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前編
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毎週水曜日の14時からきっかり1時間。
それがユリアンナと我が神龍国の王太子ルードヴィッヒの十年以上欠かさず続くお茶会だ。
婚約者の粗を探そうとでもいうのか、猛禽のように鋭い視線でユリアンナの一挙一投足を見つめるルードヴィッヒの視線が痛い。
目の前に広がる美味しそうなお菓子の山を尻目にお行儀良くお茶を嗜むしかないユリアンナは苦行のような1時間が過ぎるのをひたすら待った。
全部美味しそうなのに、こんなに見張られたら食べられないじゃないのよー。
あぁ、ミルフィーユ美味しそう。サクサクのパイ生地にたっぷり濃厚なカスタードクリームが詰まって。あんなに大粒のいちごが…
食べられないわ。あれを崩さずに上品にいただくなんて至難の業。
試練だわ。あぁ、まだ見張ってるわ。良いわ。暇だし、私も見てやろうじゃないのよ。
目の前に座るルードヴィッヒは黙って鑑賞するにはなかなか見応えのある芸術品だ。
神龍国は古来神龍が人であった番の為に神たる龍の地位を棄て只人となり地上に開いた国とされる。その為王族は神龍の末裔だとされているのだ。
その王族の中でももっとも神龍の血が濃く出たとされるのが王太子ルードヴィッヒだ。
肖像画にある始祖王の姿そのまま、神のごとき美しく長い銀の髪に翡翠の瞳。飾り気のない黒一色のの軍服すら彼の美貌を引き立てる。
ストイックな軍服の詰襟へ流れる銀糸の髪が華やかさを添えている。逆にイケナイものをみているような色気がある。
その人ならざる程に整った容貌に崇拝するものも多い。
熱狂的なルードヴィッヒファンは多く、ユリアンナは婚約者として妬まれそうだが、妬まれることは最早ない。
なぜなら神龍国での王族の婚約者とは、番が現れるまでの当座のしのぎにすぎないからだ。
いや、普通ならばすぐに番が見つかり、仮の婚約者は准王族の地位を授かり、結婚相手に困ることのないくらい引く手あまたとなるのだが…。
ルードヴィッヒの番がなかなか見つからないせいで長々と拘束され、行き遅れ間近のユリアンナの事を同情する人は多い。
長年ルードヴィッヒの婚約者として美貌の彼の隣で引立て役となり行事をこなし、王太子妃教育を教えられるくらい完璧に記憶させられたユリアンナはルードヴィッヒの最大の被害者だ。
ユリアンナの中途半端な地位に同情した令嬢達から兄弟を紹介される事もしばしばだ。
『番様が見つかってから探すなんて、手遅れになりますわよ。ユリアンナ様、我が兄なんてどうかしら?』
『あら、うちの弟のほうが…』
親切な令嬢達には感謝するが、幼い頃からルードヴィッヒの完璧な美貌を見慣れたユリアンナには、残念ながらどの男性にも心惹かれることはなかった。
忙しいルードヴィッヒの公務に同伴したり王太子妃教育を受けたり、孤児院の慰問をしたりと何かと忙しいユリアンナには令嬢達の紹介してくれた方々とお見合いをする時間もなかった。
そうして手をこまねいているうちに、ご令嬢達お勧めの兄弟は、すぐに相手が見つかり結婚していった。この世は弱肉強食、良い男はすぐに狩られますわよ、と兄君を勧めてきたご令嬢の忠告が耳に痛い。
せめてこの週一度のお茶会がなければ時間がつくれるのに。
週一度なんて毎回話すネタなどないのにルードヴィッヒが定例のお茶会を欠かしたことはない。
律儀だ。こんな無意味な1時間を過ごすならさっさと番を捜せば良いのに…。
律儀すぎるルートヴィッヒは、事あるごとに自身の色である翡翠色のドレスやアクセサリーを贈ってくれる。
お陰で、ユリアンナのクローゼットは翡翠色一色だ。彼との婚約破棄後不要になる大量のそれらが不憫すぎる。
王族は番を捜し出し、その番と結婚する。今までに番以外と結婚した王族はいない。
だからこそ、ルードヴィッヒは無駄なお茶会を止めて番を捜し、ユリアンナは真の結婚相手を探す。しごく効率的ではないか。
ルートヴィッヒからそっと目を逸らす。紅茶を飲むふりをして、そっとルードヴィッヒを盗み見た。
長く美しい銀糸の髪がサラりと黒い軍服に流れる。番を見つけた王族はあの美しい髪をバッサリ切って番に捧げるのだ。
けっ。
ユリアンナはやさぐれた。
ユリアンナだって行き遅れ間近とはいえ17歳の女の子だ。
ルードヴィッヒと幼い頃から仮とはいえ婚約者として過ごすうちに、あの長い美しい髪を捧げられて愛を囁かれたらと何度夢見たことか。
ルードヴィッヒとユリアンナは子供の頃はルー、ユーリと呼び合うくらい仲が良かったのだ。
大きくなったら、結婚しようねなんて、たわいのない約束に頷かなければ良かった。
仮の婚約者として叶わぬ想いを抱えながら、番が現れる日が来ることに戦々恐々と過ごすなんて辛すぎる。
子供の頃に戻れたらやり直せるのかな?
いや、もし戻れるならば出逢ったあの日ルードヴィッヒから『僕の髪をあげる』と言われた時に戻って、遠慮なく髪を貰うだろう。
天使のようなルードヴィッヒに似合うあまりに美しい髪が切られるのがもったいなくて『要らない』と答えてしまったのだ。
あの時のルードヴィッヒの絶望感に満ちた哀しげな顔が忘れられない。
その哀しい顔のまま『じゃあ、結婚しようよ』と言われてしまったのだ。これを断ったらさすがにヤバいと、子供の他愛ない約束に見せて『大人になったら結婚しようね』と答えたのだ。
まさか、翌日に婚約が決まるなんて思いもよらなかった。
戻れるならばあの綺麗な髪を貰い。重要な婚約の方を回避したい。
10年以上想っているユリアンナを差し置いて、いきなりあらわれた番がルードヴィッヒの髪を手にするのだ。
揃えた髪の切れっ端でも記念に欲しいのに、ルードヴィッヒはユリアンナと出逢ってから一度たりとも髪を切った事がないのだ。
ルードヴィッヒもいつかは番を見つけてあの美しい髪を捧げるのだろう。
見たくないな。
それに、こんなに長い間仮の婚約者の地位に甘んじてやっている自分にその髪の一本でもくれたらいいのに。
ケチ、ルーのドケチ
ユリアンナは外面は淑女の微笑みを浮かべながら心の中でルードヴィッヒを罵倒した。
それがユリアンナと我が神龍国の王太子ルードヴィッヒの十年以上欠かさず続くお茶会だ。
婚約者の粗を探そうとでもいうのか、猛禽のように鋭い視線でユリアンナの一挙一投足を見つめるルードヴィッヒの視線が痛い。
目の前に広がる美味しそうなお菓子の山を尻目にお行儀良くお茶を嗜むしかないユリアンナは苦行のような1時間が過ぎるのをひたすら待った。
全部美味しそうなのに、こんなに見張られたら食べられないじゃないのよー。
あぁ、ミルフィーユ美味しそう。サクサクのパイ生地にたっぷり濃厚なカスタードクリームが詰まって。あんなに大粒のいちごが…
食べられないわ。あれを崩さずに上品にいただくなんて至難の業。
試練だわ。あぁ、まだ見張ってるわ。良いわ。暇だし、私も見てやろうじゃないのよ。
目の前に座るルードヴィッヒは黙って鑑賞するにはなかなか見応えのある芸術品だ。
神龍国は古来神龍が人であった番の為に神たる龍の地位を棄て只人となり地上に開いた国とされる。その為王族は神龍の末裔だとされているのだ。
その王族の中でももっとも神龍の血が濃く出たとされるのが王太子ルードヴィッヒだ。
肖像画にある始祖王の姿そのまま、神のごとき美しく長い銀の髪に翡翠の瞳。飾り気のない黒一色のの軍服すら彼の美貌を引き立てる。
ストイックな軍服の詰襟へ流れる銀糸の髪が華やかさを添えている。逆にイケナイものをみているような色気がある。
その人ならざる程に整った容貌に崇拝するものも多い。
熱狂的なルードヴィッヒファンは多く、ユリアンナは婚約者として妬まれそうだが、妬まれることは最早ない。
なぜなら神龍国での王族の婚約者とは、番が現れるまでの当座のしのぎにすぎないからだ。
いや、普通ならばすぐに番が見つかり、仮の婚約者は准王族の地位を授かり、結婚相手に困ることのないくらい引く手あまたとなるのだが…。
ルードヴィッヒの番がなかなか見つからないせいで長々と拘束され、行き遅れ間近のユリアンナの事を同情する人は多い。
長年ルードヴィッヒの婚約者として美貌の彼の隣で引立て役となり行事をこなし、王太子妃教育を教えられるくらい完璧に記憶させられたユリアンナはルードヴィッヒの最大の被害者だ。
ユリアンナの中途半端な地位に同情した令嬢達から兄弟を紹介される事もしばしばだ。
『番様が見つかってから探すなんて、手遅れになりますわよ。ユリアンナ様、我が兄なんてどうかしら?』
『あら、うちの弟のほうが…』
親切な令嬢達には感謝するが、幼い頃からルードヴィッヒの完璧な美貌を見慣れたユリアンナには、残念ながらどの男性にも心惹かれることはなかった。
忙しいルードヴィッヒの公務に同伴したり王太子妃教育を受けたり、孤児院の慰問をしたりと何かと忙しいユリアンナには令嬢達の紹介してくれた方々とお見合いをする時間もなかった。
そうして手をこまねいているうちに、ご令嬢達お勧めの兄弟は、すぐに相手が見つかり結婚していった。この世は弱肉強食、良い男はすぐに狩られますわよ、と兄君を勧めてきたご令嬢の忠告が耳に痛い。
せめてこの週一度のお茶会がなければ時間がつくれるのに。
週一度なんて毎回話すネタなどないのにルードヴィッヒが定例のお茶会を欠かしたことはない。
律儀だ。こんな無意味な1時間を過ごすならさっさと番を捜せば良いのに…。
律儀すぎるルートヴィッヒは、事あるごとに自身の色である翡翠色のドレスやアクセサリーを贈ってくれる。
お陰で、ユリアンナのクローゼットは翡翠色一色だ。彼との婚約破棄後不要になる大量のそれらが不憫すぎる。
王族は番を捜し出し、その番と結婚する。今までに番以外と結婚した王族はいない。
だからこそ、ルードヴィッヒは無駄なお茶会を止めて番を捜し、ユリアンナは真の結婚相手を探す。しごく効率的ではないか。
ルートヴィッヒからそっと目を逸らす。紅茶を飲むふりをして、そっとルードヴィッヒを盗み見た。
長く美しい銀糸の髪がサラりと黒い軍服に流れる。番を見つけた王族はあの美しい髪をバッサリ切って番に捧げるのだ。
けっ。
ユリアンナはやさぐれた。
ユリアンナだって行き遅れ間近とはいえ17歳の女の子だ。
ルードヴィッヒと幼い頃から仮とはいえ婚約者として過ごすうちに、あの長い美しい髪を捧げられて愛を囁かれたらと何度夢見たことか。
ルードヴィッヒとユリアンナは子供の頃はルー、ユーリと呼び合うくらい仲が良かったのだ。
大きくなったら、結婚しようねなんて、たわいのない約束に頷かなければ良かった。
仮の婚約者として叶わぬ想いを抱えながら、番が現れる日が来ることに戦々恐々と過ごすなんて辛すぎる。
子供の頃に戻れたらやり直せるのかな?
いや、もし戻れるならば出逢ったあの日ルードヴィッヒから『僕の髪をあげる』と言われた時に戻って、遠慮なく髪を貰うだろう。
天使のようなルードヴィッヒに似合うあまりに美しい髪が切られるのがもったいなくて『要らない』と答えてしまったのだ。
あの時のルードヴィッヒの絶望感に満ちた哀しげな顔が忘れられない。
その哀しい顔のまま『じゃあ、結婚しようよ』と言われてしまったのだ。これを断ったらさすがにヤバいと、子供の他愛ない約束に見せて『大人になったら結婚しようね』と答えたのだ。
まさか、翌日に婚約が決まるなんて思いもよらなかった。
戻れるならばあの綺麗な髪を貰い。重要な婚約の方を回避したい。
10年以上想っているユリアンナを差し置いて、いきなりあらわれた番がルードヴィッヒの髪を手にするのだ。
揃えた髪の切れっ端でも記念に欲しいのに、ルードヴィッヒはユリアンナと出逢ってから一度たりとも髪を切った事がないのだ。
ルードヴィッヒもいつかは番を見つけてあの美しい髪を捧げるのだろう。
見たくないな。
それに、こんなに長い間仮の婚約者の地位に甘んじてやっている自分にその髪の一本でもくれたらいいのに。
ケチ、ルーのドケチ
ユリアンナは外面は淑女の微笑みを浮かべながら心の中でルードヴィッヒを罵倒した。
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