1 / 1
幽霊の行動のゲーマー的考察
しおりを挟む最近流行りのバトルロワイアル系の某FPSにはまっている。
大人数が物資を集めつつ最後の1チームになるまで銃撃戦を繰り広げるゲームだ。
このゲームをやっている時以外の記憶があやふやになるくらいにははまっている。
さて、ゲーム性はとても良いのだが、どうにもバグが多いのが玉にキズ。
今使っているアカウントは俺のものではない。
あ、誓って言うけど俺はチーターやらの外道ではないし、
アカウント売買もしていない。
ある日ゲームを起動したら全く別人のアカウントになっていたのだ。
ひどいバグである。
そのゲーム内にて自称幽霊と友人になった。
まあ、友人と言っても実際に会ったことはない。
ログインするタイミングが合えばチャットを飛ばしてチームを組むだけの関係だ。
さて、自称とは言えせっかく幽霊の知り合いができたので話を聞いてみようと思う。
「うーす」
VC(ゲーム内の音声通話)をつなぎ、こちらから声をかける。
「やほー」
聞こえてきたのは若い女の声。
ゲーム内の名前はYou-0。
ゆうれい、という音に加えて、ユー、霊というダブルミーニングだ。
霊はあんたじゃないんか、との疑問はおいておく。
最初に彼女の声を聞いた時にはテンションを上げたものだ。
ゲームの性質上、女性プレイヤーはどうしても少なくなりがちだからな。
まあ、残念ながら彼女は幽霊である。
そうでなければ幽霊を自称する地雷女だ。
「You-0さんって幽霊なんすよねー。
何個か質問いいっすか?」
会話とともに試合も開始。
まずはキャラ決め。それぞれが特殊な能力を持っている。
You-0さんは毒ガスをばらまく
デブでデコハゲの死んだ魚の目をしたおっさんを選択。
そして俺は足の速いヤク中を選択。
各チームが無人島の様々な地点に飛行機から飛び降りていく。
「どうぞどうぞ~。
ってか実はわたし生前も2ちゃんで同じことやった。
まさか本当にやることになるとはねぇ。」
荒廃したビル街に着地。
武器や弾薬を慣れた手つきで探す。
未だに人気を誇る「幽霊だけど質問ある?」か。
あれのスレ主、男だった気がするけど。
まあ類似のものもあったしそっちかもしれない。
つーか生前かよ、詐欺師め。
「じゃあひとつめ。幽霊ってなんで一人の時にでてきやすいんすか?」
「そりゃ人数不利を避けるためよ。
君は敵がたくさん籠ってる建物に一人で突っ込んでいくの?
プロゲーマーのクリップ集みたいに。
いや、君は時々やるか。それで死んだ君をわたしがこそこそ救助に行く、と。
ゲームだからいいけどね。現実では気を付けなよー」
考えなしに突っ込んですまん。
「毎度お世話になってます。
あ、狙撃用のスコープここにあるよ」
「ありがとー。まあ、ひとつめの質問への答えはこんなものかな」
そんなゲームみたいな理屈なんだろうか。
あれ?ていうか。
「それって人数不利だと負けるってことか?
あ、敵。多分2人」
You-0さんとは距離があり、援軍は望めない。
「すぐ向かう。ちょっと耐えて。
幽霊も人数不利は負けるね。もう、余裕で負ける。
意外と力の差、ないのよ。わたしたちと生者って。
そもそも一対一でも勝てるか微妙じゃない?
人間が盛り塩やら数珠やら持ってたら即アウトだし、
お笑い番組見て爆笑してる奴も勝てないし。
あとは、あれだ。うん。
頻繁に性的な興奮をしてる相手も勝ちにくいね」
建物内の棚の裏に隠れるも見つかった。
敵の一人に向けてハンドガンの弾を撃ちこむが、2人分の銃弾でハチの巣にされた。
変な事言うから銃の照準がずれたじゃないか。
「すまん。やられた」
「いや、わたしもごめん。離れすぎてたね」
遅れてきたYou-0さんが窓の隙間から毒ガスとグレネードを建物内に投擲する。
ショットガン片手に突撃。
グレネードで分断された敵を視界の悪いガス内で各個撃破する。
彼女の救助により、俺は一命をとりとめる。
「ないすー」
「いえーい」
倒した敵の弾薬や武器を漁りながら会話に戻る。
「ちなみにどんな相手になら勝ちやすいんだ?」
「一番わかりやすいのは精神が弱っている人。
わかるでしょう?勝負って意外と精神論なの」
たしかに。
敵と撃ち合っている時、
『やばい、負ける』と思うときはほぼ負けるものだ。
「あとは、部屋が汚い人もねらい目かも。
物の位置が変わっても気が付かれないから、
ベストのタイミングで奇襲をかけられるのよね。
あと、こういう人は精神も弱っていることが多いし」
少し怖くなってゲーム画面から目を離す。
散らかった部屋。
机の上のゴミは昨日もあの位置にあっただろうか?自信がない。
というか、俺の部屋ってこんな感じだったっけ?
自信がなくなってくるな。怖い怖い。
「それに、優しすぎる人も危ないかな。
情けをかけちゃいけない相手、状況ってのはある。
どんなに綺麗ごとを言ってもね。
…この点では君も心配かな」
最後の一言だけトーンを落として言う。
「俺、なんかしてたっけ?」
このゲームやってて優しいところなんかわかるか?
「この前、最後の敵とボクシングして負けてたじゃん」
このゲーム内の一種の文化だ。
勝ち目のないときに武装を完全放棄して降伏する人がいる。
とはいえ、バトルロワイアルである以上は敵を全滅させないといけない。
その結果はこうだ。
降伏を受け入れた場合、こちらも武器を放棄。
素手による殴り合いで戦うことで降伏した側に勝利のチャンスを与える。
「あれは優しい…のか?」
楽しいからやってるだけのつもりだったが、
確かに同情が一切ないとは言いにくいな。
「と思うよ。わたしなら問答無用で撃ち殺すかな。
あれ、ランクマッチだったし。
ま、もう大丈夫だと思うけどね」
戦利品の収集を終え、移動を始める。
バトルロワイアルゲームにおいては『安全地帯』という概念がある。
ゲームの硬直化を防ぐため、
プレイヤーが生存できる場所が時間とともにゆっくりと狭くなっていくのだ。
そして今回の場合、俺たちがいる廃ビル街は安全地帯の外になってしまう。
故に、俺たちは敵を倒して安全になった現在地からわざわざ移動しなくてはいけないのだ。
列車の線路沿いに廃ビル街を出た。
北側のトンネルを目指して平野を走る。
「じゃあ、質問ふたつめ。
幽霊ってなんで暗い所に出るんだ?うわっ」
岩陰に迷彩柄の忍者が潜んでいた。
姿を消そうとした敵を2人がかりで倒す。
敵チーム壊滅のログが流れる。
味方を失って隠れていたのだろう。
「心細いからだよ。今の敵と同じ」
返答の内容の割には淡々としている。
「You-0さんはそうは見えないけど」
「そう?ま、こうしてゲームしてる間は気がまぎれるからね。
というか君は寂しくなったりしないの?」
「俺?あんまり寂しさとかは感じないな」
トンネルに到着。列車の残骸やコンテナが随所に転がっている。
コンテナの一つに身を隠しつつ索敵。
うん、先客はいないかな。
You-0さんがあちこちに毒ガストラップを設置しながらトンネルの奥へ。
「次の安全地帯までここの防衛でー」
彼女の指示はだいたい的確なので従っておく。
「おっけー」
暗がりでじっと敵を待つ。
敵は来なかった。
生存すれば勝ちのゲームなのでこれはこれで良し。
次の安全地帯はトンネルを抜けた先の雪原地帯。
移動を開始。
トンネルの出口周辺から銃声が聞こえる。
どうやら他のチーム同士が戦闘しているらしい。
漁夫の利を狙うため、俺たちはあえて手を出さない。
「幽霊に限らないけどさ、
助かったと思わせといて不意を突かれるのも定番だよな」
「あー。確かにあるね。
ゾンビとか化け物のホラーで多いけどわたしたち幽霊もやるかも。
消えたと見せかけて後ろ~みたいな。」
戦闘が終了する。
勝利したチームの一人が味方を助け起こしている…
ところをYou-0さんの狙撃が頭に。
どこから撃たれたかもわからないまま、彼らはゲームを退場した。
鼻歌交じりにYou-0さんが言葉を続ける。
「人間が一番油断する瞬間なんだよね、危険が去ったと思った時って。
だから創作のホラーもそこを突いてくるし、
わたしたち幽霊もその瞬間を生み出せるように工夫するのが大事」
2チーム分の敵が持っていた物資を漁る。
十分な装備が整った。移動を開始。
雪原の岩にはいくつか巨大なものが存在する。
そのうちの一つに俺たちはよじ登った。
You-0さんは狙撃銃で、
俺はさっき拾ったお気に入りの軽機関銃でそれぞれ周囲を警戒する。
しばらく待つと遠くの廃村で戦闘音。
安全地帯が狭くなってきたのもあり、戦闘が頻繁に起きる。
銃声の数や方向から考えると、廃村に3チームはいそうだ。
廃村の戦闘に横やりを入れる。
この遠距離を軽機関銃で攻撃するのはやや無理があり、
俺の弾は2、3発が敵をかすめたくらい。
一方でYou-0さんの狙撃は敵の体力を確実に削っていく。
あ、今一人仕留めた。
今いる場所を手放したくないので、
さっきのように戦闘の終了を待って攻撃を仕掛けることはしない。
今回はあえてこちらの存在をアピールする。
敵がこちらに逃げてきて戦闘になった場合、
逃げてきた敵と追いかけてきた敵との連戦になってしまうからだ。
今の状況から思いついたことを口にする。
「そういえばさ、大した害がない霊現象ってあるじゃん。
ポルターガイストとかラップ音とか。
ああいうのって人間に気が付いてもらうためにやってる?」
「お、いい線いってるね。
だんだんわたしたちの事わかってきた?
純粋に気が付いてほしいだけの構ってちゃんタイプがやるね。
そういう子は引き際がわからないからすぐに除霊されちゃう」
「まあ成仏だし良いことなんじゃないか?」
それなら本人てか本霊のためにもなるよな。
「まあそうかもね。成仏したことないからわかんない。
あ、あと別のパターンもいる。
人間の精神を揺さぶって弱らせる目的。
攻撃するときに有利な状況を作るため、だね。こっちは質が悪いよ。
除霊師を呼んだ時に限って別のところに退避したり、
人間が疲れてるときに集中砲火したり」
うわ、それは確かに質が悪い。
などと話しているうちに戦闘が終わった。
1チームが全滅し、1チームは廃村に残る。
そして残り1チームは廃村から逃げ出していった。
2人のうち1人は俺たちの弾に当たらないように遮蔽を上手く使っていたが、
もう片方はルート選びが甘い。こちらに脇腹を見せた状態で雪原を走る。
You-0さんの狙撃と俺の機関銃に倒れる。
「あの距離なら狙撃でカバーできるし漁ってきてもいいよー」
「お、サンキュー」
俺のキャラが薬をキメながら走り出す。
あっという間に到着し、倒した敵から弾と回復アイテムを補充。
岩陰に隠れていたもう一人に撃たれる。
「ふぉいっ!」
驚きで変な声がでた。
まだこの場にいたのか、こいつ。
「あははっ。まあいるよねー」
俺を追おうとした敵にYou-0さんの狙撃が命中。
倒せはしないものの、俺への追撃を止めるには十分だった。
敵が岩陰に戻る間にダッシュとジャンプで岩の上に帰還。
「…予想してたんすか?」
通話中に不機嫌な声を出すのはマナー違反だが、
抑えきれずに低い声がでる。
「ごめん、ごめん。ちょっと退屈しちゃって」
対照的に彼女は楽しそうだ。
「ええ…」
「それはそうとさ、囮の表現も面白いよね。
わたしたち幽霊はあんまり使わないけど」
「ああ、あれか。物陰で音がして、びくびくしながら確認すると犬やら猫。
油断した瞬間にうわーってやつね」
「そう、それ。その場では何事もなくてその後に
『またどうせ犬か猫だろ』って油断してやられるパターンもわたしは好き」
「あ、俺はそっちの方が好きかも。
伏線がちゃんと張られてる感がある」
いったん戦局が落ち着いたので
こんな調子でのんびりと会話をしていた。
俺たちがいる岩場や廃村の反対側で戦闘音が聞こえる。
向こうは巨塔やら峰やら高低差のある戦場だ。
現在地からは狙撃しにくいので放置。今の位置を守る。
安全地帯が狭くなっていく。
俺たちがいる巨岩は最終局面までいられる位置…のはずだ。
安全地帯の位置はだいたいの傾向はあるものの
結局はランダムなので確信はもてない。
この辺りの緊迫感はバトルロワイアルならではの楽しみだと思う。
戦闘をしていないときの緊張感も良いものだ。
そういえば、何もいない道をすすむときの方が怖い、
というのもホラーあるあるだよなぁ。
反対側の戦闘音が止んだ。決着がついたらしい。
ほどなくして、狙撃を受けた。
慌てて一段下がって身を隠す。
反対側のチームがもう雪原側に来たらしい。
俺たちがいるのと似たような岩に上り、こちらを狙っている。
安全地帯の位置を考慮すればこちらが有利だが、
撃ち合いに関してはほぼ対等の立ち位置。
「よし、あのチームはつぶさないとだね。
無理に当てようとせずに被弾を抑えて。
注意を引いてくれればわたしが仕留めるから」
わお、かっこいい。
「おっけー。任せる」
段差から顔を出して、軽機関銃の弾をばらまき、隠れる。
岩から落ちない範囲で移動し、また顔を出す。
その繰り返し。
俺の動きに腹を立てたのか、グレネードが飛んできた。
しかし、丸いグレネードは岩を転がり落ちて爆発。
俺たちは無傷だ。
せまい高所で戦うのはこういうメリットもある。
グレネード類も含めて狙われにくいのだ。
そうこうしているうちに迂闊に頭を出した一人をYou-0さんが撃ち抜いた。
倒れた相手にそのまま狙撃をつづけ、とどめを刺す。
もう一人は体を出してこなくなった。
「ナイス狙撃―。You-0さんうますぎん?」
「へっへー。そうでしょ。君のハートも撃ち抜いちゃうぞっ?」
「え?」
「うん、ごめん。言った直後に死にたくなった」
「もう死んでるでしょうに」
「たしかにー」
そしてまたも戦場は硬直する。
ゲームも終盤。
安全地帯が狭くなっていくのを待つ。
僕たちがいる地点は当分安全地帯の中なので、
他のチームの移動の隙をねらう魂胆だ。
安全地帯が狭くなっていくのに合わせて、廃村のチームが移動してきた。
俺たちは狙撃を試みる。
何発か命中するも、倒すには至らない。
廃村チームは小さめの岩に身を隠した。
程なくしてその岩で戦闘音が発生するも、すぐに止む。
位置から考えて、さっきYou-0さんに囮にされたときの敵と接触したのだろう。
このゲームは人数差があって勝てるほど甘くない。
2人とも生存している廃村チームがあっさりと勝利。
横やりを入れる間もなかった。
「ところでYou-0さんはどうやってこのゲームやってるんだ?」
「生きてる人の体を借りてやってるよ。
あ、もちろんそこまで害のない範囲でね」
全く害がないわけではないようだ。
それはそれとして。
「他人のアカウントでプレイするのって規約違反じゃ?」
「んー。でも身体的にはこの人がやってるわけだからセーフじゃない?」
「そうなるんすかねぇ」
微妙に納得がいかないがまあいいか。
あれ?それなら…。
「声帯もその人のなのか?」
「ううん。本来の声を再現してヘッドホンの回路に直接入力してる。
正真正銘わたしの声だよ」
なぜかはわからないが少し安心した。
さて、いよいよ最終局面だ。
残るは俺たち2人と別の岩の上の1人、そして廃村チームの2人。
どのチームも待ちの構えだ。
可能であれば他2チームがやりあって消耗したところを叩きたいからな。
しかし、安全地帯の収縮が均衡を崩す。
別の岩の上の1人が岩をおり、移動を始める。
俺の機関銃掃射を潜り抜け、俺たちの岩の真下へ。
真下は俺たちからは死角であり、廃村チームからも狙われにくい位置である。
ただし。
「ぽぽいのぽーい♪」
You-0さんが楽しそうに毒ガストラップを放り込む。
銃に関しては死角だが、範囲攻撃である毒ガスはそうではない。
「楽しそうっすね、You-0さん」
「毒ガスを一方的に降らすときが一番生を実感する~」
操作キャラのセリフを引用しての返事。
「いや、だからあなた生きてないんだって」
毒ガスを食らいつつもその場を維持する敵。
他の位置では銃撃を食らうのでそうせざるを得ないのだ。
そうこうしているうちに廃村チームが隠れていた岩も安全地帯の外になった。
廃村チームが次の遮蔽物を目指してこちらに走ってくる。
俺たちの狙撃を避けるため、スモークグレネードを使用して姿をくらます。
ダメ元でグレネードを投げ込むが、ヒットはなし。
どこかの遮蔽物に隠れたようだ。
と思ったがすぐに居場所は分かった。
ショットガン同士の戦闘音が手前の岩付近に。
俺たちの下にいた1人チームがスモークグレネードに便乗して移動するも、
運悪く同じ遮蔽物に移動したようだ。
結構な猛者だったらしく、
さんざん毒を吸っていた彼は廃村チームのうち1人を倒し、
もう1人も瀕死に追いやった。
You-0さんがグレネード式の毒ガスを彼らの戦場に放り込む。
それを合図に俺たちは岩から飛び降り、参戦。
廃村チームの生き残りを俺が機関銃で倒し、
You-0さんがショットガン勝負を1人チームの猛者と繰り広げる。
敵が消耗していたこともあり、勝利。
画面に大きく『You are the Champion』の表示。
「やりましたねー、You-0さん。ggっす」
「やったねー。gg」
“Good game”の略だ。良い試合でしたね、という意味合いの言葉である。
画面はリザルト画面へ。
「あ、1ダメ足りない。恨めしや~」
You-0さんお得意の幽霊ジョークである。
「皿が一枚足りない、見たいに言われても。
てかダメージ数の実績狙いだったのか?
今回は別にダメージ稼ぐ動きはしなかったような」
「ううん。その実績は一番上やつ持ってるし。
ほら、見て。あと一ダメで666ダメージだったのに」
「なんで日本人の幽霊が西洋の悪魔の数字にこだわるんだよ。
世界観は統一してください」
「あははー」
そして沈黙。
リザルト画面が終了し、待機画面に戻る。
ふと時計を見るともう朝の5時だ。
「じゃあ、時間も時間なんでこの辺にしますか」
と提案。
妙な沈黙。
普段のYou-0さんなら一瞬で
「え、まだできるでしょ?」か「おけー。またね~(ブツッ)」
のどちらかの答えが返ってくるのだが。
「あのさ」
今までになく静かな声。
「はい」
彼女らしかぬ真剣さに気圧され、
これ以上の返事はできなかった。
「そろそろ成仏しようかなって。
君と遊ぶのが楽しかったからそれで満足できたみたい」
冗談を言っている雰囲気ではない。
彼女は本当に―――少なくとも彼女の中では本当に、
幽霊であるのだろう。
「そうですか。
それは良かった、でいいんだよな。
俺としては寂しくなるけど」
「そういってくれるのは嬉しいね。
それでさ、あの…一度会わない?」
やったぁ。女の子とオフ会だー。
っていうテンションでもないな。
ほんとに幽霊っぽいし。
「会ってみたい気持ちはあるけどなぁ。
祟られないか不安」
というのが正直なところだ。
「えー。ひどいな。これだけ一緒に遊んだのに。
わたしがそういう感じじゃないってこと、わからない?
どうしても不安なら、君の害になるようなことはしないって約束する」
確かにこれまでのやり取りではそんなに悪い霊とは思えなかった。
「分かったよ。会う。いつ?」
まあこれでダメだったら俺の見る目がなかったってことで。
「いえい。じゃあ今から行くね」
「ん?今?」
「この子の体から離脱して、ここの回線を通って、と。よし」
なにかぼそぼそと言っている。
「来たよー」
ヘッドホン越しではない声。
後ろを振り返ると半透明の女が立っている。
反射的に体がびくっとした。
驚きはしたが、不思議と恐怖はない。
「あー、もしかしなくてもYou-0さん?」
「うん。君がそれをわかるってことは場所を間違えないで来れたか。
良かった良かった」
と満足気に頷く彼女。
一般的な幽霊のイメージと異なり、彼女は短髪で活発そうな雰囲気を漂わせている。
陰気な雰囲気などもない。
半透明であることを除けばクラスの中心で騒いでいそうな普通の女の子だ。
「さて、まずはお礼を言いたくてさ。
本当に、ありがとね。遊んでくれて」
律儀にお辞儀をするYou-0さん。
「こちらこそ。楽しかった」
礼を言うのはこちらの方だ。
「良かった。
実は怨念に近い感情が色々あって幽霊になったんだけどさ、
遊んでるうちにどうでもよくなっちゃって」
「そっか」
幽霊になるほどの感情。
わざわざ聞いて掘り返すものでもないだろう。
「それで、本題だけど。
…一緒に来ない?」
一瞬意味がわからなかった。
その言葉が意味するのは…。
「二人であの世への旅に行こうって事なんだけど。嫌?
まだ未練とかあったりする?」
身の危険を感じて後ずさる。パソコン机にぶつかる。
モニターがガタガタと音を立てて揺れる。
「だ、だましたのかよ。害はなさない、って言ったじゃないか」
虚勢を張って言う。声が震えているのが自分でもわかった。
一方、彼女は予想外とでもいうような顔をしている。
少し考えこんだのち、はっとしたような表情に変わった。
「そっか。もしかして、気が付いてない?」
「何にだよ」
半分機械的に聞き返す。
「何ってそれは…」
視線をさまよわせてから言葉を続けた。
「君も幽霊だよ、てこと」
え?だって俺は…。
「ねえ、この部屋って本当に君の部屋?
何か違和感あったりしない?」
改めて見回す。自信がない。
そもそも自信がないこと自体が異常なのだと気が付く。
「あとは、そうだ。このアカウントさ、君のものじゃなかったりしない?」
…。
「さすがの運営もこのレベルのバグは放置しないよ。
君もわたしと同じように他の人の体を借りてプレイしてたってわけ。
無意識のうちにね」
「じゃあ俺は」
「わたしと同じ幽霊。
自分が死んでいたことに気が付いていないタイプの、ね」
感じていた微妙な違和感の数々。それらに納得がいってしまう。
「そうだったのか…」
「うん。なんかごめんね。
気づいてないと思ってなくてさ。
てっきり幽霊の先輩として色々聞かれてるものかと」
彼女が時々言っていた『わたしたち』は幽霊一般の事だけではなく、
『彼女と俺』の意味も含まれていたことに気が付いた。
「ああ、そういうことだったか」
「わかってくれたかな。それでね。
さっき言った通り、1人だと心細いからさ。
その、一緒に成仏しに行かない?
君にとっても悪い提案じゃないと思うんだけど…」
幽霊になって尚ゲームしかしていないことからもわかる通り、
この世に大した未練はない。
俺は黙って頷いた。
彼女は安心したのか柔らかく微笑む。
「えへへ、ありがと。じゃあ行こうか」
彼女に手を引かれて体が宙に浮く。
そのまま天井をすり抜けて空へ。
「ねえねえ、来世があるならまた友達になれるといいね。
君さえよければ恋人とかもありだよ?」
「それは光栄だ。その言葉、忘れないでくれよ」
かくして黄泉の国への二人旅は始まった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
- - - - - - - - - - - - -
ただいま後日談の加筆を計画中です。
2025/06/22
友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった
海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····?
友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる