四季姫Biography~陰陽師少女転生譚~

幹谷セイ

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第二部 四季姫進化の巻

十四章 Interval~お洒落って大変ですね~

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 とある、日曜日。秋晴れの空が爽やかな、心地よい午後だった。
 午前中の部活を終えた椿は、昼食を済ませて了封寺に遊びに来ていた。
 寺の掃除や座禅を終えた朝と一緒に、縁側に座って、日なたぼっこをする。
 のんびりした時間を過ごす休日も悪くないが、こうもいい天気だと、パーッと、どこかに出掛けたくなる。
 ふいに、以前の朝とのデートが中途半端に終わってしまっていたなと、記憶が蘇ってきた。
「朝ちゃん、今度こそ、デートしましょう!」
 もう、邪魔も入らないだろう。椿は勢いよく提案した。
 朝も笑顔で、快諾してくれた。
「構いませんよ。今日は、どこに出掛けましょうか?」
「そうねぇ、どこに行こうかしら……」
 また町の中を散歩、でも構わないが、普段から朝が行きそうにもない珍しい場所にも、連れて行ってあげたい。
 色々考えていると、ふと、朝の格好が目についた。
 前々からずっと思っていたが、朝の普段着は似合っていない。
 サイズの合っていない、ダボダボのジーンズに、大きなTシャツと、安っぽい上着。Tシャツは真っ白で、真ん中に変なキャラクターの絵と、よく分からない漢字が書かれている。
 こんな服を、普段着として買う奴がいるのか、と驚いたくらいだ。海外から旅行に来た外国人がお土産に買っていくくらいだと思っていたが、宵も朝も、当たり前に身に着けている。
 宵も、普段から朝とほとんど変わらない格好をしている姿を見かけるが、なぜか宵はこの手の服の着こなしが上手く、不思議と違和感がなかった。宵は楸が絡まない事象には、とことんやる気を見せず、だらしない。その性格と態度が、だらしない服装と見事にマッチしているのだろう。
 だが、朝は終始真面目気質で、知的な印象を持っているから、こんなパンク野郎みたいな服装は、根本的に相応しくない。
 せっかく一緒に町を歩くのだし、それなりに雰囲気のある格好をしてもらいたい。
 椿の中で、今日のデートの目的が決まった。
「お買い物! 朝ちゃんのお洋服、買いに行きましょう!」
 椿の提案が予想外だったらしく、朝は驚いて、少し戸惑っていた。
「僕の服ですか? 兄上さまから何着かいただいていますので、不自由はしていませんが」
 このセンスの悪い服選びは、了生の仕業か。きっと、この服は了生のお下がりだろう。
 もしくは、どうせ成長期で、すぐに大きくなるから、最初から大きい服を着せておけばいい、とでも思っているのかもしれない。単純で横着な了生なら、考えそうだ。
 朝も、ファッションについては知識も興味もなく、人任せで無頓着だった。こんな調子ではいけない。椿の力で、朝のお洒落センスを開花させなければ。
「着れる服を持ってりゃあ、いいってもんじゃないのよ。格好良く着こなさなくちゃ。言っちゃ悪いけど、朝ちゃんの私服って、ダサいわ!」
 思いっきり、正直に話した。良くないものは良くないのだから、気を遣って黙っているよりも、はっきりと教えてあげたほうがいい。椿の親切であり、ポリシーだ。
「ダサい、ですか……」
 ビシッと指をさされて、ダサい宣言をされた朝は、困惑した表情を浮かべていた。元々、英語が苦手な朝は、教科書に載っていない横文字単語なんて、さっぱり分かっていない。〝ダサい〟の意味さえ理解しているか、謎だった。
 だが、椿の剣幕から、褒め言葉ではないのだと察して、恐縮そうにしていた。
「せっかくだもの。朝ちゃんにピッタリのコーディネートを、椿が選んであげる」
「こーで……? よく分かりませんが、椿さんが変えたほうが良いと仰るなら」
 相変わらず、分かっていない様子だったが、構わない。椿は強引に押して、朝を頷かせた。
 了承した朝だったが、少し考え込む素振りを見せる。
「ですが、この時代では、衣服を買うには、お金が要るのですよね」
 楸に教えてもらったが、平安時代の頃には、まだお金で物を買う貨幣制度が定着しておらず、品物の多くが物々交換だったらしい。だから朝もお金の使い方はまだ慣れないらしく、不安そうだった。
「僕は持ち合わせがありませんから、兄上様に相談してみましょうか」
 考えが纏まり、椿と朝は立ち上がって、了生の部屋に向かった。
 了生は、自室で写経をしていた。綺麗に掃除された、落ち着いた和室だ。時々、柊が掃除に来ていると聞いた。
 卓上には難しそうな本と一緒に、みんなで撮影した記念写真が飾られている。
 突然、押しかけてきた朝の話を聞き、了生は目を細めて訝しい顔をした。
「服を買いに行くぅ? 俺のお下がりとか、選んで買ったった服があるやろう」
「椿さんが仰るには、兄上さまからいただいた服は、ダサいのだそうです」
「ダサっ……!? 俺の、スペシャルコーディネートやったのに……!」
 朝の口から、ありのままの事実を聞かされると、了生は激しいショックを受け、畳に両手をついた。
 この服選びに、かなりの自信を持っていたらしい。
 だが流行に詳しい椿に、はっきりと断言されて、傷つきながらも納得したのか、了生はしぶしぶと朝にお小遣いを渡した。
「ほんまに、最近の若いもんは」と、ブツクサ文句を垂れながら、だったが。
 了生からもらった千円札を、朝は大事に小銭入れに突っ込んでいた。この額で足りるだろうか、と心配になったが、まあ足りなければ立て替えればいいかと、ひとまず流しておいた。
 資金も手に入ったし、いざ、出掛けようとすると、了生に呼び止められた。
「椿さん。その、柊さんも、服装には五月蠅いほうですか?」
 柊にもダサいと思われているのではないかと、不安になったのか。恐る恐る、訊ねてきた。
 椿は少し考えて、返事をした。
「ひいちゃんは、人の格好を気にするタイプじゃないと思いますけどぉ。でも、スタイルいいし、服選びのセンスもあるから、ダサい人には心の中で何か思ってるかもしれませんねぇ」
「そうですか……」
 何とも言えない複雑な表情で、了生は沈んでいた。
 落胆する了生を尻目に、椿と朝は、そそくさと山を下りた。

 * * *

 向かった先は、四季が丘の外れにあるショッピングセンターだった。隣の市と隣接する、境界の付近にある大型の商業施設で、四季が丘町に住む人たちの生活の要でもある。
 中には洋服の専門店も軒を連ねている。椿と朝は、男の子向けの服を売っている店に入って、似合いそうな服を探した。
 流石に、雑誌に載っている最新の流行ファッションは数も少なく、値段が高い。資金で買える範囲で、朝に似合う格好いい服を選ばなければ。椿の腕の見せどころだ。
「朝ちゃんは細身で落ち着いた雰囲気だから、ちょっと知的な感じで。ダボダボの服より、体のラインがしっかり出る服のほうが、絶対似合うわよねー」
 目につく服を選んで、朝と一緒に試着室に放り込む。サイズを合わせながら、ピッタリの洋服を選んでいった。
 朝は文句ひとつ言わず、黙々と着て脱いでを繰り返していた。完全に、着せ替え人形状態だ。
 最終的に、白いカッターシャツと紺の毛糸のベスト、ベージュのズボンという、いかにも文学青年の風貌で落ち着いた。ベタかもしれないが、朝には非常に適していた。
「素敵ー? すっごく、よく似合っているわ! 朝ちゃん、着心地はどう?」
「悪くないと思いますが」
「じゃあ決まりー! はぁー、久しぶりに興奮したわ」
 支払いを終えて、椿たちは店を後にした。予算オーバーだったが、大満足の買い物だった。
 朝はトイレで、買った服に着替え直して出てきた。さっきまでとは、雰囲気が全く違う。隣を歩いていると、椿はなんだか恥ずかしくて、緊張してきた。
でも、せっかくだから一緒の時間を楽しみたい、椿は朝の手を握った。朝も、少し時間をおいて、握り返してくれた。
 本当に、デートみたいだ。幸せな時間が続いた。
「椿さんも、新しい服を買われてはいかがですか?」
 ふと、女性服の売り場を眺めながら、朝がポツリと言った。
「椿も? うーん、でも、服はこの前、買ったばかりだし。この格好、似合わない?」
 今日の椿の格好は、新しく入手したばかりの秋の新作だ。朝のお気には召さないだろうか。
「いいえ。でも、寒くなってきますし、もう少し脚を隠したほうがよろしいのでは、と」
 朝が見ていた売り場の服は、足首まで丈のある、長いスカートだった。
 平安時代の風習が抜けないせいか、朝は未だに肌の露出が多い格好に慣れない。今までにも何度か注意されたが、椿は頑なにミニスカートを貫いているから、最近は何も言ってこなくなっていたが。
 やっぱり今でも、不満があるみたいだ。
 椿も、大人っぽい長いスカートを見つめて考える。お洒落だけれど、どうにも今の椿には似合わないと思った。
「もう少し、大人になってからね。ミニスカートは、若いうちしか穿けないから」
 適当に言い包めてはぐらかし、椿は朝を洋服売り場から引き離した。

 * * *

 了封寺に戻った椿と朝は、さっそく了生に買い物の成果を見せに行った。
「兄上さま、如何ですか? 椿さんに選んでいただきました」
「……まあ、俺の服より、よう似合うとるんとちゃうか?」
 朝の姿を見て、了生は複雑な表情を浮かべていた。
 恐らく、良いとは思っているが、認めると今までの了生のセンスを全否定する形になるから、必死で自身のメンタルを守るために葛藤している、といった感じだ。
「ありがとうございます。いただいたお金だけでは足りなかったので、椿さんに立て替えてもらったのですが、払っていただけますか」
 朝が、店でもらったレシートを手渡す。受け取ってまじまじと眺めた了生は、奇声を上げた。
「高っ! たかが服ごときに、こないな額……」
 了生の反応を受けて、朝も衝撃を受けていた。
「そんなに高額なのですか? なら僕が、一生かけて働いて、お返しします!」
「いや、そこまで大袈裟では、ないけどやな。俺なんか、上下セットで九八〇円以上の服なんか、買うた記憶もないのに。……ほんまに、最近の若いもんは」
 了生が千円札を渡してきた理由も、何となく分かった。了生も服に頓着がない人間だから、必要以上にお金を使いたがらないのだろう。
 良くいえば節約家だが、悪くいえばケチだ。
 立て替えていたお金を返してもらう。中身が寂しくなった財布を切なげに見つめながら、了生は一息ついた。
「せっかく、ええ服選んでもろうたんやから、大事にせんとな。ちゃんと手入れして、末長く着るんやで」
 了生に諭され、朝も大きく頷いていた。だが、その考えには椿は異論があった。
「大事にしてもらえる分には嬉しいけれど、いつまでも同じ服を着ていたら、すぐ流行遅れになるわ。せめて半年……長くても一年で、最新の服に買い替えなくちゃ!」
 椿の声に反応して、了生は引き攣った顔を向けてきた。
「椿さん。あんまり朝に、粗い金遣いを教えんとってください」
 これ以上、服に金を注ぎ込まれては割に合わない、とでも思ったのだろう。慌てて注意してくるが、椿は唇を尖らせて反論した。
「そんなケチケチした考えばかり持っていると、ひいちゃんに嫌われますよ、了生さん!」
「はぐあっ! 人が、一番気にしとるところを……」
 椿の反撃は、効果覿面だった。衝撃的な言葉を突き刺された了生は、胸を抑えて畳に倒れ込んだ。
「お洒落って、大変なのですね……」
 椿たちのやり取りを見ていた朝は、途方に暮れた表情を浮かべていた。
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