ずっとあなたが好きでした。

４

――閉じていた目を開けば、止まる事のない現実がまざまざと広がっていた。





 人前式を選んだ二人は会場の一番前に立つと、深々と頭を下げる。


そうして、ゆっくりと会場を見渡して和弘は、緊張気味に口を開いた。


 「本日、私達二人は、皆様の前で結婚の誓いをいたします……」







もう何年も繰り返してきた「シミュレーション」を。

もう繰り返す事もない「シミュレーション」を。





 捨てる為に、思い描く。




――ずっとずっと、すきでした















披露宴も終わり、着替え終えた和弘と佳奈が両家の家族がいる式場内のラウンジにやってきた。
 皆で二人を迎えた後、なぜか和弘の弟が花束を持って現れた。

 披露宴で両親に渡していたのに、またここで？

 不思議に思ってその花束を見ていたら、弟から手渡されたそれを持って和弘が歩いてくる。
……私の所に。
その横には、私とはもう名字の違う妹の佳奈。

なにがなんだかよく分からないまま、私は二人を見つめた。


 「颯」

 和弘の、声。
 「……なに？　どうしたの？」
なんとか声を振り絞ってこたえると、二人は目配せをしてその花束を私に差し出した。



 「俺達を会わせてくれて、ありがとう」



 「え……？」



 渡された勢いのまま受け取ってしまった花束と二人の間を交互に見遣れば、佳奈が幸せそうな笑みを浮かべた。



 「おねーちゃんの、おかげだよ」



 幸せを、ありがとう。




そう笑う佳奈は、見た事もない程とても幸せそうで。

もう一度視線を戻せば、目を細めて小さく頷く和弘。


 私の両腕の中には、色とりどりのガーベラの花。

 脳裏を掠める、和弘に呼び出された、あの日の会話。



 私は、その花束を、両腕で抱きしめた。




 「おめでとう」




おめでとう、私の好きだったひと――

おめでとう、私の大切な妹。




 二人の　幸せを　心から――







もう「シミュレーション」は、過去の恋。