四季姫Biography~陰陽師少女転生譚~

幹谷セイ

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第三部 四季姫革命の巻

二十二章interval~京に散る鬼たち~

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 鬱蒼と杉の木が茂る、森の中。
 陽の光もほとんど差し込まない薄暗い場所に、かたりは降り立った。
 後から、四体の鬼たちが続いて地上に足を付ける。
 語は自慢気だった。
 こんなに強くて立派な化け物たちが、忠実な下僕として語の下に就いたのだ、気持ちが大きくならないはずがない。
 語が満足して、大きな四鬼よんきたちを見上げていると、四鬼たちは周囲を見渡し、精神を研ぎ澄まして何らかの気配を探っている様子だった。
 しばらくして、望む結果が得られなかったのか、残念そうに息を吐いた。
「我が主の気配は、既になし。先に常世へ参られたか」
 四鬼の言う主とは、かつてこいつらを使役していた男―—藤原千万ちかただ。
 数百年前に封印されてから今までの時間の流れを、あまり実感できていないのかもしれない。
 それでも死を現実と受け止めた今、別れを惜しむくらいには千方を尊敬していたのだろう。
 そんな気持ちも、意志を持つ生命体ならば持っていて当然の感情だ。犬だって、飼い主と死に別れれば、寂しいと感じる。鬼が犬でも持ち合わせる感情を、持たなくてどうする。
 それほど主人に対して篤い忠義を抱けるのならば、新しい主である語に対しても、同様の忠誠心を示してくるはずだ。
 優秀な下僕たちに満足し、語は四鬼に笑いかけた。
「今は僕が、お前たちのご主人様だよ。僕のために存分に暴れて、ヘイアン時代を滅茶苦茶にするんだ」
 四鬼たちは、初めて語を視界に入れた。
 しばらく無言で見つめていたが、やがて興味を失くした様子で視線を逸らした。
「断る」
「何だって?」
 短い拒否の言葉に、流石の語も動揺して、しばらく言葉を失った。
 脳内を素早く回転させて、その言葉の意図を詳細に分析する。
 鬼たちの言葉が、語に対する侮蔑の意志なのだと結論が出ると同時に、怒りが込み上げてきた。
「ふざけるなよ! お前たちを封印から出してやったのは、この僕なんだぞ!」
 殺気を込めて怒鳴りつけるも、四鬼たちはどこ吹く風だ。
 何の感情もなく、口々に淡々と言葉を紡ぐ。
「我らが仕えるに相応しきものは、我らが認めた、強き魂を持つもの。この世に於いて、心惹かれる気高き魂の姿は感じられど、その持ち主は其方ではない」
「其方の魂は、弱い。弱いくせに歪み、穢れ、おぞましい力に覆われておる。分不相応な力だ」
「扱いきれぬ力を棄て、其方自身の魂を磨かれよ。さすれば、輝きをとり戻し、我らにとって相応しき主になれる時が、来るかもしれぬ」
 三体の鬼たちが、語に背を向けた。
「我らは各々、心から認めし気高い魂を持つものの元に向かう」
 それだけ告げて、飛んで行ってしまった。
 語は、生まれて初めてではないかと思える、あっけない侮辱を受けて、怒り心頭に達した。
 顔が熱くなり、心臓が激しく高鳴る。頭に必要以上の血が巡り、ガンガンと激しく脈打った。
「何なんだ、あの恩知らず共! 馬鹿じゃないのか? 僕の凄さも分からないなんて……!」
 側の、杉の木の巨木を蹴りつける。悪鬼の力を纏った一撃で、杉の木はにべもなく根元から折れて、激しい音を立てながら倒れた。
 こんな巨大な木も、一発でこの様だ。こんなにも語は強いのに、弱いと蔑まれ、侮蔑される意味が分からない。
 本当に強く偉大な存在が何なのかも分からない、低能な連中。所詮、鬼は鬼。下等でくだらない一族だ。
 馬鹿は嫌いだ。いなくなって、せいせいする。
 少し頭も冷えてくると、側に一体だけ、鬼が残っていると気付いた。
 赤茶けた鎧を身に纏った、影の薄い、大人しそうな鬼だ。
「お前は、いつまでいるつもり? さっさと、どこかに行けば?」
 もう今更、あんな鬼どもに何の興味も湧かない。目の前に居残っている、この鬼にもだ。
 鼻を鳴らして吐き捨てると、その鬼は静かに口を開いた。
「我は、其方の中で輝く魂の輝きに惹かれたり。ぜひ、其方の側にて、この力、使わせていただきたい」
 鬼の意外な言葉に、語も少し、感心した。
 あの鬼どもの中で唯一、まともに頭を働かせられる奴がいた、というわけか。
 別に悪くはなかった。頭を下げてくるなら、良い心がけだ。目をかけてやっても構わない。
「ふん、勝手にしなよ。あーあ。結局、一体しか残らなかった。これじゃあ、京ごと邪魔な奴らを皆殺しにはできないな……」
 単体であれば、鬼閻よりも弱く、つまらない存在。派手に暴れられない点は、残念で退屈だった。
 だが、目的さえ果たせれば、それでいいだろう。語は頭の中で素早く計画を変更して、思考を切り替えた。
「いいや、もう直接、お母様を殺して終わりにしよう。いい加減、この時代も飽きちゃった」
 語はつまらなさそうに、鬼を見上げる。
「お前の名前は?」
「我が名は、隠形鬼おんぎょうき。四鬼の中で最も気配を絶ち、人知れず敵を屠るに長けた鬼なり」
「じゃあ、その力を使って、誰にも気付かれずに、紬姫を見つけて、殺してみなよ」
 特に期待をしているわけでもない。成功すればそれで終わりだし、失敗すればまた語が動くだけだ。捨て駒程度には使えるだろう。
 語の考えなんて知る由もないだろうが、隠形鬼は膝を折り、深々と頭を下げた。
「御意。主の仰せのままに」
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