ココロノコドウ

幹谷セイ

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1.始まりのココロノコドウ

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「あなたの平常心に惚れました。私と付き合ってください」

  目の前の少女は、ほんのりと頬を紅潮させ、恥ずかしそうに切り出した。

  落合おちあい 米斗こめとは無表情で、少女と向かい合っていた。健全な高校男児ならば、突然目の前に現れた可愛い小動物みたいな女の子に告白されれば、緊張してみたり照れてみたり、心躍らせてみたりするものだが。

  動じていなかった。米斗には動揺も焦りも、恥じらいもなかった。それが米斗にとって、普通の対応なのだった。

  ズシン、ズシン。

  地面が揺れた。二人の立っている場所は、二つの校舎を繋いで架けられた、屋外渡り廊下のど真ん中。

  振動が一番激しく、危険な場所だ。

  にもかかわらず、米斗は驚きも慌てもしない。普通にバランスをとって直立している。

  目の前の少女も、同じだった。最近頻発している小規模な地震群の起こす揺れに慣れてしまっている。今くらいの軽い余震なら、驚かなくなっていた。

  今の揺れは、どちらも震度2くらいだろうか。

  特に気にもせず、米斗は少女に返答した。

 「いいよ、断る理由もないし」

  断る理由もなければ、承諾する理由もないのだが、無闇に小動物を傷つける行為を嫌う米斗に、迷いはなかった。

  少女は俯きがちだった顔を上げ、嬉しそうに笑った。

 「本当に? ありがとう!」

  少女の頬が、林檎みたいに紅潮する。

  ズドン。

  直後。激しい振動が大地を襲った。

 「うおうっ」

  渡り廊下が、上下に激しく揺れだす。トランポリンの上にいるみたいな感覚に陥り、米斗も上手くバランスを取らないと、立っていられなかった。

  少し不意を付かれたが、驚くほどではなかった。自然の脅威とは、前触れもなくやって来るものだ。

  振動は治まった。今のは震度4くらいあっただろう。

 「大丈夫?」

  体勢を立て直した米斗は、手すりにしがみつく少女を気遣った。流石に慣れているとはいえ、今の一撃は、結構きつかっただろう。

  少し驚いていたが、すぐに落ち着きを取り戻した少女は、顔を上げて可愛い笑顔を浮かべた。

 「うん、大丈夫。ありがとう」

  米斗は手を差し伸べる。少女はその手を、ゆっくり掴んだ。

 「そういえば、まだ名前を聞いてない」

 「有栖ありす 千具良ちぐらです。よろしくね、米斗くん」

  晴れて恋人同士になった二人は、手をつないで帰宅の途についた。

  ☆彡 ☆彡 ☆彡

 「よしよし、うまくいったわ」

  米斗と千具良の様子を、真島ましま 吉香きっかは渡り廊下から少し離れた場所にある教室から覗いていた。

  生徒たちが帰宅した後の、静まり返った教室。窓側の席で椅子に腰かけ、足を組む。目の前の机に広たノートに、化学式や数式をびっしりと書き連ねていた。

  数式は改行もなく、空白もなく、関連性もなく、統一性もない。傍から見れば、暗号にしか見えないだろう。吉香にだけ分かればいい、情報の羅列だった。

 「あとはうまく、千具良があの平常心男のテクニックを盗んで、活用してくれればいいんだけど。その効率性ばっかりは、結果を見なければ分からないわね」

  吉香は息をつく。

  ズドン、震度3の揺れが教室を襲った。

 「でも千具良には、少し刺激が強かったかしら……」

  流石に慣れているので動じはしないが、少し不安を感じながら、帰路に着く二人を眺めていた。
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