4 / 6
04
しおりを挟む
「大変なことになったのじゃ。よもや関係ない者に魔法がかかるとは……」
ディニッサは、異世界の女の子と入れ替わろうとしていました。
けれど失敗しました。陽菜の兄と入れ替わってしまったのです。
「……まあ、よいか。人生そういうこともあるじゃろう」
しかしディニッサは、すぐに気分を切り替えました。
良く言えば、過去にこだわらない性格の女の子なのです。
「なんだか体がゴツゴツしておるな……。それになんじゃ、股間のこの物体は?」
ディニッサは、しげしげと自分の体を眺めます。
元の体より背は高くなり、柔らかかった体も筋肉で硬くなっています。なによりディニッサが当惑したのは、男性器でした。
もちろんそれまでのディニッサにはついていませんでしたし、彼女の生活では男性に出会うことがほとんどありません。
「よくわからんが、尻尾のようなものか? とすると、服の下に隠しておくのは良くないじゃろう。露出しておくべきではないかの」
元の世界では、頭が犬の人間や長い尻尾を持った人間など、さまざまな種族がいました。ディニッサ本人だって、コウモリのような黒い羽が生えていたのです。ですから股間にある物体も、種族的な特徴だと思い込んだわけです。
そしてディニッサのドレスは特注品で、服の外に羽が出せるようになっていました。羽や尻尾などを服の下にしまっておくのは、機能上好ましくないと考えられているのです。
「この服、どうやったら脱げるのじゃろう……?」
ディニッサは、着ているスーツをいじりました。
しかしどうすればよいかわからず、すぐに投げ出してしまいました。
ズボンのチャックを開けられなかったわけですが、ディニッサのためにも陽菜のためにも幸いだったと言えるでしょう。
もしも成功していたら、眠っている妹の横で一物を露出する兄、というおそろしい光景が広がったところでした。陽菜が目を覚ましたら、さぞびっくりしたに違いありません。どこからどうみても変態ですから。
「変な物がいっぱい置いてあるのじゃ。あの平べったい黒い板はなんじゃろう……?」
ディニッサの目についたのは、薄型テレビです。しかしディニッサの世界には、そんな物はなかったのです。好奇心を刺激されたディニッサは、キョロキョロと部屋を見回します。
しかし立ち上がろうとはしません。
ディニッサとしては、陽菜が起きてから案内してもらおうと思っていたのです。
これは、人様の家を勝手に探ったら失礼だ、というような殊勝な考えではありません。
ディニッサは、陽菜に「抱っこしてもらって」部屋を眺めようとしていたのです。
ふだんから自分の足で歩いていないので、お姫様抱っこで移動するのが当然だとしか思えないのです。ちなみに、陽菜は中学生で、兄の「海」は十歳年長の社会人です。体格的にとても抱っこなどはできません。
そんなことはディニッサだって見ればわかるだろう、とお思いかもしれません。しかしながらディニッサの世界には魔法があるのです。ディニッサだって、侍女たちだって、自動車くらいなら指先一本で軽々と持ち上げられます。
「陽菜~、わらわは退屈じゃ。早く目覚めよ」
ディニッサは、遠慮なく陽菜の体を揺さぶりました。
けれど陽菜は目を覚ましません。
──ディニッサは少し心配になりました。
もしかしたら、魔法の影響でなんらかの問題が起こったのでしょうか。
……まあじつのところ、陽菜が周囲の刺激では目を覚ましにくいタイプだっただけなのですが。兄の海も諦めているほどの、目覚めの悪さです。
ディニッサは、魔法で無理やり目覚めさせようかと悩みました。
けれど、よけいに問題が大きくなる可能性もあります。
──結局、陽菜が自然に目を覚ますまで放置することに決めました。
かわりにディニッサは外を眺めます。もちろん立ち上がったりはしません。
魔法を使って、壁やカーテンを透過して外の景色を見たのです。
「おお、高いではないか! 部屋が狭いから貧乏なのかと思ったが、これだけの広さの城を持っておるとはの」
陽菜と海が住んでいるのは、5階建てのワンルームマンションです。
ディニッサは、このマンションすべてが陽菜たちのものだと勘違いしたのでした。
ディニッサの常識からすると、建物の上層で暮らしているなら支配者階層なのです。
……まあたしかに日本でも、上階のほうが微妙に家賃が高かったりするわけですが。
しかしもちろん、このマンションが陽菜たちの所有物のわけがありません。それどころかこの部屋自体も、借りているだけです。まあ社会人とはいえ、海は大学を出ていくらもたっていません。マイホームを買うには若すぎます。
「ダメじゃな」
いつまでも目覚めない陽菜に、ディニッサはしびれを切らしました。
そしてやっぱり魔法を使うことにしたのです。
「それに兄の方も心配じゃしの」
すぐに意見を変えてしまったことに、そうやって言い訳をします。
しかしたしかに、アクシデントで入れ替わってしまった海は困惑しているはずです。ディニッサは、陽菜を起こしながら、ついでに海に助言を送ることに決めました。
「む~。なんか魔力が弱くなっておるの」
体を入れ替えた影響か、ディニッサの魔法の力はとても弱くなっていました。
けれどまだ魔法が使える分、運が良かったと言えるでしょう。
ディニッサはまったく予想していませんでしたが、魔力が無くなってしまうこともありえたのです。そうなったら、もう元の世界に戻ることなどできなくなっていたでしょう。
……まあ、その場合でもディニッサは、そういうこともある、と言うかもしれませんが。
「さて、もう一度夢の世界を展開するかの」
ディニッサは、異世界の女の子と入れ替わろうとしていました。
けれど失敗しました。陽菜の兄と入れ替わってしまったのです。
「……まあ、よいか。人生そういうこともあるじゃろう」
しかしディニッサは、すぐに気分を切り替えました。
良く言えば、過去にこだわらない性格の女の子なのです。
「なんだか体がゴツゴツしておるな……。それになんじゃ、股間のこの物体は?」
ディニッサは、しげしげと自分の体を眺めます。
元の体より背は高くなり、柔らかかった体も筋肉で硬くなっています。なによりディニッサが当惑したのは、男性器でした。
もちろんそれまでのディニッサにはついていませんでしたし、彼女の生活では男性に出会うことがほとんどありません。
「よくわからんが、尻尾のようなものか? とすると、服の下に隠しておくのは良くないじゃろう。露出しておくべきではないかの」
元の世界では、頭が犬の人間や長い尻尾を持った人間など、さまざまな種族がいました。ディニッサ本人だって、コウモリのような黒い羽が生えていたのです。ですから股間にある物体も、種族的な特徴だと思い込んだわけです。
そしてディニッサのドレスは特注品で、服の外に羽が出せるようになっていました。羽や尻尾などを服の下にしまっておくのは、機能上好ましくないと考えられているのです。
「この服、どうやったら脱げるのじゃろう……?」
ディニッサは、着ているスーツをいじりました。
しかしどうすればよいかわからず、すぐに投げ出してしまいました。
ズボンのチャックを開けられなかったわけですが、ディニッサのためにも陽菜のためにも幸いだったと言えるでしょう。
もしも成功していたら、眠っている妹の横で一物を露出する兄、というおそろしい光景が広がったところでした。陽菜が目を覚ましたら、さぞびっくりしたに違いありません。どこからどうみても変態ですから。
「変な物がいっぱい置いてあるのじゃ。あの平べったい黒い板はなんじゃろう……?」
ディニッサの目についたのは、薄型テレビです。しかしディニッサの世界には、そんな物はなかったのです。好奇心を刺激されたディニッサは、キョロキョロと部屋を見回します。
しかし立ち上がろうとはしません。
ディニッサとしては、陽菜が起きてから案内してもらおうと思っていたのです。
これは、人様の家を勝手に探ったら失礼だ、というような殊勝な考えではありません。
ディニッサは、陽菜に「抱っこしてもらって」部屋を眺めようとしていたのです。
ふだんから自分の足で歩いていないので、お姫様抱っこで移動するのが当然だとしか思えないのです。ちなみに、陽菜は中学生で、兄の「海」は十歳年長の社会人です。体格的にとても抱っこなどはできません。
そんなことはディニッサだって見ればわかるだろう、とお思いかもしれません。しかしながらディニッサの世界には魔法があるのです。ディニッサだって、侍女たちだって、自動車くらいなら指先一本で軽々と持ち上げられます。
「陽菜~、わらわは退屈じゃ。早く目覚めよ」
ディニッサは、遠慮なく陽菜の体を揺さぶりました。
けれど陽菜は目を覚ましません。
──ディニッサは少し心配になりました。
もしかしたら、魔法の影響でなんらかの問題が起こったのでしょうか。
……まあじつのところ、陽菜が周囲の刺激では目を覚ましにくいタイプだっただけなのですが。兄の海も諦めているほどの、目覚めの悪さです。
ディニッサは、魔法で無理やり目覚めさせようかと悩みました。
けれど、よけいに問題が大きくなる可能性もあります。
──結局、陽菜が自然に目を覚ますまで放置することに決めました。
かわりにディニッサは外を眺めます。もちろん立ち上がったりはしません。
魔法を使って、壁やカーテンを透過して外の景色を見たのです。
「おお、高いではないか! 部屋が狭いから貧乏なのかと思ったが、これだけの広さの城を持っておるとはの」
陽菜と海が住んでいるのは、5階建てのワンルームマンションです。
ディニッサは、このマンションすべてが陽菜たちのものだと勘違いしたのでした。
ディニッサの常識からすると、建物の上層で暮らしているなら支配者階層なのです。
……まあたしかに日本でも、上階のほうが微妙に家賃が高かったりするわけですが。
しかしもちろん、このマンションが陽菜たちの所有物のわけがありません。それどころかこの部屋自体も、借りているだけです。まあ社会人とはいえ、海は大学を出ていくらもたっていません。マイホームを買うには若すぎます。
「ダメじゃな」
いつまでも目覚めない陽菜に、ディニッサはしびれを切らしました。
そしてやっぱり魔法を使うことにしたのです。
「それに兄の方も心配じゃしの」
すぐに意見を変えてしまったことに、そうやって言い訳をします。
しかしたしかに、アクシデントで入れ替わってしまった海は困惑しているはずです。ディニッサは、陽菜を起こしながら、ついでに海に助言を送ることに決めました。
「む~。なんか魔力が弱くなっておるの」
体を入れ替えた影響か、ディニッサの魔法の力はとても弱くなっていました。
けれどまだ魔法が使える分、運が良かったと言えるでしょう。
ディニッサはまったく予想していませんでしたが、魔力が無くなってしまうこともありえたのです。そうなったら、もう元の世界に戻ることなどできなくなっていたでしょう。
……まあ、その場合でもディニッサは、そういうこともある、と言うかもしれませんが。
「さて、もう一度夢の世界を展開するかの」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる