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陽菜は、冷凍食品を温めて晩御飯にしました。
それを食べたディニッサは驚きます。予想より料理が美味しかったからです。
(最下層の貧民でも、この程度の物は食べているのじゃな)
そうディニッサは、失礼な感想を抱きました。ちなみに、べつに陽菜たちはそれほど貧しいわけでもありません。むしろ実家は、平均より裕福だと言ってよいくらいです。
ピラフと唐揚げと、わかめスープ。用意された料理をぺろりと平らげると、ディニッサは期待の眼差しを陽菜に向けました。次はどんな料理が出てくるのか、と楽しみになったのです。故郷とは違う味付けに料理法、興味が湧いてきたのです。
「次の皿を用意するがよいぞ」
「次の皿って……。そんなのありません。これで晩ごはんは終了です」
ディニッサは、ハンマーで殴られたようなショックを受けました。
これっぽっちで晩御飯が終わるなんて、ディニッサの常識ではありえないことだったのです。
ディニッサの晩御飯といえば、40~50種類の料理が運ばれるのが普通です。それぞれ山盛りで、とんでもない量の食事です。ディニッサは食いしん坊というわけではありませんが、魔族が生きるためには大量のエネルギーが必要なのです。
とまどうディニッサを尻目に、陽菜は食器を片付けてしまいました。
ディニッサは、せつない表情でテーブルに視線を落としました。もう泣きたいような気分です。
(まさかこれほど貧しい暮らしがあったとはの……。信じられぬ)
……けれども、本当はこれ以上食べる必要はなかったのです。今のディニッサの体は、あくまで普通の日本人である白井海のものです。さっきのご飯で十分栄養は足りていますし、もしも元の世界と同じ量のご飯を食べたら、体を壊してしまったでしょう。
* * * * *
食事の後、陽菜と話していたディニッサは、べつの問題に気づきました。
「なあ、陽菜。わらわは大変なことに気づいてしまったのじゃが」
「えっ、なに、お兄ちゃんになにかあったの!?」
ディニッサは首を振ります。陽菜は兄を心配しているようですが、さすがのディニッサでも常に元の世界の様子を探るようなことはできません。それにそもそも、今のディニッサは自分の心配で手一杯で、海のことまで気にしている余裕はありません。
「いや、そうではなく。風呂はどうするのじゃ。やはり貧民は一月に一回くらいしか入浴もゆるされておらんのか?」
あれほど貧しい食事だったのですから、お風呂だって入れないのではないかと心配になったのです。ディニッサはこれでも綺麗好きで、毎日の湯浴みを欠かしたことはありません。
「……驚かさないでよ。お風呂ならちゃんとあるから、ちょっとまってて」
ブツブツ言いながら陽菜は、壁のボタンを押しました。
ディニッサは首をかしげました。食事の時もそうでしたが、ボタンを押すと不思議な力が働くようなのです。
(魔法のようじゃが、魔力もマナも動いておらん。なんなのじゃろう?)
ディニッサは陽菜を見つめました。
陽菜が説明してくれるのを期待したのです。しかし陽菜はディニッサの意図に気づいてくれませんでした。
べつに教えてくれと言えばいいのですが、ディニッサは人に頼み事をするのに慣れていないのです。侍女たちなら、何も言わなくてもディニッサの望みを察してくれましたので、そういう状況があまりなかったのでした。
「お風呂、わいたよ。使い方説明するからついてきて」
無言のままの時間が過ぎ、いつの間にかお風呂の用意ができたようです。
陽菜が廊下の方に歩いていきました。
(陽菜はそそっかしいヤツじゃな。わらわを置いて行くとは)
ディニッサは、陽菜が自分をお姫様抱っこで運んでくれると思いこんでいたのです。ディニッサの日常生活がそうだったのですから、それ以外の方法など考えつきもしません。
陽菜が振り向きました。ディニッサがついてこないため、不思議に思ったのでしょう。
ディニッサは両手を広げて待ちました。陽菜が持ち上げやすいよう、ディニッサなりに気を使ったわけです。
「……なに、してるの?」
「連れて行ってくれぬのか?」
「え?」
陽菜が驚きます。ディニッサが何を言っているのか、意味がわからないようです。
目をパチクリさせる陽菜に、ディニッサは仕方なく説明することにしました。ディニッサとしては、察しが悪い陽菜に舌打ちしたい気分です。
「わらわはいつも、侍女に運ばれておるのじゃが。こう、足と背中に手をまわして横抱きでな?」
「お姫様抱っこ!? いや、ムリムリムリ」
ディニッサの要求は即座に却下されます。
これはべつに、陽菜が意地悪をしているわけではありません。
海はすでに大人で、身長も高めの男の人です。対して陽菜は、中学生の女の子です。
とてもお姫様抱っこなどできません。なにより、家の中でそんなことをする意味が陽菜にはわからなかったでしょう。
「なんということじゃ……。これだから貧民の暮らしというやつは……!」
ディニッサは、ふたたび大きな挫折感を味わうことになりました。
ディニッサにすれば、陽菜は非常識すぎて、とてもついていけない気分です。
……まあじっさいのところ、元の世界の基準で考えても、おかしいのはディニッサの方だったのですが。
ディニッサは、死刑台に向かう囚人のような足取りで、トボトボと歩き出しました。
(まさか陽菜が、これほど世間知らずな娘だったとは。これから先が思いやられるのじゃ)
それを食べたディニッサは驚きます。予想より料理が美味しかったからです。
(最下層の貧民でも、この程度の物は食べているのじゃな)
そうディニッサは、失礼な感想を抱きました。ちなみに、べつに陽菜たちはそれほど貧しいわけでもありません。むしろ実家は、平均より裕福だと言ってよいくらいです。
ピラフと唐揚げと、わかめスープ。用意された料理をぺろりと平らげると、ディニッサは期待の眼差しを陽菜に向けました。次はどんな料理が出てくるのか、と楽しみになったのです。故郷とは違う味付けに料理法、興味が湧いてきたのです。
「次の皿を用意するがよいぞ」
「次の皿って……。そんなのありません。これで晩ごはんは終了です」
ディニッサは、ハンマーで殴られたようなショックを受けました。
これっぽっちで晩御飯が終わるなんて、ディニッサの常識ではありえないことだったのです。
ディニッサの晩御飯といえば、40~50種類の料理が運ばれるのが普通です。それぞれ山盛りで、とんでもない量の食事です。ディニッサは食いしん坊というわけではありませんが、魔族が生きるためには大量のエネルギーが必要なのです。
とまどうディニッサを尻目に、陽菜は食器を片付けてしまいました。
ディニッサは、せつない表情でテーブルに視線を落としました。もう泣きたいような気分です。
(まさかこれほど貧しい暮らしがあったとはの……。信じられぬ)
……けれども、本当はこれ以上食べる必要はなかったのです。今のディニッサの体は、あくまで普通の日本人である白井海のものです。さっきのご飯で十分栄養は足りていますし、もしも元の世界と同じ量のご飯を食べたら、体を壊してしまったでしょう。
* * * * *
食事の後、陽菜と話していたディニッサは、べつの問題に気づきました。
「なあ、陽菜。わらわは大変なことに気づいてしまったのじゃが」
「えっ、なに、お兄ちゃんになにかあったの!?」
ディニッサは首を振ります。陽菜は兄を心配しているようですが、さすがのディニッサでも常に元の世界の様子を探るようなことはできません。それにそもそも、今のディニッサは自分の心配で手一杯で、海のことまで気にしている余裕はありません。
「いや、そうではなく。風呂はどうするのじゃ。やはり貧民は一月に一回くらいしか入浴もゆるされておらんのか?」
あれほど貧しい食事だったのですから、お風呂だって入れないのではないかと心配になったのです。ディニッサはこれでも綺麗好きで、毎日の湯浴みを欠かしたことはありません。
「……驚かさないでよ。お風呂ならちゃんとあるから、ちょっとまってて」
ブツブツ言いながら陽菜は、壁のボタンを押しました。
ディニッサは首をかしげました。食事の時もそうでしたが、ボタンを押すと不思議な力が働くようなのです。
(魔法のようじゃが、魔力もマナも動いておらん。なんなのじゃろう?)
ディニッサは陽菜を見つめました。
陽菜が説明してくれるのを期待したのです。しかし陽菜はディニッサの意図に気づいてくれませんでした。
べつに教えてくれと言えばいいのですが、ディニッサは人に頼み事をするのに慣れていないのです。侍女たちなら、何も言わなくてもディニッサの望みを察してくれましたので、そういう状況があまりなかったのでした。
「お風呂、わいたよ。使い方説明するからついてきて」
無言のままの時間が過ぎ、いつの間にかお風呂の用意ができたようです。
陽菜が廊下の方に歩いていきました。
(陽菜はそそっかしいヤツじゃな。わらわを置いて行くとは)
ディニッサは、陽菜が自分をお姫様抱っこで運んでくれると思いこんでいたのです。ディニッサの日常生活がそうだったのですから、それ以外の方法など考えつきもしません。
陽菜が振り向きました。ディニッサがついてこないため、不思議に思ったのでしょう。
ディニッサは両手を広げて待ちました。陽菜が持ち上げやすいよう、ディニッサなりに気を使ったわけです。
「……なに、してるの?」
「連れて行ってくれぬのか?」
「え?」
陽菜が驚きます。ディニッサが何を言っているのか、意味がわからないようです。
目をパチクリさせる陽菜に、ディニッサは仕方なく説明することにしました。ディニッサとしては、察しが悪い陽菜に舌打ちしたい気分です。
「わらわはいつも、侍女に運ばれておるのじゃが。こう、足と背中に手をまわして横抱きでな?」
「お姫様抱っこ!? いや、ムリムリムリ」
ディニッサの要求は即座に却下されます。
これはべつに、陽菜が意地悪をしているわけではありません。
海はすでに大人で、身長も高めの男の人です。対して陽菜は、中学生の女の子です。
とてもお姫様抱っこなどできません。なにより、家の中でそんなことをする意味が陽菜にはわからなかったでしょう。
「なんということじゃ……。これだから貧民の暮らしというやつは……!」
ディニッサは、ふたたび大きな挫折感を味わうことになりました。
ディニッサにすれば、陽菜は非常識すぎて、とてもついていけない気分です。
……まあじっさいのところ、元の世界の基準で考えても、おかしいのはディニッサの方だったのですが。
ディニッサは、死刑台に向かう囚人のような足取りで、トボトボと歩き出しました。
(まさか陽菜が、これほど世間知らずな娘だったとは。これから先が思いやられるのじゃ)
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