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BEAUTIFUL DREAMER
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https://www.youtube.com/watch?v=wtgklHQ52WE
Bing Crosby - Beautiful Dreamer
"ちぃちゃん、おいでよ。こっちにおいでよ、ちぃちゃん。"
"ちぃちゃん、おいでよ。こっちにおいでよ、ちぃちゃん。"
最初にこの声を聞いたのは、成人式の写真を撮ったときのことだ。
父と母と駅前の写真館で。マグネシウムが焼けた瞬間、目の前が真っ白になって。
真っ白な世界の中で。
まるで無重力状態の重さのない世界で。
真っ白な霧の中から、いいえ、霧の向こうから。
ずっとずっと向こうから。
私を呼ぶ声がする。
"ちぃちゃん、おいでよ。こっちにおいでよ、ちぃちゃん。"
"ちぃちゃん、おいでよ。こっちにおいでよ、ちぃちゃん。"
気絶して倒れてしまったらしい。
晴れ着の帯がきつすぎたかしら・・・。
気がつくと母が心配して顔をのぞきこんでいるのが見えた。
心配かけてはいけないと思い、ぎこちなく微笑んでみせる。
父が手を伸ばして抱き上げてくれた。
だいじょうぶかい?と声をかけてくれた。
その日は写真の撮影は出来ず、そのまま車でレストランに外食に出かけた。
海辺のシーフードレストランで、エビとオイスターのサラダをオーダーした。
母はいよいよ千絵さんも大人の仲間入りね、と微笑んだが
父は先程のこともあり、体調のことを気にしてくれた。
いちどちゃんとした病院で精密検査を受けてみたらどうだろう、と。
すると母はそんな大袈裟な、と呆れ顔をしたのが面白くてくすくすと笑ってしまった。
だがもうすぐ彼氏が出来てお嫁さんになるんだから、と父は話を進めると
まだ先の話よ、と母はまるで夫婦漫才のように切り返したのでまた笑ってしまった。
そんな幸せな日々。
海辺の白い家が私の家。
燦々と輝く太陽と潮風が心地よい。
私は部屋で宿題のレポートを書いていた時だった。
陽の光が波間に照らされ、その照り返しに目を奪われたときだった。
私は再びあの白い世界に迷い込んだ。
"ちぃちゃん、おいでよ。こっちにおいでよ、ちぃちゃん。"
"ちぃちゃん、おいでよ。こっちにおいでよ、ちぃちゃん。"
霧に包まれた真っ白な世界。霧の向こうから私を呼ぶ声がする。
気がつくと私は机の上に伏せっていた。
その後。
私は夜な夜な夢の中であの世界に紛れ込んだ。
"ちぃちゃん、おいでよ。こっちにおいでよ、ちぃちゃん。"
"ちぃちゃん、おいでよ。こっちにおいでよ、ちぃちゃん。"
"そんなところにいないで、こっちにおいでよ。"
誰?誰なの、私を呼ぶのは。
母は私のことを千絵さんと呼ぶわ。
父は私のことを千絵と呼ぶ。
友人たちは私を千絵ちゃんと呼ぶわ。
ちぃちゃんと呼ぶあなたはいったい・・・。
するとその声はいたずらっぽく笑う。
気がつくと私は父の腕の中にいた。
海辺の白い家の二階のバルコニーに出ていた私は、すんでのところで落ちているところだった。
母は憔悴しきっていた。私は母の呼びかけにも答えず、むしろ暴力的に母の腕を振りほどき
バルコニーに飛び出したというのだ。
まるで夢遊病者のように。
そしてクルクルと回転しながら、卑猥な言葉を喚き散らしながら。
冬の海の波が荒々しく岩場に叩きつける音が私の心の奥底を叩き潰すように聞こえた。
そのことがあってから父は執事の吉田に私を家から出さないように言った。
私はそのことについては特になにも思わなかった。
というよりはそれどころではなかったから。
実際夜な夜な見るあの白い霧の夢のせいで、私の心は異常なまでに掻き毟られていた。
深い霧の中をさまよい続けるあの夢に。
すると私の体は、私の眠っている間に奇行を繰り返している、というのか。
実際に目覚める度に私の体には痣や傷が増えていった。
そして夢を見るのを怖れて眠れない夜が続き、いやしかし最後に結局は寝落ちてしまう。
母の薦めで何人かのお医者様とか博士の診察を受けた。
母は私には悟られまいとしていたがその方々との話の中で「夢遊病」とか「多重人格」といった
単語を使うのが漏れ伝わってきた。「精神疾患」とか「強迫症」とか恐ろしい単語が増えていった。
私になにが起きているのか、母に恐る恐る聞くと、母も恐る恐る話すのを拒んだ。
ある日目覚めると母の求めに従い、私の四肢は吉田によってベッド柵に縛り付けられていた。
母が私を怯えたような目で見るのが悲しかった。私の両腕には掻き毟ったような傷があった。
母の顔にも吉田の顔にも生々しい傷跡があり、それよりなにより疲労と絶望感が見て取れたのが辛かった。
薄々気づいてはいたが、釈然としないが故に考えることを避けていた状況について
母が口にしたことにより、戸惑いはより深まった。だが認識すべき状況は理解できた。
そして理解できるほどには冷静でいられた。
「あなたの体には、なにかが取り憑いてるのよ!」
私の体になにかが取り憑いている。
私の中では合点がいった。
まさにそうだ。私が白い世界に迷い込んでいる間になにかが私の体を動かしている。
その実感が私にはある。
そして私の体を傷付け、こともあろうに母や吉田にも傷を負わせている!
いったいなにが私の体に起こったというの!
いったいなにが私の体に取り憑いたというの!
・・・しかし私が知ることが出来るのはここまで。
ひょっとしたら・・あの声の主が・・
幼い声で私を霧の中に誘うあの声の主が・・
私の体に取り憑いているというのか・・。
思い返すに幼いが故の、こどものような残酷さを感じさせる・・声。
明らかに・・悪意を秘めている・・あの声。
だから眠りたくない。私が眠ってしまうと必ずよくないことがおこる。
だが睡魔は以前より早くやってくるようになった。
目をしっかり開けていても頭の中が白い霧に覆われて、母の声が遠くなる。
ダメ、眠っちゃいけない!
瞼をしっかり開けて!
涙が眼を覆っても、瞼を閉じないわ!
ウトウトしないように、頬の筋肉を動かせば・・と聞いたことがある・・。
そうよ、心理学の先生がワタシの講義が退屈で眠いときは頬の筋肉を動かしてみろ。
眠気が取れるぞ!やってみろ!そう仰っていたじゃない!
口を大きく開けて、横に思い切り広げて!
そう、それを続けるのよ、ほら、もっと・・もっと・・もと・・も
ダメ!ほら、もっと大きく口を開けて、横に広げて!
今度は口を窄めて、頬の筋肉を持ち上げて・・・今度は下げて・・
そうよ、それを続けるのよ、上げて、下げて、ほら、もっと・・もっと・・もと・・もっ・・
ダメ!声を出して、おかあさま、なにか喋って!
吉田、お願い、なにか喋ってちょうだい!
しかし之とて私の眠っている間の奇行のひとつとしてしか、とらえられていないようだ。
母がおののき震えている。吉田も怯えている。
叫ぼう、叫ぶしかないよ
アアアアアアアアアーッ!アアアアアアアアアーッ!
アアアアアアアアアーッ!アアアアアアアアアーッ!
こうなればどうとらえられようと危害が母に及ばないようにしなければ・・
アアアアアアアアアーッ!
アアアアアアアーッ!
アアアアアアーッ!
アアアアアーッ!
アアアーッ!
だめだ、体力が無くなっていくのが解る。
やがて声も出なくなった。
喉元が乾いてガラガラ声もでない。
哀しくて辛い熱い涙が頬を伝わるのが解るが、私の重い瞼が閉じられてゆく・・。
目の前が真っ暗になった・・。
身体の力が抜けてゆく・・。
首を立てていられない・・。
頭がガクンと落ちる・・。
意識が遠のく・・。
意識が・・。
その瞬間、夢の中に入る直前に、私の耳元のすぐ横で嘲り笑ったあの声がした。
”ちぃちゃん、待ってたよ・・。さぁ、わたしの出番だ。”
了
Bing Crosby - Beautiful Dreamer
"ちぃちゃん、おいでよ。こっちにおいでよ、ちぃちゃん。"
"ちぃちゃん、おいでよ。こっちにおいでよ、ちぃちゃん。"
最初にこの声を聞いたのは、成人式の写真を撮ったときのことだ。
父と母と駅前の写真館で。マグネシウムが焼けた瞬間、目の前が真っ白になって。
真っ白な世界の中で。
まるで無重力状態の重さのない世界で。
真っ白な霧の中から、いいえ、霧の向こうから。
ずっとずっと向こうから。
私を呼ぶ声がする。
"ちぃちゃん、おいでよ。こっちにおいでよ、ちぃちゃん。"
"ちぃちゃん、おいでよ。こっちにおいでよ、ちぃちゃん。"
気絶して倒れてしまったらしい。
晴れ着の帯がきつすぎたかしら・・・。
気がつくと母が心配して顔をのぞきこんでいるのが見えた。
心配かけてはいけないと思い、ぎこちなく微笑んでみせる。
父が手を伸ばして抱き上げてくれた。
だいじょうぶかい?と声をかけてくれた。
その日は写真の撮影は出来ず、そのまま車でレストランに外食に出かけた。
海辺のシーフードレストランで、エビとオイスターのサラダをオーダーした。
母はいよいよ千絵さんも大人の仲間入りね、と微笑んだが
父は先程のこともあり、体調のことを気にしてくれた。
いちどちゃんとした病院で精密検査を受けてみたらどうだろう、と。
すると母はそんな大袈裟な、と呆れ顔をしたのが面白くてくすくすと笑ってしまった。
だがもうすぐ彼氏が出来てお嫁さんになるんだから、と父は話を進めると
まだ先の話よ、と母はまるで夫婦漫才のように切り返したのでまた笑ってしまった。
そんな幸せな日々。
海辺の白い家が私の家。
燦々と輝く太陽と潮風が心地よい。
私は部屋で宿題のレポートを書いていた時だった。
陽の光が波間に照らされ、その照り返しに目を奪われたときだった。
私は再びあの白い世界に迷い込んだ。
"ちぃちゃん、おいでよ。こっちにおいでよ、ちぃちゃん。"
"ちぃちゃん、おいでよ。こっちにおいでよ、ちぃちゃん。"
霧に包まれた真っ白な世界。霧の向こうから私を呼ぶ声がする。
気がつくと私は机の上に伏せっていた。
その後。
私は夜な夜な夢の中であの世界に紛れ込んだ。
"ちぃちゃん、おいでよ。こっちにおいでよ、ちぃちゃん。"
"ちぃちゃん、おいでよ。こっちにおいでよ、ちぃちゃん。"
"そんなところにいないで、こっちにおいでよ。"
誰?誰なの、私を呼ぶのは。
母は私のことを千絵さんと呼ぶわ。
父は私のことを千絵と呼ぶ。
友人たちは私を千絵ちゃんと呼ぶわ。
ちぃちゃんと呼ぶあなたはいったい・・・。
するとその声はいたずらっぽく笑う。
気がつくと私は父の腕の中にいた。
海辺の白い家の二階のバルコニーに出ていた私は、すんでのところで落ちているところだった。
母は憔悴しきっていた。私は母の呼びかけにも答えず、むしろ暴力的に母の腕を振りほどき
バルコニーに飛び出したというのだ。
まるで夢遊病者のように。
そしてクルクルと回転しながら、卑猥な言葉を喚き散らしながら。
冬の海の波が荒々しく岩場に叩きつける音が私の心の奥底を叩き潰すように聞こえた。
そのことがあってから父は執事の吉田に私を家から出さないように言った。
私はそのことについては特になにも思わなかった。
というよりはそれどころではなかったから。
実際夜な夜な見るあの白い霧の夢のせいで、私の心は異常なまでに掻き毟られていた。
深い霧の中をさまよい続けるあの夢に。
すると私の体は、私の眠っている間に奇行を繰り返している、というのか。
実際に目覚める度に私の体には痣や傷が増えていった。
そして夢を見るのを怖れて眠れない夜が続き、いやしかし最後に結局は寝落ちてしまう。
母の薦めで何人かのお医者様とか博士の診察を受けた。
母は私には悟られまいとしていたがその方々との話の中で「夢遊病」とか「多重人格」といった
単語を使うのが漏れ伝わってきた。「精神疾患」とか「強迫症」とか恐ろしい単語が増えていった。
私になにが起きているのか、母に恐る恐る聞くと、母も恐る恐る話すのを拒んだ。
ある日目覚めると母の求めに従い、私の四肢は吉田によってベッド柵に縛り付けられていた。
母が私を怯えたような目で見るのが悲しかった。私の両腕には掻き毟ったような傷があった。
母の顔にも吉田の顔にも生々しい傷跡があり、それよりなにより疲労と絶望感が見て取れたのが辛かった。
薄々気づいてはいたが、釈然としないが故に考えることを避けていた状況について
母が口にしたことにより、戸惑いはより深まった。だが認識すべき状況は理解できた。
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私の体になにかが取り憑いている。
私の中では合点がいった。
まさにそうだ。私が白い世界に迷い込んでいる間になにかが私の体を動かしている。
その実感が私にはある。
そして私の体を傷付け、こともあろうに母や吉田にも傷を負わせている!
いったいなにが私の体に起こったというの!
いったいなにが私の体に取り憑いたというの!
・・・しかし私が知ることが出来るのはここまで。
ひょっとしたら・・あの声の主が・・
幼い声で私を霧の中に誘うあの声の主が・・
私の体に取り憑いているというのか・・。
思い返すに幼いが故の、こどものような残酷さを感じさせる・・声。
明らかに・・悪意を秘めている・・あの声。
だから眠りたくない。私が眠ってしまうと必ずよくないことがおこる。
だが睡魔は以前より早くやってくるようになった。
目をしっかり開けていても頭の中が白い霧に覆われて、母の声が遠くなる。
ダメ、眠っちゃいけない!
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ダメ!ほら、もっと大きく口を開けて、横に広げて!
今度は口を窄めて、頬の筋肉を持ち上げて・・・今度は下げて・・
そうよ、それを続けるのよ、上げて、下げて、ほら、もっと・・もっと・・もと・・もっ・・
ダメ!声を出して、おかあさま、なにか喋って!
吉田、お願い、なにか喋ってちょうだい!
しかし之とて私の眠っている間の奇行のひとつとしてしか、とらえられていないようだ。
母がおののき震えている。吉田も怯えている。
叫ぼう、叫ぶしかないよ
アアアアアアアアアーッ!アアアアアアアアアーッ!
アアアアアアアアアーッ!アアアアアアアアアーッ!
こうなればどうとらえられようと危害が母に及ばないようにしなければ・・
アアアアアアアアアーッ!
アアアアアアアーッ!
アアアアアアーッ!
アアアアアーッ!
アアアーッ!
だめだ、体力が無くなっていくのが解る。
やがて声も出なくなった。
喉元が乾いてガラガラ声もでない。
哀しくて辛い熱い涙が頬を伝わるのが解るが、私の重い瞼が閉じられてゆく・・。
目の前が真っ暗になった・・。
身体の力が抜けてゆく・・。
首を立てていられない・・。
頭がガクンと落ちる・・。
意識が遠のく・・。
意識が・・。
その瞬間、夢の中に入る直前に、私の耳元のすぐ横で嘲り笑ったあの声がした。
”ちぃちゃん、待ってたよ・・。さぁ、わたしの出番だ。”
了
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