続 線香花火

ニャロック

文字の大きさ
1 / 1

続 線香花火

しおりを挟む
 私は学校が終わるやいなや、家に向かってダッシュした。何と言っても、算数で百点取ったのだ。お母さんに自慢するしかない。家に帰り着くと、靴を脱ぐのももどかしくリビングへ向かった。ドアをバーンと開けた途端、私は凍り付いた。

 お母さんとあの男がハグしていたのだ。その当時の私の性知識は、男性と女性がハグすると赤ちゃんができる、と言う程度のものだった。

 この男は、お父さんを追い出すだけでは飽き足らず、今度は赤ちゃんを作って、私を追い出す気だ。

「フケツ」

 私は叫び外へ飛び出していた。そして、そのハグ事件は私を谷底へ突き落とした。命に関わる程、私を打ちのめした。

 身体は機能不全を起こし日に日に衰弱して行く。この原因が心因性である事に、医師はすぐに気が付いた。

 心理的プログラムが組まれたが、何ひとつ問題は解決しなかった。差し伸べられる手を、私は全て払い除けた。

 後になって知った事だが、あの当時、
お父さんは闇金からお金を借りまくり、
女を作って行方不明になっていたこと。闇金の取り立て屋が、自宅やお母さんの勤めていた会社に押しかけていたと言うこと。

 そんなお母さんの姿を見かねて、白馬の王子様があらわれたと言う訳だ。

 私が目撃した場面は、お母さんが取り立て屋の事でパニックなり、なだめてる最中の出来事。そして、白馬の王子様が奔走して、問題を解決してくれたのだ。それは、姫様の心を射抜いた。

 今こうして、お継父とうさんが私の赤ちゃんを抱っこしているなんて、信じられないことだ。

 それには、二つのターニングポイントがあった。ひとつは何と言っても、あの夏の線香花火。私に生きる執念を植え付けてくれた。

 二つ目は、あのお兄さんに出会えたこと。初めて彼の歌を聞いた時の感想。ハッキリ言って、へたくそ。でも、歌を聞いているうちに分かったんだ。この人は歌手じゃない、吟遊詩人なのだと。彼の歌の一節が、私の心を貫いた。 

生きることのこの苦しみ
この世は魂の流刑地なのか

空飛ぶ鳥よ強く羽ばたけ           
高く登れど尽きぬ空

私の頬に涙が伝う。そして思った。こんな歌詞じゃみんなに受けないよ。でも好き。

 私はずっと、ずっと彼を見ていた。高校も卒業して就職もした。二人だけで過ごす時間も持てるようになった。私の性知識も完璧なものになった。

「私 決めた。会社を作るの。名前は、プロダクションi i (愛愛)」

彼のキョトンとした顔。そんなこと構わず私は続けた。

「社長はあなたよ。私はマネージャー。最初に社長がやることは、資金作り。働いて稼いできてね。私は売れない歌手のマネージャーじゃないのよ、あなたの人生のマネージャー」

「ひょっとして、それって、僕はプロポーズされてるわけ?」

 私は顔が真っ赤になった。

「そうよ。何か文句ある」

「ないよ。嬉しいだけだよ。仕事探すよ。社員に給料払わないといけないか
らな」

 プロダクションi iには、もうひとつの意味が隠されている。"いつまでも 一緒"

 このプロダクションにも新人が入社した。まだ使いものにならない。何かあると、すぐピーピー泣く。今は社長に抱かれて、スヤスヤと眠っている。将来有望な大型新人だ。

 彼も時々吟遊詩人になる。私だけの
歌を歌ってくれる。

 朝目を覚ますと
 ぼくの横で君が寝ている
 今までは応える人もいない部屋
 小さな寝息をたてて
 寝むる君を抱きしめて
 これからは一人じゃないと思った

 それぞれ歩んできた人生が
 出会ってひとつに結ばれる
 どんなに辛く悲しいことがあっても
 キョロキョロせず僕だけを
 まっすぐ見ててよ
 僕は必ず君のそばにいるからね

 生命の草原を二人で駆けて行こう
 虹の向こうに輝く夢を追いかけて

 喜び哀しみ幾たび繰り返すだろうか
 それでも僕を信じて
 ついてきておくれ
 遠い道のりだけど宜しく頼むよ
 そしてきっと良かった言える人生を

 これからも、社員をどんどん増やさないといけないし、どんなプロダクションになるか先が楽しみね。






しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

処理中です...