273 / 336
第三部 四季姫革命の巻
二十二章interval~京に散る鬼たち~
しおりを挟む
鬱蒼と杉の木が茂る、森の中。
陽の光もほとんど差し込まない薄暗い場所に、語は降り立った。
後から、四体の鬼たちが続いて地上に足を付ける。
語は自慢気だった。
こんなに強くて立派な化け物たちが、忠実な下僕として語の下に就いたのだ、気持ちが大きくならないはずがない。
語が満足して、大きな四鬼たちを見上げていると、四鬼たちは周囲を見渡し、精神を研ぎ澄まして何らかの気配を探っている様子だった。
しばらくして、望む結果が得られなかったのか、残念そうに息を吐いた。
「我が主の気配は、既になし。先に常世へ参られたか」
四鬼の言う主とは、かつてこいつらを使役していた男―—藤原千万だ。
数百年前に封印されてから今までの時間の流れを、あまり実感できていないのかもしれない。
それでも死を現実と受け止めた今、別れを惜しむくらいには千方を尊敬していたのだろう。
そんな気持ちも、意志を持つ生命体ならば持っていて当然の感情だ。犬だって、飼い主と死に別れれば、寂しいと感じる。鬼が犬でも持ち合わせる感情を、持たなくてどうする。
それほど主人に対して篤い忠義を抱けるのならば、新しい主である語に対しても、同様の忠誠心を示してくるはずだ。
優秀な下僕たちに満足し、語は四鬼に笑いかけた。
「今は僕が、お前たちのご主人様だよ。僕のために存分に暴れて、ヘイアン時代を滅茶苦茶にするんだ」
四鬼たちは、初めて語を視界に入れた。
しばらく無言で見つめていたが、やがて興味を失くした様子で視線を逸らした。
「断る」
「何だって?」
短い拒否の言葉に、流石の語も動揺して、しばらく言葉を失った。
脳内を素早く回転させて、その言葉の意図を詳細に分析する。
鬼たちの言葉が、語に対する侮蔑の意志なのだと結論が出ると同時に、怒りが込み上げてきた。
「ふざけるなよ! お前たちを封印から出してやったのは、この僕なんだぞ!」
殺気を込めて怒鳴りつけるも、四鬼たちはどこ吹く風だ。
何の感情もなく、口々に淡々と言葉を紡ぐ。
「我らが仕えるに相応しきものは、我らが認めた、強き魂を持つもの。この世に於いて、心惹かれる気高き魂の姿は感じられど、その持ち主は其方ではない」
「其方の魂は、弱い。弱いくせに歪み、穢れ、おぞましい力に覆われておる。分不相応な力だ」
「扱いきれぬ力を棄て、其方自身の魂を磨かれよ。さすれば、輝きをとり戻し、我らにとって相応しき主になれる時が、来るかもしれぬ」
三体の鬼たちが、語に背を向けた。
「我らは各々、心から認めし気高い魂を持つものの元に向かう」
それだけ告げて、飛んで行ってしまった。
語は、生まれて初めてではないかと思える、あっけない侮辱を受けて、怒り心頭に達した。
顔が熱くなり、心臓が激しく高鳴る。頭に必要以上の血が巡り、ガンガンと激しく脈打った。
「何なんだ、あの恩知らず共! 馬鹿じゃないのか? 僕の凄さも分からないなんて……!」
側の、杉の木の巨木を蹴りつける。悪鬼の力を纏った一撃で、杉の木はにべもなく根元から折れて、激しい音を立てながら倒れた。
こんな巨大な木も、一発でこの様だ。こんなにも語は強いのに、弱いと蔑まれ、侮蔑される意味が分からない。
本当に強く偉大な存在が何なのかも分からない、低能な連中。所詮、鬼は鬼。下等でくだらない一族だ。
馬鹿は嫌いだ。いなくなって、せいせいする。
少し頭も冷えてくると、側に一体だけ、鬼が残っていると気付いた。
赤茶けた鎧を身に纏った、影の薄い、大人しそうな鬼だ。
「お前は、いつまでいるつもり? さっさと、どこかに行けば?」
もう今更、あんな鬼どもに何の興味も湧かない。目の前に居残っている、この鬼にもだ。
鼻を鳴らして吐き捨てると、その鬼は静かに口を開いた。
「我は、其方の中で輝く魂の輝きに惹かれたり。ぜひ、其方の側にて、この力、使わせていただきたい」
鬼の意外な言葉に、語も少し、感心した。
あの鬼どもの中で唯一、まともに頭を働かせられる奴がいた、というわけか。
別に悪くはなかった。頭を下げてくるなら、良い心がけだ。目をかけてやっても構わない。
「ふん、勝手にしなよ。あーあ。結局、一体しか残らなかった。これじゃあ、京ごと邪魔な奴らを皆殺しにはできないな……」
単体であれば、鬼閻よりも弱く、つまらない存在。派手に暴れられない点は、残念で退屈だった。
だが、目的さえ果たせれば、それでいいだろう。語は頭の中で素早く計画を変更して、思考を切り替えた。
「いいや、もう直接、お母様を殺して終わりにしよう。いい加減、この時代も飽きちゃった」
語はつまらなさそうに、鬼を見上げる。
「お前の名前は?」
「我が名は、隠形鬼。四鬼の中で最も気配を絶ち、人知れず敵を屠るに長けた鬼なり」
「じゃあ、その力を使って、誰にも気付かれずに、紬姫を見つけて、殺してみなよ」
特に期待をしているわけでもない。成功すればそれで終わりだし、失敗すればまた語が動くだけだ。捨て駒程度には使えるだろう。
語の考えなんて知る由もないだろうが、隠形鬼は膝を折り、深々と頭を下げた。
「御意。主の仰せのままに」
陽の光もほとんど差し込まない薄暗い場所に、語は降り立った。
後から、四体の鬼たちが続いて地上に足を付ける。
語は自慢気だった。
こんなに強くて立派な化け物たちが、忠実な下僕として語の下に就いたのだ、気持ちが大きくならないはずがない。
語が満足して、大きな四鬼たちを見上げていると、四鬼たちは周囲を見渡し、精神を研ぎ澄まして何らかの気配を探っている様子だった。
しばらくして、望む結果が得られなかったのか、残念そうに息を吐いた。
「我が主の気配は、既になし。先に常世へ参られたか」
四鬼の言う主とは、かつてこいつらを使役していた男―—藤原千万だ。
数百年前に封印されてから今までの時間の流れを、あまり実感できていないのかもしれない。
それでも死を現実と受け止めた今、別れを惜しむくらいには千方を尊敬していたのだろう。
そんな気持ちも、意志を持つ生命体ならば持っていて当然の感情だ。犬だって、飼い主と死に別れれば、寂しいと感じる。鬼が犬でも持ち合わせる感情を、持たなくてどうする。
それほど主人に対して篤い忠義を抱けるのならば、新しい主である語に対しても、同様の忠誠心を示してくるはずだ。
優秀な下僕たちに満足し、語は四鬼に笑いかけた。
「今は僕が、お前たちのご主人様だよ。僕のために存分に暴れて、ヘイアン時代を滅茶苦茶にするんだ」
四鬼たちは、初めて語を視界に入れた。
しばらく無言で見つめていたが、やがて興味を失くした様子で視線を逸らした。
「断る」
「何だって?」
短い拒否の言葉に、流石の語も動揺して、しばらく言葉を失った。
脳内を素早く回転させて、その言葉の意図を詳細に分析する。
鬼たちの言葉が、語に対する侮蔑の意志なのだと結論が出ると同時に、怒りが込み上げてきた。
「ふざけるなよ! お前たちを封印から出してやったのは、この僕なんだぞ!」
殺気を込めて怒鳴りつけるも、四鬼たちはどこ吹く風だ。
何の感情もなく、口々に淡々と言葉を紡ぐ。
「我らが仕えるに相応しきものは、我らが認めた、強き魂を持つもの。この世に於いて、心惹かれる気高き魂の姿は感じられど、その持ち主は其方ではない」
「其方の魂は、弱い。弱いくせに歪み、穢れ、おぞましい力に覆われておる。分不相応な力だ」
「扱いきれぬ力を棄て、其方自身の魂を磨かれよ。さすれば、輝きをとり戻し、我らにとって相応しき主になれる時が、来るかもしれぬ」
三体の鬼たちが、語に背を向けた。
「我らは各々、心から認めし気高い魂を持つものの元に向かう」
それだけ告げて、飛んで行ってしまった。
語は、生まれて初めてではないかと思える、あっけない侮辱を受けて、怒り心頭に達した。
顔が熱くなり、心臓が激しく高鳴る。頭に必要以上の血が巡り、ガンガンと激しく脈打った。
「何なんだ、あの恩知らず共! 馬鹿じゃないのか? 僕の凄さも分からないなんて……!」
側の、杉の木の巨木を蹴りつける。悪鬼の力を纏った一撃で、杉の木はにべもなく根元から折れて、激しい音を立てながら倒れた。
こんな巨大な木も、一発でこの様だ。こんなにも語は強いのに、弱いと蔑まれ、侮蔑される意味が分からない。
本当に強く偉大な存在が何なのかも分からない、低能な連中。所詮、鬼は鬼。下等でくだらない一族だ。
馬鹿は嫌いだ。いなくなって、せいせいする。
少し頭も冷えてくると、側に一体だけ、鬼が残っていると気付いた。
赤茶けた鎧を身に纏った、影の薄い、大人しそうな鬼だ。
「お前は、いつまでいるつもり? さっさと、どこかに行けば?」
もう今更、あんな鬼どもに何の興味も湧かない。目の前に居残っている、この鬼にもだ。
鼻を鳴らして吐き捨てると、その鬼は静かに口を開いた。
「我は、其方の中で輝く魂の輝きに惹かれたり。ぜひ、其方の側にて、この力、使わせていただきたい」
鬼の意外な言葉に、語も少し、感心した。
あの鬼どもの中で唯一、まともに頭を働かせられる奴がいた、というわけか。
別に悪くはなかった。頭を下げてくるなら、良い心がけだ。目をかけてやっても構わない。
「ふん、勝手にしなよ。あーあ。結局、一体しか残らなかった。これじゃあ、京ごと邪魔な奴らを皆殺しにはできないな……」
単体であれば、鬼閻よりも弱く、つまらない存在。派手に暴れられない点は、残念で退屈だった。
だが、目的さえ果たせれば、それでいいだろう。語は頭の中で素早く計画を変更して、思考を切り替えた。
「いいや、もう直接、お母様を殺して終わりにしよう。いい加減、この時代も飽きちゃった」
語はつまらなさそうに、鬼を見上げる。
「お前の名前は?」
「我が名は、隠形鬼。四鬼の中で最も気配を絶ち、人知れず敵を屠るに長けた鬼なり」
「じゃあ、その力を使って、誰にも気付かれずに、紬姫を見つけて、殺してみなよ」
特に期待をしているわけでもない。成功すればそれで終わりだし、失敗すればまた語が動くだけだ。捨て駒程度には使えるだろう。
語の考えなんて知る由もないだろうが、隠形鬼は膝を折り、深々と頭を下げた。
「御意。主の仰せのままに」
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜
遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった!
木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。
「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」
そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
汚部屋女神に無茶振りされたアラサー清掃員、チートな浄化スキルで魔境ダンジョンを快適ソロライフ聖域に変えます!
虹湖🌈
ファンタジー
女神様、さては…汚部屋の住人ですね? もう足の踏み場がありませーん><
面倒な人間関係はゼロ! 掃除で稼いで推し活に生きる! そんな快適ソロライフを夢見るオタク清掃員が、ダメ女神に振り回されながらも、世界一汚いダンジョンを自分だけの楽園に作り変えていく、異世界お掃除ファンタジー。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる