四季姫Biography~陰陽師少女転生譚~

幹谷セイ

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第一部 四季姫覚醒の巻

第一章 夏姫覚醒 7

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 祈りを捧げた直後。榎の体を、真っ白な光が包み込んだ。
「なんだ!? 体が、すごく熱い……!」
「なんと、この輝きは……! 覚醒の光か!?」
 月麿は眩しそうに両目を手で覆い、指の隙間から榎を見つめて、声をあげた。
 全身を、痺れに似た感覚が襲った。治まったと思ったら、次は体が火照って、頭がいつもより重く感じた。
 朦朧とする意識の奥から、榎の知り得ない何かが、浮かび上がってきた。
  大きな力を秘めた言の葉だと、無意識に理解した。
「いと高き 夏の日差しの 力以て 天へ伸びゆく 清き百合花」
 口が勝手に動き、よく分からない言葉が紡がれていった。まるで榎の体が、榎のものではなくなっていく気がした。
「――夏姫、ここに見参!」
 榎は勝手にポーズをとり、叫んでいた。
わっぱ、お主、女子おなごであったのか……!」
 月麿の言葉で我に返り、驚いた。
 手に握って構えているものが、木刀ではなく本物の白銀の剣になっていた。
 驚いて体をのけ反らせ、さらに驚いた。肌に触れる着衣の感触が違うと思ったら、榎は赤い袴と、幾重にも重ねられた、緑色を基調としたカラフルな着物を身にまとっていた。
 前に社会科の教科書で見た、平安時代の十二単じゅうにひとえと呼ばれる着物に、よく似ていた。
 重量感がありそうなのに、まったく重くない。とても身軽に体を動かせた。
「綺麗な着物……。髪、長い髪が頭についてる!」
 さらに、榎の後頭部では、長い髪が頭上で結われ、ポニーテールとなって足元近くまで伸びていた。
「どうなっているんだ、いったい!?」
「夏姫よ! 今のお主ならば、退魔の力を使って貧乏神を倒せる! やるのじゃ、一撃必殺じゃ!」
 パニックになる榎に、月麿が激を飛ばした。何がなんだかさっばり分からないままだったが、「貧乏神を倒せる」という言葉に反応し、無意識に剣を構えた。
「――空蝉うつせみの如く散れ。〝竹水ちくすい斬撃ざんげき〟!」
 自然と体が動き、榎は貧乏神に剣を振りかざした。
 剣はぼんやりとした青白い光を帯びていた。
 先ほどとは違い、白銀の刃に物質が触れる感覚がする。
 一刀両断のもとに、榎の剣戟は貧乏神を切り捨てた。切っ先から、美しい水飛沫が、辺りに飛び散った。
 貧乏神はおぞましい悲鳴を上げて、倒れた。
 傷口から真っ白い煙を立ち上らせ、その場から跡形もなく消え去った。
「あはれなり! 見事な一撃!」
「倒した。あたしが、貧乏神を……」
 剣を下ろし、榎は改めて、すっかり変わってしまった立ち姿に呆然とした。
 嬉しそうに駆け寄ってくる月麿が視界に入った。瞬間、我に返った。
「っていうか、なんだよ、この格好は! どういうわけか説明しろ、知っているんだろう、お前!」
 思わず月麿の襟首を掴んで、勢いよく前後に振った。
「ぐふあっ、ややめぬか、まま麿を掴んで揺らすとは、ぶぶ無礼な!」
 榎は、喚く月麿を問い詰めようと、躍起になった。
「へえ、貧乏神を一撃とは。なかなかやるな、夏姫の生まれ変わり」
 突然、頭上から声が落ちてきた。榎は動きを止め、声のした方角へ顔を上げた。
「誰だ、偉そうに、知った風な口をきく奴は!」
 視線の先には、榎と同じくらいの年の少年が木の又に腰掛けて笑っていた。長い黒髪を後ろで東ねた、同じく黒い着物を身に纏った、目つきの悪い少年だった。
 背中にはえた、烏を連想させる真っ黒な羽が、少年が人間ではない事実を、物語っていた。
「……お前は、さっきの鳥人間!」
「変な名前で呼ぶんじゃねえよ。俺の名は、宵月夜よいつくよだ」
「宵月夜……? お前も、貧乏神と同じ、妖怪ってやつなのか?」
「あんな、人間に取り憑かないと何もできない低能な輩と、一緒にするな。俺は、妖怪を使役する権利を持つ妖怪だ。格が違うんだよ」
 宵月夜は少し不愉快そうに表情を歪めたが、すぐに榎を見下す形相で、笑みを浮かべた。
「お前が俺を、黒神石の封印から解いてくれたんだってな。一応、感謝しておくぜ。昔のお前には、言いたかった文句が山ほどあるが、礼も兼ねて今日は大人しく引いてやる。次に会った時には八つ裂きにしてやるからな、覚悟しておけ」
 律儀なのかどうかは分からないが、宵月夜は榎に礼らしい言葉を伝え、大空へと飛び去っていった。榎は遠くなっていく黒い影を、唖然と見上げるしかできなかった。
「くっ、お主、夏姫として覚醒したはよいが、とんでもない失態をやらかしてくれたのう。ことの重大さを、理解しておるのか!?」
 同じく宵月夜を見上げていた月麿が、榎に怒鳴りつけてきた。
 我に返った榎は、月麿の襟首を掴んでいる理由を、思い出した。
「ことの重大さ? 分かるかぁ―!! 一から百まで、納得のいく説明をしろ―!!」
「分かった、分かったから、揺らすでない!」
 再び、月麿を前後に振りまくって、大声を張り上げた。
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