キス×フレンド

あお

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今日は実行委員の初顔合わせで、生徒会室の隣にある会議室に実行委員になった各クラスの生徒が集まった。


話の内容は主に自己紹介で、詳しいスケジュールや仕事内容は明日説明がある。


俺は顔合わせが終わると、迷わず隆太の待つ第二図書室に足を運んだ。今日は早く終わるだろうからと、隆太に待ってもらってる。



「ごめん、結構待たせたかな」


「いや。小説読んでたし」



俺が第二図書室に着くと、隆太はいつもの席に座って小説を読んでいた。



「どうだった」


「今日は本当に自己紹介だけだったから」



先程行われた内容を軽く説明をしながら、カウンター内に入る。今日もどうやら、隆太以外の訪問者は居なかったらしい。


俺も読みかけの小説をカバンの中から取り出した。まだ下校時間まで一時間近くあるし、ゆっくり本を読めるだろう。


挟んだしおりに手をかけると、読み始める前に隆太から声をかけられた。



「なあ」


「ん?」


「俺、クラスの手伝いする事にした」


「文化祭の準備?」


「そう。だから、帰りの時間が合う日は一緒に帰らね」



一緒に帰らないかと言われ、ふと思い出す。


確かに、実行委員の仕事が終わる時間とクラスの準備が終わる時間は大体同じだ。


それにクラスの殆どの人が部活に所属しているから、どこのクラスも人手が足りないって言っていた。


けど正直去年同じクラスだった時、隆太が手伝ってる所を見た記憶はない。


その事が気にかかり首を傾げれば、俺の反応に気が付いたのか、隆太が更に言葉を続けた。



「去年まではあんま手伝いとかしてなかったけど、今年は手伝う。一人で家に帰ってもつまんねえし」


「そっか。じゃあ、もしかしたら一緒に帰れるかもね」


「ああ」





それから話を聞いてたら、隆太のクラスでは意外と面白そうな事を計画してるみたいだった。


隆太曰く、CクラスはDクラスと共同制作をするらしい。出し物は広い体育館の半分を利用して、巨大な迷路を作るそうだ。


体育館の半分と言っても、俺達の学校の体育館はバスケットコート二面分ある。かなり大掛かりなセットになるだろう。


男子生徒は主に迷路の制作担当で、当日の受け付けや案内人は女子生徒が行うという。



「太一のとこは何すんだ」


「あー、詳しく聞いてないけど、喫茶店するって言ってたかな?服装をどうするか未だに揉めてるみたいだけど」



クラスの出し物は、結構喫茶店というのが多い。他にもお化け屋敷やミラーハウスとかあるけど、毎年の事ながら喫茶店が圧倒的に多いようだ。


だから、喫茶店の中でも色々工夫してるらしい。コスプレとか、アニマルとか。多分俺のクラスもそんな感じのになるんじゃないだろうか。


因みに運動部は試合の関係もあって大体出店だ。焼きそばとか、射的とか。文化部は展示を主に行うと聞いている。



「ふーん。喫茶店か……太一が接客とか、あんまイメージ出来ねえな」


「あはは、クラス手伝う事になってたとしても多分裏方だったと思うよ」


「太一が接客してんの、ちょっと見てみたかったかも」


「笑われるから絶対嫌だ」


「笑わねえって」


「と言いつつ写真撮りそう」


「あー」


「え、否定しないの?」



そこは否定しようよ。


俺がそう言うと、隆太はどこか楽しそうに悪いと言って笑った。













文化祭準備が始まって一週間。


俺達は中々終わる時間が合わず、ずっと一緒に帰れてない。


どちらかの準備や進行が遅れたりして、その度に先に帰っててと連絡を取り合う日々。


先週は土日も会えなかったから、隆太とは、本当にまるっと一週間会ってないと思う。


こんなに会わなかったのはいつ振りだろう。夏休みだって、お盆の時以外は三日と空けずに会っていたのに。




隆太は最近昼休みでも何かしらしてるみたいで、昼飯は朝コンビニで買ってるみたいだ。俺も毎日学食なわけではないから、会える機会はそうそうなかった。


一人で歩く帰り道は思いの外時間の経過が長く、目的地までの距離も遠く感じた。


俺の家って学校からこんな遠かったっけ、なんて人知れず首を傾げる。


なんか、胸にぽっかりと穴が空いてるみたいだった。












『また材料足りなくなったから買い出しに行って来る。今日も遅くなるから、先に帰っててくれ』


放課後、実行委員として活動している俺の元に用件だけが綴られたメール文が届いた。


ブルブルとポケットの中で震える携帯電話に、嫌な予感がしたのは言うまでもない。


隆太からのメールに俺もわかったと端的に返したけれど、今日も会えないのかと思うだけで内心はちょっと淋しい。




これで、一体何日目になるんだろう。




実行委員が終わった後、ふと気が付いた時にはCクラスの前に立っていた。


まるで吸い寄せられるように、足は自然と隆太のクラスに向かってしまう。


下校時間前なので、教室内には多くの生徒が残っていた。


黙々と作業を進める生徒達の姿を見ながらふと思う。ここに来て、俺は一体何がしたかったんだろうって。





普通なら、自分のクラスの様子を見るだろ。





何やってんだと自問自答するけど、勿論答えなんて返って来ない。俺は自分の情けなさに盛大な溜息をつき、頭を抱えた。


用もないのに突っ立ってるのも恥ずかしくなってきた俺は、そっとCクラスの教室内を覗き込んだ。


すると直ぐさま見知った人物が視界に入ったので、思わず声をかける。



「あ、倉持」


「おー、鍵本。うちのクラスに何か用か」


「あ……いや、ただ覗いただけ」


「おいおい、スパイ行為か。そいつはいただけねえな。例え実行委員殿でも、こっから先は企業秘密だぜ」



そう言って倉持は教室の中が見えないように俺の前に立ちはだかった。後からのお楽しみだと倉持は言う。


俺は当日見れないだろうけど、他の人に中の事バラされたら困るというのが倉持の思う所だろう。


まさか、倉持までこんなに積極的に参加してるとは思わなかった。



「あー、そうそう。ちなみに隆太なら材料の買い出しに出てるよ。先生の車で行くっつってたから、結構遠い所だと思うけど」


「あ、ああ。そっか……教えてくれてありがとう」



倉持にお礼を言って、その場を後にする。


倉持の言う通り、隆太は居ない。それはここに来る前から、既にわかっていた筈なのに。





ああ、本当、隆太が居ないってわかっててここに来るなんて、どうかしてる。






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