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二章 ショウネシー領で新年を
25. クラッシャーショウ?
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コッコ(メス)は夕飯時に領主であるハンフリーを紹介する時にじっくり見れるだろうから、コッコ(オス)は明日騎乗体験してもらう予定だった。
そして思ったより早く、シャロンとヴェリタスがサロンにやって来た。
二人とも先程会った時とは衣装が違う。
きちんと湯にも浸かって身体も解れたのだろう、ツヤツヤのお肌と良い血色をしている。そしてほのかにエステラの作った液体石鹸の良い匂いがした。
あの液体石鹸は、十分な洗浄力がありながら、それ一本で髪も肌もしっとりサラツヤに仕上げてくれる優れものだ。
エステラに作り方を教わったマゴー達が、我も我もと制作練習をはじめたので、売るほど在庫がある。シャロン伯母様にお土産に渡そうと考えていた。
お茶を用意するマーシャとメルシャを見て、夫人は「ケーレブ以外の使用人がいないわけじゃ無いのね」と呟く。
シャロンは、まず優雅に紅茶を一口味わった。
「すごく美味しいわ。淹れ方が上手なのね」
マーシャとメルシャはマゴーと共に、技術を高め合っている。二人が褒められると、マグダリーナも嬉しくなった。
「さて、どこから聞けば良いのかしら」
夫人のため息を息子が拾った。
「じゃあ俺から。コレなに?」
そう言って、マゴー13号を抱き上げる。
マゴー13号は幼児に捕まった猫のように、何かを諦めた顔をしていた。
ダーモットの視線が泳いだので、マグダリーナが答える事にする。
「友人の魔法使いが作ってくれた魔導人形です。マンドラゴラ型のゴーレムなので、領内ではマゴーと呼んでます」
「普通魔導人形って戦闘用じゃね?」
「そうなんですか? 私もトニーも魔法も魔導人形も、友人が見せてくれるものが初めてなので、他との違いはよくわかりません」
ヴェリタスは目を瞑って少し考える。
「そうか……うーん、そうだな、まず大まかに分類すると、普通は魔導具は生活や仕事の効率化のために、魔導人形や魔法は戦闘用に使うんだ。だから魔導人形はもっと大型で動きも単純だ。人形を操る魔法使いは近くにいなきゃ行けないし、しゃべったり自分で考えて行動はしない。それでも高等魔法技術なのに、このマゴーはそれを軽く超えてる」
シャロンも優雅に扇子を広げる。
「この館の設備が、素晴らしい魔導具だらけなのも、浴室にありました……回復魔法が付与された洗浄液も、そのご友人のおかげかしら?」
「ええ、まあ……」
シャロンの質問には、ダーモットが答えた。
「今のショウネシー領があるのは、領主のハンフリーと彼女達が出会ったおかげです。そして今私が家族と一緒に居られるのも、彼女達が子供達を助けてくれたからです」
「まあ、詳しく聞いてもよろしくて?」
シャロンはダーモットではなく、マグダリーナとアンソニーを見て聞いた。
二人は頷きあって、妖精のいたずらから今日までの事をかいつまんで説明した。
「大変な目に遭ったのに頑張って来たのね、二人とも。とても偉いわ」
ふと、いつも余裕ありげなシャロンの瞳が揺らいだ。
「子爵には人を見る目と、浮気しないところしか長所が無いと思っていましたけど、強運もありましたのね。いえ、あなたの運ではないのかしら……それでも子爵家に関わることには違いありませんわね。それを見越してお願いがありますの」
「お断り申し上げます」
反射的にダーモットは首を振った。
「まあ、まだ何も言ってはいなくってよ?」
「オーブリー侯爵夫人、妻は貴女のことを賢く誇り高い貴婦人の鏡だと常々申しておりました。貴女は私に警告こそすれ、今までお願いなどされたことはない……それ絶対! 面倒ごとに決まっているじゃないですか!!」
「まあまあ、少しは言うようになって」
シャロンはゆるりと微笑む。
「ですがこちらがお願いする側ですものね、どうか」
ダーモットは珍しく素早く立ち上がって、テーブル越しに頭を下げようとするシャロンの肩を掴んだ。
侯爵家の使用人達が身構えるが、ケーレブが身振りで大丈夫だと伝える。
元侯爵家の使用人だったケーレブが、一番ダーモットとシャロンのことはよくわかっていた。
「貴女に頭を下げられると、困ります。何がなんでも断れなくなる」
「何がなんでも断らせたくないのですもの、諦めて私の礼を受けなさいな」
しばらく二人の間で無言の押し合いが続いたが、やがてシャロンが力を抜いて姿勢を正した。
「しかたありませんね」
扇子を広げチラリとマグダリーナとアンソニーを見る。
ダーモットはまだ警戒したまま立ち上がっていた。
「リーナとアンソニーは子爵の昔話など興味はお有り? そう、あれは彼がクラッシャーショウと呼「なんでも侯爵夫人の用件を拝命致します!!!!」
シャロンの言葉を遮り、ダーモットが叫び、ゴンと鈍い音が響く。
テーブルに両手をつき額を打つける勢い……いや、実際打つけてダーモットはシャロンの前に首を差し出した。
「ほほほ」
「「「クラッシャーショウ……?」」」
侯爵夫人の言葉に、マグダリーナとアンソニー、ヴェリタスは顔を見合わせた。
そして思ったより早く、シャロンとヴェリタスがサロンにやって来た。
二人とも先程会った時とは衣装が違う。
きちんと湯にも浸かって身体も解れたのだろう、ツヤツヤのお肌と良い血色をしている。そしてほのかにエステラの作った液体石鹸の良い匂いがした。
あの液体石鹸は、十分な洗浄力がありながら、それ一本で髪も肌もしっとりサラツヤに仕上げてくれる優れものだ。
エステラに作り方を教わったマゴー達が、我も我もと制作練習をはじめたので、売るほど在庫がある。シャロン伯母様にお土産に渡そうと考えていた。
お茶を用意するマーシャとメルシャを見て、夫人は「ケーレブ以外の使用人がいないわけじゃ無いのね」と呟く。
シャロンは、まず優雅に紅茶を一口味わった。
「すごく美味しいわ。淹れ方が上手なのね」
マーシャとメルシャはマゴーと共に、技術を高め合っている。二人が褒められると、マグダリーナも嬉しくなった。
「さて、どこから聞けば良いのかしら」
夫人のため息を息子が拾った。
「じゃあ俺から。コレなに?」
そう言って、マゴー13号を抱き上げる。
マゴー13号は幼児に捕まった猫のように、何かを諦めた顔をしていた。
ダーモットの視線が泳いだので、マグダリーナが答える事にする。
「友人の魔法使いが作ってくれた魔導人形です。マンドラゴラ型のゴーレムなので、領内ではマゴーと呼んでます」
「普通魔導人形って戦闘用じゃね?」
「そうなんですか? 私もトニーも魔法も魔導人形も、友人が見せてくれるものが初めてなので、他との違いはよくわかりません」
ヴェリタスは目を瞑って少し考える。
「そうか……うーん、そうだな、まず大まかに分類すると、普通は魔導具は生活や仕事の効率化のために、魔導人形や魔法は戦闘用に使うんだ。だから魔導人形はもっと大型で動きも単純だ。人形を操る魔法使いは近くにいなきゃ行けないし、しゃべったり自分で考えて行動はしない。それでも高等魔法技術なのに、このマゴーはそれを軽く超えてる」
シャロンも優雅に扇子を広げる。
「この館の設備が、素晴らしい魔導具だらけなのも、浴室にありました……回復魔法が付与された洗浄液も、そのご友人のおかげかしら?」
「ええ、まあ……」
シャロンの質問には、ダーモットが答えた。
「今のショウネシー領があるのは、領主のハンフリーと彼女達が出会ったおかげです。そして今私が家族と一緒に居られるのも、彼女達が子供達を助けてくれたからです」
「まあ、詳しく聞いてもよろしくて?」
シャロンはダーモットではなく、マグダリーナとアンソニーを見て聞いた。
二人は頷きあって、妖精のいたずらから今日までの事をかいつまんで説明した。
「大変な目に遭ったのに頑張って来たのね、二人とも。とても偉いわ」
ふと、いつも余裕ありげなシャロンの瞳が揺らいだ。
「子爵には人を見る目と、浮気しないところしか長所が無いと思っていましたけど、強運もありましたのね。いえ、あなたの運ではないのかしら……それでも子爵家に関わることには違いありませんわね。それを見越してお願いがありますの」
「お断り申し上げます」
反射的にダーモットは首を振った。
「まあ、まだ何も言ってはいなくってよ?」
「オーブリー侯爵夫人、妻は貴女のことを賢く誇り高い貴婦人の鏡だと常々申しておりました。貴女は私に警告こそすれ、今までお願いなどされたことはない……それ絶対! 面倒ごとに決まっているじゃないですか!!」
「まあまあ、少しは言うようになって」
シャロンはゆるりと微笑む。
「ですがこちらがお願いする側ですものね、どうか」
ダーモットは珍しく素早く立ち上がって、テーブル越しに頭を下げようとするシャロンの肩を掴んだ。
侯爵家の使用人達が身構えるが、ケーレブが身振りで大丈夫だと伝える。
元侯爵家の使用人だったケーレブが、一番ダーモットとシャロンのことはよくわかっていた。
「貴女に頭を下げられると、困ります。何がなんでも断れなくなる」
「何がなんでも断らせたくないのですもの、諦めて私の礼を受けなさいな」
しばらく二人の間で無言の押し合いが続いたが、やがてシャロンが力を抜いて姿勢を正した。
「しかたありませんね」
扇子を広げチラリとマグダリーナとアンソニーを見る。
ダーモットはまだ警戒したまま立ち上がっていた。
「リーナとアンソニーは子爵の昔話など興味はお有り? そう、あれは彼がクラッシャーショウと呼「なんでも侯爵夫人の用件を拝命致します!!!!」
シャロンの言葉を遮り、ダーモットが叫び、ゴンと鈍い音が響く。
テーブルに両手をつき額を打つける勢い……いや、実際打つけてダーモットはシャロンの前に首を差し出した。
「ほほほ」
「「「クラッシャーショウ……?」」」
侯爵夫人の言葉に、マグダリーナとアンソニー、ヴェリタスは顔を見合わせた。
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