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第1章 異世界へ。現状を知る
再び宝物庫へ
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宝物庫の前にたどり着いた。
頑丈そうな大扉が立ちふさがっている。
「扉を押していただけますか? この扉は姫様しか開けることができませんので」
お姫様抱っこから解放されたオレは、うなずいて扉を押し開けた。
扉には鍵などかかっておらず、簡単に開いた。
「そういえば、最初に会ったとき、どうしてここにいるとわかった、のじゃ?」
単純に考えれば魔法で見つけた、なのだろうが、それだと少しおかしい。
たしか、あの時ユルテは「中にいるなら開けて」と言っていた。つまり確信はなかったということだ。
「私たち魔族は、その身に魔力をまとっています。ゆえに魔族は近くにいる同族を感知できるのです」
「なるほど、宝物庫から魔力が感じられたというわけじゃな」
納得しかけたオレに、ユルテは首を横にふった。
「いえ、城のどこにも姫様の気配がないから、宝物庫にいるとわかったのです」
「……?」
「この城で唯一、宝物庫だけに探知防御の結界が張ってあるんです。どこにも魔力が感じられないなら、魔力を防ぐここにいるとしか考えられません」
「城にいるという前提なら、たしかにそうじゃろ。でも城から出てどこかにいっているって可能性のほうが高くないか?」
「ありえません」
満面の笑顔でユルテは断言した。
「姫様は、生まれてから一度も城外に出たことがありません。誰に頼まれても『面倒だからいやじゃ』と断っていました」
引きこもりじゃねーか!
笑顔で話す内容じゃないだろう。
……あれ、なんかイヤな予感がしてきた。
オヤジは死んでるんだよな。それでたぶん領地と領民を受け継いだ。
なのに、城から一歩も出ていない、と。
くそ、さっきユルテが眉をしかめた理由に察しがついちまった。
まさかオレが尻拭いしないといけないとか、そんな事ないよな。絶対ないよな。オレ、関係ないよな……。
「話はかわるんじゃが、今のわらわからは魔力とやらを出ているんじゃろうか?」
深く考えたくない案件が飛び出してきたので、話をきりかえることにした。
「大丈夫です、魔力はちゃんとありますよ。ただ、かなり弱くなっていますね」
「そうか……。」
魔力があるということは、練習次第で魔法も使えそうだな。
これは、思ったより簡単に元の世界に戻れるかもしれない。
「ああ、やっぱり。予想通りですね」
オレと話しながらも、ユルテは宝物庫の中を調べていた。
それでなにかを発見したらしい。
「なにがあったのじゃ?」
「ホコリが積もっていたおかげで、足あとが残っているでしょう? それを追っていくとここにたどり着きます。つまり、私の姫様が最後にいた場所がここ」
そこはオレが目覚めた場所だった。
なにか証拠になるモノでもあるのかと注意してみる。
けれど、スイカほどもありそうな、大きな石ころが転がっているだけだった。
……いや、よく考えたら、宝物庫に石ころっておかしくないか。
「その石はルオフィキシラル家秘蔵の魔宝。使用者に膨大な魔力を与える魔道具なのです」
「……わらわには、ただの石ころにしか見えぬが」
「今は確かにそうですね。蓄えられた魔力がカラになっていますから」
「つまり『わらわ』はここで家宝の力を借りて魔法を使った、ということじゃな」
「ええ。おそらく、異世界の者と魂を入れ替える、超高度魔法を」
「……なんでじゃ? いや、何が起こったのかはわかった。だが、どうしてそんな事をしたのかまるでわからん」
「わかりませんか?」
ユルテに問いかけられるが、答えがわからない。
話を聞く限りすごい魔法なんだろ? 秘宝を使い潰してしまうほどの大魔術だ。
でも、それでどんなメリットがあるっていうんだ。
「姫様は逃げ出したかったのでしょう」
「え?」
「姫様は、現在の状況が面倒だから、異世界に逃げ出したんですよ」
「はあ!?」
え、なに、面倒なバイトをバックレるみたいな感覚? 家宝を使ってまで?
おいフザケンナ、どんだけダメ人間なんだよ、この姫は!
「ありえんじゃろ、そんな事! 人の上に立つものにあるまじき行為じゃ」
「何を言っているんです。そこが姫様の可愛らしいところじゃないですか。すべてを放り出して、必死に逃げる姫様。素敵です」
ユルテは手を合わせて、ウットリとしていた。
この女も大概どうかしている。
「けれど、私をおいて行ったことだけは許せません。帰ったらおしおきです」
「……帰ってくるのかの?」
「姫様は私たちを大事に思ってくださっているはずです。ですから、きっと……」
そう言いながらも、ユルテの瞳には不安の色が混じっていた。
オレの経験上、バックレた奴が戻る確率はかなり低い。
自力で現状を打破できるように努力すべきだろう。
「ただ、一つ不思議な点があります。姫様はあなたに、何もおっしゃられなかったのですか?」
「わらわは気づいたら、こっちの世界に放り込まれておったのじゃ」
ユルテは頬に手を当てて何やら考えている。
「姫様はわがままですし、面倒くさがりです。でも、いきなり他人に迷惑をかけるというのは、姫様らしくありません。魂交換などするなら、あなたに同意を求めるはずなのですけど……」
「同意もなにも──」
否定しようとして、気づいた。
日本でおきたことを考えると……。
すこし、イヤな気分になった。
頑丈そうな大扉が立ちふさがっている。
「扉を押していただけますか? この扉は姫様しか開けることができませんので」
お姫様抱っこから解放されたオレは、うなずいて扉を押し開けた。
扉には鍵などかかっておらず、簡単に開いた。
「そういえば、最初に会ったとき、どうしてここにいるとわかった、のじゃ?」
単純に考えれば魔法で見つけた、なのだろうが、それだと少しおかしい。
たしか、あの時ユルテは「中にいるなら開けて」と言っていた。つまり確信はなかったということだ。
「私たち魔族は、その身に魔力をまとっています。ゆえに魔族は近くにいる同族を感知できるのです」
「なるほど、宝物庫から魔力が感じられたというわけじゃな」
納得しかけたオレに、ユルテは首を横にふった。
「いえ、城のどこにも姫様の気配がないから、宝物庫にいるとわかったのです」
「……?」
「この城で唯一、宝物庫だけに探知防御の結界が張ってあるんです。どこにも魔力が感じられないなら、魔力を防ぐここにいるとしか考えられません」
「城にいるという前提なら、たしかにそうじゃろ。でも城から出てどこかにいっているって可能性のほうが高くないか?」
「ありえません」
満面の笑顔でユルテは断言した。
「姫様は、生まれてから一度も城外に出たことがありません。誰に頼まれても『面倒だからいやじゃ』と断っていました」
引きこもりじゃねーか!
笑顔で話す内容じゃないだろう。
……あれ、なんかイヤな予感がしてきた。
オヤジは死んでるんだよな。それでたぶん領地と領民を受け継いだ。
なのに、城から一歩も出ていない、と。
くそ、さっきユルテが眉をしかめた理由に察しがついちまった。
まさかオレが尻拭いしないといけないとか、そんな事ないよな。絶対ないよな。オレ、関係ないよな……。
「話はかわるんじゃが、今のわらわからは魔力とやらを出ているんじゃろうか?」
深く考えたくない案件が飛び出してきたので、話をきりかえることにした。
「大丈夫です、魔力はちゃんとありますよ。ただ、かなり弱くなっていますね」
「そうか……。」
魔力があるということは、練習次第で魔法も使えそうだな。
これは、思ったより簡単に元の世界に戻れるかもしれない。
「ああ、やっぱり。予想通りですね」
オレと話しながらも、ユルテは宝物庫の中を調べていた。
それでなにかを発見したらしい。
「なにがあったのじゃ?」
「ホコリが積もっていたおかげで、足あとが残っているでしょう? それを追っていくとここにたどり着きます。つまり、私の姫様が最後にいた場所がここ」
そこはオレが目覚めた場所だった。
なにか証拠になるモノでもあるのかと注意してみる。
けれど、スイカほどもありそうな、大きな石ころが転がっているだけだった。
……いや、よく考えたら、宝物庫に石ころっておかしくないか。
「その石はルオフィキシラル家秘蔵の魔宝。使用者に膨大な魔力を与える魔道具なのです」
「……わらわには、ただの石ころにしか見えぬが」
「今は確かにそうですね。蓄えられた魔力がカラになっていますから」
「つまり『わらわ』はここで家宝の力を借りて魔法を使った、ということじゃな」
「ええ。おそらく、異世界の者と魂を入れ替える、超高度魔法を」
「……なんでじゃ? いや、何が起こったのかはわかった。だが、どうしてそんな事をしたのかまるでわからん」
「わかりませんか?」
ユルテに問いかけられるが、答えがわからない。
話を聞く限りすごい魔法なんだろ? 秘宝を使い潰してしまうほどの大魔術だ。
でも、それでどんなメリットがあるっていうんだ。
「姫様は逃げ出したかったのでしょう」
「え?」
「姫様は、現在の状況が面倒だから、異世界に逃げ出したんですよ」
「はあ!?」
え、なに、面倒なバイトをバックレるみたいな感覚? 家宝を使ってまで?
おいフザケンナ、どんだけダメ人間なんだよ、この姫は!
「ありえんじゃろ、そんな事! 人の上に立つものにあるまじき行為じゃ」
「何を言っているんです。そこが姫様の可愛らしいところじゃないですか。すべてを放り出して、必死に逃げる姫様。素敵です」
ユルテは手を合わせて、ウットリとしていた。
この女も大概どうかしている。
「けれど、私をおいて行ったことだけは許せません。帰ったらおしおきです」
「……帰ってくるのかの?」
「姫様は私たちを大事に思ってくださっているはずです。ですから、きっと……」
そう言いながらも、ユルテの瞳には不安の色が混じっていた。
オレの経験上、バックレた奴が戻る確率はかなり低い。
自力で現状を打破できるように努力すべきだろう。
「ただ、一つ不思議な点があります。姫様はあなたに、何もおっしゃられなかったのですか?」
「わらわは気づいたら、こっちの世界に放り込まれておったのじゃ」
ユルテは頬に手を当てて何やら考えている。
「姫様はわがままですし、面倒くさがりです。でも、いきなり他人に迷惑をかけるというのは、姫様らしくありません。魂交換などするなら、あなたに同意を求めるはずなのですけど……」
「同意もなにも──」
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