182 / 336
第二部 四季姫進化の巻
第十四章 春姫進化 7
しおりを挟む
七
梓の話を聞こうとした矢先。椿の部屋のドアが、勢いよく開け放たれた。
「椿ー、帰ったよ! 午後から一緒に修業しよう!」
榎だった。余所行きの服から普段着のジャージに着替えて、気合い充分だ。
「ごめんね、えのちゃん。修業は中止よ。ちょっと、用事ができたの」
「その子、誰? ……もしかして、妖怪か?」
素早く、妖気を感じ取ったらしい。榎は梓を見て、訝しい顔をした。
梓は少し怯えて、榎に視線を向けながら、椿の背後に隠れた。
「梓ちゃんっていうの。住んでいる村とパパを助けてほしいって、四季姫に助けを求めて来たの。えのちゃんも、一緒にお話を聞いてあげて」
「分かった、聞くよ」
榎は迷いなく頷いた。
榎は心の優しい、正義感にあふれた少女だ。困っている相手は、人間だろうと妖怪だろうと、放ってはおかない。榎が一緒に話を聞いてくれるなら、椿も心強かった。
「あたしは夏姫――水無月榎だ。よろしくね、梓ちゃん」
榎が挨拶すると、梓は驚いた顔で、榎の顔を凝視した。
「男の人なのに、お姫様なのか!」
「あたしは、女だっての!」
初対面の相手から男に間違えられるパターンも、相変わらずだ。榎も本気で怒っているわけではないだろうが、こめかみが痙攣していた。
「で、梓ちゃんの村とお父さんが、どうしたんだ?」
気を取り直して床に座り込み、榎が話を切り出した。
梓はしばらく黙り込んでいたが、やがて意を決して、口を開いた。
「あたいの住む村は、山奥の人里離れた場所にある、隠れた村なんだ。その村には、人間や凶暴な妖怪との関わりを断って、静かにのんびり暮らしたい妖怪たちが住んでいるんだ。あたいの父ちゃんは、その村の村長なんだよ」
話を聞いて、椿と榎は声をあげた。まだ見ぬ妖怪たちの世界を想像して、興味が広がった。
「隠れた村、なんてものがあるのか。やっぱり知らない場所に、いろんな妖怪が暮らしているんだなぁ」
「で、梓ちゃんのパパを助けてって、どういう意味なの?」
椿が尋ねると、梓は目を伏せて、眉根を下げた。
「父ちゃん、三ヶ月も前に村を出て行ったきり、戻って来ないんだ」
椿と榎は驚いて、身を乗り出した。
「戻って来ないって、家出? 行方不明!?」
梓は、首をゆっくりと横に振った。
「どこに行ったかは、知っているのか?」
「うん。父ちゃん、強くないけど村の代表だから、上等妖怪としてお偉いさんの集会とかにも、呼ばれたら出ていくんだ。今回は、山の奥のほうに住んでいる、悪鬼の旦那たちのところに出かけて行ったんだ」
「悪鬼の旦那って……」
榎の声が、上擦った。悪鬼と聞くと、嫌な予感がする。椿も、体を強張らせた。
「日本の、人間が踏み込めない裏の世界を牛耳っている旦那たちだ。いつも十体で活動していて、とっても強くて凶暴だから、妖怪たちは誰も逆らえないんだ」
嫌な予感は的中した。
「みんなを、襲った奴らだな」
榎は額に汗を浮かべながら、拳を握り締めた。
深淵の悪鬼――。千年前、前世の四季姫たちが封印した最恐の悪鬼、鬼閻を崇めていた連中だ。椿たちが鬼閻を封印から説いて倒したため、復讐のために四季姫を狙い続けている。
「旦那たちは、呪いを掛けられて自由に身動きが取れなくなってたんだ。だから代わりに、手足になって動かせる妖怪を国中から呼び集めていた。父ちゃんも、その一人なんだよ」
知らなかった事実に触れて、椿たちは緊張した。
「今までに柊や楸と戦った連中も、悪鬼と関係があったのかな。梵我や赤尾って名前の妖怪に、覚えはないか?」
榎が、妖怪の名前を挙げ連ねた。梵我は柊と、赤尾は楸と戦った上等妖怪だ。
「お二方とも、強い力を持った上等妖怪だよ。父ちゃんと並んで、妖怪の世界では高い身分を持っているんだ。普段は誰とも関わらずに、静かに暮らしているけど、今回は父ちゃんと一緒に悪鬼に呼び出されたと聞いたよ」
悪鬼の元で、四季姫の周りに現れた上等妖怪たちの接点が見つかった。
「今までの妖怪の襲撃は、悪鬼たちの差し金だったんだな」
奇妙な動きを見せていた妖怪たちの真意が、ようやく分かった。榎は薄々、感付いていたらしく、改めて納得した様子だ。
「でも、楸たちが悪鬼の呪いは解けて、動き出したって言っていた。なのに、どうして今も、妖怪たちに四季姫を襲わせるんだ?」
自由になったのなら、付け焼刃の手足を使わなくても、悪鬼たち自身で四季姫を襲いに来ればいい。なぜ、まだ姿を見せてこないのだろうか。
奇妙だった。同時に、不気味さも感じた。
「まだ体がうまく動かせないのかもしれないって、宵ちゃんが言っていたわ。自分たちで戦えるだけの力が、戻っていないのかしらね」
「体調が万全に戻るまでの、時間稼ぎに使っているわけか」
椿の予測に、榎も納得して頷いた。
「だからって、酷いわ! 静かに暮らしている妖怪たちを、無理矢理戦いに引っ張り出すなんて!」
怒りが沸き上がる。立場の弱い妖怪を脅して、思うがままに動かそうなんて、絶対に許せない。
「長い間、帰ってこないから心配していたら、悪鬼の旦那の一人がやってきて、父ちゃんを人質に取った、って言ってきたんだ。父ちゃんを解放してほしかったら、四季姫を襲って倒せって、村のみんなを脅したんだ。みんな逆らえずに、人間の町で悪さをして、四季姫の姉さんたちをおびき出したんだよ。村や父ちゃんのためとはいえ、いけない行いをした。あたいたちが弱いばっかりに……。本当に、ごめん!」
すべての村人を代表して、椿は頭を下げた。村長の娘というだけあって、とても責任感が強い。
「梓ちゃんたちは、悪くないわ。全部、悪鬼のせいよ」
弱さが罪だなんて、絶対に言わせない。椿は梓をかばって励ましたが、梓の顔は俯いたままだった。
「父ちゃんを助けるためには仕方ないって、みんなは言うけど、あたいはみんなに悪さをしてほしくないし、傷ついて倒される姿も、見たくない。誰かを犠牲にして助かっても、父ちゃんは嬉しくないと思うんだ。だから、何とか止めたかった」
梓の肩が震える。大きな瞳には、涙が滲んでいた。
「でも、あたいひとりの力じゃ、誰も説得できなかった。四季姫さんたちなら、悪鬼を何とかしてくれるかもしれないと思って……」
梓は椿の腕を掴んできた。必死な形相に、椿も榎も圧された。
「村でも、四季姫の名前は有名だ。悪鬼たちの親玉を、やっつけたんだろう? だったら、強いはずだ。どうか、悪鬼たちを倒して、父ちゃんを助けてくれ!」
椿と榎は、顔を見合わせた。椿が強気に頷くと、榎も頷き返してきた。
「悪鬼が、なりふり構わず動き出した原因は、あたしたちの詰めの甘さにもあるんだ。現代の平和のためにと思って鬼閻を倒したのに、逆に他の妖怪たちに迷惑をかけてしまった」
「ちゃんと、責任を果たさないとね。いずれは戦わなくちゃいけないんだから、悪鬼が弱っている今こそ、倒すべきよ!」
気合いが入る。悪鬼を倒せるだけの実力は追いついていないかもしれないが、やる気だけは負ける気がしなかった。
「悪鬼たちの住処なら、行き方を知ってるよ。あたいが案内するだ! 裏道を使えば、悪鬼たちに気付かれずに隙を狙える」
椿たちの前向きな反応に、梓も喜んで乗ってきた。だが、勢いづいた雰囲気を、榎が一旦、制止させた。
「まだ、あたしたちだけでは、勝手に動けないよ。楸と柊にも、事情を話さないと。今の戦力の要は、秘術を習得している二人なんだから。確実に悪鬼を倒すために、作戦も練らなくちゃいけないし」
確かに、有利に戦うならば、二人を中心にして挑まなければならない。明日、さっそく話をしよう。
「早くしないと、悪鬼たちも四季姫さんたちの動きに気付いちまうだ。今なら悪鬼たちも油断しているだろうから、侵入しやすいんだけどな」
すぐに動けないのだと分かって、梓は少し、落ち込んでいた。
「大丈夫よ。梓ちゃんのパパさんは、絶対に助けるからね!」
椿が励ますと、梓の表情にも笑顔が浮かんだ。
* * *
話が一区切りついたところで、母の桜が部屋にやってきた。
「椿も榎さんも、帰っとったんやね。二人だけ?」
桜は椿の部屋を、隅々まで見渡した。
もちろんだが、梓の姿は桜には見えない。
「椿は、同級生の子と一緒やなかったん? お父さんが何や、騒いどったけど」
「もう、家に帰ったわ」
桜に話題を振られると、椿は一気に機嫌が悪くなってきた。
「そう。せっかく来てくれたのに、お茶も出さんで、悪かったわねぇ」
「いいのよ、別に」
「お父さんも、せっかく了封寺の和尚さんがいらしたのに、怒鳴って追い返しはって。立派なお坊さんなんやから、懇意にしとかなあかんて言うてるのに、いっつもいっつも……」
ブツブツと文句を呟きながら、桜は部屋を去って行った。桜がいなくなった頃合いを見計らって、榎が小声で尋ねてきた。
「了封寺の和尚さんって、了海さんか? 何でこの寺に?」
「パパと腐れ縁なんですって」
「じゃあ、同級生の子ってのは……」
「朝ちゃんよ」
椿はぶっきらぼうに応えた。
「へえ、寺に来ていたんだ。もしかして、妖怪に襲われたときにも一緒にいたのか? 大丈夫だった?」
「平気でしょ、強い妖怪なんだから」
「いや、でも、今は力を封じているんだから。宵みたいに力が戻っているなら、別だけど」
何も知らない榎の質問に苛立ちが増し、椿の怒りは最高潮に達した。
「力が戻ったって、肝心なときに使わなきゃ、意味がないわよ!」
絨毯を叩いて、怒鳴り声を上げる。椿は再び、顔に熱を帯びて、頬を思いっきり膨らませた。
椿の様子を見て、榎は心配そうに顔を覗き込んできた。
「椿……。やっぱり、おたふく風邪?」
「だから、違ーう!」
榎は優しくて気遣いも丁寧な少女だが、なぜか椿の気持を理解してくれないところが、玉に瑕だ。
梓の話を聞こうとした矢先。椿の部屋のドアが、勢いよく開け放たれた。
「椿ー、帰ったよ! 午後から一緒に修業しよう!」
榎だった。余所行きの服から普段着のジャージに着替えて、気合い充分だ。
「ごめんね、えのちゃん。修業は中止よ。ちょっと、用事ができたの」
「その子、誰? ……もしかして、妖怪か?」
素早く、妖気を感じ取ったらしい。榎は梓を見て、訝しい顔をした。
梓は少し怯えて、榎に視線を向けながら、椿の背後に隠れた。
「梓ちゃんっていうの。住んでいる村とパパを助けてほしいって、四季姫に助けを求めて来たの。えのちゃんも、一緒にお話を聞いてあげて」
「分かった、聞くよ」
榎は迷いなく頷いた。
榎は心の優しい、正義感にあふれた少女だ。困っている相手は、人間だろうと妖怪だろうと、放ってはおかない。榎が一緒に話を聞いてくれるなら、椿も心強かった。
「あたしは夏姫――水無月榎だ。よろしくね、梓ちゃん」
榎が挨拶すると、梓は驚いた顔で、榎の顔を凝視した。
「男の人なのに、お姫様なのか!」
「あたしは、女だっての!」
初対面の相手から男に間違えられるパターンも、相変わらずだ。榎も本気で怒っているわけではないだろうが、こめかみが痙攣していた。
「で、梓ちゃんの村とお父さんが、どうしたんだ?」
気を取り直して床に座り込み、榎が話を切り出した。
梓はしばらく黙り込んでいたが、やがて意を決して、口を開いた。
「あたいの住む村は、山奥の人里離れた場所にある、隠れた村なんだ。その村には、人間や凶暴な妖怪との関わりを断って、静かにのんびり暮らしたい妖怪たちが住んでいるんだ。あたいの父ちゃんは、その村の村長なんだよ」
話を聞いて、椿と榎は声をあげた。まだ見ぬ妖怪たちの世界を想像して、興味が広がった。
「隠れた村、なんてものがあるのか。やっぱり知らない場所に、いろんな妖怪が暮らしているんだなぁ」
「で、梓ちゃんのパパを助けてって、どういう意味なの?」
椿が尋ねると、梓は目を伏せて、眉根を下げた。
「父ちゃん、三ヶ月も前に村を出て行ったきり、戻って来ないんだ」
椿と榎は驚いて、身を乗り出した。
「戻って来ないって、家出? 行方不明!?」
梓は、首をゆっくりと横に振った。
「どこに行ったかは、知っているのか?」
「うん。父ちゃん、強くないけど村の代表だから、上等妖怪としてお偉いさんの集会とかにも、呼ばれたら出ていくんだ。今回は、山の奥のほうに住んでいる、悪鬼の旦那たちのところに出かけて行ったんだ」
「悪鬼の旦那って……」
榎の声が、上擦った。悪鬼と聞くと、嫌な予感がする。椿も、体を強張らせた。
「日本の、人間が踏み込めない裏の世界を牛耳っている旦那たちだ。いつも十体で活動していて、とっても強くて凶暴だから、妖怪たちは誰も逆らえないんだ」
嫌な予感は的中した。
「みんなを、襲った奴らだな」
榎は額に汗を浮かべながら、拳を握り締めた。
深淵の悪鬼――。千年前、前世の四季姫たちが封印した最恐の悪鬼、鬼閻を崇めていた連中だ。椿たちが鬼閻を封印から説いて倒したため、復讐のために四季姫を狙い続けている。
「旦那たちは、呪いを掛けられて自由に身動きが取れなくなってたんだ。だから代わりに、手足になって動かせる妖怪を国中から呼び集めていた。父ちゃんも、その一人なんだよ」
知らなかった事実に触れて、椿たちは緊張した。
「今までに柊や楸と戦った連中も、悪鬼と関係があったのかな。梵我や赤尾って名前の妖怪に、覚えはないか?」
榎が、妖怪の名前を挙げ連ねた。梵我は柊と、赤尾は楸と戦った上等妖怪だ。
「お二方とも、強い力を持った上等妖怪だよ。父ちゃんと並んで、妖怪の世界では高い身分を持っているんだ。普段は誰とも関わらずに、静かに暮らしているけど、今回は父ちゃんと一緒に悪鬼に呼び出されたと聞いたよ」
悪鬼の元で、四季姫の周りに現れた上等妖怪たちの接点が見つかった。
「今までの妖怪の襲撃は、悪鬼たちの差し金だったんだな」
奇妙な動きを見せていた妖怪たちの真意が、ようやく分かった。榎は薄々、感付いていたらしく、改めて納得した様子だ。
「でも、楸たちが悪鬼の呪いは解けて、動き出したって言っていた。なのに、どうして今も、妖怪たちに四季姫を襲わせるんだ?」
自由になったのなら、付け焼刃の手足を使わなくても、悪鬼たち自身で四季姫を襲いに来ればいい。なぜ、まだ姿を見せてこないのだろうか。
奇妙だった。同時に、不気味さも感じた。
「まだ体がうまく動かせないのかもしれないって、宵ちゃんが言っていたわ。自分たちで戦えるだけの力が、戻っていないのかしらね」
「体調が万全に戻るまでの、時間稼ぎに使っているわけか」
椿の予測に、榎も納得して頷いた。
「だからって、酷いわ! 静かに暮らしている妖怪たちを、無理矢理戦いに引っ張り出すなんて!」
怒りが沸き上がる。立場の弱い妖怪を脅して、思うがままに動かそうなんて、絶対に許せない。
「長い間、帰ってこないから心配していたら、悪鬼の旦那の一人がやってきて、父ちゃんを人質に取った、って言ってきたんだ。父ちゃんを解放してほしかったら、四季姫を襲って倒せって、村のみんなを脅したんだ。みんな逆らえずに、人間の町で悪さをして、四季姫の姉さんたちをおびき出したんだよ。村や父ちゃんのためとはいえ、いけない行いをした。あたいたちが弱いばっかりに……。本当に、ごめん!」
すべての村人を代表して、椿は頭を下げた。村長の娘というだけあって、とても責任感が強い。
「梓ちゃんたちは、悪くないわ。全部、悪鬼のせいよ」
弱さが罪だなんて、絶対に言わせない。椿は梓をかばって励ましたが、梓の顔は俯いたままだった。
「父ちゃんを助けるためには仕方ないって、みんなは言うけど、あたいはみんなに悪さをしてほしくないし、傷ついて倒される姿も、見たくない。誰かを犠牲にして助かっても、父ちゃんは嬉しくないと思うんだ。だから、何とか止めたかった」
梓の肩が震える。大きな瞳には、涙が滲んでいた。
「でも、あたいひとりの力じゃ、誰も説得できなかった。四季姫さんたちなら、悪鬼を何とかしてくれるかもしれないと思って……」
梓は椿の腕を掴んできた。必死な形相に、椿も榎も圧された。
「村でも、四季姫の名前は有名だ。悪鬼たちの親玉を、やっつけたんだろう? だったら、強いはずだ。どうか、悪鬼たちを倒して、父ちゃんを助けてくれ!」
椿と榎は、顔を見合わせた。椿が強気に頷くと、榎も頷き返してきた。
「悪鬼が、なりふり構わず動き出した原因は、あたしたちの詰めの甘さにもあるんだ。現代の平和のためにと思って鬼閻を倒したのに、逆に他の妖怪たちに迷惑をかけてしまった」
「ちゃんと、責任を果たさないとね。いずれは戦わなくちゃいけないんだから、悪鬼が弱っている今こそ、倒すべきよ!」
気合いが入る。悪鬼を倒せるだけの実力は追いついていないかもしれないが、やる気だけは負ける気がしなかった。
「悪鬼たちの住処なら、行き方を知ってるよ。あたいが案内するだ! 裏道を使えば、悪鬼たちに気付かれずに隙を狙える」
椿たちの前向きな反応に、梓も喜んで乗ってきた。だが、勢いづいた雰囲気を、榎が一旦、制止させた。
「まだ、あたしたちだけでは、勝手に動けないよ。楸と柊にも、事情を話さないと。今の戦力の要は、秘術を習得している二人なんだから。確実に悪鬼を倒すために、作戦も練らなくちゃいけないし」
確かに、有利に戦うならば、二人を中心にして挑まなければならない。明日、さっそく話をしよう。
「早くしないと、悪鬼たちも四季姫さんたちの動きに気付いちまうだ。今なら悪鬼たちも油断しているだろうから、侵入しやすいんだけどな」
すぐに動けないのだと分かって、梓は少し、落ち込んでいた。
「大丈夫よ。梓ちゃんのパパさんは、絶対に助けるからね!」
椿が励ますと、梓の表情にも笑顔が浮かんだ。
* * *
話が一区切りついたところで、母の桜が部屋にやってきた。
「椿も榎さんも、帰っとったんやね。二人だけ?」
桜は椿の部屋を、隅々まで見渡した。
もちろんだが、梓の姿は桜には見えない。
「椿は、同級生の子と一緒やなかったん? お父さんが何や、騒いどったけど」
「もう、家に帰ったわ」
桜に話題を振られると、椿は一気に機嫌が悪くなってきた。
「そう。せっかく来てくれたのに、お茶も出さんで、悪かったわねぇ」
「いいのよ、別に」
「お父さんも、せっかく了封寺の和尚さんがいらしたのに、怒鳴って追い返しはって。立派なお坊さんなんやから、懇意にしとかなあかんて言うてるのに、いっつもいっつも……」
ブツブツと文句を呟きながら、桜は部屋を去って行った。桜がいなくなった頃合いを見計らって、榎が小声で尋ねてきた。
「了封寺の和尚さんって、了海さんか? 何でこの寺に?」
「パパと腐れ縁なんですって」
「じゃあ、同級生の子ってのは……」
「朝ちゃんよ」
椿はぶっきらぼうに応えた。
「へえ、寺に来ていたんだ。もしかして、妖怪に襲われたときにも一緒にいたのか? 大丈夫だった?」
「平気でしょ、強い妖怪なんだから」
「いや、でも、今は力を封じているんだから。宵みたいに力が戻っているなら、別だけど」
何も知らない榎の質問に苛立ちが増し、椿の怒りは最高潮に達した。
「力が戻ったって、肝心なときに使わなきゃ、意味がないわよ!」
絨毯を叩いて、怒鳴り声を上げる。椿は再び、顔に熱を帯びて、頬を思いっきり膨らませた。
椿の様子を見て、榎は心配そうに顔を覗き込んできた。
「椿……。やっぱり、おたふく風邪?」
「だから、違ーう!」
榎は優しくて気遣いも丁寧な少女だが、なぜか椿の気持を理解してくれないところが、玉に瑕だ。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜
遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった!
木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。
「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」
そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
汚部屋女神に無茶振りされたアラサー清掃員、チートな浄化スキルで魔境ダンジョンを快適ソロライフ聖域に変えます!
虹湖🌈
ファンタジー
女神様、さては…汚部屋の住人ですね? もう足の踏み場がありませーん><
面倒な人間関係はゼロ! 掃除で稼いで推し活に生きる! そんな快適ソロライフを夢見るオタク清掃員が、ダメ女神に振り回されながらも、世界一汚いダンジョンを自分だけの楽園に作り変えていく、異世界お掃除ファンタジー。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる