完全犯罪

睡眠不足

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犯罪計画

偽装工作

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昔々の大昔。この世界が戦争に満ちており、数ヶ月もの間に数万人が平然と死ぬ。人々は死と隣り合わせの恐怖と絶望感を抱えながら暮らしていた。そんなある日、煙に覆われた濁った空は一気に海のような蒼い輝きを放った。すると雲が一点に集まり、そこから一人の神が降り立ち、その詠嘆と嘆きの力によって、平和を訪れさせた。

「いやさ、おかしくねぇーかその神話。」

僕はまだこのファンタジーすぎる裏世界のことを全然知らない。だからこそ彼女にイレギュラーについて教えてほしいと頼んだのに、なぜか子供の読み聞かせのような状態になっていた。
それにしても、神話というからには随分と昔の物語なのだろうとは思ったが、どうも話が少し近未来というか、言葉に言い表せないモヤモヤが僕の心を覆っていた。

「ん?どこがおかしい?」

「何でいうんだ、その神話に出てきた戦争についてだけど、それっていつの?第一次、第二次の世界大戦のことでは流石にないだろ、だとしたらそんな大戦聞いたことがない…」

うまくは言えないけど、少なくとも僕の知っている大きな戦争は二つだ、そして過去にその二つに引けを取らないような戦争があったなんて習ってないし、聞いたこともない。何かが引っ掛かる。モヤモヤはさらに増えていく。

「あー、そこね~。それはね~」

「ゴクリ」

ダメ元で、ルナに聞いてみたわけだが、まさか答えてくれるとは思わなかった。どうで、「めんどい~」とか「だるい~」とか言って結局教えてくれないと思っていた。だから今だけは彼女がすごい頼もしい先輩のように見えた。いじめっ子が急に優しくなるとかかる特殊フィルムみたいな感情に陥った。
そして文字通り息を呑んだが、

「私も知らないんだ~」

彼女からは期待を悪い意味で裏切らない答えが返ってきた。あまりにも真っ直ぐ、そして真面目に答えるもんだから僕は一瞬戸惑うが、言葉は勝手に口からこぼれ出していた。

「一回死ぬか?」

「しかたないじゃーん。神話なんだしー。わかる?“作り物の物語”だからそんな真剣に考えなーい。真面目ちゃんかっ。」

そんなことは言われなくても百も承知の上で聞いたつもりだった。さらに僕はストレスとイライラが溜まりもう笑うことしかできなかった。

少し紹介が遅れたが、此処は『S.A連合』の本部内接戦闘員育成学校。名古屋駅の地下、あのよくわからないオブジェのほぼ真下に存在する極秘施設である。出入り口は配線になったとある線路を抜けた先に存在しており、その中には小さな町のような空間が広がっていた。


「それよかさ、僕S.A連合本部ココの地形とか、何があるのかとか全くわかんないからさ、案内してくれない?」

「え……私がー……めんどくさっ……アカリにでも聞いといてよー。私忙しいんだけどっ。」

彼女は漫画を散らかし寝そべりながらの、行動と言葉の矛盾した事を言っていた。俺は苛立ちを隠せず、拳を固く握りしめて自制を保った。

「いや、なんというか、気まずくてさ…前まで僕イジメられてたわけじゃん…なんというかどうすればいいのかな…って……」

こんなこと言っていいのかわからないが、何ともずっとイジメられてた奴はいくら一度謝られたからと言って、強さが、苛立ちが、全ての鬱憤が消えるわけではない。今でも正直いうとアカリが怖い。そしてアカリが嫌いだ。

「そーゆーのは直接言いなさいよ…まっ、君がアカリと直接話せるかどうかはわからないけどねっ?」

彼女には全ての心がお見通しなのかと思うほど的確な返答を返してくる。どうせただめんどくさいから放った言葉なのかもしれない、でも今の僕からしたら少し背中を押されたような気分になる言葉だった。でも、最後に行った「直接話せるかどうかわからない」とはどういう意味なのだろう。

「ん?どーゆーこと??」

「いかにも君、免疫なさそうだもんっ」

「へ??」

“免疫”とは何のことか。僕は単純にアカリが何か特殊な病気にかかったのかと思ったが、その考えが甘かったことをこの後すぐに思い知らされた。

「おはよさん。手術長いわ……よぉ、ミナト!元気そうだな!」

「え…あ…あ?ど、どなたでしょう…?」

自動扉が開くと、そこには年齢は12歳くらいだろうか、小さくて可愛らしい白髪ツインテールの少女がいた。
そんな少女が急に僕の名前を呼び近寄ってくる。普通に怖わくて、僕は多分年下であろう女の子に敬語で話しかけていた。

「俺にも非はあるが、そうゆーのやめようぜ、今までのことを水に流せとは言わないが、今からでも仲直りできたらしてほしい……」

「え…いや…あの……ぼぼぼ僕…そんな女の子と仲違えどころか、ああああんまり話したこともないです…人違いだと…思い…ます……」

僕は小学校以来女子と話したこともなく、クラスの隅で一人でいるか、アカリにイジメられていたかのにパターンであった。だからいくら年下といえど、女子を前にすると言葉を紡ぐことができなくなってしまう。

「ぷっ……ハッハハハ!!!おーいミナトー。そいつアカリな?」

僕が訳もわからない状況に戸惑っていると、ルナは漫画を読む手を止めて大爆笑していた。

「へ?」

「おん。」

少女は真面目な顔をしながら頷いた。

「いやいやいやいや!あんなゴリラみたいなのが!こんないかにも大人イジメてそうなロリッ子に!!!??」

どう考えても納得はできない。筋肉の塊みたいなアカリが、こんなロリッ子メスガキスタイルになっているなんて!どう考えても可笑しい。TS?そんなもの知るか。あんなゴリラがウサギになんてなるわけがない、神様の悪ふざけにしてもタチが悪すぎるほどだ。

「お前、もっかい死ぬか?」

「いえ……すいません……」

少女は可愛い声と裏腹に結構心に来るようなことを言ってくる。咄嗟に謝ってしまったが、何となく口調?的にアカリのような気もする…が、まだあまり信じることができない。でも、信じるしかないのか…

「アカリさ、君殺す理由無くなって『J.M.A』形的に裏切ったじゃん、元々こっちのスパイだけど。まぁ、そんなこんなで命狙われちゃってるから仮で姿形を変えたってわけっ!オケー?」

「まぁ、理解はしたが!僕に“免疫なさそう”って言ったのはそーゆー意味だったのか!!」

「いや、実際にそうでしょっ、どーてーくんっ?」

ルナはニタニタ笑いながら、僕が一番言われたくない侮辱を迷いもなく言ってきた。いや実際にどーてーでは…あるけど…いざ言われると、それに“一応女子?”に言われると心の傷が何倍にも広がる気がした。

「おい、俺は一時的にこの体なだけで、ずっとじゃないからな?」

「いやいいよそのままでっフフッハハハッハッ!面白いしぃぃっハッハハハ!」

「困るわ!言う通り免疫ないし!中身がゴリラってわかっててもムリ!!」

「おい!誰がゴリラだ!??あぁ?」

アカリは可愛い顔しながら結構キレているようだ。でも可愛すぎてなんかもう癒された。

「ハハハ!!その顔!カオ!カオスぅぅ!!」

「ああああ、最早ご褒美でし……」

「俺もそろそろ心折れるぞ……!!」

「アッハハハハ!!!イヒヒッヒヒヒヒヤバイ!死ぬっぅ!ハハハ」

「おーい、訓練……始め、る……ぞ?」

指揮官らしき人が部屋に入ってきたが、入った瞬間のその地獄絵図さに思わず言葉が詰まっているようだった。
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