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六章 金の神殿
116. 唖然とするような決闘申し込み
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「まだ十一歳の私の娘の方が、君より余程、国の決まりごとに詳しいようだよ。そもそも婚姻契約書に、本人以外の資産について記載があるのはおかしいんだ。不備のある書類として、王宮で受理はされない」
因みにこの決まりごとも、相続権の改正と共に『偽書の結婚』が横行した時代から、家門の資産を詐欺から守る為にできたものだ。
茶髪の三十路を過ぎた男は、すっと表情を変えた。他人を脅迫する時のそれへと。
「ジョゼフてめぇ、自分の妻と子がどうなってもいいんだな!」
その言葉に、素早くハンフリーは「黒マゴー」と呟いた。
黒マゴー特殊部隊は、その一言で音もなく動きだした。
そのとき。
勢いよく領主館の扉が開き、一人の貴婦人が入って来た。
「伯爵! これはどういうことですの、リーナに疑書の結婚が仕掛けられてるじゃありませんの!」
婚姻契約書のもう一枚、王宮に提出する分を持ったシャロンだった。
「王も呆れておりましてよ。あら、フランク子爵令息?」
シャロンは目の前の茶髪の男を見た。
「なるほど、貴方でしたのね。オーブリー領でも誰かさんに傾倒して困った方だと伺ってましたけど、なるほど」
シャロンはフランク子爵令息の目の前で、持っていた婚姻契約書を破り捨てた。
シャロンの茶マゴーが、チリも残さず片付ける。
「シャ……シャロン・オーブリー……!」
シャロンはそっと眉宇を顰める。そんな表情をしても、彼女の美貌に翳りはなかった。
「あら私、とっくにオーブリーとは縁を切っておりましてよ。今はアスティン、侯、爵、ですの。気安く呼び捨てになさらないで」
茶髪のフランク子爵令息は、ギリリと歯噛みすると、ジョゼフを指差した。
「よくも私を騙したな、ジョゼフ・ショウネシー!
ダーモット・ショウネシー、貴様がジョゼフに命じて、私を詐欺師にするよう嵌めたのだ!!! 決して赦さんぞ! お互いの資産をかけて決闘を申し込む!!!」
辺りがしん……と鎮まりかえった。
「そこは名誉をかけて、じゃないのか?」
ずっと黙っていたヴェリタスが、思わず言う。
「決闘って、おじさんが戦うの?」
マグダリーナがフランク子爵令息に聞いた。
「まさか、代理人を雇うに決まってる!」
当然のように、そういうフランク子爵令息に、マグダリーナは首を振った。
「やめといたら? うちみたいな貧乏貴族の資産狙わなくちゃならないほど、おじさんもお金に困ってるんでしょう? こんな馬鹿げたことに、誰かの命となけなしのお金を使うなんて、どうかしてるわ。真面目に仕事した方がよっぽどいいわよ」
マグダリーナのド正論に、フランク子爵令息以外、全員が頷いた。
「は! こんな立派な領主館にいて、何が貧乏貴族だ。領地の道も異常に整っているし!」
マグダリーナは胸を張った。
「それは素晴らしい縁故のおかげで、我が家の資産とは全く関係ないわ! そもそもうちの領地は領民が少ないから、単純に税率を上げたところで我が家の資産は潤わないし、私のお小遣いも0エルよ!」
ショウネシー領は領地こそ広いが、まだ領民数は百を超えてない。
比喩ではなく「とーう、とーう」と唸るほど生えるサトウマンドラゴラと、自重せずにQOLこと生活の質の向上を追い求めるエステラのおかげでなんとか回っているのだ。
本当はオーブリー家から巻き上げて、シャロンと折半した資産があるが、わざわざ教える必要はない……
「伯爵令嬢の小遣いが0エル……?」
流石にこれには、フランク子爵令息も面食らったが、めげずに彼は妙な根性を出して言い募った。
「そうやって煙に巻こうとしても無駄だ! 資産がないならないで、借金してでも俺を詐欺師にした慰謝料を払って貰うからな!!!」
「それはお前が決闘に勝ったらだろう? 負けた時はどーすんだ?」
何気なくヴェリタスが聞く。彼の背後では、ヒソヒソと耳の長い兄妹が、どっちが決闘に出るかで揉めている。それから、兄の方がふと領民カードで時間を確認した。
「負けるなど、万が一にもあり」
得ん……と最後まで言うまもなく、フランク子爵令息の姿がかき消えた。
外を確認すると、彼が引き連れてきた馬車もだ。
『領外にまとめて転移させよったわ……』
客が居なくなって、スライム達を乗せたゼラがふよふよ飛びながら出てきて、犯人であるルシンを見た。
「あのままだと、昼食時間が遅れた」
ルシンはこともなく、言ってのけた。
そこへ、黒マゴーがすっと現れて、ハンフリーに報告する。
「ご夫人の救出に成功致しました。今は診療所で診察を受けておいでです」
「子供の方は?」
「まだご夫人のお腹の中におりますので、それも含めてイラナ様が診察をされております」
ずっと抜け殻のように、呆然としていたジョゼフの目に、光が戻った。
「妻と子が……ショウネシーに……? ハンフリー、一体どうやって……」
「それは……そうですね、先ずは色々話し合ってからにしましょうか」
因みにこの決まりごとも、相続権の改正と共に『偽書の結婚』が横行した時代から、家門の資産を詐欺から守る為にできたものだ。
茶髪の三十路を過ぎた男は、すっと表情を変えた。他人を脅迫する時のそれへと。
「ジョゼフてめぇ、自分の妻と子がどうなってもいいんだな!」
その言葉に、素早くハンフリーは「黒マゴー」と呟いた。
黒マゴー特殊部隊は、その一言で音もなく動きだした。
そのとき。
勢いよく領主館の扉が開き、一人の貴婦人が入って来た。
「伯爵! これはどういうことですの、リーナに疑書の結婚が仕掛けられてるじゃありませんの!」
婚姻契約書のもう一枚、王宮に提出する分を持ったシャロンだった。
「王も呆れておりましてよ。あら、フランク子爵令息?」
シャロンは目の前の茶髪の男を見た。
「なるほど、貴方でしたのね。オーブリー領でも誰かさんに傾倒して困った方だと伺ってましたけど、なるほど」
シャロンはフランク子爵令息の目の前で、持っていた婚姻契約書を破り捨てた。
シャロンの茶マゴーが、チリも残さず片付ける。
「シャ……シャロン・オーブリー……!」
シャロンはそっと眉宇を顰める。そんな表情をしても、彼女の美貌に翳りはなかった。
「あら私、とっくにオーブリーとは縁を切っておりましてよ。今はアスティン、侯、爵、ですの。気安く呼び捨てになさらないで」
茶髪のフランク子爵令息は、ギリリと歯噛みすると、ジョゼフを指差した。
「よくも私を騙したな、ジョゼフ・ショウネシー!
ダーモット・ショウネシー、貴様がジョゼフに命じて、私を詐欺師にするよう嵌めたのだ!!! 決して赦さんぞ! お互いの資産をかけて決闘を申し込む!!!」
辺りがしん……と鎮まりかえった。
「そこは名誉をかけて、じゃないのか?」
ずっと黙っていたヴェリタスが、思わず言う。
「決闘って、おじさんが戦うの?」
マグダリーナがフランク子爵令息に聞いた。
「まさか、代理人を雇うに決まってる!」
当然のように、そういうフランク子爵令息に、マグダリーナは首を振った。
「やめといたら? うちみたいな貧乏貴族の資産狙わなくちゃならないほど、おじさんもお金に困ってるんでしょう? こんな馬鹿げたことに、誰かの命となけなしのお金を使うなんて、どうかしてるわ。真面目に仕事した方がよっぽどいいわよ」
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ショウネシー領は領地こそ広いが、まだ領民数は百を超えてない。
比喩ではなく「とーう、とーう」と唸るほど生えるサトウマンドラゴラと、自重せずにQOLこと生活の質の向上を追い求めるエステラのおかげでなんとか回っているのだ。
本当はオーブリー家から巻き上げて、シャロンと折半した資産があるが、わざわざ教える必要はない……
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流石にこれには、フランク子爵令息も面食らったが、めげずに彼は妙な根性を出して言い募った。
「そうやって煙に巻こうとしても無駄だ! 資産がないならないで、借金してでも俺を詐欺師にした慰謝料を払って貰うからな!!!」
「それはお前が決闘に勝ったらだろう? 負けた時はどーすんだ?」
何気なくヴェリタスが聞く。彼の背後では、ヒソヒソと耳の長い兄妹が、どっちが決闘に出るかで揉めている。それから、兄の方がふと領民カードで時間を確認した。
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ずっと抜け殻のように、呆然としていたジョゼフの目に、光が戻った。
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