引きこもり姫の日本滞在記

石田 ゆうき

文字の大きさ
1 / 6

01

しおりを挟む
 とあるところに、とても大きなお城がありました。
 外壁は純白で、場内は金色に輝く豪奢なお城です。

 そのお城には、ディニッサと言う名のかわいらしいお姫様が住んでいました。
 ディニッサの他には、侍女が3人と料理人が1人。何百人も住めそうなお城なのに、たった5人だけで暮らしているのでした。

 * * * * *

 お城にはもちろんディニッサの部屋があります。
 天蓋付きのベッドをはじめ、よく吟味された家具が揃っている素敵なお部屋です。

 その日、ディニッサはまだベッドの上にいました。
 もうそろそろ正午だというのに、気持ちよさそうに眠っています。

 部屋にはディニッサの他にもう一人、フィアという名の女の子がいました。
 外見は中学生くらい。白い髪の、綺麗な女の子です。まだ幼さの残る彼女ですが、ディニッサの侍女として立派に働いているのでした。

 普通の人ならもう働いている時間なのですが、フィアがディニッサを起こす気配はありません。ただじっと、ディニッサの寝顔を見つめているだけです。

 ──その時、ディニッサが寝返りを打ちました。
 そして薄っすらと目を開きます。

「姫様、おはよう」
「……ん~」

 フィアに挨拶されても、ディニッサはボンヤリとしたままでした。
 しかしフィアはまるで気にしません。ディニッサを抱え上げると、顔を洗ってやり、服も着替えさせてやりました。

 青色のドレスに着替えるころには、さすがのディニッサもはっきりと目を覚ましていました。そして窓の外を見て、歓声を上げます。

「フィア、フィア、まだ太陽が真上に来ておらぬぞ! わらわはずいぶんと早起きしてしまったようじゃな」

「うん。姫様、がんばった。偉い」
「そうじゃろう、そうじゃろう!」

 驚くことに午前11時過ぎは、ディニッサにとっては寝坊ではなく、「早起き」に入る偉業なのでした。それを褒めるフィアにも、揶揄するような態度は一切なく、心から思っていることを言っているだけという有り様です。

 ……端的に言って、このお城の住人はかなり「ダメ」な人たちなのでした。

 * * * * *

 着替えが終わると、ディニッサたちは朝ごはんを食べました。
 その後、自由時間になります。

「姫様、今日は何して、遊ぶ?」

 横抱きにした状態で、フィアがディニッサに質問します。
 ディニッサは小学生くらいの小柄な体ですが、それにしてもフィアは軽々とディニッサを抱えています。

「そうじゃな。今日は早起きしてしまったから、塔でお昼寝でもするかの」
「わかった」

 フィアは、ディニッサをお姫様抱っこした状態で歩き始めました。
 ……じつはディニッサは、自分の足で歩くという習慣がありません。城内の移動はすべて、侍女たちの抱っこでおこなわれているのです。

 着替えはもちろん、食事だって自分ではしません。ディニッサはただ口を広げて、侍女が食べ物を持ってくるのを待っているだけなのです。

 すべての労働は侍女たちがおこなっているわけですが、なにも強制しているわけではありません。フィアたちは、望んでディニッサの世話をやっているのです。

 * * * * *

 ディニッサたちは中庭に出て、高い塔に向かいました。
 はるか昔は見張り用に使われていたこともあったようですが、今ではディニッサがお昼寝をするだけがその塔の存在意義となっているのでした。

 塔にたどり着いたフィアは、外壁に足をかけました。
 そして何も足がかかりのない外壁を、垂直の姿勢で歩いていきます。

 ──じつはフィアは、普通の人間ではありません。
 魔族と呼ばれる種族なのです。

 フィアは、魔法を使って外壁を登っていきます。
 靴と壁の接触面を凍らせ、体を固定しながら歩いているのです。

 べつに塔内にだって階段はあります。それを登っても良いのですが、ディニッサの雰囲気から、この方が好まれると判断したのです。

 そしてそれは正解でした。
 ディニッサは、良い天気なので風にあたりながら塔を登りたいと考えていたのです。

 とは言え、もしもフィアが内部の階段を使っても、ディニッサは文句は言わなかったでしょう。ディニッサが侍女に命令をしたり、文句を言ったりすることはめったにないのです。

 なにしろ侍女たちは、ディニッサが何も言わなくても精一杯の奉仕をしてくれるのですから。

 * * * * *

 塔の屋上には、ハンモックのようなものが用意されています。
 もともとそんな物はなかったのですが、ディニッサのお昼寝用に作られたのです。

「雲ひとつない良い天気じゃなあ」
「うん。ちょっと、暑い」

 二人はハンモックの上で語り合います。
 フィアが暑くなっているのは、ディニッサとくっついていることも影響しているのでしょうが、離れるわけにはいきません。

 ディニッサは1人で寝たことがないのです。侍女が添い寝してあげないと、気分よくお昼寝もできないのでした。

「そろそろ、戦争じゃなあ」
「……うん」

 ディニッサの口から物騒な言葉が漏れました。

 ──じつは、この平和なお城には危機が迫っていました。
 二ヶ月もすれば、戦争になり、敵が襲ってくるはずなのです。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

なほ
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模るな子。新入社員として入った会社でるなを待ち受ける運命とは....。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

処理中です...