ガーネットのキセキ

世々良木夜風

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Maid 56. 氷結の迷宮の歴史

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<ポンッ!>
その途端、白い煙とともにマリンに姿を変える姫様。
「??」
その様子を不思議そうに見ていた、雪の妖精だったが、
「この度は、私の友人を救っていただき、本当にありがとうございました!」
体を起き上がらせたガーネットにお礼を言う。
「あなたは?それに『友人』って?...この子のことですか?」
ガーネットは傍らの雪を払う。すると、
「『青の奇跡』!!こんなところに!!...よく見つけたね!!」
中から現れた小さな青い花に、アリーが驚きの声を上げる。
「うん、少し雪が盛り上がってたから、気になってのぞいたらチラッと見えて...その時、あの子がファイアボールを唱えたから...」
ガーネットの返事に、
「それで身を挺してかばったんだね?...もう!無理するんだから!!心配したんだよ?!」
アリーが涙ぐむが、
「ごめんなさい...でもこれが燃えちゃうと、姫様に『奇跡の雫』をお届けできない...」
ガーネットは愛おしそうに『青の奇跡』を見つめている。
「ミャ~~~...」
マリンが微妙な声で鳴いた。

その様子を黙って見ていた雪の妖精だったが、話が落ち着いたのを認めると口を開く。
「私は『雪の妖精』。600年前の気候変動の時に生まれました!」

雪の妖精の話はこうだ。

〇・〇・〇

600年以上前、この辺りは冬になると雪に覆われた。
寒さを好む動物や魔物が闊歩し、夏になると、山の上の方で過ごした。山頂付近は一年中、雪が積もっていたからだ。

しかし、600年ほど前を境に、雪が降らない日が多くなった。
それは年を追うごとに増え、山の万年雪もその量を減らしていった。

そして、ついにある年、全く雪が降らなかった。
寒さを好む生き物は暑さに苦しみながら、祈った。
『お願いだから、雪を降らせてください』と...

寒さに強い生き物は、徐々に数を減らしていき、入れ替わるように、暑さに強い生き物が増えていった。
このままでは絶滅かと思われた時、寒さを好む生き物の思念が集まって、妖精が生まれた。
それが『雪の妖精』だという。

多くの動物や魔物の強い思念が集まってできた妖精の魔力は絶大だった。
彼女は近くにあった迷宮の奥に住み着くと、魔力を放出し始めた。
すると、その迷宮には雪が降りだし、やがて氷に覆われていった。
寒いところでしか生きられない動植物や魔物は、この迷宮で命を永らえることができた。

それから100年、いつしか人々に『氷結の迷宮』と呼ばれるようになった迷宮の最下層に、一つの種がたどり着いた。
その種は数十年をかけ、徐々に成長をし、やがて、綺麗な青い花をつけた。
それこそが、寒冷な地でしか育つことのできない『青の奇跡』だ。

『青の奇跡』には心があった。
普通の生物には聞くことができないが、雪の妖精にはその声が聞こえた。
雪の妖精のもととなった思念の一部に、『青の奇跡』のものが混ざっていたからかもしれない。

それから、ひとりぼっちだった雪の妖精は、『青の奇跡』という友人を得て、数百年の時を楽しく過ごした。
彼女が『青の奇跡』を守るために召喚したのが、アイスゴーレムだという話だった。

〇・〇・〇

「そんなことがあったんだ!良かったね!」
ガーネットが『青の奇跡』に話しかける。
心なしか、『青の奇跡』が笑った気がした。
「じゃあ、この迷宮は立ち入り禁止にした方がいいんじゃないの?」
アリーがマリンを見ながら口にする。
「そんなことができるのですか?!」
雪の妖精は驚いているようだったが、
「ミャ~~~~~!!」
マリンは承知したように大きく鳴いた。
「ふふふ!マリンったら!...大丈夫です!お城に帰ったら私が姫様にお話しします!姫様ならきっと、その願いを聞き届けてくれるはずです!」
ガーネットは微笑ましげに笑うと、続けて、雪の妖精に約束をした。
「そう...あなたは...」
雪の妖精が、何かを理解したようにマリンを見ていると、

「でも、ラピスラズリさんたちは?」
ガーネットはラピスラズリ一行がいなくなっていることに気付いたようだ。すると、
「それは姫...」
口を開こうとした雪の妖精を遮って、アリーが大声を出す。
「そ、それは!!...その...そう!アメジストたちが追い払ったの!!」
「「「えっ?!」」」
口を揃えて驚いているアメジストたち。しかし、
(『はい』と言いなさい!!)
そう言わんばかりにマリンとアリーがこちらを睨んでいる。

「そ、そうなんだよ!!あたしたちが追い出してやったさ!!」
「な、なかなかの強敵だったっスが、あたいたちにかかれば...」
「あいつらも今頃は反省していることだろう!」
調子の良さだけは一流な、ろくでなし3人組。
完璧な対応だった。

「さすがです!!それでそんなに汗びっしょりなんですね!...でも、国一番の冒険者パーティーをやっつけるなんて...」
ガーネットの目が陶酔の色に染まる。
「ま、まあ、皆さんが納得されているのなら...」
雪の妖精の額に、一筋の汗が流れた。

「でも、どうしてここに?カリナンにいたはずでは?」
ガーネットがあごに指を当てて、不思議がっていると、
「えっ?!」
困った様子のアメジスト。
「それは...その...」
パールも言葉が出てこない。すると、
「ま、まあ、あれだ!極秘の任務ってヤツだ!」
ヒスイがなんとかそう答えた。
「す、すいません!!そうですよね!アメジストさんたちはそんなこともやってらっしゃいますよね!...それなのに、わざわざこんなところまで来て、助けていただいて...」
ガーネットが恐縮したように頭を下げると、

「そ、そんなことはありません!!」
「ガーネット様のためなら地獄の果てにでも!!」
「全く、手間だと思ったことはありません!!」
慌てて、敬語で釈明しだすアメジストたち。

「ふふふ!変なの!」
その様子に思わず、頬を緩めたガーネットだったが、
(もしかして、私に気を使わせないために?)
アメジストたちの意図を、心の中で勝手に推察して、感動していると、

「ちょっと、寒くないっスか?」
パールがふと、口にした。
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