悪役熟女令嬢の婚約者

†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†

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第1章 王立学院 royal academy

第6話 星ノ獣・蛇

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ファータグラヌス家 邸宅
ソルティさんの実家の巨大な豪邸と違い、山の合間にある村の少し大きい屋敷だ。
珍しく木で家が組まれている。旗を見ると普通に白蛇の紋章があった。
簡単な推理ってそういうことか。
「さて、紹介しよう。
養子のエレミアだ。確かソルティ殿と同い年だったか。」
「はい、ソルティとは学院の同期ですね。」
灰色の髪の女性、ソルティさんとは違うタイプの美人だな。
どこか儚いような、深窓の令嬢って感じだ。
「お初にお目にかかります。キヨマサ・クロシロ・ヴェルトです。」
「まだソルティとは結婚していないのですね。
学院を卒業してから?」
「はい。」
「そこだ。義娘よ。
私はこの男を婿に迎えたい。」
「え?」「は」
俺とエレミアさんが一瞬で固まってしまった。
何か、こういうこと前にもあった気がするな。ソルティさんか。
「困ります!セルベス様に領主をやめられては」
「お前の子で良かろう。2人のいずれかに継がせればいい。
私は人ではないのでな。
これ以上、表に関わる気はない。」
「・・・俺はすでに婚約者がいるのですが。」
「婚約なら構わんだろう。
重婚は禁止されているが、貴族連中は妾を持つ者もいるし。
魔術面でサポート出来る。
お主にとっては悪くない話だが」
「ソルティさんと相談してみます。」
「――真面目よな。それなら1筆書くから待つがいい。
それと連れの子達が辿り着いたようだからもてなしてやれ。
義孫2人が学院に入ってからは、執事やメイドを屋敷に置いてなくてな。」
「分かりました。」

俺はエレミアさんと一緒に窓から見えたエースとグリアを迎える。
「そっちは無事みたいだね。
あの蛇を撃退するとは本当に凄い。」
「でも、血の匂いしないよ?」
「残念ながら、勝手にどっか行っただけだ。」
隣にいるんだけどな。
「ようこそ、ファータグラヌス家へ。
キヨマサ様のご学友の方ですね。」
「はい、エースグリット・グラディオラスターと」
「グリモリア・ブリュヘリアです。」
「どうぞ、応接間にご案内します。」
俺とエースとグリアは応接間に向かう。
「――それと、君の追加分も魔獣を狩っておいたよ。」
「そういえば、倒した分だけ追加で評価が上がるんだっけ。」
「十分な魔術戦闘能力が認められれば追加で単位認定されるよ。」
エースが俺に説明しているのを見てエレミアさんが一言
「懐かしいですね。」
エレミアさんが廊下をゆったりと歩いていく。

応接間
ヴァシリウス家の邸宅とは違い木を多く使った応接間に通され、
木で出来た大きな椅子に座る。
「――そうでしたか。巨大な白蛇に。
大変でしたね。
我が領土のヌシでしょう。
今後は見つけても関わらないようにしていただけると。」
「はい。それは問題ないのですが、」
「あの白蛇は星ノ獣ですか!?」
グリアが気になったらしく食いつき気味に聞く。
「――はい。
我が領地に古くからいらっしゃいます。
死と再生を司るとされる白蛇の星ノ獣
名はタランティヌシス
実際は不老不死ではなく、
自分そっくりの子を生んで命を繋いでいるだけのようですけどね。」
「星ノ獣はみんなそうですよね?」
星ノ獣は単性生殖だ。
「えぇ。」
「自分とほとんど同じ個体を出産すると聞いています。」
グリアがさらに食いつく。生き物好きだったのか。
「気になるなら、屋敷にある地下図書室を見ていかれますか?
私はあまり詳しくないので。」
グリアがエレミアに連れられて部屋を出ようとすると。
「キヨマサ、婚約の書状だ。」
セルベスが部屋に入って、書状を机に置く。
「――モテモテだね。」
「そういうのじゃないと思うがな。」
「お主を本気で欲しくなった。」
「はわわ。」
グリアが顔を真っ赤にしている。
「へぇ。」
エースがニヤニヤしながら俺を見てくる。
「私はそちらには一切関知いたしません。
成婚されましたら祝福いたします。
グリアさん、こちらへ。」
「は はい。」
エレミアとグリアが出ていく代わりにセルベスが椅子に座る。
よく見ると影の形は蛇なんだな。今までよくばれないもんだ。
「グラディオラスター家のご子息が、こんな辺境の地に来るとは。」
「学院の実習ですからね。
お騒がせして申し訳ない。
ですが前当主が星ノ獣だとは僕も想定外でした。」
「!?」
エース、気づいてたのか。俺はワーグナーに言われるまで気づかなかったのに。
「どうして分かった?」
セルベスが魔素を放ち始める。全身が押しつぶされるような圧力を感じる。
「ご安心ください。他言する気はありません。
旗の文様と言葉使いですかね。
以前パーティーでお会いした時に聞いていたので。」
「ふん
――厄介な騎士め。貴様は出世するぞ。」
「光栄であります。」
「騎士って?」
「やれやれ、友の素性も知らんのか。
父は王都の元騎士団長、母は宮廷魔術師のこの上ない血統だ。
たしか引退する時にブリュヘリア家の荒地を開墾する代わりに譲り受けたとか。」
「ブリュヘリア家って」
「グリアの実家だよ。
グリアとは幼馴染でね。
僕の婚約者はグリアの妹さんなんだ。」
「――そうだったのか。」
貴族にありがちのこととはいえ、色々複雑だろうな。
「さて、本題に入ろう。
まずこの国に近々厄災が訪れることが予言されている。
それは知っているか?」
「えぇ。父が兵站まで準備を始めていましたからね。」
「それなら話が早いな。
まず次の厄災に対抗する鍵はキヨマサとソルティ殿になる。
キヨマサには後ほど我が目と牙を授けるとして。
エース、君にはキヨマサの警護を頼みたい。」
「どういうことですか?
キヨマサ君はもう既に警護が必要ない程度には強いと思いますが。
騎士団でも対抗できるのは師団長クラスでしょう。」
「――それは言いすぎだな。よくて大隊長といったところだ。
こいつは油断しやすい。
我が力で多少はマシになるだろうが、
所詮は人だ。
毒殺、暗殺、最近は毒ガスなんてのもある。
敵は転生者だ。何を仕掛けてくるか分からぬ。
何よりこやつは女に弱い。」
ひどい言われようだが、人間だと大体それらには弱いだろ。
「分かりました。
グラディオラスタの名にかけて。」
「よし。
学園の中と下宿まででいい、下宿にはソルティ殿がいるからな。
聖女には気をつけろ。
あいつは今のところ唯一見えている敵だ。」
「というと?」
「厄災の大本である転生者の素性も居場所も分からんのだ。
既に転生してこの世界にいるのか否かすらな。
手がかりは聖女のみ。」
「どうして、彼女が?
平民ですしあなた方からするとあまり強そうには想えませんが。」
「強さではない。
あいつの肉体には魅惑の天恵とも言うべき特殊な魔術が常時発動している。
恐らく4大古代魔術と同じく、生まれつきの体質のようだ。
そしてひっかけたのが次期国王候補のトラヤーヌ
現騎士団の団長の息子やら、宮廷の天才魔術師の息子も巻き込んだらしいがな。」
「――なるほど。
天然の人たらしという奴ですか。
でもどうして僕やキヨマサには効かないのでしょう?」
「既に強く想う特定の相手がいたり、
キヨマサのように特殊体質には効かないようだな。
だが恐らく、貴様ら以外の男は聖女のことが好きなはずだ。」
まぁ、俺は転生者だから効かないんだろうな。
「聖女を利用して敵をおびき出す。」
「――確かに、利用するには打ってつけですね。
殺さず様子見を?」
エースがいきなり物騒なことを言い出す。
エースはこの言い方だと学院に入る前に何人かやってるな。
辺境だし密入国しようとした犯罪者とかだろうけど。
「殺すのはなしだ。王子が騒いでも面倒だしな。
それに泳がせて手掛かりを探った方がいい。
体質の特性上、こちらに引き入れるのも危うい。
騎士団や議長の犬共は男の方が多いのだろう?」
「――そうですね。男が9割以上です。」
「下手に接触して騎士団や例の犬共を堕とされる方が厄介だからな。」
「犬って何なんだ?」
「この国の秘密警察だよ。
普段は入国してきた国際犯罪者とかを追ってるんだけど、
国内の事件への介入は王国議会の議長の判子がないと動けないからしつけの行き届いた犬ってことだね。」
「――そんなものが。」
異世界でもスパイとかあるんだな。
「キヨマサに色々と国の事情を教えてやってくれ。
あまりに疎い。」
「そうですね。ソルティ様もお忙しいようですし。」
「学院で何かあればエレシウスの小僧に言うといい。
まぁ、近々私もそちらに向かう。」
「それってエレシウス教授・・・ですか?」
「あぁ、12の時まで寝小便をたれておった我が弟子だ。」
「!?」

グリアが戻って来たところで、俺達は一旦解散となり
俺とエースとグリアは宿で1泊してから学園都市へと戻った。
その後、魔術の実戦訓練の単位は無事もらえた。追加単位もばっちりだ。
流石はエースだよ。これで後期は魔術の実戦訓練を取らなくて済む。
聖女達はどうなったか知らないが、ひとまず一見落着だな。

1カ月後 学園都市スカラル ソルティ邸
「隣に引っ越してきた。セルベスだ。
よろしく頼む。ソルティ殿」
眼帯をつけたセルベスさんが俺とソルティさんの下宿を訪ねてきた。
「――流石の行動力ですね。」
「ある研究が完成したのでね。
恋の研究をしてみようと思ってな。」
「わ・た・し・の・婚約者をどうする気?」
真ん中にいる俺をはさんで、ソルティさんとセルベスさんが向かい合ってにらみ合っていた。
机の上にはセルベスさんが書いた俺への婚約を承諾するように要請した手紙がぐしゃぐしゃになって置かれている。持って行った瞬間に握りつぶされたからな。
「あくまで婚約なのだから、恋愛は自由だろう?
そうでなくても大公家ともなれば妾を作るのが伝統ではないか。」
「――まぁ、あなたのことですから
何か深い考えが」
ソルティさんが紅茶を飲もうとカップを掴むと
「いや、これは完全に私の私情だ。」
「だめでしょ!
あなたがもう領主ではないとはいえ私情で婚約など。」
「もう娘も孫もいて跡継ぎには困らないのでね。
私も自由な恋愛を楽しんでも問題あるまい。
それに君もこんな少年と婚約するなど、少々強引ではないかな。」
「200年以上生きてるあなたにだけは言われたくないわ。」
「え」
「キヨマサ、星ノ獣の白蛇は寿命が250から300年なのよ。
言ってみれば人間でいうと50歳ぐらい。」
「今年で205だったか、それを言うならソルティ殿も40を過ぎているではないか。」
「あ、愛があるからいいのよ。」
「我にも愛はあるぞ。これを」
俺の手にふわりと真っ白な象牙質っぽい杖が浮かんできて止まる。
どこから出したんだ?影からか?
「それが我が牙、名はヘレンとでも名づけようか。
それと」
もう1つ俺の方に真っ黒にいくつも赤い筋が入った球体が浮かんでくる。
「こ、これは。」
恐る恐るとるとペンダントみたいだな。
「我が目だ。安心しろ。我が目は3日で再生する。
どちらも世界有数の威力を誇る魔具<ガイスト>で1点物だ。
腕のいい職人に加工させた。
大陸通貨で3000万ギルか青天井の値は付くだろうな。
結納品としては十分だろう。厄災が終わるまでは売るなよ。」
「――売りませんよ。」
「あと、実家にも言うなよ。たぶん勝手に売られる。」
どんだけ信用されてないんだよ。こっちの世界の俺の両親。
「そう、でも私は大公家よ。
婚約者を取られるとあっては沽券に関わるわ。」
「何だ、最後まで読まなかったのか。
私は恋を研究したいのでな妾でいい。
正妻とやらはソルティ殿が取ればよかろう。」
「あぁ、そうだったの。
ごめんなさい。」
ソルティさんが拍子抜けして平謝りした。
え、そういう問題なの?
「それではキヨマサの返答を聞こうか?」
「俺はソルティさんの婚約者ですし。
ソルティさんがいいなら別に反対する気はありませんね。」
「そういうことなら、私はむしろ賛成よ。
今後の厄災に備えて星ノ獣の1角を味方に出来るならこれ以上ないほど心強い。」
会う前と意見が真逆に変わっちゃったよ。柔軟だな。
「籍はソルティ殿にいいようにやってもらって構わん。」
「そこは融通が効くと思うわ。」
凄いことになるな。200歳超えの妾か、いや人間の尺度で計っちゃだめなんだろうけど。
「ふむ、キヨマサもそれでいいな。」
「はい。」
「それでは、こちらに2人の署名と捺印を。」
セルベスさんがささっと紙を取り出して、俺とソルティさんがサインして終わり。
「さて、本題に入ろう。ソルティ殿」
「呼び捨てでいいわ。」
「うむ。ソルティ
我が研究成果を見てくれぬか?」
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