四季姫Biography~陰陽師少女転生譚~

幹谷セイ

文字の大きさ
64 / 336
第一部 四季姫覚醒の巻

第五章 冬姫覚醒 12

しおりを挟む
十二
 妖刀を討ち果たした榎たちは、倒れて転がっている虚無僧を取り囲んで、途方に暮れた。
「お坊さん、大丈夫かしら?」
 椿が心配そうに呟く。妖刀のせいで何か悪い後遺症を残していないかどうか、不安もあった。
 榎と柊がさんざん殴りつけた痕も見えないくらいだし、とりあえずは、命に別状はなさそうだが。
 頭からすっぽり被っていた籠を取り払う。中から出てきた顔は、大学生くらいの若い男の人だった。
「えらい、若い兄ちゃんやな。頭もつるつるに剃り上げとらんし、ほんまに坊主か?」
 柊が、呆れた態度で息を吐く。
 男の人は、黒髪を短く借り上げてはいるが、坊主ではない。仏僧というよりは、爽やかなスポーツ青年、といった雰囲気だった。
「最近は、有髪僧っちゅう人らも多いどすからな。コスプレやない限りは、お坊さんやと思いますけど……」
 周も、はっきりとは断言できない様子で、考え込んでいた。
 病院に連れて行ったほうがいいだろうかと躊躇っていると、男の人はかすかに呻き声を上げた。次第に首や腕を動かし始めて、目を覚ました。
「俺は、何をしとったんや……?」
 上体を起こした男は、しばらく呆然として、静かに呟いた。妖刀に取り憑かれていた間の記憶はないらしいが、他に目立った障害は見られなかった。
「意識は、はっきりしているみたい。良かったわ」
 椿は安心して、肩の力を抜いた。
 男は頭を掻きながら、榎たちの姿を順次に見ていった。
「おぼろげに、夢でも見とったみたいや。君たちは、いったい何者ですか……?」
 榎たちは、変身を解き忘れていたと気付いた。大仰な十二単を身につけた榎たちを見て、男の人は訝しげな顔をしている。
「ただの通りすがりです。お気になさらず」
 事情を説明するにも、色々と面倒が多そうだ。戦っていたときの記憶はないわけだし、榎は何も語らずに去ろうと、質問をかわした。
「坊さん、変なもんに取り憑かれとったらあかんで。寺に帰って、ちゃんとお清めしいや」
 忠告めいた言葉だけ吐き捨てて、榎たちは河原から逃げ去った。若い僧侶はしばらく、唖然と榎たちを見つめていた。
 人気のない場所へ移動して、変身を解く。空はもう、すっかり夕焼け色に染まっていた。
 柊との決着は、結局お流れになったが、榎は別にいいと思えた。
 新しい仲間も見つかったわけだし、榎自身、気持ちが大きく成長できた気がした。
「いやぁ、なかなか、貴重な体験させてもろうたわ。自分ら、うちのおらへん間に、随分と楽しい遊び、やっとってんなぁ」
 楽しそうに笑いながら、柊が言った。四季姫としての戦いをかなり堪能したらしく、満足そうな笑顔だ。
「遊びじゃないぞ。平和な世の中を、妖怪の手から守るために、使命を帯びて戦っているんだ。お前も四季姫の一人なんだから、もっと責任感を持てよ」
 だが、気楽なイベント気分では困る。冬姫として覚醒したからには、真面目に戦いをこなしてもらわなければ。榎はきっちりと説教した。
「えのちゃん、麿ちゃんみたいな台詞言ってる」
 似合わない、とでも言いたげに、椿が笑った。榎の威厳が台無しだ。
「相変わらず、堅苦しい奴やなぁ。まあ、何かの縁があって、四季姫っちゅうもんになったんや。一丁、やったろか」
 柊は気合を入れた。榎と椿も、頷いて同意した。
「よろしくね、ひいちゃん! ひいちゃんが仲間なら、とっても心強いわ」
「任せとき、うちが四季姫の看板を背負って、みんなを引っ張っていったるわ。リーダーとしてな!」
「ちょっと待て、何でお前がリーダーなんだよ! リーダーはあたしだ、一番最初に覚醒したんだし」
 何やら、聞き捨てならない言葉が飛んだ。榎は反射的に身を乗り出して、異を唱えた。
「順番なんて、関係あるかい。純粋に、一番強い奴がリーダーなんや」
「強さだって、あたしのほうが上に決まっているだろう!」
「何を言うてんねん! うちのほうが強いわ!」
 榎と柊は、互いに睨みを利かせて威嚇しあった。
「やっぱり、どっちが強いか、きっちりと決着をつけたほうがよさそうだな……」
「いつでもええで? 相手になったるわ!」
 いろんな壁を乗り越えるには、この先も多くの試練がありそうだ。まずは、目の前の自信過剰馬鹿を倒さなければ、前へは進めないらしい。榎は再び、闘争心に火を点けた。
「二人とも! いい加減に仲良くしてよ!」
 椿の大声が、夕焼け空に響き渡った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

汚部屋女神に無茶振りされたアラサー清掃員、チートな浄化スキルで魔境ダンジョンを快適ソロライフ聖域に変えます!

虹湖🌈
ファンタジー
女神様、さては…汚部屋の住人ですね? もう足の踏み場がありませーん>< 面倒な人間関係はゼロ! 掃除で稼いで推し活に生きる! そんな快適ソロライフを夢見るオタク清掃員が、ダメ女神に振り回されながらも、世界一汚いダンジョンを自分だけの楽園に作り変えていく、異世界お掃除ファンタジー。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...