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燗、怒りました。1
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饕餮さんちの「希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』」5話目の続きになります。
一緒にお読みいただくと取材陣への憎悪がアップすること間違いなし←www
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配達から店に戻ると、愛しの妻が店先のごみ入れを片付けていた。
散らばったごみは店先に広がり、飲み切っていなかった缶ジュースや缶コーヒーの中身がアスファルトに広がっている。
裾の長いエプロンを身に着けた雪は、バケツに汲んだ水を撒いてデッキブラシで磨いていた。
「おぅ、雪」
軽トラを止める前に運転席から顔を出して声をかけると、アスファルトを磨いていた雪が顔を上げて微笑んだ。
「燗さん、お帰りなさい」
いまやっている事への不満も表情に出さず、笑う妻が愛しくて健気だ。そしてこの状況を生み出した野郎どもに、軽く殺意を抱く。
「ここにも来たのか、馬鹿野郎どもは」
困ったように肩を竦める雪は、本当に可愛かった。
重光先生の結婚話をどこから嗅ぎ付けてきたのか、連日新聞からテレビから取材陣が押しかけて商店街の中は変な緊張感が走っていた。中にはガラの悪い奴らもいて、商店街の店や買い物客といざこざを起こしては重光先生や結婚相手の久遠さんを見つけようと躍起になって走り回っている。
「せめて、俺がいる時に来いよ」
溜息をつきながら、燗はハンドルを切る。
酒屋だけにほぼ全面がガラス張りの為、燗のいない時ばかりを狙われれていた。
雪の掃除の邪魔にならないよう、軽トラを裏庭に停める。
するとそこには、ふて腐れたようにくわえ煙草でトンカチの音を響かせている醸がいた。
軽トラの音に気付くと顔を上げて、一瞬縋るような顔をしてからふいっと作業に戻ってしまう。エンジンを切りながら、燗は醸のその仕草に苦笑した。
元々面倒を吟が見ていたからか、醸は親に甘えるということをしない。
常に姉命だったのだが、吟が外に出てしまってからは味方がいないとでも言いうように諦めが早くなってしまった。それでもよく見れば子供の頃の醸は確実に性格に残っていて、つい面白くてからかってしまうわけだが。
「どうした、醸。それ、店先のベンチか?」
ご近所さんや買い物客の休憩用にと、なぜか吟が作り上げた簡易的なベンチ。今でもたまに思うが、あいつが男だったらよかったかもしれん。
醸はしかめっ面のまま、釘を打っていく。
「さっき取材陣が来てさ、がら悪い方の。先生達はうちにいないって言ったらストレス発散のように、ごみ箱とベンチ蹴り飛ばしていきやがった」
醸は打ち終えた釘の上から、ベンチの表面を撫でる。
「せっかく姉さんが作ったベンチ、蹴り飛ばして壊しやがって」
……それさえなければ、お前もそれなりにいい男だと思うんだがなぁ。
そんなことを考えながら、醸の真横にしゃがみこむ。
「今な、女将んところに先生達が隠れてるんだわ。合図来たら女将のとこにたかってる馬鹿野郎どもをこっち連れて来るから、思う存分発散しろや」
驚いたように顔を上げた醸は小さく頷くと、いそいそと直し終えたベンチを片付け始める。それを見ながら、燗は倉庫へと入っていった。
ジリリリリリリ!
ちなみに、篠宮家の電話は昔懐かし黒電話……を模した電話だ。
それが短く音を上げて、しん……と沈黙した。
店先に数本の酒と紙コップを準備していた燗は、店内にいる雪と醸に目配せしてそのまま駆け出す。はらわた煮えくり返りそうになっていたけれど、せっかくの先生たちの祝い事。
暴力沙汰だけは起こすまいと、心に決めて。
だって。
雪が泣くから。
一緒にお読みいただくと取材陣への憎悪がアップすること間違いなし←www
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配達から店に戻ると、愛しの妻が店先のごみ入れを片付けていた。
散らばったごみは店先に広がり、飲み切っていなかった缶ジュースや缶コーヒーの中身がアスファルトに広がっている。
裾の長いエプロンを身に着けた雪は、バケツに汲んだ水を撒いてデッキブラシで磨いていた。
「おぅ、雪」
軽トラを止める前に運転席から顔を出して声をかけると、アスファルトを磨いていた雪が顔を上げて微笑んだ。
「燗さん、お帰りなさい」
いまやっている事への不満も表情に出さず、笑う妻が愛しくて健気だ。そしてこの状況を生み出した野郎どもに、軽く殺意を抱く。
「ここにも来たのか、馬鹿野郎どもは」
困ったように肩を竦める雪は、本当に可愛かった。
重光先生の結婚話をどこから嗅ぎ付けてきたのか、連日新聞からテレビから取材陣が押しかけて商店街の中は変な緊張感が走っていた。中にはガラの悪い奴らもいて、商店街の店や買い物客といざこざを起こしては重光先生や結婚相手の久遠さんを見つけようと躍起になって走り回っている。
「せめて、俺がいる時に来いよ」
溜息をつきながら、燗はハンドルを切る。
酒屋だけにほぼ全面がガラス張りの為、燗のいない時ばかりを狙われれていた。
雪の掃除の邪魔にならないよう、軽トラを裏庭に停める。
するとそこには、ふて腐れたようにくわえ煙草でトンカチの音を響かせている醸がいた。
軽トラの音に気付くと顔を上げて、一瞬縋るような顔をしてからふいっと作業に戻ってしまう。エンジンを切りながら、燗は醸のその仕草に苦笑した。
元々面倒を吟が見ていたからか、醸は親に甘えるということをしない。
常に姉命だったのだが、吟が外に出てしまってからは味方がいないとでも言いうように諦めが早くなってしまった。それでもよく見れば子供の頃の醸は確実に性格に残っていて、つい面白くてからかってしまうわけだが。
「どうした、醸。それ、店先のベンチか?」
ご近所さんや買い物客の休憩用にと、なぜか吟が作り上げた簡易的なベンチ。今でもたまに思うが、あいつが男だったらよかったかもしれん。
醸はしかめっ面のまま、釘を打っていく。
「さっき取材陣が来てさ、がら悪い方の。先生達はうちにいないって言ったらストレス発散のように、ごみ箱とベンチ蹴り飛ばしていきやがった」
醸は打ち終えた釘の上から、ベンチの表面を撫でる。
「せっかく姉さんが作ったベンチ、蹴り飛ばして壊しやがって」
……それさえなければ、お前もそれなりにいい男だと思うんだがなぁ。
そんなことを考えながら、醸の真横にしゃがみこむ。
「今な、女将んところに先生達が隠れてるんだわ。合図来たら女将のとこにたかってる馬鹿野郎どもをこっち連れて来るから、思う存分発散しろや」
驚いたように顔を上げた醸は小さく頷くと、いそいそと直し終えたベンチを片付け始める。それを見ながら、燗は倉庫へと入っていった。
ジリリリリリリ!
ちなみに、篠宮家の電話は昔懐かし黒電話……を模した電話だ。
それが短く音を上げて、しん……と沈黙した。
店先に数本の酒と紙コップを準備していた燗は、店内にいる雪と醸に目配せしてそのまま駆け出す。はらわた煮えくり返りそうになっていたけれど、せっかくの先生たちの祝い事。
暴力沙汰だけは起こすまいと、心に決めて。
だって。
雪が泣くから。
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