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頭と心は別物

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「おいでロド!どうだ大人しくしてて賢いだろ」
「うんうんカワイイね~。おいでヨーゼフ」
「ロドだってば」

街の広場は、何もない日と市が立つ日を交互に繰り返している。
今日は動物関係の競売があるみたいで、観賞用の綺麗な鳥もいれば超えた豚もいる。
一画ではコンテストもやってるみたいだ。

今日は、いつもより人の出入りが激しい。

「…この子も賢そうだね」
「まだ若いけど、そいつの親は優秀でコンテストでも優勝したんだぞ。中々見る目あるんじゃんか」
「この子、いくら?」

ぽろっと、言葉が出た。

「え、飼うの?…アンリんとこ馬小屋あるのか?」
「あぁっと、まぁあるっちゃあるかな…」

続けて口からでたのは、冗談だよの一言ではなくて、誤魔化すような台詞。
恐ろしい事に、何故か急に思い立ってしまった。
完全な衝動買い。

今日は、天気がとてもよかったから。

多分きっと、理由としてはそれぐらい。
後、馬の目がくりっとしてて可愛かったから。
それと、一人で買い物もできるようになったし、丁度昨日財布を買って全財産持ち歩いてたから。
言葉は通じるし、字も読めるし、読めなくてもカンペがあるし。
だいたい通じる生活知識と、実際の旅の経験。
もう、一人でも生きていけるなと思ってた。


気付いたら、手綱を握って走り出していた。




***


 
広場から続く大通りを抜けて、街門を後にし、街道へ出る。
森をがむしゃらに走っても迷うだけだ、人の住む場所よりも自然の方が割合がだいぶ多い。

「あー、でも街道だと見つかるか…」

森を突き抜ける為に、地図を買いに戻ったほうがいいかな。
でも悪路を走るより街道爆走して距離を稼いだ方が…。
あーでも街道で繋がる大きな街だとワープできちゃうから、ゲートがない田舎の方がいいのか…。
何の計画性もない。やっぱ帰ろうかなぁ。

別に、旅の途中で手のひら返してきたクロードに利用されても痛手はないし。

壁を感じるキースさんとは、会社の先輩程度に打ち解けられればいいし。

時々魔物を蹴散らしたり草抜いたりするだけの楽な仕事で将来安泰だし。

毒を盛られても、別に死ぬわけじゃないし。

「けどなぁー」

そう、でも。
結局最後に、"だけど"がつく。

別にいいんだけど、何か、心が重くなっていく。

「ってゆーかそもそも探しに来るかな?」

あぁ、クロードは来るかな。だって私を預かった責任があるから。
…クロードが責任を取る羽目になるのは正直申し訳ない気はするけど。

ほら、やっぱり、"けど"。

クロードは悪くないけど、私だって悪くない。
全部私が被るのは納得がいかない。

「やっぱり森を適当に突き抜けよう。焼き鳥で食いつなぐ!」

けど、でも、だけどの積み重ね。
もやもやしたもので、心が破裂しそう。
うーんこれが盗んだバイクで走り出したり家出しちゃう心境なのかなー。

美味しかったから、二人にお土産にと6本買っていた分がある。
蔓を切ると水が出てくるやつがあるらしいから、目についた蔓を適当に切って試してみよう。
水の音が聞こえたら、そっちに行ってみてもいいしね。水が有るところに集落あり!
馬は草があれば大丈夫でしょ。
魔物が出ても私は痛くも痒くもないし問題ない。

太陽が真上になった時に、協会の鐘が二回鳴る。
これが私達のお昼の合図で、皆でお弁当を広げるのだ。
鐘が3回鳴ったら、職人さん達が働き始める。
私はこれを三時のおやつの時間と認識してて、買い食いするのはこのタイミング。
でも腹時計的には、2時をちょっと過ぎたぐらいで3時には早い。
皆早食いで、合わせるためにお昼を少なめにしてるから程よく小腹が空く。

鐘が4回鳴った。まだ音が微かに届く距離。
店舗を持たない露天のお店が閉まりだす。
そろそろ、暗くなる合図。

速いと振り落とされそうだし、木にぶつかりそうで怖いからそこまでスピードは出せてない。
夕陽が消えて、星が出てきた。
見えていないだけなのか存在しないのか、月は空にない。

5回目の鐘は聞こえなかった。

「あーー、暗すぎ!ランプいるわこれ!毛布も!」

日本と全然違って、星空は明るい。それでも、葉が影を落とす森では薄暗い。
少しでも明るい場所を探して、白く見えた空間を目指すと光を受けた土だった。
崖って言うのかな?登れない事もなさそうな、突起した石。
やったことないけど、やってみたいと思ってたボルタリング。

「ここで待っててね」

高い所から見れば、村の明かりが見えるかもしれない。
全身を使って、登る。友達の家にあったロフトぐらいの高さだから、落ちても大丈夫。
私飛び降りて遊んでたから!

自分の体の重さを痛感しつつ登りきると、なんとそこに家があった。
崖の上に木がなかったから、星明りが指していたのだろう。
明かりがついている。
人の声がする。

…家は、一軒だけだ。

私が登ってきた側は崖だけど、逆側は緩やかな坂道で森へと続いている。
他に明かりは見えない。

うーん。ってことはこの家を訪ねる人しかここには来ないってことだよね。
急に知らない人が来たら怪しすぎる?
一晩泊めてくださいとか言うつもりはない、ただ最寄りの村か町は教えて欲しい。
ちょっと気が引けるけど、このチャンスを逃して森を迷子はかなり厳しいよね。
いっちゃえいっちゃえ!

こんこんこん。

「こんばんわ、道に迷いまして。よければ道をお尋ねしたいのですけども!」

漏れ聞こえていた声が、ぴたりととまる。
スッと、音もなく扉が開かれる。
がばっと、頭から何かを被せられる。
何も見えない、つーか臭!

「ちょっ…もがっ」

口に何か突っ込まれる。
腕を後ろで縛られる。
バランスを崩して倒れる、痛い。
足を縛られて、運ばれる。

ちょっと待ってこれ、大分ヤバい。

けど、
それでも。

飛び出してきた事を後悔してない自分がいる。
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