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いざ行かん
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Joaquin Rodrigo - Concierto de Aranjuez: 2. Adagio (Anders Miolin, 13-string guitar)
太刀を打つ。
真っ赤に焼けた太刀を打つ。
焼けた鋼を打つ。打つ。打つ。
キン。コン。カン。
キン。コン。カン。
キン。コン。カン。
野武士との闘いにこぼれた刃を鍛えなおすため。
真っ赤に焼けた鋼を打つ。打つ。打つ。
キン。コン。カン。
キン。コン。カン。
キン。コン。カン。
野武士から奪い取った大太刀を鍛えなおすため。
真っ赤に焼けた鋼を打つ。打つ。打つ。
キン。コン。カン。
キン。コン。カン。
キン。コン。カン。
野武士との闘いは熾烈を極めた。
山の上の岩屋に陣取った野武士たちはこのあたりの村を襲っていた。
田畑を荒らし、おんな子どもをかどわかし、刃向う男たちを殺してきた。
何年、何年、何年にもわたって。
悪事を重ね続けてきた猪の毛皮を着た大柄な男たちは、岩屋の奥に
猟につかうための犬たちを牢に入れて飼っていた。
酒に酔った男たちの寝入った隙に、犬の牢を開けた。
碌に餌をくれてやっていなかったようで、犬たちは野武士たちに一斉に襲い掛かった。
慌てふためく男たちは焚火の火をひっくり返してしまい、岩屋の中は煙に包まれた。
煙に巻かれて表に出てきたところを、斬った。斬った。斬った。
最後に出てきた雲をつくような大男は手強かった。
既に刃こぼれをした我が太刀では戦えない。
しかし身の丈、腕の長さとも勝り、さらに大太刀を振るうこの大男に敵う手段などない。
我が腰刀を抜くと、大男に立ち向かった。
一瞬の隙が勝機となり、または致命傷を負う機会となる。
互いに刃を向け合い、相手の動きを牽制しながら。
緊張の糸がぴんと張りつめた時間が過ぎた。
それを打ち破ったのは犬の遠吠えだった。
次の瞬間、大男の背後から犬の群れが襲い掛かり、
大男は地に伏せた。執拗な犬たちの猛攻に転げた。
大太刀を振りかざし犬たちを切り刻みながら、しかし犬たちは攻撃の手を緩めなかった。
「助けてくれ!」大男は引き攣った声をあげた。
そこに現れたのは犬の真似をした全裸の少年だった。
犬のように走り、犬のように吠え、そして大男の体の上に圧し掛かった。
そして大男の喉笛に喰らいついた。
少年は犬たちと一緒に大男を喰い散らした。
おい、と声を掛けたが少年は見向きもしなかった。
近寄ると犬たちは瞬く間に取り囲みうーっうーっと唸り声をあげて威嚇してきた。
少年の目に人の心が見て取れなかった。
恐らくは幼いうちにさらわれて、犬と同じ牢で育ったのだろう_。
腰刀を置き、きび団子をほおると少年は飛びついた。
それから少年は、ついてくるようになった。
だがいつまでたっても立って歩こうとはしてくれないし、言葉を覚えてもくれない。
犬のまま。唸り吠えるばかり。
まぁいい。旅は道連れ。犬でも連れた方が気が楽になる。
梟峠を超えたあたりで野武士の残党がいるらしい話を聞きつけ
潜み棲むといわれる深い森に分け入った。そこで野武士の死骸を見つけた。
死骸のそばにいた巨大な大猿のような襤褸を纏った黒い男が立っていた。
犬少年は吠えまくったが、黙らせた。
黒い男は怯えた様子でなにか訴えかけていたが異国の言葉らしく訳も分からなかった。
だが断片的に覚えたのであろう言葉の端々から察するに
「この男がいきなり斬りかかってきた」ということであろうか。
それにしても素手で野武士を殺したというのであれば、たいした力だ。
ひもじそうな顔をしていたので、きび団子を投げて渡すと喜んで喰った。
それから黒い男は、ついてくるようになった。
黒い男は日に日に言葉を覚えた。
だがまだなんだかわからないことをいうが。
「大きな帆を張った船で航海していたが嵐に巻き込まれこの国に流れ着いた。
ひとびとは黒い自分を恐れ嫌った・・だから森にいるのだ。」と。
しかし生まれついてなのか黒い肌をした人間というのは奇妙奇天烈。
鬼の仲間ではないのかと犬少年は感じているようだった。
まぁいい。旅は道連れ。大猿でも連れた方が気が楽になる。
雪深い山々を超えて烏山の頂きの鴉洞に身を寄せたときのことだ。
そこにいた鴉天狗が勝負を挑んできた。
剣術に長じた鴉天狗が相手ならば腕が鳴る。
だが使い古した剣しか持っていなかったため
「道具の手入れも出来ない小僧どもと勝負などできるか!」と鴉天狗は怒り出した。
仕方なしに・・という素振りで道具の手入れを指南してくれた。
「鋼を打ち直さねば使い物になりはせぬ。」
鴉天狗は炉に火を入れた。
犬少年は鞴を押した。
黒い大猿は鎚を手に取った。
太刀を打つ。
真っ赤に焼けた太刀を打つ。
焼けた鋼を打つ。打つ。打つ。
キン。コン。カン。
キン。コン。カン。
キン。コン。カン。
山に鋼を叩く音が響いた。
鍛造が終わると鴉天狗が試しに振ってみる。
なにが気に喰わないのか、再び熱を加え叩き始める。
焼けた鋼を打つ。打つ。打つ。
キン。コン。カン。
キン。コン。カン。
キン。コン。カン。
鴉天狗は今度は気に入ったのか、磨ぎ石を用意させ刃を研ぐ。
シュッ、シュッ、シュッ。
シュッ、シュッ、シュッ。
シュッ、シュッ、シュッ。
「磨ぎ方が足りない!」
「この刀に魂を込めるのだ!」
「如何なる禍ツ神も、妖魔も断ち斬れる唯一無二の真剣となれ!」
シュッ、シュッ、シュッ。
シュッ、シュッ、シュッ。
シュッ、シュッ、シュッ。
やがて深かった雪は徐々に消えていった。
そのころになってようやく刀の手入れが終わった。
実際には新たに鍛造するよりは、より手間暇かけ我らの精魂を込めた結果、この世ならざる
妖刀となった。
「これで斬れぬものはないわ!」
鴉天狗は嘴を舐めた。
なら、いざ勝負!と、けしかけたが、鴉天狗は苦笑した。
「こんな恐ろしい太刀を相手に誰が勝負などするものか!」と。
「これほど怒りが籠められ血を欲する太刀を見たことがないわ!」
興奮収まらぬ鴉天狗は目を真っ赤に充血させて宙を舞って喜んだ。
些少ではあるが、きび団子を御礼として渡すと喜んだ。
これからどこにいくのか、と尋ねられたので行く先を答えた。
「ならば」と、鴉天狗がついてくることになった。
だが「事が大事なれば其れなりの恰好が必要」と随分と派手な山伏装束を着こんだ。
それじゃ鴉どころか雉じゃないか!
まぁいい。旅は道連れ。雉でも連れた方が気が楽になる。
山を降り谷を下ると郷に出た。
桃の花が咲き乱れている。
珍しく青い空が見える。
白い波が寄せる青い海が見える。
明るい陽の光が彼方の島まで照らし、ここからでも見渡すことができた。
さぁ、あの島に渡るのだ。行って正義の鉄槌を下すのだ!
我らの前に如何なる障害が横たわろうと。
我らは絶対にへこたれない。
我ら力を合わせて、必ずや輝かしい勝利をこの手に収めん!
いざ行かん、鬼ヶ島へ!
いざ行かん、鬼退治へ!
われらは舟を漕ぎだした。
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