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天上に捧げる音

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神殿は、今まで演奏していた王子宮のホールよりもなお音の響きが良かった。
 計算され尽くしたその空間に私たちの音が響き渡る。


 ゲームとは別格の荘厳で華麗な音の羅列に耳が、身体が充たされる。
 指先から、紡ぎだされる音がキラキラと光を帯びていくように見えた。
 最後の一音が天上にすいこまれる。涙が溢れた。

 天上から、まるで祝福するかのようにキラキラと金色の粒子が私達に降り注いだ。

 とてつもなく美しく儚い光景を胸に刻んだ。


 クロード殿下が私の泣き顔が見えないようにがっしりと抱き抱えてくれたから、そのまま殿下の胸に顔を埋めて泣いた。

 私このまま、ここにいたい。

みんなといたいよ。クロード殿下と離れたくない。


 でも、主人公レンに醜い嫉妬をして、嫌われるのは嫌。
 冷たい目で見られるのは嫌。

 クロード殿下の腕の中で身をよじる。クロード殿下が優しい眼差しで私を見つめる。

 その眼差しを心に焼き付ける。

 さよなら。
彼が主人公レンに出会う前に。
 そのまなざしを私以外に向ける前に。

 ゲーム開始まであと2ヶ月。
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