アイスのおじさん

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アイスのおじさん

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1974年の夏休み、小学校4年生のダイスケは友達4人に、アイスのおじさんの家に遊びに行こうと提案した。ゴミ袋に大量にアイスの袋が見えるため、子どもたちの間でそう呼ばれている。アイスのおじさんは近所で有名だ。大人たちからあのおじさんには近づかないようにと言われている。つまりはそういう人なのだ。しかし子どもたちの中には、居間でアイスをおごってもらったという者もいる。一方で、何もしていないのに突然怒鳴られたという者もいる。
 自転車でアイスのおじさんの家の前に着くと、ちょうどおじさんは玄関の前で、半袖半パンの格好でアイスを食べていた。5人は、おじさんのだらしない見てくれを見てクスクス笑った。アイスが欲しいのかというおじさんの問いかけに5人はうんと頷いた。
 おじさんの冷蔵庫には大量にアイスが入れられていた。5人はそれを見て歓喜の声をあげた。丸いテーブルに車座になって5人はアイスを食べた。すると突然アイスのおじさんは包丁を5人に向けてきた。クソガキ共!殺してやる!とおじさんは叫んだ。4人は叫びながら急いで逃げていったが、ダイスケは足が止まった。ダイスケはおじさんの目に何かを見た。ガキが大嫌いだ!大人にコロッと騙されやがって。もっと大人を疑え!とおじさんは言って、包丁を持ちながらダイスケの方に向かった。そこでようやくダイスケも家を飛び出した。4人がダイスケを心配そうに見て、大丈夫だったかと尋ねた。うんと頷いたダイスケを見て4人は大笑いした。こんなにもスリル溢れる体験をしたのは初めてだった。あのじじいやっぱりいかれてるなぁと4人は楽しそうに言った。ダイスケはおじさんの顔がこびりついた。
 1945年1月、日本の戦況は危ういものとなっていた。沖縄市民はガマでの生活を余儀なくされていた。生活と言っても、食事は2週間に一度、憲兵が物資を運んで来てくれるだけで、ガマの中は糞尿の臭いが立ち込めていた。男の数はあっという間に減っていった。生き残っている大人の男は謙治と博の二人だけになった。二人とも23歳だが、戦時中に知り合っただけで幼馴染というわけではない。博にはチヱというガールフレンドがおり、彼女も同じガマで生き残っている。
 戦況が小康状態となったある日、謙治と博は近くの川で魚を釣ったり、木の実を採集するためにガマの外に出た。自分が死んだらチヱの面倒を見てほしいと博に頼まれた謙治は、分かったと言って頷いた。
 ガマに戻ると、智彦が謙治にとびかかってきた。智彦は7歳で、両親は既に死んでいる。謙治は子どもに好かれやすい人間だった。智彦は、ガマの中でもひと際明るい存在だった。何を採ってきたのかと尋ねる智彦に、謙治は木の実を渡した。智彦は美味しそうに赤い木の実を食べた。謙治が座ると、智彦がその横に座った。大人になったらご飯をいっぱい食べて、他の人にも分けてあげたい。それが僕の夢だと智彦は謙治に伝えた。とてもいい夢だと謙治は言った。自分もその夢に協力したいと智彦の目を見て言った。
 8月11日、どうやら日本が負けたらしいという噂がガマの中にも広まった。博はすでに死んでいた。チヱはまだ生き残っているが、博が死んだショックで落ち込んでいた。謙治は様子を見るためにガマの外に出たが、特に変わった様子はなかった。それどころか、まるでこの世界で一度も戦争など起きていないかのような、そんなことを謙治に思わせるほど心地の良い晴れ晴れとした天気だった。そして、博と周っていた木の実のルートを一人で周った。
 ガマの入り口に戻ってくると、そこに7人のアメリカ兵が立っていた。そして謙治に向けて一斉に銃口を向けた。謙治はあまりに突然の出来事に固まってしまい、採ってきた木の実を地面にすべて落とした。これを中に投げてくださいとアメリカ兵の一人が謙治に言い、手りゅう弾を見せた。どうやらこのアメリカ兵だけは日本語を喋れるみたいだ。なぜそんなことをしなければならないのかと尋ねたが、そのアメリカ兵は、理由は言いたくないと言った。そして、投げないならあなたを撃つと脅してきた。
 そこに智彦がやってきた。謙治の帰りが遅いからということで様子を見に来たらしい。アメリカ兵たちは一斉に智彦の方を見た。智彦は初めて見るアメリカ兵に驚き、謙治の足に抱きついた。その子どもにガマの中に戻るように言ってくださいとアメリカ兵は言った。余計な素振りを見せたら二人とも撃ちますとも言った。謙治は智彦に、ガマの中に戻るようにと目を見ながら言った。そのときの智彦の目は、きれいで澄んでいた。智彦は素直に言うことを聞きガマの中に戻っていった。それから数十秒、謙治もアメリカ兵も無言の状態が続いた。その後、アメリカ兵は謙治に手りゅう弾を渡した。謙治は安全ピンを抜き、ガマの中に投げると見せかけて、地面に思い切り叩きつけた。
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