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第一部 四季姫覚醒の巻
第四章 悪鬼邂逅 6
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六
瓦礫の隙間には、幼稚園児くらいの子供が横たわっていた。
子供は、気を失っていた。左足の膝から下が、岩に挟まれて、動けなくなっている。
「大丈夫か!? すぐに助けるからな!」
榎は傘を投げ捨て、近くから硬くて丈夫そうな木の棒を引っ張り出し、岩の根元に突き刺した。梃子の原理で、岩を退かそうと考えた。重い岩は、榎が全力で棒を押しても、なかなか動かなかった。
椿も一緒に、体重を掛けて棒を押してくれた。
ようやく、岩が動き始めた。
周がすかさず、子供を岩の下から救助した。
体を動かされて、子供は意識を取り戻した。榎たちに囲まれていると気付いた途端、怯えの色を見せて、激しくもがき始めた。
「人間だ! 近寄るな!」
暴れる子供を取り押さえようと、榎が腕を伸ばした。榎の手に、震える子供が、勢いよく噛み付いた。
「痛いな! 何するんだよ、こいつ……!」
反射的に、榎は腕を振り払った。子供に向かって怒ろうとしたが、椿に制止された。
「待って、えのちゃん。この子、様子がおかしいわ」
注意して、子供を良く見てみると、頭から獣の耳が生えていた。お尻からは尻尾が生えてきて、だんだん、人間の形相が崩れてきた。
やがて子供は、栗毛の狸へと姿を変えた。
「妖怪、みたいどすな。化け狸、っちゅうやつでっしゃろか?」
狸や狐は、生まれたときから妖力を持つ、賢い動物らしい。見たものを記憶する能力に長け、人や物に変身する力を持つものもいると言われていた。
この狸も、人間の子供に化けていたらしい。正体を知られて、狸はさらに、警戒心を強めた。
「怖がらんでも、ええどす。誰も、ポン吉くんを虐めたりせんどす」
勝手に名前をつけて、周は狸に話しかけた。
「おいら、ポン吉じゃねえ! 狸宇だ! 人間なんか、ここ、怖くないぞ! 離せ、噛み付いてやる!」
強気な台詞とは裏腹に、化け狸の狸宇は、必死に威嚇していた。
「感心しまへんなぁ。助けてもろうといて、そないな乱暴な態度は。人の親切を受けたら、きちんとお礼を言わなあきまへん」
周は無表情で、狸宇の口を両手で押さえつけた。しばらくもがいていた狸宇だったが、抵抗できないと気付いて、震えながらも大人しくなった。
「ありぎゃとう、ございましゅ……」
尻尾を股の間に挟めて、狸宇は塞がれた口の隙間から、泣きそうな声でお礼を言った。
「さっちゃん、すごいわ。妖怪を手懐けてる」
「脅しているとも言うな……」
物は言いようだが、結果的に、周は狸宇を掌中に治めた。
「ポン吉くん、他の妖怪はんたちは、どないしましたんや? 皆無事に、土砂崩れから逃げられましたんか?」
「知らねえ。知ってたって、人間なんかに教えるか、阿呆!」
暴言を吐いた狸宇は、周に再び、口元を締めつけられた。
「おいらが、一番、最後に逃げたきゃら、皆、無事だと、おもいましゅ……」
「なら、良かったどす。どこに避難してはるんやろうなぁ。ポン吉くんも、早くみんなのところに帰りたいどすなぁ?」
「帰りたい、でしゅ」
「雨も小降りになってきたし、少し山の奥に入って、探してみようか」
榎は山裾に沿って、ゆっくりと歩き始めた。
直後。空から思い羽音が聞こえてきた。見上げると、山伏衣装の大きな烏が、頭上でホバリングしていた。
八咫だった。
「狸宇、狸宇よ! 無事であったか!」
八咫は狸宇の姿を視界に捉え、安心した口調で声を張り上げた。
「八咫さま! おいら、生きてるよ!」
狸宇も嬉しそうに、八咫に向かってキャンキャン鳴いた。八咫は狸宇めがけて滑空を試みたが、途中、周や椿の姿に気付いたらしく、慌てて中止した。
「くわあっ! 狸宇が、人間に捕われておる! 何たる悲劇じゃ、せっかく崖崩れから無事に生還したというのに。人間の手のうちにあっては、無事とはいえぬではないか!」
周に取り押さえられている狸宇を見て、八咫は悲痛そうに、嘴を戦慄かせた。
「お話の分かる方が、いらしてくださったどす。八咫はん、他の妖怪はんたちは、みんな無事どすか?」
「無論だ。皆、山の外に避難しておる」
警戒はしていたが、周の質問にはあっさりと応えた。
「八咫はんがおっしゃるなら、間違いありまへんな。安心したどす。お見舞いの生八つ橋、持ってきたどす。お家が壊れて大変でっしゃろうけど、気を落とさずにな」
周はビニール袋に厳重に包んだ生八つ橋の箱を、頭上に差し出した。
「やや、これはどうも、ご丁寧に」
八咫はすいすい、と周に寄ってきて、箱を受け取った。
「お前ら、本当に八つ橋、好きだよな……」
榎は呆れて、肩の力を抜いた。
瞬間。背筋に悪寒が走った。どこからともなく、空気が震え始め、周囲を妖気が包み込んだ。
突然、空気の塊みたいなものがとんできた。榎は椿と周を庇い、咄嗟に避けた。塊は地面にぶつかり、小さな穴を開けた。
「八咫! 人間どもから離れろ!」
頭上から、怒りを含んだ少年の声が響いた。
反射的に見上げると、榎たちの真上に、宵月夜が浮かんでいた。
瓦礫の隙間には、幼稚園児くらいの子供が横たわっていた。
子供は、気を失っていた。左足の膝から下が、岩に挟まれて、動けなくなっている。
「大丈夫か!? すぐに助けるからな!」
榎は傘を投げ捨て、近くから硬くて丈夫そうな木の棒を引っ張り出し、岩の根元に突き刺した。梃子の原理で、岩を退かそうと考えた。重い岩は、榎が全力で棒を押しても、なかなか動かなかった。
椿も一緒に、体重を掛けて棒を押してくれた。
ようやく、岩が動き始めた。
周がすかさず、子供を岩の下から救助した。
体を動かされて、子供は意識を取り戻した。榎たちに囲まれていると気付いた途端、怯えの色を見せて、激しくもがき始めた。
「人間だ! 近寄るな!」
暴れる子供を取り押さえようと、榎が腕を伸ばした。榎の手に、震える子供が、勢いよく噛み付いた。
「痛いな! 何するんだよ、こいつ……!」
反射的に、榎は腕を振り払った。子供に向かって怒ろうとしたが、椿に制止された。
「待って、えのちゃん。この子、様子がおかしいわ」
注意して、子供を良く見てみると、頭から獣の耳が生えていた。お尻からは尻尾が生えてきて、だんだん、人間の形相が崩れてきた。
やがて子供は、栗毛の狸へと姿を変えた。
「妖怪、みたいどすな。化け狸、っちゅうやつでっしゃろか?」
狸や狐は、生まれたときから妖力を持つ、賢い動物らしい。見たものを記憶する能力に長け、人や物に変身する力を持つものもいると言われていた。
この狸も、人間の子供に化けていたらしい。正体を知られて、狸はさらに、警戒心を強めた。
「怖がらんでも、ええどす。誰も、ポン吉くんを虐めたりせんどす」
勝手に名前をつけて、周は狸に話しかけた。
「おいら、ポン吉じゃねえ! 狸宇だ! 人間なんか、ここ、怖くないぞ! 離せ、噛み付いてやる!」
強気な台詞とは裏腹に、化け狸の狸宇は、必死に威嚇していた。
「感心しまへんなぁ。助けてもろうといて、そないな乱暴な態度は。人の親切を受けたら、きちんとお礼を言わなあきまへん」
周は無表情で、狸宇の口を両手で押さえつけた。しばらくもがいていた狸宇だったが、抵抗できないと気付いて、震えながらも大人しくなった。
「ありぎゃとう、ございましゅ……」
尻尾を股の間に挟めて、狸宇は塞がれた口の隙間から、泣きそうな声でお礼を言った。
「さっちゃん、すごいわ。妖怪を手懐けてる」
「脅しているとも言うな……」
物は言いようだが、結果的に、周は狸宇を掌中に治めた。
「ポン吉くん、他の妖怪はんたちは、どないしましたんや? 皆無事に、土砂崩れから逃げられましたんか?」
「知らねえ。知ってたって、人間なんかに教えるか、阿呆!」
暴言を吐いた狸宇は、周に再び、口元を締めつけられた。
「おいらが、一番、最後に逃げたきゃら、皆、無事だと、おもいましゅ……」
「なら、良かったどす。どこに避難してはるんやろうなぁ。ポン吉くんも、早くみんなのところに帰りたいどすなぁ?」
「帰りたい、でしゅ」
「雨も小降りになってきたし、少し山の奥に入って、探してみようか」
榎は山裾に沿って、ゆっくりと歩き始めた。
直後。空から思い羽音が聞こえてきた。見上げると、山伏衣装の大きな烏が、頭上でホバリングしていた。
八咫だった。
「狸宇、狸宇よ! 無事であったか!」
八咫は狸宇の姿を視界に捉え、安心した口調で声を張り上げた。
「八咫さま! おいら、生きてるよ!」
狸宇も嬉しそうに、八咫に向かってキャンキャン鳴いた。八咫は狸宇めがけて滑空を試みたが、途中、周や椿の姿に気付いたらしく、慌てて中止した。
「くわあっ! 狸宇が、人間に捕われておる! 何たる悲劇じゃ、せっかく崖崩れから無事に生還したというのに。人間の手のうちにあっては、無事とはいえぬではないか!」
周に取り押さえられている狸宇を見て、八咫は悲痛そうに、嘴を戦慄かせた。
「お話の分かる方が、いらしてくださったどす。八咫はん、他の妖怪はんたちは、みんな無事どすか?」
「無論だ。皆、山の外に避難しておる」
警戒はしていたが、周の質問にはあっさりと応えた。
「八咫はんがおっしゃるなら、間違いありまへんな。安心したどす。お見舞いの生八つ橋、持ってきたどす。お家が壊れて大変でっしゃろうけど、気を落とさずにな」
周はビニール袋に厳重に包んだ生八つ橋の箱を、頭上に差し出した。
「やや、これはどうも、ご丁寧に」
八咫はすいすい、と周に寄ってきて、箱を受け取った。
「お前ら、本当に八つ橋、好きだよな……」
榎は呆れて、肩の力を抜いた。
瞬間。背筋に悪寒が走った。どこからともなく、空気が震え始め、周囲を妖気が包み込んだ。
突然、空気の塊みたいなものがとんできた。榎は椿と周を庇い、咄嗟に避けた。塊は地面にぶつかり、小さな穴を開けた。
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頭上から、怒りを含んだ少年の声が響いた。
反射的に見上げると、榎たちの真上に、宵月夜が浮かんでいた。
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