四季姫Biography~陰陽師少女転生譚~

幹谷セイ

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第二部 四季姫進化の巻

第十四章 春姫進化 4

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 四
 四季ヶ丘の住宅街を横切って、椿たちは花春寺に通じる坂道を登った。
 二人で並んで歩いているだけでも、デートっぽいなと思いながら、椿は少し緊張した。
 寺の境内につくと、朝は物珍しそうに、本尊のある建物や、鐘を見物していた。
 じっくりと、観察に集中していたので、今のうちに着替えてこようと、椿は家に向かって歩きはじめた。
「椿、帰ったんか。運動会の練習、頑張っとるか?」
 その時、寺の裏側から父親――木蓮もくれんが、ひょっこりと顔を出した。掃除の最中か、手には竹箒を握りしめている。
 急に椿がトレーニングなんて始めると、家族は珍しがって、あれこれと聞いてくる。流石に四季姫としてレベルアップするため、とは言えないので、今度行われる町内運動会の練習だと伝えてあった。
「うん。ぼちぼち、ね」
 軽く返事をすると、木蓮は朝の存在に気付いて、目を細めて視線を注いだ。
「そちらさんは……?」
「同じクラスの、月夜君よ。花春寺が見たいっていうから、案内してきたの」
 説明して、紹介する。朝も椿たちの視線に気付き、木蓮の前にやってきて、丁寧に挨拶した。
「ほお、今時の中学生が、寺なんぞに興味があるんかいな」
 律儀で紳士的な朝に対して、木蓮の態度はなんとも訝しく、図々しかった。父ながら、椿は田舎者臭い木蓮の反応を恥ずかしいと思った。
「僕も今、お寺でお世話になっておりまして。将来は修業を積んで、僧となる道を歩みたいと考えているのです」
 お構いなしに、朝は爽やかな笑みを浮かべて、寺に来た理由を説明する。
「そうなの!? 全然知らなかった……」
 だが、椿でさえ想像もしていなかった返答だったため、吃驚した。
「中々、殊勝な心掛けやな。せやけど、仏の道は厳しい。本気で修業に取り組む覚悟をもっとるんか? もしくは、他に目的があるんと違うか? たとえば、うちの娘との交際の口実にしたい、とか」
 警戒心を顕にして、木蓮はドスの効いた口調で、朝を挑発する。父親の態度の悪さの理由が、ようやく分かった。明らかに、勝手な勘違いをしている。
「ちょっとパパ! 違うわよ、何を言ってるのよ!」
 内心では、朝の目的が木蓮の想像通りならいいな、とも微かに思った。でも、いくらなんでも突飛すぎる。
 椿が止めようとするが、木蓮の威嚇は治まらない。朝は特に気にも留めていないが、やっぱり恥ずかしいから、やめてほしい。
「どうも、お前さんからは嫌な臭いがプンプンする。寺で暮らしとる、と言うたが、きっと、ろくな寺と違うやろう。得体の知れん男に、大事な一人娘はやらんぞ!」
「得体の知れん、とは失礼な。うちで鍛えとる、秘蔵っ子やのに」
 いきり立つ木蓮の前に、気配もなく突然、見慣れた爺――了封寺の住職、了海和尚がやってきた。
「爺さま」
「了海のおじいちゃん!」
 確か、了封寺にいたはずなのに。椿たちの後をついてきたのだろうか。全然、気付かなかった。
 朝の隣に立って意味深に笑う了海を見るや否や、木蓮の表情が今まで以上に引き攣って、歪んだ。
 了海を勢い良く指さし、声を張り上げる。
「やっぱり、貴様の息が掛かっとったか。この飄々として捕らえどころのない、何を考えておるか分からん子供らしからぬ雰囲気! お前さんにそっくりやないか!」
「人聞きの悪い。朝は人間として様々な鍛練を詰んで、精神的に超越しておるんじゃー。お前みたいな物分かりの悪い青二才とは、根本的な部分から作りが違うんじゃー」
 悪くいえば毒の吐き合いだが、二人の会話は明らかに初対面のものではなかった。
「パパとおじいちゃんって、知り合いだったの?」
「寺業界は、広そうで狭いからのぉ。木蓮がまだ鼻水を垂らしておった小僧の頃から知っとるぞ。父親は立派な僧侶やったのに、こいつときたら、ろくに修業もせんと遊んでばっかりで」
「やかましい! お前のほうこそ、いきなり四季ヶ丘に現れて、知らん間に了封寺の住職に居座りよって! みんなに不気味がられとる妖怪爺やろうが!」
「妖怪爺も、今では会合の主催者として認められとるがな。いつも末端で説法聴いとるだけのお前さんとは大違いの出世じゃろう?」
 延々と、言い合いが続く。何だか、どこかで見た光景だなと思った。
「誰かさんたちに似てるわ……」
 二人のやりとりは、了海と了生の喧嘩にも似ているし、柊と榎の言い合いも彷彿とさせた。
「お二人とも、仲がよろしいのですね」
 朝の感想に、椿も賛成だ。きっと、喧嘩するほど仲が良い、というやつなのだろう。
「お前はもう少し、目上のもんに対する礼儀っちゅうもんを覚えなあかんのう。父親や姉さんは礼儀正しかったのに、弟のほうは、さっぱりじゃな」
 木蓮の様子を見ながら、了海は呆れた口調で貶した。
「父親に比べて、椿ちゃんはええ子やからのう。うちの朝とも、お似合いのベストカップルや」
「やだもー、おじいちゃんったら、お似合いだなんて!」
 いきなり二人の仲を認められて、恥ずかしくなった椿は了海の坊主頭を平手で叩いた。了海も笑いながら、椿の頭を撫でてくれた。
 そんなやり取りが気に入らず、木蓮は再び、唾とともに怒声を吐き出した。
「気安く娘に触るな! 読めたぞ、貴様、身内のもんをけしかけて、うちの寺を乗っ取るつもりやな!」
「別に、人様の寺なんか、要らんがな。孫同然に可愛がっとる子の未来を案じておるだけじゃよ。どうせ後継ぎがおらんのやから、いずれは婿養子をとるんじゃろう?」
「そんなもん、まだまだ先の話や! 娘に相応しい相手は、ちゃんと親が探す」
「朝はええ子やけどなぁ~。この子の良さが分からん節穴の目しか持っとらん男に、娘に相応しい相手なんか、見つけられるんかいのぅ~?」
「貴様の耄碌した目と、一緒にするな!」
「いい加減にして! パパもおじいちゃんも、喧嘩したいなら余所でやりなさい! 椿や朝ちゃんを巻き込まないの!」
 段々エスカレートして止まらなくなる言い合いに辟易した椿は、鶴の一声で場を鎮め、二人を怒鳴りつけた。
 二人の口喧嘩なのに、椿や朝の将来まで話題に絡められては、迷惑だ。
「行きましょう、朝ちゃん。あんな大人の都合に振り回されていちゃ駄目よ」
 椿は朝の手を引いて、五月蝿い大人達から遠ざかった。
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