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第1章 王立学院 royal academy
第9話 転生者狩り
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学園都市スカラル 郊外 蜜の森
「ここね。」
森の中にぽつんとある家の前で
ソルティさんとセルベスとベルゼブが杖を構えて待機する。
俺がドアをノックするが、反応がないな。
鍵を水の刃で切り裂いてドアを開ける。
「――入るぞ。」
中に入ると普通の一軒家だな。
マリーナも住んでいるらしく、学生鞄もかけてある。
「あっあんっ」
奥の部屋で女の声が聞こえた。
杖を構えながらドアを蹴破って入ると
女と男がベッドの上で布団にくるまっていて何かをしていた。
「誰よ!!」
ドッと激しい火炎の塊が俺へと放たれる。
水の球体で防ぎ、あたりに水蒸気が広がる。
「ちっ。邪魔!!」
「ぐあっ!」
男の声がして、ベッドから落ちた音がする。
「くそっ逃げる気か!」
ドドドッ!と火炎の塊が3重、4重に撃たれているせいで、俺は守りに徹さざる負えない。
「誰だ!?」
男が叫ぶのを無視して、外へ出る。
するとベルゼブが俺の前に飛び出し。
「捕まって!」
ベルゼブが羽を広げる。
「あぁ!」
俺がベルゼブの手を掴もうとすると
「いや前から。」
あ、そっか背中は羽があるもんな。
「おぉ。」
俺はベルゼブに抱き着くようにして捕まるとドッと急加速して空に飛び上がる。
「――流石に、星ノ獣と魔女相手では相性が悪いと思ったみたいで、
山の方へと逃げています。」
「どんだけ、足が早いんだよ」
ベルゼブが俺の腕が千切れそうな速度で飛んでるのに、女の姿が豆粒ほどの大きさに見える。
「エスキートで身体能力を強化しているみたいです。
少し加速します。強く捕まって」
俺が握力を強めると同時にベルゼブが再加速して女の前に巨大な土の塊を発生させる。
「そこまでだ!」
ベルゼブがドドドッ!!!と巨大な土の棘を女の周囲に発生させる。
そしてその1本が女の肉体を貫く。
「やったか。」
俺はベルゼブから飛び降りて、杖を構える。
人間なら確実に死ぬレベルで土の中の岩だけを固めたような棘が女に突き刺さっている。
「いえ、転生者がこんなもので死ぬとは想えません。」
まぁ、それもそうか。
「人の恋路の邪魔をするものは
炎に焼かれて死ぬがいい。
テレシア・ミニュエの名において我が肉体を蘇生せよ。」
女の体が岩からすり抜けて、再生していく。
こいつが転生者で間違いなさそうだな。
「炎の魔術に、誘惑の魔術・・・
厄介ですね。
私が足止めしますので、ソルティさんをこっちに来させないでください。」
「? どういう」
「キヨマサ!だいじょ」
ドッとソルティさんが上空から着地した瞬間
「ビンゴ!!!」
女が吠えた瞬間にソルティさんの目がぐらりと上を向き、俺の方を向く。
「土ノ星<ジオ・アステリア>」
ソルティさんがドドドッと俺の足元めがけ土の塊で放つ。
土の壁で受け止めるが、全て貫通していく。
だが軌道は反れたおかげでギリギリで躱せた。
威力が違いすぎる。
背中を寒気が通り抜け
「ベルゼブ! どうなってるんだ?」
「ソルティさんが敵に操られました。」
「解除方法は?」
「転生者のエスキートなので分かりません。」
ベルゼブが水魔術でテレシアの炎弾を防いでいる。
嘘だろ。起こりうる最悪の事態かもしれない。
「セルベスさんには効くのか?」
「人ではないので効きません。
・・・解析します。
ソルティさんを抑えておいてください。」
「無茶いうな!!」
俺はソルティさんめがけて水の刃を飛ばす。
それと同時に回り込むように走り出す。
「風の星<ヴェント・アストラリア>」
ソルティの前方に竜巻が発生し、俺の水の刃を薙ぎ払う。
遅れて緑の球体がソルティさんの周囲に発生していく。
「ぐっ」
「手土<マヌテラ>」
ソルティの足を土の手で掴む。
それと同時に竜巻を発生させているらしい緑色の球体を水の刃で切り裂く。
「風の星・月嵐<ルーヴェ>」
ソルティさんが風の勢いで飛び上がって、空中に浮遊する。
無理やり土の手から逃れたせいで、足が血まみれになっている。
――このままじゃ駄目だな。
操っているソルティさんに捨て身で戦わせてるんだ。
「ベルゼブ! 交代できるか?」
「・・・出来るだけ傷つけないようにですね。」
俺とベルゼブが立ち位置を入れ替えて、俺は水の球体でテレシアの炎の弾を防ぎながら突っ込んでいく。
「我が炎の刃にて、悪敵を滅せ!」
テレシアが炎の剣を手の中で作り出して握る。
そして振った瞬間
ドゴォオオオオッ!!!!と激しい炎の柱が俺に迫ってくる。
「盾土<テラ・スクート>!!」
俺が土魔術を最大威力で出し、
さらに
「水陣<クア・テストォード>!!」
土全体に水を纏わせて、炎の柱を受け止める。
「ちっ!厄介なクソガキが」
一瞬で俺の背後に移動していたテレシアが俺の首めがけて剣を振う。
「闇牙槍<テネブラ・デントゥス>」
俺と剣の間に槍が突き刺さり、剣が砕け散る。
「セルベスさん!?」
「状況を」
ドッとセルベスさんが槍を薙ぎ払ってテレシアを吹っ飛ばす。
「ソルティさんが敵に操られ、敵は魅惑のエスキートと炎のエスキートを併用してます。
あと身体能力は人の数十倍に強化。」
「操られてる方は、ベルゼブに解除を任せるとして。」
ドッとセルベスさんが槍を地面に下ろし
「転生者狩り、まさか初めての共同作業になるとは。」
セルベスが頬を赤く染める。
「――もっと平和的なことが良かったですけどね。」
俺は土の魔術を発動し、迫ってくる炎の柱を防ぐ。
どうやら炎の柱の起点は地面らしく、土で覆いをしてやれば土が熱くなるだけで済む。
水ぶつけて水蒸気になって火傷しかけたからな。
「闇影<ディヴュラ>」
ドプッとセルベスさんが地面の影に沈んでいき、
巨大な白い大蛇の姿に戻る。
俺は大蛇に巻き込まれないようにテレシアの右側から回り込む。
「黒炎・乱舞!!!」
テレシアが両手に剣に黒い炎を纏わせて舞う。
すると炎が空中を糸を伝うようにしてドッと俺とセルベスに飛んでいく。
「盾土<テラ・スクート>!」
ドドドッ!と俺の体の横に土の壁を発生させて黒い炎を防ぐが、
次の瞬間に黒い炎に土が焼かれた。
「!?」
「キヨマサ!ペンダントを使え!」
セルベスさんが叫ぶ。
「了解っ!」
俺はセルベスさんのペンダントから闇魔術を発動する。
ゴゥッと黒い炎が俺の体に触れるようとする一瞬前に黒い影のような液体が俺の影から現れる。
そして黒い蛇の形を取り、黒い炎とぶつかる。
「行くぞ」
黒い蛇が脱皮をして黒い炎が地面に落ちる。
同時にテレシアを射程圏内に捕らえた。
「「闇牙・絶淵<テネブラデンス・アビスス>!」」
俺は杖の持ち方を変えて、最大魔素を込める。
蛇の姿に戻ったセルベスの魔素も加わり、とてつもない魔素<エレメント>の奔流が生まれる。
ドッ!!!!
テレシアの背後から巨大な真黒い牙が現れ
テレシアの首を剣ごと一撃で切り裂く。
ガシャッ!!!!
「よし!」
「油断するな、粉々に砕け!」
セルベスさんがテレシアの頭部を黒い闇の牙で粉々に切り裂く
さらに胴体で押しつぶしてテレシアの肉体を粉々に粉砕する。
「っ!」
かつて人だったものが肉片になっているのを見て手が止まった。
――今は戦いだ。
「やめて!」
遅れてマリーナの声が響いた。
「聖女か。面倒な。」
セルベスが闇に姿を消す。
「ちょっ どこに」
(我は透明になって、人の姿に戻ってから合流する)
どうやらベルゼブの頭に意思を伝える方法はセルベスさんが教えた魔術っぽいな。こっちの方が理解がクリアだし。
「了解です。」
「どうして! 義母さん」
マリーナが砕け散った母親の肉体に駆け寄る。
「そいつは転生者だ。」
「だから何!?
私は!!」
ドッとマリーナの周囲が燃え上がる。
「おのれ、よくもぉおおお!!!!」
火炎の巨人が現れる。
「義母さん?」
聖女の全身が炎に包まれて燃え上がる。
黒い炎は人体を一瞬で灰にして、ドッとマリーナの体が地面に落ちる。
「キヨマサ!!」
俺の後ろにソルティさんが降り立つ。
「戻ったんですか?」
「えぇ。
それよりあれを倒す。
聖女ちゃんも退場してくれたことだし。」
「死んでません?」
「息はあるみたいよ。
自力で回復魔術を全身に掛けてるし、死ぬことはないでしょ。」
そういうものなのか。聖女は某黒い虫より生命力あるな。
「セルベス!!!
化粧してないでさっさと来なさい!」
「ベルゼブも、一緒に倒すぞ。」
「はい。お義兄ちゃん」
何か、どんどん呼び方が怪しい感じになってるが、つっこむ時間もないので。
火炎巨人テレシアの進行方向は俺の方だ。
逃げても街に出ればとんでもない被害を生むだろう。
何よりソルティさんは倒す気まんまんだ。
「来い!」
もう一度、ペンダントに魔素を込めて黒い蛇を呼び出す。
「しゅー」
小さな黒い蛇が俺の全身に巻きついていく。
「精霊魔術の一種ね。なかなか凄いじゃない。」
ドッと黒い蛇の力で強化された脚力で巨人の足元へと走る。
「潰してやる!!」
巨人が足を振り上げ、ドドドッ!!!と足裏から炎を放つ。
だが、その全てがでたらめなせいで、土魔術で1発を防いだだけで、他は全くかすりもしない。
「ぐあぁっ!!殺してやる!!」
体が文字通り燃えているのと同じらしく、元テレシアだった巨人はでたらめに暴れている。
「黒水刃<ナイガヒュドロ>!!!!」
つまり、巨人と言えど人形ではなく人の構造と同じなら
アキレス腱を切れば
黒い水の刃が巨人の左足首を後ろから切り裂く。
「ぐあぁっ!
くそがきが!!!」
巨人の左足ががくっと折れて膝をついて体勢を崩す。
巨人が両手を頭上に掲げて大地から赤い炎を吹き出させる。
「うぉっ!」
間一髪でベルゼブに掴みあげられて躱せたが、どんな範囲の攻撃だよ。
辺りの木々が一瞬で燃え上がって、黒こげになった。
通常の炎ではありえない、炎の燃焼能力がめちゃくちゃに強化されてるな。
「――弱点は」
「胸の中心部に魔素が集まっていますね。」
「そこだな。真上で落としてくれ」
「いいでしょう。ただし私も一緒に」
ベルゼブが急上昇して巨人の頭上に飛び上がる。
「行きますよ。」
「黒水刃<ナイガヒュドロ>・七重<セプト>」
「水ノ星・彗<アクアステラ・コメーテス>」
「黒王牙・絶<レクスウンブラ・アブソルート>」
俺の黒い水の刃とソルティさんの高水圧の槍とセルベスさんの黒い闇の牙が巨人の胴体に突き刺さり、粉々に巨人の胴体が砕け散った。
「ちょっ うぉっ!!!」
ベルゼブが俺を放り投げる。
「それでは私はとどめを」
ベルゼブが両手を合わせて掌をそっと離していくと
巨大な風の魔素が収束していき、
「貴様 ころ」
残った胴体と頭部でベルゼブに炎を放とうとした巨人ごと
周囲の空間を
「滅風崩<ヴェントルイナ>」
ドゴオオオッ!!!
落下中の俺ごと巨大な台風のような風が魔人を切り裂きながら消し飛ばした。
学園都市スカラル 近郊の山
「聖女ちゃん 大丈夫?」
ソルティさんが杖の先で体の半分ぐらいが黒こげになるまで治っているマリーナをつつく。
「ばぁい。だいじょうヴだぇす。」
喉が炎で焼かれているにも関わらず普通に発声できるのか、凄いな。ほんと。
「そう、じゃあ私はキヨマサと帰るから憲兵の取り調べの方はよろしくね。
あの巨人はあなたが倒したことにしていいから。」
「ぢよと まっで」
マリーナが手を上げようとするのを無視して
俺は主にベルゼブの風魔術にぶっ飛ばされたせいで受けた全身打撲を引きずりながら帰る。
ソルティさんに肩を貸してもらってるとはいえ、全身が本当に痛い。
肝心のベルゼブとセルベスさんは聖女が目を覚ます前にってどっか行ってるし。
「ソルティさん、
あいつは厄災の転生者なんですか?」
「関係はありそうだけど、本隊じゃないわね。弱すぎるし。」
「弱い ですか?」
「えぇ。操られた手前私がいうのはおかしいけど。
あの転生者は厄災にしては弱すぎる。
不死でもないし、私を見て逃げ出す程度の転生者が厄災とは考えずらいわ。
恐らく王国軍の1師団がいれば討滅できるし。」
「――師団単位なんですね。転生者って。」
元の世界だと軍の師団って1万とかだよな。
こっちの世界だとどのぐらいか分からんが。
「そうね、1000人でまとまった魔術を使えば倒せるでしょ。」
「――つまりソルティさんとセルベスさんは2人で1000人分の強さがあるってことですか?」
「だから言ったじゃない。私は聖女だって。」
ソルティさんが笑う。
「そうですね。」
夕日がソルティさんを照らす。
「おーい!!って貴様は!!
えっとヴァシリウス様もごきげんうるわしゅう。」
赤い髪のポンコツキス王子ことトラヤーヌか。
「えぇ。要件は?」
「誰だっけ?」
「俺は王子だぞ! 不敬罪だ!!!
じゃなくてマリーナを知らないか?」
「あー、知らん。この先は山火事に巻き込まれてな。
何か女の声がしたかもしれん。」
「くそっ! 覚えてろよ!」
トラヤーヌが走り去っていく。
「忘れとく。」
「おーい!!」「そこの君!」
今度は青い髪と黄色い髪の聖女の取り巻きが走ってきた。
ハドリアーヌとアントニアーヌだな。
「マリーナを知らないか?だろ
俺は知らんが、この先の山火事で女の声がした。
以上おしまい。」
「私達は山火事で怪我をしたから戻ってるところよ。」
「行こう!ハドリアーヌ」
「あぁ!姫を救うのは私だ。」
「いや僕だ。」
ソルティさんの婚約者になってから、嘘つくのがうまくなったなぁと想いつつ
夕日に向かって走る2人を眺めた。
「ここね。」
森の中にぽつんとある家の前で
ソルティさんとセルベスとベルゼブが杖を構えて待機する。
俺がドアをノックするが、反応がないな。
鍵を水の刃で切り裂いてドアを開ける。
「――入るぞ。」
中に入ると普通の一軒家だな。
マリーナも住んでいるらしく、学生鞄もかけてある。
「あっあんっ」
奥の部屋で女の声が聞こえた。
杖を構えながらドアを蹴破って入ると
女と男がベッドの上で布団にくるまっていて何かをしていた。
「誰よ!!」
ドッと激しい火炎の塊が俺へと放たれる。
水の球体で防ぎ、あたりに水蒸気が広がる。
「ちっ。邪魔!!」
「ぐあっ!」
男の声がして、ベッドから落ちた音がする。
「くそっ逃げる気か!」
ドドドッ!と火炎の塊が3重、4重に撃たれているせいで、俺は守りに徹さざる負えない。
「誰だ!?」
男が叫ぶのを無視して、外へ出る。
するとベルゼブが俺の前に飛び出し。
「捕まって!」
ベルゼブが羽を広げる。
「あぁ!」
俺がベルゼブの手を掴もうとすると
「いや前から。」
あ、そっか背中は羽があるもんな。
「おぉ。」
俺はベルゼブに抱き着くようにして捕まるとドッと急加速して空に飛び上がる。
「――流石に、星ノ獣と魔女相手では相性が悪いと思ったみたいで、
山の方へと逃げています。」
「どんだけ、足が早いんだよ」
ベルゼブが俺の腕が千切れそうな速度で飛んでるのに、女の姿が豆粒ほどの大きさに見える。
「エスキートで身体能力を強化しているみたいです。
少し加速します。強く捕まって」
俺が握力を強めると同時にベルゼブが再加速して女の前に巨大な土の塊を発生させる。
「そこまでだ!」
ベルゼブがドドドッ!!!と巨大な土の棘を女の周囲に発生させる。
そしてその1本が女の肉体を貫く。
「やったか。」
俺はベルゼブから飛び降りて、杖を構える。
人間なら確実に死ぬレベルで土の中の岩だけを固めたような棘が女に突き刺さっている。
「いえ、転生者がこんなもので死ぬとは想えません。」
まぁ、それもそうか。
「人の恋路の邪魔をするものは
炎に焼かれて死ぬがいい。
テレシア・ミニュエの名において我が肉体を蘇生せよ。」
女の体が岩からすり抜けて、再生していく。
こいつが転生者で間違いなさそうだな。
「炎の魔術に、誘惑の魔術・・・
厄介ですね。
私が足止めしますので、ソルティさんをこっちに来させないでください。」
「? どういう」
「キヨマサ!だいじょ」
ドッとソルティさんが上空から着地した瞬間
「ビンゴ!!!」
女が吠えた瞬間にソルティさんの目がぐらりと上を向き、俺の方を向く。
「土ノ星<ジオ・アステリア>」
ソルティさんがドドドッと俺の足元めがけ土の塊で放つ。
土の壁で受け止めるが、全て貫通していく。
だが軌道は反れたおかげでギリギリで躱せた。
威力が違いすぎる。
背中を寒気が通り抜け
「ベルゼブ! どうなってるんだ?」
「ソルティさんが敵に操られました。」
「解除方法は?」
「転生者のエスキートなので分かりません。」
ベルゼブが水魔術でテレシアの炎弾を防いでいる。
嘘だろ。起こりうる最悪の事態かもしれない。
「セルベスさんには効くのか?」
「人ではないので効きません。
・・・解析します。
ソルティさんを抑えておいてください。」
「無茶いうな!!」
俺はソルティさんめがけて水の刃を飛ばす。
それと同時に回り込むように走り出す。
「風の星<ヴェント・アストラリア>」
ソルティの前方に竜巻が発生し、俺の水の刃を薙ぎ払う。
遅れて緑の球体がソルティさんの周囲に発生していく。
「ぐっ」
「手土<マヌテラ>」
ソルティの足を土の手で掴む。
それと同時に竜巻を発生させているらしい緑色の球体を水の刃で切り裂く。
「風の星・月嵐<ルーヴェ>」
ソルティさんが風の勢いで飛び上がって、空中に浮遊する。
無理やり土の手から逃れたせいで、足が血まみれになっている。
――このままじゃ駄目だな。
操っているソルティさんに捨て身で戦わせてるんだ。
「ベルゼブ! 交代できるか?」
「・・・出来るだけ傷つけないようにですね。」
俺とベルゼブが立ち位置を入れ替えて、俺は水の球体でテレシアの炎の弾を防ぎながら突っ込んでいく。
「我が炎の刃にて、悪敵を滅せ!」
テレシアが炎の剣を手の中で作り出して握る。
そして振った瞬間
ドゴォオオオオッ!!!!と激しい炎の柱が俺に迫ってくる。
「盾土<テラ・スクート>!!」
俺が土魔術を最大威力で出し、
さらに
「水陣<クア・テストォード>!!」
土全体に水を纏わせて、炎の柱を受け止める。
「ちっ!厄介なクソガキが」
一瞬で俺の背後に移動していたテレシアが俺の首めがけて剣を振う。
「闇牙槍<テネブラ・デントゥス>」
俺と剣の間に槍が突き刺さり、剣が砕け散る。
「セルベスさん!?」
「状況を」
ドッとセルベスさんが槍を薙ぎ払ってテレシアを吹っ飛ばす。
「ソルティさんが敵に操られ、敵は魅惑のエスキートと炎のエスキートを併用してます。
あと身体能力は人の数十倍に強化。」
「操られてる方は、ベルゼブに解除を任せるとして。」
ドッとセルベスさんが槍を地面に下ろし
「転生者狩り、まさか初めての共同作業になるとは。」
セルベスが頬を赤く染める。
「――もっと平和的なことが良かったですけどね。」
俺は土の魔術を発動し、迫ってくる炎の柱を防ぐ。
どうやら炎の柱の起点は地面らしく、土で覆いをしてやれば土が熱くなるだけで済む。
水ぶつけて水蒸気になって火傷しかけたからな。
「闇影<ディヴュラ>」
ドプッとセルベスさんが地面の影に沈んでいき、
巨大な白い大蛇の姿に戻る。
俺は大蛇に巻き込まれないようにテレシアの右側から回り込む。
「黒炎・乱舞!!!」
テレシアが両手に剣に黒い炎を纏わせて舞う。
すると炎が空中を糸を伝うようにしてドッと俺とセルベスに飛んでいく。
「盾土<テラ・スクート>!」
ドドドッ!と俺の体の横に土の壁を発生させて黒い炎を防ぐが、
次の瞬間に黒い炎に土が焼かれた。
「!?」
「キヨマサ!ペンダントを使え!」
セルベスさんが叫ぶ。
「了解っ!」
俺はセルベスさんのペンダントから闇魔術を発動する。
ゴゥッと黒い炎が俺の体に触れるようとする一瞬前に黒い影のような液体が俺の影から現れる。
そして黒い蛇の形を取り、黒い炎とぶつかる。
「行くぞ」
黒い蛇が脱皮をして黒い炎が地面に落ちる。
同時にテレシアを射程圏内に捕らえた。
「「闇牙・絶淵<テネブラデンス・アビスス>!」」
俺は杖の持ち方を変えて、最大魔素を込める。
蛇の姿に戻ったセルベスの魔素も加わり、とてつもない魔素<エレメント>の奔流が生まれる。
ドッ!!!!
テレシアの背後から巨大な真黒い牙が現れ
テレシアの首を剣ごと一撃で切り裂く。
ガシャッ!!!!
「よし!」
「油断するな、粉々に砕け!」
セルベスさんがテレシアの頭部を黒い闇の牙で粉々に切り裂く
さらに胴体で押しつぶしてテレシアの肉体を粉々に粉砕する。
「っ!」
かつて人だったものが肉片になっているのを見て手が止まった。
――今は戦いだ。
「やめて!」
遅れてマリーナの声が響いた。
「聖女か。面倒な。」
セルベスが闇に姿を消す。
「ちょっ どこに」
(我は透明になって、人の姿に戻ってから合流する)
どうやらベルゼブの頭に意思を伝える方法はセルベスさんが教えた魔術っぽいな。こっちの方が理解がクリアだし。
「了解です。」
「どうして! 義母さん」
マリーナが砕け散った母親の肉体に駆け寄る。
「そいつは転生者だ。」
「だから何!?
私は!!」
ドッとマリーナの周囲が燃え上がる。
「おのれ、よくもぉおおお!!!!」
火炎の巨人が現れる。
「義母さん?」
聖女の全身が炎に包まれて燃え上がる。
黒い炎は人体を一瞬で灰にして、ドッとマリーナの体が地面に落ちる。
「キヨマサ!!」
俺の後ろにソルティさんが降り立つ。
「戻ったんですか?」
「えぇ。
それよりあれを倒す。
聖女ちゃんも退場してくれたことだし。」
「死んでません?」
「息はあるみたいよ。
自力で回復魔術を全身に掛けてるし、死ぬことはないでしょ。」
そういうものなのか。聖女は某黒い虫より生命力あるな。
「セルベス!!!
化粧してないでさっさと来なさい!」
「ベルゼブも、一緒に倒すぞ。」
「はい。お義兄ちゃん」
何か、どんどん呼び方が怪しい感じになってるが、つっこむ時間もないので。
火炎巨人テレシアの進行方向は俺の方だ。
逃げても街に出ればとんでもない被害を生むだろう。
何よりソルティさんは倒す気まんまんだ。
「来い!」
もう一度、ペンダントに魔素を込めて黒い蛇を呼び出す。
「しゅー」
小さな黒い蛇が俺の全身に巻きついていく。
「精霊魔術の一種ね。なかなか凄いじゃない。」
ドッと黒い蛇の力で強化された脚力で巨人の足元へと走る。
「潰してやる!!」
巨人が足を振り上げ、ドドドッ!!!と足裏から炎を放つ。
だが、その全てがでたらめなせいで、土魔術で1発を防いだだけで、他は全くかすりもしない。
「ぐあぁっ!!殺してやる!!」
体が文字通り燃えているのと同じらしく、元テレシアだった巨人はでたらめに暴れている。
「黒水刃<ナイガヒュドロ>!!!!」
つまり、巨人と言えど人形ではなく人の構造と同じなら
アキレス腱を切れば
黒い水の刃が巨人の左足首を後ろから切り裂く。
「ぐあぁっ!
くそがきが!!!」
巨人の左足ががくっと折れて膝をついて体勢を崩す。
巨人が両手を頭上に掲げて大地から赤い炎を吹き出させる。
「うぉっ!」
間一髪でベルゼブに掴みあげられて躱せたが、どんな範囲の攻撃だよ。
辺りの木々が一瞬で燃え上がって、黒こげになった。
通常の炎ではありえない、炎の燃焼能力がめちゃくちゃに強化されてるな。
「――弱点は」
「胸の中心部に魔素が集まっていますね。」
「そこだな。真上で落としてくれ」
「いいでしょう。ただし私も一緒に」
ベルゼブが急上昇して巨人の頭上に飛び上がる。
「行きますよ。」
「黒水刃<ナイガヒュドロ>・七重<セプト>」
「水ノ星・彗<アクアステラ・コメーテス>」
「黒王牙・絶<レクスウンブラ・アブソルート>」
俺の黒い水の刃とソルティさんの高水圧の槍とセルベスさんの黒い闇の牙が巨人の胴体に突き刺さり、粉々に巨人の胴体が砕け散った。
「ちょっ うぉっ!!!」
ベルゼブが俺を放り投げる。
「それでは私はとどめを」
ベルゼブが両手を合わせて掌をそっと離していくと
巨大な風の魔素が収束していき、
「貴様 ころ」
残った胴体と頭部でベルゼブに炎を放とうとした巨人ごと
周囲の空間を
「滅風崩<ヴェントルイナ>」
ドゴオオオッ!!!
落下中の俺ごと巨大な台風のような風が魔人を切り裂きながら消し飛ばした。
学園都市スカラル 近郊の山
「聖女ちゃん 大丈夫?」
ソルティさんが杖の先で体の半分ぐらいが黒こげになるまで治っているマリーナをつつく。
「ばぁい。だいじょうヴだぇす。」
喉が炎で焼かれているにも関わらず普通に発声できるのか、凄いな。ほんと。
「そう、じゃあ私はキヨマサと帰るから憲兵の取り調べの方はよろしくね。
あの巨人はあなたが倒したことにしていいから。」
「ぢよと まっで」
マリーナが手を上げようとするのを無視して
俺は主にベルゼブの風魔術にぶっ飛ばされたせいで受けた全身打撲を引きずりながら帰る。
ソルティさんに肩を貸してもらってるとはいえ、全身が本当に痛い。
肝心のベルゼブとセルベスさんは聖女が目を覚ます前にってどっか行ってるし。
「ソルティさん、
あいつは厄災の転生者なんですか?」
「関係はありそうだけど、本隊じゃないわね。弱すぎるし。」
「弱い ですか?」
「えぇ。操られた手前私がいうのはおかしいけど。
あの転生者は厄災にしては弱すぎる。
不死でもないし、私を見て逃げ出す程度の転生者が厄災とは考えずらいわ。
恐らく王国軍の1師団がいれば討滅できるし。」
「――師団単位なんですね。転生者って。」
元の世界だと軍の師団って1万とかだよな。
こっちの世界だとどのぐらいか分からんが。
「そうね、1000人でまとまった魔術を使えば倒せるでしょ。」
「――つまりソルティさんとセルベスさんは2人で1000人分の強さがあるってことですか?」
「だから言ったじゃない。私は聖女だって。」
ソルティさんが笑う。
「そうですね。」
夕日がソルティさんを照らす。
「おーい!!って貴様は!!
えっとヴァシリウス様もごきげんうるわしゅう。」
赤い髪のポンコツキス王子ことトラヤーヌか。
「えぇ。要件は?」
「誰だっけ?」
「俺は王子だぞ! 不敬罪だ!!!
じゃなくてマリーナを知らないか?」
「あー、知らん。この先は山火事に巻き込まれてな。
何か女の声がしたかもしれん。」
「くそっ! 覚えてろよ!」
トラヤーヌが走り去っていく。
「忘れとく。」
「おーい!!」「そこの君!」
今度は青い髪と黄色い髪の聖女の取り巻きが走ってきた。
ハドリアーヌとアントニアーヌだな。
「マリーナを知らないか?だろ
俺は知らんが、この先の山火事で女の声がした。
以上おしまい。」
「私達は山火事で怪我をしたから戻ってるところよ。」
「行こう!ハドリアーヌ」
「あぁ!姫を救うのは私だ。」
「いや僕だ。」
ソルティさんの婚約者になってから、嘘つくのがうまくなったなぁと想いつつ
夕日に向かって走る2人を眺めた。
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