2 / 34
1 甘いのは、甘酒だけでいいです←息子のぼやき
しおりを挟む
重光先生が地元に帰ってきたのに、金沢へ法事に行って戻ってきて以来姿を見せなくなった商店街では……。
メーカーから届いたビールケースを裏の倉庫に入れていた店主である燗|は、心配そうな嫁の雪に呼び止められた。
額に浮かんだ汗をぐいっと袖で拭うさまは、そこらにいる親父なのだが嫁も含めて童顔夫婦。まるでバイト生にしか見えない。
「何? 先生が風邪?」
「そうらしいのよ、金沢が寒かったらしくて」
嫁である雪は、携帯を持ったまま心配そうに頬に手を当てる。
その仕草可愛いなぁとか脳内沸騰させながら、それでも一大事な内容に眉を顰めた。
国会議員の重光先生は、この商店街の人々がこぞって応援している議員先生だ。堂々とした格好のいい外見と議員としての政治手腕は、とても昔の……いやいやこれはナイショにしておこう。
燗は内心うししと笑いながら、手にはめていた軍手を取ると雪に右手を差し出した。
「甘酒だな、甘酒。おい、ちょっと電話とってくれ」
甘酒……? そう言いながら、雪は店用の子機を燗に渡した。
何かぶつぶつ言いながら番号ボタンを押す燗に、おずおずと話しかける。
「でも、風邪薬飲んでるときにお酒は……」
薬にアルコールはまずいんじゃないかしら……、そう言う雪の頭をわしゃわしゃと燗は撫でた。
「米麹使って、ノンアルコールの甘酒作ってる蔵元が金沢にいるんだよ。金沢でもらった風邪は金沢の甘酒で治すってな」
飲む点滴と言われている甘酒だ、ノンアルコールなら体にいいだろう。
なんでもないようにそう言いのける燗を、雪は尊敬のまなざしを向けた。
「あなた素敵」←目がハート
「やめろよ、照れんだろ」
止めろと言いながらも、にやにやと雪の頭を撫でる燗。これが、本当に五十代夫婦なのだろうか。
「くはぁ……、ねみー」
昔ながらの傾斜のきつい階段を気だるそうに降りてきた息子は、ここの跡取りである醸。
二十五歳という年齢より若い目に見えるのは、確実に両親二人のDNAのせいである。
トントンとかったるいリズムで階段を降り切った息子の目には、朝っぱらからいちゃこらしている両親の姿。店先でなぜか電話を持った燗が、雪を撫でていちゃこらしてる光景。
……いちゃこらいちゃこら……。
「……」
胃からせりあがってきそうな何かをぐっとこらえて、視覚の暴力を何とか我慢する。
……店先でやめろ阿呆夫婦……
そう呟きながら、醸は啖呵きってここから出て行った姉・吟を思い出した。
――自分の親で砂吐けるわ!
そう一言怒鳴って、さっさと出て行ってしまった姉。
それからも普通に家族関係が続いているのが凄いと思うが、両親にしてみたら「子供の癇癪」程度でなんの痛手もないらしい。
姉は姉で、「別に目の前でいちゃいちゃしてなきゃどうでもいいし。むしろ、好きよ両親。ただ、そばにいたくないだけで」とのたまう。
そんな家族に挟まれて、今日も醸は呟くのだ。
――姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。
メーカーから届いたビールケースを裏の倉庫に入れていた店主である燗|は、心配そうな嫁の雪に呼び止められた。
額に浮かんだ汗をぐいっと袖で拭うさまは、そこらにいる親父なのだが嫁も含めて童顔夫婦。まるでバイト生にしか見えない。
「何? 先生が風邪?」
「そうらしいのよ、金沢が寒かったらしくて」
嫁である雪は、携帯を持ったまま心配そうに頬に手を当てる。
その仕草可愛いなぁとか脳内沸騰させながら、それでも一大事な内容に眉を顰めた。
国会議員の重光先生は、この商店街の人々がこぞって応援している議員先生だ。堂々とした格好のいい外見と議員としての政治手腕は、とても昔の……いやいやこれはナイショにしておこう。
燗は内心うししと笑いながら、手にはめていた軍手を取ると雪に右手を差し出した。
「甘酒だな、甘酒。おい、ちょっと電話とってくれ」
甘酒……? そう言いながら、雪は店用の子機を燗に渡した。
何かぶつぶつ言いながら番号ボタンを押す燗に、おずおずと話しかける。
「でも、風邪薬飲んでるときにお酒は……」
薬にアルコールはまずいんじゃないかしら……、そう言う雪の頭をわしゃわしゃと燗は撫でた。
「米麹使って、ノンアルコールの甘酒作ってる蔵元が金沢にいるんだよ。金沢でもらった風邪は金沢の甘酒で治すってな」
飲む点滴と言われている甘酒だ、ノンアルコールなら体にいいだろう。
なんでもないようにそう言いのける燗を、雪は尊敬のまなざしを向けた。
「あなた素敵」←目がハート
「やめろよ、照れんだろ」
止めろと言いながらも、にやにやと雪の頭を撫でる燗。これが、本当に五十代夫婦なのだろうか。
「くはぁ……、ねみー」
昔ながらの傾斜のきつい階段を気だるそうに降りてきた息子は、ここの跡取りである醸。
二十五歳という年齢より若い目に見えるのは、確実に両親二人のDNAのせいである。
トントンとかったるいリズムで階段を降り切った息子の目には、朝っぱらからいちゃこらしている両親の姿。店先でなぜか電話を持った燗が、雪を撫でていちゃこらしてる光景。
……いちゃこらいちゃこら……。
「……」
胃からせりあがってきそうな何かをぐっとこらえて、視覚の暴力を何とか我慢する。
……店先でやめろ阿呆夫婦……
そう呟きながら、醸は啖呵きってここから出て行った姉・吟を思い出した。
――自分の親で砂吐けるわ!
そう一言怒鳴って、さっさと出て行ってしまった姉。
それからも普通に家族関係が続いているのが凄いと思うが、両親にしてみたら「子供の癇癪」程度でなんの痛手もないらしい。
姉は姉で、「別に目の前でいちゃいちゃしてなきゃどうでもいいし。むしろ、好きよ両親。ただ、そばにいたくないだけで」とのたまう。
そんな家族に挟まれて、今日も醸は呟くのだ。
――姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。
1
あなたにおすすめの小説
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。
亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。
しかし皆は知らないのだ
ティファが、ロードサファルの王女だとは。
そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
完結 王族の醜聞がメシウマ過ぎる件
音爽(ネソウ)
恋愛
王太子は言う。
『お前みたいなつまらない女など要らない、だが優秀さはかってやろう。第二妃として存分に働けよ』
『ごめんなさぁい、貴女は私の代わりに公儀をやってねぇ。だってそれしか取り柄がないんだしぃ』
公務のほとんどを丸投げにする宣言をして、正妃になるはずのアンドレイナ・サンドリーニを蹴落とし正妃の座に就いたベネッタ・ルニッチは高笑いした。王太子は彼女を第二妃として迎えると宣言したのである。
もちろん、そんな事は罷りならないと王は反対したのだが、その言葉を退けて彼女は同意をしてしまう。
屈辱的なことを敢えて受け入れたアンドレイナの真意とは……
*表紙絵自作
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる