃんも聞く?」
「ぇっ?!」
あれ、喜んでくれるかなって思ったけど、イヤホンを受け取ったまま固まってる……
「聞かないなら返してー?」
「あ、聞く聞く!」
慌ててイヤホンを付けて、隣にぴったりくっついてきた。
にこにこしている陽葵ちゃんを見て、可愛いなあってほのぼのしていたら、雑誌を見ていたはずのメンバーからまたイチャイチャしてるー! なんてはやし立てられた。
片耳のイヤホンを陽葵ちゃんに渡しちゃったから聞こえちゃうし、なんか恥ずかしくなってきた……
あっちは見ないようにしよ。
スマホを覗き込んで、この曲いいよね、とか今度はこれ聞こう、とか話しながら過ごしていたらあっという間に収録の時間になった。
陽葵ちゃんはいつにも増して笑顔が眩しくて、歌もダンスも完璧だった。ちょっと機嫌が良すぎてマネージャーさんが困惑していたくらい。
曲の途中で陽葵ちゃんと目を合わせる場面があって、見つめてくる視線が優しいし、笑顔は可愛すぎるし、収録中なのに抱きしめたくなってしまった。
収録の後はダンスレッスンのため、レッスンスタジオへみんなで移動する。柚葉と並んで歩いていると、前の方では陽葵ちゃんがテンション高く凛花さん達と盛り上がっているみたい。
「今日の陽葵さん、テンション高いよね? なんか笑顔が眩しいんだけど」
「うん。分かる」
素直に認めるなんて珍しいー! なんて柚がニヤニヤしてくるけれど、本当にそう思うんだから仕方ない。
レッスン着に着替えて、時間までスマホゲームでもしようとスタジオの端の方に移動する。
後輩に囲まれて楽しそうにする陽葵ちゃんを目で追ってしまって、複雑な気持ちになりつつゲームを始めたけれど、いつの間にか熱中してしまっていて、レッスン開始の時間になっていた。
陽葵ちゃんは長い髪をポニーテールにしていて、いつもは隠れているお揃いのピアスがよく見える。気を抜くとにやけちゃってるけど誰も見てないよね?
今は私は参加しない曲だから見学しているのだけれど、気づくと陽葵ちゃんばかり見つめてしまっている。
「なににやにやしてるのかなー?」
「わ、凛花さん?! なんでもないです」
バッチリ凛花さんに目撃されたし……
「なんかさ、美月今日雰囲気違くない?」
「え、そうですか?」
なんでだろ? と不思議そうにされたけれど、自分ではよく分からない。
「上手く言えないんだけど、陽葵に対する態度がいつもと違うっていうか。あ、悪い意味じゃないよ? なんか自信というか、彼氏感?」
「彼氏感……敬語やめたからですかね?」
陽葵ちゃんが思ってたよりも気にしているみたいだし、もうバレてるし思い切って敬語をやめてみた。
「あ、そっか確かに今日はタメ口だね。それで陽葵がああなのか」
だからかー、と納得したように頷いている。え、陽葵ちゃんの機嫌がいいのってそういうこと?
「美月にイヤホン渡されて分かりやすいくらいデレデレしてたもんね」
「あー、もう忘れてくださーい」
自分でもらしくない事をしたなって思うのに、改めて言われると照れる。言うだけ言って満足したのか、ま、お幸せにーとにやにやしながら別のメンバーのところに向かっていった。
何しに来たんだ……
私が参加する曲のレッスンが始まって、振りを確認する。所々忘れているところはあったけれど、意外と踊れて安心した。これでも2期生だし、後輩が沢山いる中でかっこ悪いところは見せられない。
ダンスレッスンが終わり、もう各自解散でいいのだけれど、陽葵ちゃんは途中で次の仕事に移動していてもう居ないし、帰っても暇だな、となんとなく残っている。
同じように残っている何人かと雑談をしていると、柚がスマホを向けてきた。写真かな?
「今日はダンスレッスンでしたー!」
「え、何、動画?」
「写真かと思いましたよ!」
「こんばんはー!」
みんな写真かと思って止まったのに、まさかの動画……わちゃわちゃする様子を満足そうに映して、ストーリー載せるねー、とSNSを開いている。
せっかくなら写真も撮ろう、とSNS用に写真も撮ったから、今日の投稿はこの写真を載せようかな。
SNSを開くと、今日の写真を投稿しているメンバーが多くて、その中には陽葵ちゃんが写っている写真もあった。みんな可愛いけれど、やっぱり陽葵ちゃんが一番可愛い。
「ねえ、陽葵さんのピアスって美月とお揃い?」
「え、なんで?」
ほら、と柚が見せてくれた画面には、生配信の時の私のスクショと、今日の陽葵ちゃんの写真が並んで載っていた。この短時間でみんなよく見つけるなぁ……
「わ、確かによく似てますね!」
「美月さんが今付けてるやつですよね?」
「え、お揃いなんですか?」
投稿された陽葵ちゃんの写真と、私のピアスを見比べて期待した目で見てくる後輩たちに嘘なんてつけないよね……
「うん。お揃い」
「お揃いやばい!」
「片方ずつ分けてる辺りがもう……」
「なんかもう、ありがとうございますって感じです」
答えると、きゃあきゃあ盛り上がり始めて、何故か喜ばれた。
「陽葵さん今日は髪束ねてたもんね。それにしても皆よく見てるね」
「ほんとそれ」
今日は雑誌も発売されたし、雑誌の方がメインでピアスはそんなに注目されないとは思うけど。
次も身につけるものをお揃いにしようかな、なんて考えてしまって、いつでも態度が変わらない陽葵ちゃん寄りの思考になってきている気がして、影響を受けているな、とくすぐったい気持ちになった。
近づいてみると中心には美南ちゃんと望実ちゃんがいて、本か何かを見ているみたい。
「おはよ。みんなで何見てるの?」
「え、陽葵さん?! おはようございます!」
「「おはようございます」」
声をかけると、私が来たことに気づいていなかったのか、驚かせてしまった。
「あ、もう買ってくれたんだ?」
テーブルには美月と撮影をした雑誌が置いてあって、誰かが買ってくれたみたい。美南ちゃんかな?
「もう、これなんなんですか?! ヤバすぎですよ!!」
「お互いを見つめる視線がもう……!!」
「この写真とかやばくないですか?」
特にベッドで撮影した写真に大興奮で、この写真が、いやこっちが、盛り上がっている。
先行で見本を頂いていたから自分でも確認しているけれど、生の反応を見ると、やっぱり攻めた内容だよなぁ……と実感する。
美月なんて真っ赤になって見れてなかったもんね。
「陽葵さん、この撮影の時ってメイキング撮ってないんですか?」
「撮ってたと思うよ。放送の予定は無いと思うけど」
映像になるとガチ感が凄くて放送できないんじゃないかなって思ったり。ベッドに寝転びながら自由に話したりしてくださいって言われてちょっとイチャイチャしたら女性スタッフさん達の反応が物凄かった。その反応を楽しんでしまった私って変態……?
「予定ないんですね……残念」
「でも反響が凄かったらあるんじゃないですか? さっきSNS見たらすごい盛り上がりでしたよ」
え、見たい! とSNSを確認し始めたから今のうちにとその場を離れて入口近くに座る。美月が来たら向こうに捕まる前に確保しないと。
「おはようございまーす」
「美月、静かにこっち来て」
少し待つと美月が入ってきたので呼び寄せる。
「陽葵ちゃんおはよ。静かにってなんで??」
あれ、と人だかりを指差すと、不思議そうにしたけれど、雑誌、と伝えるとみるみる赤くなった。
「わ、もう誰か買ったの? 絶対近づきたくない……」
「私さっき行ってきたけど凄いテンションだったよ」
「メンバーに見られるとか恥ずかしすぎる……帰りたい……」
机に突っ伏して呟く美月の頭を撫でていると、美月が来たことに気づいた美南ちゃんと目が合った。しーっとジェスチャーをすると、叫びそうなのか口元を抑えて何度も頷いてくれた。
「しばらくは弄られるの覚悟しておかないとね。発売記念の生配信でもする?」
「……しない。無理。今日発売ですってお知らせするのも恥ずかしいのに」
うあー、と唸る美月を横目にSNSを開いてお知らせを投稿する。部屋で撮った写真はダメって言われたから、写真は載せていない。それにしてもこの前の美月、可愛かったな……
「ニヤニヤしすぎじゃない? コメント??」
「ん? この前の美月が可愛かったなって」
「なっ……?!」
顔を上げた美月に怪訝そうにされたけれど、私の言葉に真っ赤になって再び机に突っ伏した。
そういえば、今日は楽屋なのに最初からタメ口だ……私が拗ねたからとうとう敬語やめてくれるのかな?
「変なこと言わないで?!」
「ごめんって。美月も投稿したら?」
はーい、と突っ伏した体制のままで投稿をし始めたので私もコメントを見てみようとさっきの投稿を開いてみた。
あ、ルームウェアを買おうとしたら品切れだったって書いてある。あれ可愛いもんね。私たちで宣伝ができたのなら良かった。
ルームウェア買ったんですかってコメントも多いな……美月の許可が出れば写真載せられるんだけど。
「おはようございまーす。あれ、美月寝てるの? 陽葵さんもお疲れ様です」
柚葉ちゃんが元気に楽屋に入ってきて、テーブルに突っ伏した美月を見て不思議そうに近寄ってきた。
「寝てない」
「みたいだね。どうしたの?」
「んー、ちょっとね」
自分から言うつもりは無いみたいで、適当に返事をしている。
「見てー! 早速買ってきちゃった」
「ぐっ……」
じゃーん、と柚葉ちゃんがバッグから取り出したのは例の雑誌で。美月が呻いているのを面白そうに見ている。この感じだと他にも買ってくるメンバー居そうだな……
「おはよ。 それ陽葵と美月のやつ? 柚葉ちゃんもう買ってきたの? 一緒に見てもいい?」
「もちろんです! 一緒に見ましょうー!」
凛花も楽屋に来るなり柚葉ちゃんが持っている雑誌を見つけて、いつの間にか座っている。
「陽葵が配信で言ってた、押し倒されたってやつがこれか……これはやばい。え、この腕枕とかもう事後じゃん」
「凛花さんっ?! 変なこと言わないでもらえますか?!」
凛花がニヤニヤしながらとんでもないことをぶっ込んでくるから、知らんぷりしてた美月が反応してしまっている。あー、そんなにいい反応しちゃって、凛花の思う壷だわ……
「いや、だって布団で絶妙に服見えないし。着てるよね?」
「着てますっ!! スタッフさんに囲まれてるのに脱ぐわけないじゃないですか?!」
「え、2人なら脱ぐってこと?」
「なに、美月そうなの?」
「柚に陽葵ちゃんまでっ?! そういうことじゃなくてっ!!」
真っ赤になって言い返す美月を2人がニヤニヤしながら見ている。私も一緒になって可愛いなぁって弄っていたら、こっちを気にしていた美南ちゃん達も集まってきた。
「雑誌の話ですか?! 混ぜてくださいー!」
「そうそう! この写真がもうやばいよねって」
「分かります! 需要分かりすぎてて妄想が止まりません」
「ルームウェア可愛いなって思って調べたら、もう品切れなんですよ! 宣伝効果絶大ですよね!」
一気に騒がしくなったけれど、美月はさっき反射的に反応してしまって弄られたからか、イヤホンをして机にぺたっと頬をつけて、会話を聞かないことにしたみたい。
「陽葵さん、オフショットないんですか?」
「あるある! 何枚か撮ってるよ。この辺かな」
スマホをテーブルに置いて、撮影の日の写真を表示する。
「うわ、この美月さん可愛いっ!!」
「陽葵を見る目が優しすぎるんだけど!」
少しの空き時間でルームウェア姿の美月にスマホを向けたら、最初は照れてこっちを向いてくれなかったけれど、話しているうちに私の好きな表情を見せてくれた。目を細めて笑う姿にキュンとして平常心を保つのが大変だった。
メイキング用のカメラにデレデレな私がバッチリ映っているかもしれない。
「あれ、この写真も撮影の時のやつですか?」
一通りオフショットを見せて画面を戻すと、待ち受けにしていた部屋で撮った写真に美南ちゃんが反応した。
「え、でもこれ背景違うよね?」
「もしかしてお家でも着てるんですか?!」
投稿しちゃダメって言ってたけど、メンバーになら見せていいかな? チラッと美月を見たけれど、こっちを見ないようにしているから気づいていない。
「うん。私の家で撮ったやつ。気に入って買っちゃったんだ」
「買ったんだ! 美月は買いそうにないけど……」
凛花が不思議そうに言うけれど、やっぱりそう思うよね。大抵Tシャツ短パンかスウェットだし。
「似合ってたから絶対家でも着てもらおうと思って、美月の分も買ったの」
「よく着てくれたね?」
「それはまあ、優しさにつけ込んで?」
うわ、また悪い顔して、なんて言われたけどそんなに悪い顔してたかな? 確かにちょっと甘えてお願いしてみたけど。
「この写真は投稿しないんですか?」
「したいんだけど美月がダメだって言うからさ」
「可愛いのに残念です……」
残念そうにされたけれど、また雑誌に戻ってきゃあきゃあ盛り上がり始めたからスマホをしまった。
着慣れてくれば載せることもあるかもしれないけど、次またいつ着てくれるかも分からないから、そんな日が来るのかどうか……
「……ん? なにー?」
じっと美月を見ていたから何か用があるかと思ったのか、片耳のイヤホンを外して見上げてきた。可愛いんですけど……
「何聞いてるのかなー? って」
「陽葵ちゃんも聞く?」
「ぇっ?!」
考えてたことなんて言えないから無難に質問してみたら、はい、とイヤホンを片方渡された。
……突然のデレ?! 驚きすぎて固まっていたら、聞かないなら返してーって回収されそうになったから慌ててイヤホンをつけた。メンバーもいるのにどうしたの?!
嬉しさを抑えられずにいたら、またそうやってイチャイチャしてー! なんてはやし立てられたけれど、美月からのデレなんて貴重すぎるから見逃して欲しい。
耳が薄ら赤くなっているから、美月自身もらしくないことをしている自覚はあるらしい。
収録が始まるまでの間、遠慮なくイチャイチャ出来たから見てわかるほど機嫌が良かったらしく、マネージャーさんに気味悪がられたけれど、歌とダンスの出来は褒めて貰えた。
このデレが継続してくれたらいいけれどどうだろ?
*****
楽屋で雑誌について弄られて、絡まれないようにとイヤホンを付けて音楽を聞いていた。視線を感じて顔を上げると陽葵ちゃんがじっと見ていて。メンバーは雑誌に集中してるし、寂しくなったのかな?
「……ん? なにー?」
「何聞いてるのかなー? って」
片耳のイヤホンを外して聞いてみると、視線を逸らしながら聞いている曲を聞かれた。なんとなく、甘えたいのかなって思ってイヤホンを差し出してみた。
「陽葵ちゃんも聞く?」
「ぇっ?!」
あれ、喜んでくれるかなって思ったけど、イヤホンを受け取ったまま固まってる……
「聞かないなら返してー?」
「あ、聞く聞く!」
慌ててイヤホンを付けて、隣にぴったりくっついてきた。
にこにこしている陽葵ちゃんを見て、可愛いなあってほのぼのしていたら、雑誌を見ていたはずのメンバーからまたイチャイチャしてるー! なんてはやし立てられた。
片耳のイヤホンを陽葵ちゃんに渡しちゃったから聞こえちゃうし、なんか恥ずかしくなってきた……
あっちは見ないようにしよ。
スマホを覗き込んで、この曲いいよね、とか今度はこれ聞こう、とか話しながら過ごしていたらあっという間に収録の時間になった。
陽葵ちゃんはいつにも増して笑顔が眩しくて、歌もダンスも完璧だった。ちょっと機嫌が良すぎてマネージャーさんが困惑していたくらい。
曲の途中で陽葵ちゃんと目を合わせる場面があって、見つめてくる視線が優しいし、笑顔は可愛すぎるし、収録中なのに抱きしめたくなってしまった。
収録の後はダンスレッスンのため、レッスンスタジオへみんなで移動する。柚葉と並んで歩いていると、前の方では陽葵ちゃんがテンション高く凛花さん達と盛り上がっているみたい。
「今日の陽葵さん、テンション高いよね? なんか笑顔が眩しいんだけど」
「うん。分かる」
素直に認めるなんて珍しいー! なんて柚がニヤニヤしてくるけれど、本当にそう思うんだから仕方ない。
レッスン着に着替えて、時間までスマホゲームでもしようとスタジオの端の方に移動する。
後輩に囲まれて楽しそうにする陽葵ちゃんを目で追ってしまって、複雑な気持ちになりつつゲームを始めたけれど、いつの間にか熱中してしまっていて、レッスン開始の時間になっていた。
陽葵ちゃんは長い髪をポニーテールにしていて、いつもは隠れているお揃いのピアスがよく見える。気を抜くとにやけちゃってるけど誰も見てないよね?
今は私は参加しない曲だから見学しているのだけれど、気づくと陽葵ちゃんばかり見つめてしまっている。
「なににやにやしてるのかなー?」
「わ、凛花さん?! なんでもないです」
バッチリ凛花さんに目撃されたし……
「なんかさ、美月今日雰囲気違くない?」
「え、そうですか?」
なんでだろ? と不思議そうにされたけれど、自分ではよく分からない。
「上手く言えないんだけど、陽葵に対する態度がいつもと違うっていうか。あ、悪い意味じゃないよ? なんか自信というか、彼氏感?」
「彼氏感……敬語やめたからですかね?」
陽葵ちゃんが思ってたよりも気にしているみたいだし、もうバレてるし思い切って敬語をやめてみた。
「あ、そっか確かに今日はタメ口だね。それで陽葵がああなのか」
だからかー、と納得したように頷いている。え、陽葵ちゃんの機嫌がいいのってそういうこと?
「美月にイヤホン渡されて分かりやすいくらいデレデレしてたもんね」
「あー、もう忘れてくださーい」
自分でもらしくない事をしたなって思うのに、改めて言われると照れる。言うだけ言って満足したのか、ま、お幸せにーとにやにやしながら別のメンバーのところに向かっていった。
何しに来たんだ……
私が参加する曲のレッスンが始まって、振りを確認する。所々忘れているところはあったけれど、意外と踊れて安心した。これでも2期生だし、後輩が沢山いる中でかっこ悪いところは見せられない。
ダンスレッスンが終わり、もう各自解散でいいのだけれど、陽葵ちゃんは途中で次の仕事に移動していてもう居ないし、帰っても暇だな、となんとなく残っている。
同じように残っている何人かと雑談をしていると、柚がスマホを向けてきた。写真かな?
「今日はダンスレッスンでしたー!」
「え、何、動画?」
「写真かと思いましたよ!」
「こんばんはー!」
みんな写真かと思って止まったのに、まさかの動画……わちゃわちゃする様子を満足そうに映して、ストーリー載せるねー、とSNSを開いている。
せっかくなら写真も撮ろう、とSNS用に写真も撮ったから、今日の投稿はこの写真を載せようかな。
SNSを開くと、今日の写真を投稿しているメンバーが多くて、その中には陽葵ちゃんが写っている写真もあった。みんな可愛いけれど、やっぱり陽葵ちゃんが一番可愛い。
「ねえ、陽葵さんのピアスって美月とお揃い?」
「え、なんで?」
ほら、と柚が見せてくれた画面には、生配信の時の私のスクショと、今日の陽葵ちゃんの写真が並んで載っていた。この短時間でみんなよく見つけるなぁ……
「わ、確かによく似てますね!」
「美月さんが今付けてるやつですよね?」
「え、お揃いなんですか?」
投稿された陽葵ちゃんの写真と、私のピアスを見比べて期待した目で見てくる後輩たちに嘘なんてつけないよね……
「うん。お揃い」
「お揃いやばい!」
「片方ずつ分けてる辺りがもう……」
「なんかもう、ありがとうございますって感じです」
答えると、きゃあきゃあ盛り上がり始めて、何故か喜ばれた。
「陽葵さん今日は髪束ねてたもんね。それにしても皆よく見てるね」
「ほんとそれ」
今日は雑誌も発売されたし、雑誌の方がメインでピアスはそんなに注目されないとは思うけど。
次も身につけるものをお揃いにしようかな、なんて考えてしまって、いつでも態度が変わらない陽葵ちゃん寄りの思考になってきている気がして、影響を受けているな、とくすぐったい気持ちになった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
45
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる