167 / 336
第二部 四季姫進化の巻
第十三章 秋姫進化 8
しおりを挟む
八
翌日。
楸は約束の時間よりも早く、待ち合わせ場所の自然公園の入り口にやってきた。
まだ、紅葉には少し早い。行楽で訪れる観光客もなく、近所の住民が散歩に訪れているくらいだった。
六年振りの公園の景色を、楸は懐かしく眺めた。
事故があって以降、楸はこの公園を一度も訪れていない。
訪れられなかった、と言うほうが正しい。過去の記憶が鮮明に思い出されるのではないかと怖くて、近付けなかった。
でも、もう逃げるわけにはいかない。
もう一度、過去と向き合い、戦うと決めたのだから。
公園の広場を眺めながら、楸は深呼吸して気持ちを落ち着けていた。
やがて、待ち合わせ時間に迫る頃。
榎たち三人が、揃って公園前にやってきた。
みんなと向き合い、楸は深々と頭を下げる。
「みなさん、来てくれて、おおきにどす」
「当たり前だろう。今更、約束破る道理なんてないよ」
榎は優しく、笑いかけてくれた。
しばらく待つと、朝が一人で歩いてきた。時間ぴったりだ。
駆け寄ってくる朝を見て、柊が眉を顰めた。
「朝、宵はどないしたんや?」
昨日、約束したはずなのに、どうして朝と一緒に来なかったのか。
みんな、不思議そうに、朝の返答を待った。
朝は困った顔をして、首を横に振った。
「今朝、起こしに行ったら、既に部屋にいなかったのです……」
朝にも、居場所が分からないらしい。いったい、どこへ行ってしまったのだろう。
「薄情ね! せっかく、しゅーちゃんが誘ってくれたのに」
椿が怒るが、楸は少し、心配になった。
「どこかで、事故にでも遭われておるんでしょうか……?」
「楸絡みやったら、車に轢かれてとっも、這ってくるやろう。心配せんでも大丈夫や」
柊が笑いながら、陽気に言う。あまり、笑える話でもないが。
「もしかして、先に公園に来ているとか?」
榎が辺りを見渡す。だが、周囲に宵らしき人影は見当たらない。
「私は、見かけまへんでしたけど」
もし先に来ていれば、楸が気付いたはずだが
記憶を手繰り寄せるが、やっぱり、姿は見ていない。
絶対に来てくれると、勝手に信じ込んでいた。でも、その考えは都合が良く、おこがましく思えた。
待っていても、来る確証はない。楸たちは諦めて、公園の中に入ろうとした。
その時。側に立っていた大きな楓の木が激しく揺れ、樹上から大きな塊が落ちてきた。
全員が驚いて、声をあげる。足元には、葉っぱまみれの宵が転がっていた。
「宵はん!? 何をしてはるんどすか!」
宵は、腰を擦りながら体を起こす。歪んだ表情は、とても眠そうだ。
「おう、楸。もう朝か」
大きく欠伸をしながら、腕を伸ばしていた。
「お前、まさか、木の上で一晩過ごしていたのか?」
頬を引き攣らせて、榎が尋ねる。宵は飄々と返した。
「楸が大事な話をしてくれるんだ、寝過ごしたら大変だろうが。朝も、ちゃんと起こしてくれねーし」
「いつも起こしてるよ。お前が起きないんだよ」
朝は脱力した、呆れた表情を浮かべていた。宵はどうやら、寝起きが悪いらしい。
「集合場所にいれば、先ず遅刻はしないだろうと思ってな。いい考えだろう!?」
立ち上がった宵は、自信満々にふんぞり返った。
「猿知恵やな。もうちょっと、賢い奴かと思うとったけど」
周囲から、冷めた視線が飛ぶ。
「お前が、そこまで馬鹿だったとは……。兄として、僕は恥ずかしい」
朝は弟の情けなさに、涙ぐむ始末だ。宵は別に、気にした素振りも見せなかった。己の考えを信じて疑わない、確固たる意志を見せ付けていた。
「遅刻はしまへんけど、寒かったでっしゃろ。手も、冷とうなっとります。全身、冷えとるんと違いますか?」
初秋とはいえ、四季ヶ丘の夜は、かなり寒い。
風邪でも引いたら、大変だ。楸は宵の冷たい手を握り、体温を伝えた。
「うん、冷えてる。だから、楸が温めてくれ! 人肌で!」
宵が感極まった表情で、楸に抱きついてきた。
不意を突かれ、楸は微動だにできなかった。硬直していると、榎たちが代わって粛清を加えてくれた。
「行こうぜ、楸。そんな馬鹿、放っとけ」
木の下で再び眠りに就かされた宵を尻目に、楸はみんなに引っ張られて、公園の中に入って行った。
* * *
話を切り出せる、落ち着いた場所を探そうと、楸たちはゆっくりと、大きな池を囲む冊に沿って作られた遊歩道を、のんびりと歩いていった。
芝生の敷きつめられた、広場に辿り着いた。
「いい公園だな。四季ヶ丘の山も綺麗だけれど、ちょっと都会的な場所も悪くない」
初めて公園を訪れた榎は、辺りの景色を楽しみながらご満悦だ。
「春にはお花見、秋には紅葉狩りが楽しめるのよ。椿も小さい頃は、よく家族で遊びに来たわ」
「まあ、四季ヶ丘に住んどる者の、憩いの場って感じやな」
椿も柊も、この公園には良い印象を持っているらしい。温度差を感じて、楸は少し気疎く思えた。
「楸にとっても、思い出のある場所なんだよな?」
榎が、控えめに尋ねてくる。
楸は頷いた。決して良い思い出ではないが、忘れたくても忘れられない、大切な場所だ。
みんなが気分良く公園の雰囲気を満喫している中、話す内容ではないかもしれない。
でも、今日の目的は、全ての告白なのだから。
呼吸を整え、楸はゆっくりと、重い口を開いた。
「……小学一年生の秋。私はこの公園を出た先の峠で、家族を失いました。その後、名前を変え、叔母――母の妹にあたる、今の義母の家に引き取られました」
楸の話を、みんな真剣に聞いてくれた。
「今、一緒に住んでいる人は、楸のお母さんじゃなかったのか……」
「だから、幼稚園の頃とは違う名前に変わったのね。全然、知らなかったわ」
「一年ほど、四季が丘を離れておりましたから。噂もすぐに風化したでしょう」
「家族を失うたて、事故かいな」
柊の憶測に、楸は頷いた。
「表向きは。でも、私は、誰の仕業か、分かっておったんどす」
本題に入る。楸は、六年前に起こった出来事を、順を追って話した。
話が進めば進むほど、みんなの表情が固くなっていく。楸の胸も、だんだんと苦しくなって、声が震えた。
何とか話終えた。楸は無意識に、俯いていた。
「あたしを追い回していた妖怪が、楸の家族を……」
榎の、神妙な声が耳に響く。少し震えていた。怒りが、篭っている気もした。
「だから、ずっと捕まえようと、楸は一人で頑張っていたんだな」
「しゅーちゃん、ずっと大変な思いをしてきたのね……」
「すまんな、気付いてあげられんくて」
みんなの掛けてくる言葉が、心に突き刺さる。嫌な気持ちにさせて、同情を誘って、申し訳なく思うが、全てを話して、少し気持ちが軽くなった。
「私こそ、すみません。どうしても、皆さんを巻き込みたくなかったんどす。私が戦う目的は、あくまで私的なものどす。皆さんが四季姫として戦う使命とは、何の関係もありまへんでしたから」
「もう、無関係なんて、言わせないよ。楸の敵は、あたしたちにとっても敵だ。絶対に、倒さなくちゃいけない」
正直な気持ちを話すと、榎が楸を抱きしめてくれた。椿も柊も、手を握り、背中を擦ってくれた。
前と、同じだ。楸が意を決し、秋姫の正体を明かした時と。
心が弱く、ずっと仲間を欺き続けてきた楸を、みんなな優しく受け入れてくれた。今回も、誰一人、隠し事を続けてきた楸を責めなかった。
「辛い話をさせて、ごめん。あたしたちは、何も知らなかった。ずっと一人で、苦しんでたんだな」
「心配せんでも大丈夫や。うちらは強いねんから、妖怪なんぞには負けん」
「しゅーちゃんを、二度も同じ目になんて遭わせないわ。安心して」
涙が溢れた。楸は眼鏡の奥に指を突っ込んで、何度も何度も、濡れた目を拭った。
話してよかった。本当に心から、そう思えた。
* * *
一通り話を終え、楸たちは話題を切り替えて、妖怪退治の作戦会議に移行していた。
芝生の上に、家から持ってきた大きなビニールシートを広げて、輪になった。中心には、皆で持ち寄ったおにぎりやサンドイッチなどが広げられている。
「妖怪と戦うにしても、正体が分からなきゃな」
色々と案を出してくれようとするが、根本的な情報が欠落しているため、話が上手く進まない。
あの化け狐の妖怪がどんな存在で、どうすれば接触できるのか。四季姫が全員揃っても、確実な方法は浮かばなかった。
今まで、数多くの妖怪を倒してきた榎たちも、周囲に接近してきた妖怪や、偶然遭遇した相手を退治してきただけに過ぎない。たった一匹の妖怪をピンポイントに狙って追いかけるなんて、初めての経験だった。
「朝や宵は、妖怪に心当たりはないか?」
側で、ずっと黙って話を聞いていた朝と宵は、顔を見合わせながら、表情に難色を浮かべていた。
「――狐の妖怪は、数が多いですから、特定が難しいですね」
朝が、困った顔を見せる。楸の話だけでは、手掛かりに乏しいのだと、よく分かった。
「尻尾が、仰山ある狐どした。おそらく、上等妖怪ではないかと」
憶測も含めて、追加で説明をした。でもまだ、朝の表情は曇ったままだ。
「少し、考えさせてください。少しくらいは、候補を絞れると思います」
顔を逸らし、考え込む体勢に入ってしまった。
朝の中で、何らかの答が出てくれるといいが。
だが、いつまでも待っていられるほど、みんなは辛抱強くない。別の方法で化け狐に近付こうと、再び会議を始めた。
「正体が分かっても、捕まえられんかったら、どないもできんで」
「何か罠を張るとか、作戦を考えなくちゃな。相手が姿を見せてくれないと、何もできない」
「相手は今、えのちゃんを狙っているのでしょう? 少し危ないかもだけど、えのちゃんが囮になって、おびき出せないかしら」
なんだか、どえらい方向に話が進んでいた。
「皆さん、一緒に対策を考えていただけるんは嬉しいどすが、危険な真似は……」
榎を、敵をおびき寄せる餌に使うなんて、危なすぎる。
楸は止めようとしたが、三人の勢いは止まる気配すら見せない。
「ええ考えがあるわ! 絶対に、うまくいくで!」
柊の大声が響く。その後、提案がとめどなく続き、楸には入り込む隙間もなかった。
翌日。
楸は約束の時間よりも早く、待ち合わせ場所の自然公園の入り口にやってきた。
まだ、紅葉には少し早い。行楽で訪れる観光客もなく、近所の住民が散歩に訪れているくらいだった。
六年振りの公園の景色を、楸は懐かしく眺めた。
事故があって以降、楸はこの公園を一度も訪れていない。
訪れられなかった、と言うほうが正しい。過去の記憶が鮮明に思い出されるのではないかと怖くて、近付けなかった。
でも、もう逃げるわけにはいかない。
もう一度、過去と向き合い、戦うと決めたのだから。
公園の広場を眺めながら、楸は深呼吸して気持ちを落ち着けていた。
やがて、待ち合わせ時間に迫る頃。
榎たち三人が、揃って公園前にやってきた。
みんなと向き合い、楸は深々と頭を下げる。
「みなさん、来てくれて、おおきにどす」
「当たり前だろう。今更、約束破る道理なんてないよ」
榎は優しく、笑いかけてくれた。
しばらく待つと、朝が一人で歩いてきた。時間ぴったりだ。
駆け寄ってくる朝を見て、柊が眉を顰めた。
「朝、宵はどないしたんや?」
昨日、約束したはずなのに、どうして朝と一緒に来なかったのか。
みんな、不思議そうに、朝の返答を待った。
朝は困った顔をして、首を横に振った。
「今朝、起こしに行ったら、既に部屋にいなかったのです……」
朝にも、居場所が分からないらしい。いったい、どこへ行ってしまったのだろう。
「薄情ね! せっかく、しゅーちゃんが誘ってくれたのに」
椿が怒るが、楸は少し、心配になった。
「どこかで、事故にでも遭われておるんでしょうか……?」
「楸絡みやったら、車に轢かれてとっも、這ってくるやろう。心配せんでも大丈夫や」
柊が笑いながら、陽気に言う。あまり、笑える話でもないが。
「もしかして、先に公園に来ているとか?」
榎が辺りを見渡す。だが、周囲に宵らしき人影は見当たらない。
「私は、見かけまへんでしたけど」
もし先に来ていれば、楸が気付いたはずだが
記憶を手繰り寄せるが、やっぱり、姿は見ていない。
絶対に来てくれると、勝手に信じ込んでいた。でも、その考えは都合が良く、おこがましく思えた。
待っていても、来る確証はない。楸たちは諦めて、公園の中に入ろうとした。
その時。側に立っていた大きな楓の木が激しく揺れ、樹上から大きな塊が落ちてきた。
全員が驚いて、声をあげる。足元には、葉っぱまみれの宵が転がっていた。
「宵はん!? 何をしてはるんどすか!」
宵は、腰を擦りながら体を起こす。歪んだ表情は、とても眠そうだ。
「おう、楸。もう朝か」
大きく欠伸をしながら、腕を伸ばしていた。
「お前、まさか、木の上で一晩過ごしていたのか?」
頬を引き攣らせて、榎が尋ねる。宵は飄々と返した。
「楸が大事な話をしてくれるんだ、寝過ごしたら大変だろうが。朝も、ちゃんと起こしてくれねーし」
「いつも起こしてるよ。お前が起きないんだよ」
朝は脱力した、呆れた表情を浮かべていた。宵はどうやら、寝起きが悪いらしい。
「集合場所にいれば、先ず遅刻はしないだろうと思ってな。いい考えだろう!?」
立ち上がった宵は、自信満々にふんぞり返った。
「猿知恵やな。もうちょっと、賢い奴かと思うとったけど」
周囲から、冷めた視線が飛ぶ。
「お前が、そこまで馬鹿だったとは……。兄として、僕は恥ずかしい」
朝は弟の情けなさに、涙ぐむ始末だ。宵は別に、気にした素振りも見せなかった。己の考えを信じて疑わない、確固たる意志を見せ付けていた。
「遅刻はしまへんけど、寒かったでっしゃろ。手も、冷とうなっとります。全身、冷えとるんと違いますか?」
初秋とはいえ、四季ヶ丘の夜は、かなり寒い。
風邪でも引いたら、大変だ。楸は宵の冷たい手を握り、体温を伝えた。
「うん、冷えてる。だから、楸が温めてくれ! 人肌で!」
宵が感極まった表情で、楸に抱きついてきた。
不意を突かれ、楸は微動だにできなかった。硬直していると、榎たちが代わって粛清を加えてくれた。
「行こうぜ、楸。そんな馬鹿、放っとけ」
木の下で再び眠りに就かされた宵を尻目に、楸はみんなに引っ張られて、公園の中に入って行った。
* * *
話を切り出せる、落ち着いた場所を探そうと、楸たちはゆっくりと、大きな池を囲む冊に沿って作られた遊歩道を、のんびりと歩いていった。
芝生の敷きつめられた、広場に辿り着いた。
「いい公園だな。四季ヶ丘の山も綺麗だけれど、ちょっと都会的な場所も悪くない」
初めて公園を訪れた榎は、辺りの景色を楽しみながらご満悦だ。
「春にはお花見、秋には紅葉狩りが楽しめるのよ。椿も小さい頃は、よく家族で遊びに来たわ」
「まあ、四季ヶ丘に住んどる者の、憩いの場って感じやな」
椿も柊も、この公園には良い印象を持っているらしい。温度差を感じて、楸は少し気疎く思えた。
「楸にとっても、思い出のある場所なんだよな?」
榎が、控えめに尋ねてくる。
楸は頷いた。決して良い思い出ではないが、忘れたくても忘れられない、大切な場所だ。
みんなが気分良く公園の雰囲気を満喫している中、話す内容ではないかもしれない。
でも、今日の目的は、全ての告白なのだから。
呼吸を整え、楸はゆっくりと、重い口を開いた。
「……小学一年生の秋。私はこの公園を出た先の峠で、家族を失いました。その後、名前を変え、叔母――母の妹にあたる、今の義母の家に引き取られました」
楸の話を、みんな真剣に聞いてくれた。
「今、一緒に住んでいる人は、楸のお母さんじゃなかったのか……」
「だから、幼稚園の頃とは違う名前に変わったのね。全然、知らなかったわ」
「一年ほど、四季が丘を離れておりましたから。噂もすぐに風化したでしょう」
「家族を失うたて、事故かいな」
柊の憶測に、楸は頷いた。
「表向きは。でも、私は、誰の仕業か、分かっておったんどす」
本題に入る。楸は、六年前に起こった出来事を、順を追って話した。
話が進めば進むほど、みんなの表情が固くなっていく。楸の胸も、だんだんと苦しくなって、声が震えた。
何とか話終えた。楸は無意識に、俯いていた。
「あたしを追い回していた妖怪が、楸の家族を……」
榎の、神妙な声が耳に響く。少し震えていた。怒りが、篭っている気もした。
「だから、ずっと捕まえようと、楸は一人で頑張っていたんだな」
「しゅーちゃん、ずっと大変な思いをしてきたのね……」
「すまんな、気付いてあげられんくて」
みんなの掛けてくる言葉が、心に突き刺さる。嫌な気持ちにさせて、同情を誘って、申し訳なく思うが、全てを話して、少し気持ちが軽くなった。
「私こそ、すみません。どうしても、皆さんを巻き込みたくなかったんどす。私が戦う目的は、あくまで私的なものどす。皆さんが四季姫として戦う使命とは、何の関係もありまへんでしたから」
「もう、無関係なんて、言わせないよ。楸の敵は、あたしたちにとっても敵だ。絶対に、倒さなくちゃいけない」
正直な気持ちを話すと、榎が楸を抱きしめてくれた。椿も柊も、手を握り、背中を擦ってくれた。
前と、同じだ。楸が意を決し、秋姫の正体を明かした時と。
心が弱く、ずっと仲間を欺き続けてきた楸を、みんなな優しく受け入れてくれた。今回も、誰一人、隠し事を続けてきた楸を責めなかった。
「辛い話をさせて、ごめん。あたしたちは、何も知らなかった。ずっと一人で、苦しんでたんだな」
「心配せんでも大丈夫や。うちらは強いねんから、妖怪なんぞには負けん」
「しゅーちゃんを、二度も同じ目になんて遭わせないわ。安心して」
涙が溢れた。楸は眼鏡の奥に指を突っ込んで、何度も何度も、濡れた目を拭った。
話してよかった。本当に心から、そう思えた。
* * *
一通り話を終え、楸たちは話題を切り替えて、妖怪退治の作戦会議に移行していた。
芝生の上に、家から持ってきた大きなビニールシートを広げて、輪になった。中心には、皆で持ち寄ったおにぎりやサンドイッチなどが広げられている。
「妖怪と戦うにしても、正体が分からなきゃな」
色々と案を出してくれようとするが、根本的な情報が欠落しているため、話が上手く進まない。
あの化け狐の妖怪がどんな存在で、どうすれば接触できるのか。四季姫が全員揃っても、確実な方法は浮かばなかった。
今まで、数多くの妖怪を倒してきた榎たちも、周囲に接近してきた妖怪や、偶然遭遇した相手を退治してきただけに過ぎない。たった一匹の妖怪をピンポイントに狙って追いかけるなんて、初めての経験だった。
「朝や宵は、妖怪に心当たりはないか?」
側で、ずっと黙って話を聞いていた朝と宵は、顔を見合わせながら、表情に難色を浮かべていた。
「――狐の妖怪は、数が多いですから、特定が難しいですね」
朝が、困った顔を見せる。楸の話だけでは、手掛かりに乏しいのだと、よく分かった。
「尻尾が、仰山ある狐どした。おそらく、上等妖怪ではないかと」
憶測も含めて、追加で説明をした。でもまだ、朝の表情は曇ったままだ。
「少し、考えさせてください。少しくらいは、候補を絞れると思います」
顔を逸らし、考え込む体勢に入ってしまった。
朝の中で、何らかの答が出てくれるといいが。
だが、いつまでも待っていられるほど、みんなは辛抱強くない。別の方法で化け狐に近付こうと、再び会議を始めた。
「正体が分かっても、捕まえられんかったら、どないもできんで」
「何か罠を張るとか、作戦を考えなくちゃな。相手が姿を見せてくれないと、何もできない」
「相手は今、えのちゃんを狙っているのでしょう? 少し危ないかもだけど、えのちゃんが囮になって、おびき出せないかしら」
なんだか、どえらい方向に話が進んでいた。
「皆さん、一緒に対策を考えていただけるんは嬉しいどすが、危険な真似は……」
榎を、敵をおびき寄せる餌に使うなんて、危なすぎる。
楸は止めようとしたが、三人の勢いは止まる気配すら見せない。
「ええ考えがあるわ! 絶対に、うまくいくで!」
柊の大声が響く。その後、提案がとめどなく続き、楸には入り込む隙間もなかった。
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
現代文学
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる